クトゥルフの呼び声90年代日本学園シナリオ

闇を呼ぶメロディー

「メロデイ様を寝る前に二回唱えるとテスト運が良くなる。三回唱えると恋愛運が良くなる。ただし四回以上唱えてしまうと、その晩、悪夢を見て、唱えた回数の年 数だけ寿命が縮むらしい」

   ――メロデイ様の怖い噂



1,はじめに

 このシナリオは「クトゥルフの呼び声・改訂版」に対応したシナリオですが、RPGマガジン85号に掲載された「クトゥルフ・イン・スクール」の簡易ルールで もプレイは可能となっています。
 舞台は現代日本の学校で、プレイヤーキャラクター(以降、探索者)は舞台となる学校に通う高校生が最適です。
 探索者同士が知り合いである必要はありませんが、知り合いであったほうがシナリオはスムーズに進みます。


2,能力値対応表

 「クトゥルフの呼び声・改訂版」と「クトゥルフ・イン・スクール」では、能力値の表記法が異なっていますので、ここに対応表を載せておきます。
 なお、このシナリオでは、能力値の表記法は「クトゥルフの呼び声・改訂版」のものを使用しております。

「クトゥルフの呼び声・改訂版」→「クトゥルフ・イン・スクール」
 STR → 筋力
 CON → 体力
 SIZ → 大きさ
 INT → 知性
 POW → 精神力
 DEX → 敏捷性
 APP → 外見
 EDU → 教養
 SAN → 正気度


3,シナリオあらすじ

 探索者たちの通う学校では、おまじないのようなものが流行っています。何か幸運を呼びたいときに、短いメロディーを口ずさむもので、「メロデイ様」と呼ばれ ています。
 しかし、たわいもない流行と思われた、このメロデイ様は神話的存在の陰謀の一部であり、このメロディーには邪神ハスターを呼び出すための呪詛が含まれていた のです。
ハスターの招来を望む神話的存在は、学校の建物自体を儀式のためのモノリス(石碑)とし、生徒たちの中から呪詛を正確に唱えられる素養を持つものを探していた のです。
 さて探索者たちは、神話的存在の邪悪な陰謀を阻止することができるでしょうか。


4,NPC紹介

・柳原 郁代 30歳
女性の音楽教師です。縁なし眼鏡をかけた、なかなかの美人ですが、性格のほうはきついというのが生徒たちの評価です。いつでもビシッとスーツで身を固め、潔癖 さをアピールしているような女性です。また、彼女はヘビースモーカーで職員室ではよく煙草を吸っています。
 名門の音大を優秀な成績で卒業して、音楽業界へ進むことを希望していた彼女ですが、厳格な両親の強い反対から音楽教師となることとなりました。
 しかしながら、ナルシスト的性質を持つ彼女は教師には向いていませんでした。彼女は粗野で才能もない(と、彼女は思っています)生徒たちに、自分のような才 能ある人間が、音楽を教えねばならないことが苦痛であるとすら感じています。
そして、こんな生活に見切りをつけて、自分を不快にさせるもののない世界を望むようになりました。
そんな心の隙をつかれ、彼女は神話的存在にそそのかされ、神話的存在の手足となって操られることとなります。

・中原 洋平 2年4組
 探索者と同じ学校に通う男子生徒です。探索者の最低一人と友人関係にあります。
気が弱く、おとなしい彼はクラスのいじめられっこです。
 幼い頃から続けていたバイオリンで、最近、大きなコンテストで入賞し、校内朝礼でそのことが校長から紹介されたことがあります。
彼は、メロデイ様の八番目の犠牲者で、探索者達の目の前で突然姿を消すことになります。

・佐倉 美加 2年6組
 探索者と同じ学校に通う女子生徒です。探索者の最低一人と友人関係にあります。
明るく、礼儀正しい彼女は人気者で、柳原郁代にも気に入られていました。ですが、そのために彼女は柳原郁代に、最後のメロデイ様の犠牲者に選ばれることになり ます。

・「は」の本
 古くさい和綴じの本です。
 表紙には「は」とだけ書かれています。この「は」は、邪神ハスターの隠語です。書き記すには、あまりに恐ろしい名前なので、このような隠語が使用されていま す。数十年前に寄贈本に紛れて学校図書館に寄付されましたが、それからすぐに廃棄本として倉庫に置かれるようになり、柳原郁代が手にするまで眠っておりまし た。
 実は、この本には、これを書き記した大昔の魔道師の魂が宿っています。このような姿になってもなお強い魔力を秘めたハスター信者であり、この事件の黒幕で す。
 本は柳原郁代を操って、メロデイ様を学校に流行らせ、長年の悲願である邪神ハスターを招来しようとしています。そんな自分の計画を実行するのに、心の偏った 彼女は実に操りやすい人物でした。
 本は魔力によって、ある程度自由に移動することが出来ます。

・邪神ハスター
 このシナリオでは、探索者にとって、降臨すれば世界が滅亡させるほどの凄まじいパワーをもつ邪悪な存在という以上の意味はないので、くわしい説明は省きま す。もし、この神の性質をくわしく知りたいのならば、ルールブックか、その他の資料を参照してください。
 この神は、Vの字に並べられた巨大なモノリスと正しい呪詛によって呼び出すことが可能とされています。


5,シナリオ導入
学校概略図
 恐ろしい事件はすでに始まっています。
 探索者が通う学校では、生徒の失踪が相次いで七件も起きています。
 また、学校では「メロデイ様」というおまじないが流行しています。
 この二つの情報を探索者が知ることから、シナリオは始まります。
 キーパーは探索者たちの普段の学校生活の中で、この情報を友人との会話などで提供してください。
 学校の概略図(クリックすると図は大きくなります)があるので、それを利用してプレイヤー間でどのような学校生活を送っているのか、自由に会話させると良い でしょう。
 また、ここで事件の重要人物であるNPCを同情させて、プレイヤーに印象づけさせておくのも忘れないでください。
 柳原郁代先生については、彼女の厳格で、粗野な生徒を嫌っている性格と、ヘビースモーカーであることをプレイヤーたちに印象づけておきましょう。例として は、探索者が学校で遊んでいるところを叱りつけるか、またはそんな現場を探索者が目撃するといったイベントを起こすといったやりかたがあります。
 また、中原洋平や佐倉美加の友人である探索者を選ぶついでに、彼らの性格を伝え、プレイヤー達に彼らへの親近感を持たせるようにしてください。


6,生徒失踪事件

 七件の失踪事件は、おおよそ半年前から始まりました。
 それから、だいたい月に一回、多いときには二回のペースで生徒たちが家に戻らず失踪するという事件が起きています。
 この事件の真相は、彼らがハスターを呼ぶ呪詛であるメロデイ様を正しく唱える素質があったがために、「は」の本が、この生徒たちを拉致したのです。生徒たち は、現在、我々の認知できる世界にはいなく、本の力が無くてはこの世界には戻ってこれません。
 彼らに共通していることは、みんな真面目な生徒たちだったということです。とても、悪い仲間と一緒に遊び歩いて家を空けるような生徒とは思えません。
 また、彼ら全員がメロデイ様をやっていたと言うことも共通していますが、生徒は間で大流行しているおまじないなので、そのことはさほど不自然とも思えませ ん。
 失踪した生徒達の名前とクラス、簡単な設定を記しておきます。

・花野純一 1年2組 
 6ヶ月前に失踪。ブラスバンド部。気の弱い生徒だった。

・川島文江 1年5組
 5ヶ月前に失踪。帰宅部。読書好きで、占いやおまじないに凝っていた。

・宮部典子 3年2組
 5ヶ月前に失踪。帰宅部。目立たない静かな女子だった。

・高橋香奈 2年1組
 3ヶ月前に失踪。軽音楽部。ボーカルをやっていた。

・小林弓子 1年3組
 2ヶ月前に失踪。放送部。古いクラシックレコード集めが趣味だった。

・平井 悟 1年4組
 1ヶ月前に失踪。陸上部。川島文江と付き合っていたらしい。

・川谷さやか 2年3組
 二週間前に失踪。合唱部。最近、メロデイ様に凝っていた。

 これらの情報の目的は、探索者にメロデイ様と失踪した生徒に関係があるのではと予感させることと、彼らの関係深い教室がある形を意味していることを気づかせ るためです(詳しくは11項を参照)。


7,メロデイ様

「メロデイ様」という名前自体には、何の意味もありません。「こっくりさん」や「エンジェルさま」と似たようなものです。
 このおまじないは、短いメロディーを口ずさむことで行います。
 ちょっとした幸運を呼びたいときや、寝る前にお祈りのように口ずさむのです。
 このメロデイ様の特徴は、みんなが唱えているメロディーは実のところ本当に正しいものではなく、正しい音を偶然見つけるとすごい効果を現すという噂があると ころにあります。だから、常に生徒達は少しずつ音を変えながらメロデイ様を唱えています。
 メロデイ様を楽しんでいる生徒たちは、メロディーを唱えて何か幸運があった場合、その音階を大切に覚えておきます。そして、友達たちとその音階を情報交換し て、正しい音を探し出そうとする楽しみもあります。
 この成長させるおまじないという要素が、この流行が長続きしている理由でもあります。効果が無くても、それは音が正しくなかったのだと自分を納得させること が出来るからです。
 メロデイ様のメロディーがどんなものかはキーパーが自由に設定してください。賛美歌やバラード系をアレンジすると、それらしいものになるでしょう。このメロ ディーは美しく、耳に心地よく、それでいて歌いやすいものです。
 ちなみに、こういった流行ではよくあるように、最初に誰が広めたかというのはわかっていません。

 探索者はメロデイ様のメロディーを聞いたとき、もしくはすでに知っているのならすぐにでも、POWの抵抗表のロールをする必要があります。メロデイ様の能動 能力は14です。
 メロデイ様は魔力を持った呪詛なので、ロールに失敗した探索者はメロデイ様の虜となり、ついついそのメロディーを口ずさみたくなります。
 ロールに成功すれば、そういったことはありませんが、自分から望んで口ずさむのは自由です。

 このメロデイ様は「ハスターの解放」と呼ばれる呪文の一種です。正しい音階で呪詛を唱えることが出来れば、本来ならば多くの人々の精神力を必要とするハス ターの招来儀式を、少ない人間の力で行うことが出来るのです。
音階は非常に微妙なものなので、一度、聞いたぐらいでは正しく真似をするのは難しいでしょう。
 正しい呪詛を唱えられる人間と、V字の巨大モノリスが九つそろえばハスターは降臨してきます。
 ただ、今回は九つのモノリスの代わりに巨大なV字形をした校舎を使い、呪詛を唱える人間を九人そろえることで、儀式を行おうとしています。


8,消えた男子生徒

 失踪事件とメロデイ様の噂を探索者が知った後、このイベントは発生します。遭遇するのは探索者全員である必要はありませんが、なるべく多いほうがよいでしょ う。

 放課後、人のいなくなった2年4組の教室で、探索者は偶然にいじめの現場に出くわします。
 二人のタチの良くない生徒が、中原洋平をなぶっているのです。
 二人組は、メロデイ様のおかげでバイオリンコンテストに受賞したんじゃないのか、と中原洋平をからかっています。そして、俺達にもメロデイ様を教えてくれ、 とひやかしながら小突きまわしています。
 正義感の強い探索者ならば、助けに行こうとするでしょうが、その場合は、二人の生徒は俺達はメロデイ様を教えてもらおうとしているだけじゃないか、とヘラヘ ラと笑って探索者をあしらいます。そして、探索者を無視して中原洋平にメロデイ様を唱えるように言います。
 強制されて、中原洋平は渋々とメロデイ様を唱えます。
 震え声で唱えられた、そのメロデイ様は心にどことなく引っかかる音階でした。
 これを聞いた探索者は、初めてメロデイ様を聞いたときと同様(7項を参照)にPOWの抵抗表ロールをする必要があります。失敗すれば、このメロディーが頭に こびりついて、気を許すとその同じ音階を求めて何度も口ずさんでいるようになります。やめようと思ってもやめられないメロデイ様は、おそらく探索者を不安にさ せることでしょう。

中原洋平はメロデイ様を唱え終わると同時に、身体が霞んでいきます。彼は、至福の表情で「やった、やっと見つけた……この音だったんだ。これで、こんな学校か ら離れられる……」と言いながら、いつしかすっかり消えてしまいます。
 この光景を見た探索者は、正気度チェックを行います。正気度喪失ポイントは0/1D4です。
 二人の生徒は、その光景にすっかり肝をつぶして逃げ出してしまいます。彼らは、あまりのショックに寝込んでしまい、しばらくの間学校を休み(サボり?)ま す。
彼らからは、この事件に関しての情報は、何も聞き出すことは出来ません。


9,佐倉美加と古びた本

 このイベントは、メロデイ様と失踪事件に関わりがあるのではと探索者が考え始め、探索が煮詰まってきた頃に発生させると良いでしょう。

 探索者の友人である佐倉美加のまわりに、人だかりが出来ています。話題となっているのは、メロデイ様のことです。
 佐倉美加は古くさい本を開いており、この本にメロデイ様のことが書かれているというのです。
 この本こそが、すべての事件の張本人である「は」の本です。
 佐倉美加が開いているページを見てみると五線譜のようなものが書かれています。ただ、違うところは五本のところが九本になっており、音符と思われるものが× 印になっているという点です。ですが、その九本の横線を五線譜に見立てて×印を読んでいくと、確かにメロデイ様のメロディーによく似ています。
 ただ、この楽譜があっても、メロデイ様の微妙な音階を再現するのは困難です。しかしながら、いままでの他人から聞かされたメロデイ様に比べれば、よほど正し い音階の参考となります。
 佐倉美加は、これこそメロデイ様の原型だと言って、この音符の並びこそが正しいメロデイ様の音階なんだと力説します。
 ページ数はほんの十枚程度で、崩れた毛筆で書かれている上、虫食いがひどく内容を読むのはほとんど無理です。《母国語(日本語)》のロールに成功すれば、か ろうじて、この本が降霊術に関する本だということがわかります。そのためには本にあるメロディーと、九つの巨大な石碑(モノリス)が必要だとあり、Vの字に並 んだ石碑の図も描かれています。
 佐倉美加は、探索者に聞かれれば、この本は自分がメロデイ様に凝っていると知って、柳原先生がくれたものだと話してくれます。この音階のことを彼女に教えた のも柳原郁代です。
 しかし、それを聞いた他の生徒は、あの厳格な柳原先生がメロデイ様なんておまじないに興味を持つのは意外だと語ります。

 もし佐倉美加の友人の探索者が、この本を貸してほしいと申し出れば、快く貸してくれます。ですが、奇妙なことに、探索者がちょっと目を離した隙(カバンや机 の引き出しに入れたりしただけでも)に本は消えてしまいます。


10,柳原郁代先生

 探索者は、職員室などで柳原郁代と会うことが出来ます。
「は」の本に関しては、倉庫に置かれてある学校図書館の廃棄本を整理していたところ偶然見つけたもので、メロデイ様に興味あるらしいので、佐倉美加にあげたと 語ります。
 メロデイ様に関しては、それほど害にならないのだから別に黙認してもいい流行だと、冷めた反応を示し、彼女自身は、まったく興味は持っていないことも付け加 えます。
 失踪した生徒達に関しては、みんな真面目でいい子だった、美しいものを愛せる生徒達だった、と語ります。ですが、失踪した理由や、現在どうしているかなどに ついては無関心なようです。
彼女は探索者と話している間、終始煙草を吸っています。女性には似合わない無骨なオイルライターを使っており、別れた彼氏の思い出の品だという噂が男子生徒の 間では囁かれている、いわく付きのライターです。

 繰り返しますが、彼女が「は」の本にそそのかされて、メロデイ様を学校へ広めた張本人です。
 彼女は「は」の本が、超自然的な力を持つものだということに薄々気づいています。そして、メロデイ様を正しく唱えられるものが失踪して、彼らが九人そろうと 大いなるものが降臨することも理解しています。
 ですが、彼女は、そのことによってこの耐え難い日常から離脱して、美しい調べ(メロデイ様のような)に満ちた世界へ行けるものだと信じています。九人の生徒 は、そんな世界へ行けるだけの素質と資格を持った人間(メロデイ様の美しい調べを理解できる)だというのが、彼女の解釈です。
 そして、彼女は最後のメロデイ様の犠牲者に、日頃から可愛がっていた佐倉美加を選びました。彼女の素直さと明るさは、柳原郁代にとって好感の持てるものだっ たからです。そして、それを確実にするために、彼女は佐倉美加に、メロデイ様の楽譜が書かれた「は」の本を手渡したのです。

 彼女は、いよいよ九人の生徒が集まりそうなので、普段にもまして、尊大な態度をとっています。探索者が愚かな質問や、失礼な態度をとった場合、彼女は教師と は思えないほどの辛辣な口振りで、その探索者を叱りつけます。


11,九つのモノリス

 重要な手がかりと思われる「は」の本に記されたモノリスの絵ですが、探索者の知る限り、そんなものはこの近所にはありません。

 探索者は、モノリスのある場所こそ失踪した生徒達のいる場所と考え、探し回るかもしれません。
 しかし、モノリスは探索者の最も身近なところにあったのです。
 探索者の通う学校の校舎の形は、上から見ると巨大なL字形、つまり見方によってはV字形をしているのです。また、失踪した生徒達に関連深い教室(クラスの教 室や、部室)に注意してみると、不思議な事実がわかります。それらの教室の並びが本にあったモノリスの配置と一致するのです。
 これこそが、「は」の本に記されていたモノリスの再現なのです。
 まだ誰も失踪していない教室はV字の折れ曲がった頂点部分だけです。そして、その教室には佐倉美加のクラスの教室(もしかすると探索者の教室も)が含まれて いるのです。
 この事実は、次の犠牲者が佐倉美加であることを探索者に予想させることでしょう。

これは重要な情報ですが、ややわかりづらいかもしれないので、キーパーは最初に使用した学校の見取り図などで校舎の形に注意を向けさせたりなどして、プレイ ヤーにこのことを気づかせてあげてください。


12,その他の情報

 ここでは、学校にまつわるちょっとした噂話をあげておきます。
 探索者の学校生活中の雑談や、事件の調査中に、生徒達から提供される情報としてキーパーの裁量で自由なタイミングで使用してください。
 ただ、謎を解くのにすべての情報が必要というわけではないので、無理にすべてを伝える必要はありません。

・深夜の学校の噂
深夜になると、学校のどこからか歌声が聞こえるらしいという話を生徒から聞くことが出来ます。こういった噂話にありがちですが、そんな深夜にいったい誰が学校 にいたという点はぼやかされています。なんでも学校のどこからかメロデイ様に似た歌がかすかに聞こえてくるというのですが、実を言えば、これは事実です。深夜 になると、本に拉致された生徒達のメロデイ様の声が、わずかに漏れてくるのです。
 この情報によって、探索者は夜の学校で何かが起きていると予想することでょう。
 あまり早く、この情報を探索者に知らせると、事件の序盤で深夜の学校へ挑もうとする危険性があるので、この情報だけはシナリオの終盤に出した方がよいでしょ う。

・メロデイ様の良い噂
隣町のY・Kさんは、メロデイ様の正しい音を見つけたせいで、それまででは絶対に受からなかったような超一流大学に進学できたらしい。

・メロデイ様の怖い噂
 メロデイ様を寝る前に二回唱えるとテスト運が良くなる。三回唱えると恋愛運が良くなる。ただし、四回以上唱えてしまうと、その晩、悪夢を見て、寿命が唱えた 年数だけ縮むらしい。

・柳原郁代先生の噂
 実は、柳原先生がメロデイ様を広めた。柳原先生はメロデイ様の力で、毎晩、とっかえひっかえ別の男と楽しんでいるらしい。

・失踪した生徒の噂
 いなくなった生徒は新興宗教に勧誘されて、今は瀬戸内海の孤島で修行しているらしい。


13,真相へのステップ

 状況を推理するための情報はだいぶ出てきました。
 これまでで、メロデイ様と不可解な失踪を遂げた生徒の関係、そして「は」の本の存在、柳原郁代の奇妙な態度、それらのことにプレイヤーが気づいているようで したら十分です。
 また、いまだにメロデイ様を唱え続けている生徒達(探索者を含む)に、プレイヤーが不吉な予感を感じ取っているようでしたらマスタリングとしては完璧です。
あとは、謎が深まる深夜の学校へと挑むだけです。

・深夜の学校
 真相に近づいた探索者ならば、深夜の学校で何かが行われているのではと考えることでしょう。その場合は、そのままクライマックスへ移行しても良いでしょう。
 ですが、情報が不十分な状況で深夜の学校へ行っても、キーパーはクライマックスまで話を進めない方がよいでしょう。
 もし、興味半分で学校へ行ってみようというだけだったら、深夜の学校へ探索者を近づけない方が無難です。
 最終的に、深夜の学校へ行くことになるので、二度も学校へ行くのは興ざめだからです。

・佐倉美加の話
 佐倉美加の友人の探索者のところへ、柳原先生から深夜の学校に呼び出されたという電話がかかります。あまりに変な電話のため、探索者に一緒に来てくれないか と相談します。
 これは、最後の一人である佐倉美加がメロデイ様の音階に気づくのを待ちきれなくなった柳原郁代が、彼女に正しいメロディーを教えるために仕組んだことです。
これは、探索者が深夜の学校へ行くことになる展開にするための最終的手段ですので、このイベントは13項へ突入する直前に発生させてください。
 また、佐倉美加が次の犠牲者となるかもしれないと用心して、探索者が彼女を見張っていた場合は、彼女が柳原郁代に呼び出され、深夜に学校へ行こうとするのを 目撃します。
 知り合いの探索者が呼び止めれば、彼女は柳原郁代に呼び出されたことを話してくれ、探索者が同行することも拒否しません。


14,深夜の学校

 深夜零時近くの学校が舞台となります。
 昼間の賑やかな校舎と、誰もいなくなったがらんとした校舎の落差から来る不気味な雰囲気は、学校の怪談でおなじみのものです。
 
校内へは校門を乗り越えて忍び込まなくてはなりません。ただし、柳原郁代に呼び出された佐倉美加と一緒に来ている場合は、閉じられているはずの校門の鍵が開い ています。校舎の中に入ると、メロデイ様の虜になっている探索者はメロデイ様の歌声が聞こえてきます。ですが、不思議なことにメロデイ様の虜ではない探索者に は、いくら耳を澄ませてもその歌声は聞こえてきません。
 歌声が聞こえる探索者で《聞き耳》のロールに成功すれば、歌声は屋上の方から聞こえてくることに気づきます。
 佐倉美加と一緒にいる場合は、なぜか柳原先生は屋上にいる気がする、といって階段を上がっていきます。

 屋上の鍵は開いています。
 校舎が折れ曲がった角の部分に、人影が見えます。
 それは失踪した生徒達と柳原郁代です。もし、探索者が佐倉美加と一緒でない場合は、その人影から少し離れたところに彼女もいます。

 失踪した八人の生徒たちは、モノリスと同様にVの字に並んで、メロデイ様を唱えています(この声は、誰にでも聞こえるものです)。柳原郁代は、Vの字が描く 三角形の中心に立って「は」の本を片手に、まるで彼らが唱えるメロデイ様を指揮しているかのような素振りです。
 それまで「は」の本が誰の手にあったとしても、この時点までには、本の魔力によって柳原郁代の元へ戻っています。佐倉美加は、本を返した覚えはないと語りま す。
 柳原郁代の表情は、陶酔したような安らかな笑みが浮かんでいます。眼鏡を外し、いつも巻き上げている長い髪を下ろして、白いゆったりとしたワンピースを着込 んだた彼女は、学校での姿とはまるで違った印象を受けます。ですが、その姿こそ、学校での仮面を取り去った、彼女の本来の姿なのです。
 また、合唱する生徒達は完全にトランス状態に陥って、外部のことに無関心となっていますが、《目星》ロールに成功すれば、中原洋平だけは探索者がやってきた ことに少し動揺していることに気づきます。これは、まだ、彼が囚われてから日の浅いため精神が侵されていないためです。

 柳原郁代は佐倉美加を見ると、「これで九人揃った。この巨大なモノリスに、九つの歌声が揃えば、アレが私たちを永遠の園へ連れていってくれる」と、うれしそ うに呟きます。
 そして、大きく手を開いて「さあ、歌って。あのメロディーを!」と柳原が叫ぶと、八人の生徒達は声をそろえて正しい音階のメロデイ様を唱え始めます。
 メロデイ様の虜となっている探索者は、POWの抵抗表ロールで能動能力8に成功しなくては、この合唱に加わってしまいます。探索者が、そうなってしまった仲 間を止めるには、強いショックを与える(殴るか、強い動揺を引き起こすようなことを言うなど)しかありません。
佐倉美加は、その合唱に合わせて正しい音階でメロデイ様を歌い出します。
 すると、学校の上空に異変が発生します。星空がまるで凹レンズの視覚トリックのように、円を描いて歪曲すると、夜空よりも暗い穴がぽっかりと空にあきます。 そして、その穴の中心には赤い星(かのアルデバラン星です)が、不吉な禍々しい輝きを放っています。
 ハスターの降臨が始まりつつあるのです。

もし、この時、探索者が賢明にも佐倉美加にこの現場へ来ないように手を打っていた場合は、状況は少々変わります。その状況にもよりますが、探索者の誰かが佐倉 美加の代わりに合唱に参加するのが無難でしょう。


15,ハスターの降臨

 佐倉美加は、メロデイ様を歌いながら、八人の生徒達が形作るV字形にかけた最後の部分へ歩いていこうとします。佐倉美加が、その位置に立ってしまったらハス ターは完全に降臨します。そうなったら、被害は神の御心次第ですが、少なくとも日本全土は廃墟と化すことでしよう。探索者は人間の本能として、これから起きる ことの危険性を予感します。

佐倉美加が、正しい配置位置へ近づくにつれて、状況はどんどん悪化していきます。
 まず、黒い穴から一本の長い触手が学校を目指して降りてきます。上空から地上に降りようとする一本の触手は、まるで、巨大な竜巻が起きているように見えま す。
 そして、空からはメロデイ様のメロディーにも似ていますが、聞くものに不安と恐怖しか引き起こさない風鳴りのようなものが聞こえてきます。これは、ハスター の咆哮です。
 この宇宙的恐怖の現場に遭遇した探索者は、正気度チェックを行います。正気度喪失ポイントは1/1D10です。

 この最悪の人為的災害を阻止するためには、生徒の誰かの合唱を止めなくてはなりません。
 そのための方法としては、実力行使で佐倉美加が歌うのを止めるのが一番簡単でしょう。
 また、よりドラマチックなやり方としては、辛い学校生活から逃げたがっている中原洋平を説得するという方法もあります。彼だけは、他の生徒とは違ってまだ辛 うじて意識を保っているからです。
 他にも、柳原郁代のことをうまく調べ上げた探索者なら可能かもしれませんが、彼女を改心させるという方法もないわけではありません。
 このあたりが、探索者達にとっての山場なのでキーパーはプレイヤーに時間をかけて行動を決めさせてあげてください。
 ただ、いずれにしても、本性を現した「は」の本が探索者の邪魔をします。


16,「は」の本

 探索者が合唱する生徒の妨害を試みたり、柳原郁代の心を揺るがすようなことを言った場合、柳原郁代は、まるで二つの人格を同時に持ってしまったかのように、 独り言で言い争いを始めます。
 これは、柳原郁代の意志と「は」の本の意志が対立しているためです。
「あの子達を殺せですって……いくら何でも、生徒にそんなことはできない!」
「何を言ってる。おまえ達の望みを阻もうとする連中だぞ。それに、あまえは粗野な愚かな生徒達を嫌っていたのではないかのか?」
「それでも、彼らには関係のないこと」
「何をいまさら……我が神が降臨すれば、我々以外のすべては滅びるのだ。それをわずかばかり早めることに、どうしてためらう」
「すべてが滅びる!?」
「だが、我々は永遠の園へ行けるのだ。おまえが望んだ世界だ。醜いもの、汚れたもの、罪深いもののいない……美しきもののみの、神々の楽園」
「でも、そのためにみんなを犠牲としてしまえば……今度は、私自身が汚れてしまう」
「ふん、潔癖性だな。揺るぎ無き信仰を持てば、そんな些細なことは忘れられると言うのに。見よ、神は今まさに降臨しようとしているのだぞ」
「……いいえ、それでは何もならない!
 わたしは、昔を忘れたくなかった。だから、自分を守ってきた。だから、美しいものを求めてきた。忘れてしまえば、いままでの自分はすべて消えてしまうから」
「……どうやら、貴様の価値は無くなったようだな」
 すると、「は」の本が赤い輝きを発します。柳原郁代は突き飛ばされたように、後ろへ吹き飛ばされ気絶してしまいます。
 しかし、彼女の手にあった本は、まるで誰かに持たれたままのように空中に浮かんでいます。それどころか、見えない手でページが捲られていくと、開かれたペー ジから細く鋭いワイヤーのような触手が無数に伸び始め、探索者を攻撃し始めます。

・「は」の本の触手のデータ
STR12 CON11 SIZ19
INT17 POW20 DEX10
移動 0 耐久力 15
ダメージボーナス:+1D4
武器:鋭い触手 60% ダメージ1D4
装甲:3 呪文:なし
正気度喪失:「は」の本の触手を見て失う正気度ポイントは0/1D3。

 触手は手強い相手です。素手では、ほとんど勝ち目はありません。キーパーは攻撃を一人の探索者へ集中させずに、探索者それぞれに危機感を与えましょう(触手 は五メートル近く伸びることが可能です)。また、探索者がいまのうちに生徒達を救出したいというのならば、それは認めてかまいません。のたうつ触手をかわしな がら、友達を助けるという緊迫感のあるシーンを演出してください。
 探索者達が4ラウンドの間、攻撃に持ちこたえると柳原郁代は意識を回復します。誰かが彼女を助けに行ったのならば、すぐにでも回復します。
 彼女は「は」の本が本性を現したのを見て、愛用のオイルライターを取り出し、探索者(なるべくなら男子生徒)に投げて渡します。敵は本なので、炎に弱いと考 えたからです。
 機能重視の無骨なオイルライターは、少々の風では火が消えない優れものです。《拳》のロールに成功すれば、ライターの炎を触手に燃え移らせることが可能で す。
 すると、触手はめらめらと勢いよく燃え始め、触手を伝って本体の「は」の本へと燃え広がっていきます。柳原郁代の考え通り、「は」の本は火が弱点だったので す。
 もし、柳原郁代よりも早く探索者が火が弱点ではと気づいていたら、彼女がいつもライターを所持していたとヒントをあげてもよいでしょう。頭を使った探索者に は、それななりに活躍させてあげるべきだからです。


17,事件の結末

 こうして本に込められた魔道師の魔力が消え、メロデイ様の合唱も止まってしまうと、上空の異変は収まり、普通の夜空へと戻っています。
 ハスターの招来を阻止することに成功したのです。
 この事件に関して、柳原郁代は探索者の問いには答えますが、ただ、なぜこんなことをしたかという動機に関してだけは口を閉ざします。彼女の最後のプライドが 許さないのと、あまりに生徒達に申し訳ないと思ったからです。
 それ以外の、「は」の本に関することや、自分がメロデイ様を流行らせたこと、メロディ様のメロディーの意味などについては正直に告白します。
 ただ、彼女も相当なショックを受けているようなので、あまり強く追及するのも気が引けるということも告げてください。

 キーパーは探索者が忘れているようでしたら、さり気なく柳原郁代のライターはどうするかを聞いてください。
 もし、本人に返すなら彼女は「この機会に禁煙しようかな」といって、助けてくれた探索者(なるべくなら男子生徒)にライターを手渡します。「もし、煙草を吸 うようになったら使いなさい。もちろん、未成年のうちは駄目だけどね」と、言います。
 彼女は、いままでの過去のことに執着した考えを捨て、これから教師として自分なりにやっていこうと決意したわけです。ですが、彼女の遠回しな言葉から、彼女 に比べればまだまだ子供の探索者達はそのことに気づくかどうか、それはプレイヤー次第でしょう。

 ハスターの降臨を阻止し、失踪した生徒を救出した探索者は1D10の正気度を獲得します。
 ライターを使って本を燃やした探索者、または火を使うことに気づいた探索者は、さらに正気度を1D6獲得します。
 


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