第 二章・ULTRAVIOLETよりの補足
現在、市民達の間でプレイされているRPGにおいて、シナリオの導入はマスターの頭を悩ませる問題のひとつでした。
これまでマスターは、「押し」だの「引き」だの、「飴」だの「ムチ」だの、プレイヤーをおだてすかして、なんとかこれから始まる艱難辛苦のストーリーに誘い
込もうと無用な労力を浪費してきましたものです。
しかし、よろこんでください!
疑いようも無く完璧なゲームであるパラノイアでは、そのような些事でマスター――すなわち、UVが頭を悩ます必要はなくなっています。
UVはひとことだけ、こう宣言すれば良いのです。
「ブリーフィングが召集されました」
きっと、市民たちは喜び勇んで、あなたの用意した愉快で幸福なシナリオに突撃してくれることでしょう。
もし、動きが鈍いようでしたら、無差別に誰かのクローンナンバーをひとつ増やせば(もちろん、全員のクローンナンバーであっても構いません)問題は解決する
はずです。
ただし、コンピューターの信頼厚いUVならば、ブリーフィングルームへ向かう道すがらにも、市民達がワクワクするようなイベントを用意しておくことを惰らな
いものです。
なに、そんなに難しいことではありません。
疑いようも無く完璧なパラノイアでは、どんな些細なことでも愉快でハッピーなイベントとなります。
出かける前に歯を磨こうとしたら、練り歯磨き粉が爆発する。
靴を履こうとしたら爆発する。
一歩踏み出したら爆発する。
とにかく爆発する。
アルファコンプレックスには、常に市民を飽きさせないイベントが潜んでいるものです。
ええ、ほんとにもう、うんざりするぐらい……
もちろん、爆発以外の、もっと気の利いたイベントをあらかじめ用意しておくことにこしたことはありません。
では、具体的にどんなイベントを用意すれば良いのでしょうか?
ブリーフィングに召集された市民たちは、例外なく途方に暮れる(ただし、幸福そうに)ものです。
その原因としては、
・ブリーフィングルームの場所がわからない
・ブリーフィングルームまでの移動手段が見つからない
・ブリーフィングの時間に間に合わない
・右と左、どちらの足を先に踏み出せばいいのかわからない
といったものが挙げられます。
上の三つは、基本的には同じ種類の障害です。
つまり、ブリーフィングルームへ反逆すること無く無事にたどり着くのが、非常に困難であるということです。
よって、「どのようにすれば市民がブリーフィングルームにたどり着けるのか?」、これに関したイベントを用意すれば、自然にゲーム中にもそのイベントを発生
させることができ、せっかくUVが用意したびっくり箱が開けられずに捨てられるということもないわけです。
今回のリプレイでは、ブリーフィングルームへいたる障害として、三番目の例が使用されています。
具体的には、ブリーフィングルームの場所はわかるのですが、普通の移動手段では到底間に合わないというのが、市民達が克服すべき困難です。
私は、この解決法として「粒子加速プラズマトレイン」という、R&Dの新発明を市民達のために用意しておきました。
正直な話、この発明自体に最新の科学的根拠や、ウィットにとんだジョーク、深遠なる哲学などが含まれているわけではありません。
単に、粒子加速機内部で原子が光速近くにまで加速するという話を聞きかじった時に、ふと思いついたものです。さらに、粒子加速機の形状から環状線にしたり、
厚さ5mの耐Gシートなど、くだらないギャグを付け加えれば、これで完成です。
この「粒子加速プラズマトレイン」に乗って、運良く生きて再び地に足をつくことができれば、ブリーフィングルームにたどり着くことが出来ると、シナリオに
ちょこっと明記すれば、愉快なイベントがひとつ用意できました。
ちなみに、ふたつ用意するつもりは、私にはさらさらありませんでした。
他のイベントは、市民達が無い知恵を絞って考え出した移動手段のアイデアが補ってくれるだろうと考えたからです。
UVとしては、そのアイデアの穴(いくつだって空いています。所詮、遺伝子をミスリードされた反逆者のアイデアなのですから)を意地悪くつついて、冷ややか
に笑ってやるだけでいいのです。
きっと、それだけで愉快なゲームになるはずです。
なにしろ、パラノイアは疑いようも無く完璧で楽しいゲームなのですから。
信じなさい。疑うことは反逆です。
では、今回はこれまで。
市民の幸福を祈ります。
幸福は義務です。