第 五章・ULTRAVIOLETよりの補足
さて、今回は秘密結社についてです。
秘密結社!!
完璧であるパラノイアのルールには無駄なものは一切なく、すべて必要不可欠なものであるということは、賢明なる市民たちにとっては周知の事実であると信じて
おりますが、その中でも秘密結社は最重要に分類されるものです。
話は変わりますが、このゲームのタイトルであるパラノイアを日本語に訳すと、偏執症となります。
アルファコンプレックスにおいて、偏執症にかかっている代表選手はコンピューターです。
コンピューターは偏執的に市民たちの奉仕を求め、反逆者を探しだそうとしています。
そして、コンピューターの次に偏執症にかかっている度合が高いのは、市民!
そう、トラブルシューターである、市民! あなたなのです。
疑われる方は、パラノイアのルール上で記されている、模範的なトラブルシューターを観察してみて下さい。
彼らは常に自分以外の反逆者を探しています。
彼らは常にコンピューターの目を気にしています。
彼らは常に反逆者の陰謀に巻き込まれないよう注意しています。
そして、なにより、彼らは常にレーザーガンを手放さないようにしています。
どうです、偏執症でしょう?(上記の例は精神医学的定義から外れていると指摘することは反逆です)
さて、では、実際にトラブルシューターは何を恐れて、これほどまでに偏執的な行動を取るようになったのでしょう。
コンピューター?
上位クリアランス市民?
それとも、巷に溢れる反逆者?
どれも正解ですが、実際的な答えではありません。
実際にトラブルシューターが恐れているもの。
それは、コンピューターや上位クリアランスを演じ、あらゆる反逆行為に対する絶対的裁定権を持つ、UVに他なりません(ここで、あたりまえではないかと思う
ことは反逆です)。
逆を言えば、パラノイアではUVはトラブルシューターを偏執症に陥らせなければならないのです。これはUVに課せられた、数少ない義務のひとつです。
これは、普通のTRPGに馴れたUVや市民達にとっては、意外と難しいことです。
通常、市民というものは協力しあうものです。パラノイアにおいても、トラブルシューターはミッションという共通任務を与えられて、それを完遂するため奮迅努
力します。そのためには、他の市民たちと協力しあったほうが効率的でしょう。
しかし、これでは市民たちを偏執症にすることはできません。
トラブルシューターたちが、仲良く手をつないでミッションに赴くなどということは、パラノイアにおいてはあってはならないことです。
それは「パラノイア」という素晴らしいゲームタイトルに反する行為です。
では、どうすれば市民たちを偏執症に陥らせることが出来るのでしょう?
安心してください!
疑いようもなく完璧であるパラノイアでは、そのためのルールが親切にも用意されています。
それこそが、冒頭で述べた秘密結社なのです!
トラブルシューターがミッションを受けた場合、通常はミッションをクリアーすることが最優先の任務となるでしょう。
しかし、市民はすべからく秘密結社に所属しているため、ここでミッションを達成する以外の利害関係がトラブルシューターの間に発生することになります。
簡単に例をあげれば、トラブルシューターの所属する秘密結社がコンピューターのミッションを失敗に終わらせるように指示をした場合、どうなるでしょう?
同じ目的で動いているはずのトラブルシューターの中で、ミッションを達成しようとする市民と、妨害しようとする市民が現れるというわけです。
もっと愉快な展開にするならば、その利害関係をもっと複雑にすれば良いのです。
というよりは、さきほどの例のように単純な利害関係の逆転では、ミッションを達成したら秘密結社に暗殺され、ミッションを失敗に終わればコンピューターに処
刑されるという、どっちに転んでも死亡する結果になるので、市民はやる気を失ってしまい、いまいちよろしくありません。
よって、市民同士の利害関係を考える場合は、「ひとり勝ち」のできるチャンスを残してあげるべきです。
例えば、秘密結社より、「ミッションを達成させるのは構わないが、その際に仲間の不手際を装ってアルファコンプレックスの重要施設を爆破すること(当然、不
手際をした市民は射殺してから尋問をすべきでしょう)」、といった指令が来た場合、市民は最終的に自分が「ひとり勝ち」できる可能性がある為、喜んで引き受け
ることでしょう。
ただし、このとき同時に、他のトラブルシューターに、別の秘密結社から「ミッションを達成させるのは構わないが、その際にアルファコンプレックスの重要施設
の内部に秘密結社の工作員を誘導すること」、といった指令を与えてみましょう。
そして、最後にこの二人の市民に秘密結社からの極秘情報として、「きみの仲間に、我等の陰謀を妨害しようとしている輩が潜んでいる。その妨害方法というの
は……」と、ことこまかに敵の情報について(なんだったら、敵である市民の名前をずばり伝えてしまっても良いでしょう)教えてあげるのです。
こうすることにより、ミッションの達成に努力をしつつ、協力すべき他の市民たちとは確執を持つといった状況にトラブルシューターを陥らせることが出来ます。
そして、やがてトラブルシューターには味方は誰一人いなくなり、順調に偏執症への道を歩ませることが出来るというわけです。
秘密結社……なんという、すばらしいルールなのでしょう!
コンピューター万歳!!
ところで市民、有能なトラブルシューターは条件反射というものを身に着けることが出来るものです。
例えば、秘密結社によるトラブルシューター同士の確執をくり返しプレイしつづけていると、そのうち利害関係が異なっていなくても、意味もなく互いを警戒した
り、罠にかけたり、反逆者として告発したり、レーザーガンの標的にしてみたりするものなのです。
もっとも、彼らは偏執症にかかっているのですから、意味など無くて当然なのかもしれません。
おや、なんということでしょう!
これでは、UVが何もしなくても、彼らはUVの数少ない義務を果たそうと努力してくれることになるではありませんか。
素晴らしい、これでますますUVの仕事は楽になるというものです。
やはり、パラノイアは完璧なゲームなのですね。
コンピューター万歳!!
では、今回はこれまで。
市民の幸福を祈ります。
幸福は義務です。