第 六章・ULTRAVIOLETよりの補足


 パラノイアにおいて、本編がいかに重要性の低いものであるかは、前述したとおりです。
 なにしろ、運が悪ければ(多くのトラブルシューターは運が悪いものです)本編にたどり着くことなく全滅する可能性もあるのですから、そんな危うい存在に、 UVの貴重なシナリオ作成のための労力を多く割くことなどできるはずもありません。
 しかし、三回に二回(場合によっては三回に一回ぐらい)の確率で、幸運にもトラブルシューターたちも本編に参加することができるときもあります。
 さて、そんなとき、我々UVはどうすればよいのでしょうか?


 まあ、あわてることはありません。
 白紙のレポート用紙を退屈そうに眺めながら、次になんと言えばトラブルシューターたちが嫌な顔をするかを考えて、それを速やかに実行すればよいのです。
 このやりかたは、日々毎日、トラブルシューターたちへの嫌がらせを考えているような、ごく真っ当なUVならば容易なことですが、時にはそうでないという希有 なUVもいるかもしれません。トラブルシューターへの嫌がらせが、立て板に水のように出てこないようでは、神聖なUVという職がトラブルシューターごときに舐 められてしまう可能性があります。
 それは大変不名誉なことです。
 舐めた口をきいたトラブルシューターを処刑する程度では、とても償えないほどのゆゆしき事態です。
 では、いったいトラブルシューターへの嫌がらせがスムーズに思い浮かばないUVはどうしたらよいのでしょうか?
 その解決策として、今回のリプレイのようなシナリオを提案します。


 パラノイアに限らず、ミッションを成功させるために、前準備や作戦をたてるという行動は楽しいものです。
 あまりに難題であったり、答えの見つけようのないものであった場合は逆効果ですが、みんなで意見を出し合い、わいわいと相談をするというのは、パーティーの 連帯感を高め、ミッションへのやる気を高めてくれるものです(幸福剤の次に効果があるというレポートもコンピューターに提出されています)。
 今回のリプレイでは、レースで使用されるコースを下見して、いかにして自分たちのマシンを有利に走らせるかが課題となっています。
 ここで私はコース上にいくつかの障害を設置しておきました。
 障害自体は、さほど奇をてらったものでも、愉快なユーモアにあふれたものでもありません。それどころか、それをクリアーするための手段すら設定されていない お粗末な障害です。
 通常、シナリオに設定する障害は、最低でもひとつは解決手段を用意しておくべきです。
 ところで、時にはプロと名乗る人間が書いた市販シナリオにおいて、解決手段が設定されていない障害が用意されたもの(PCの工夫次第でクリアーできますなど という、他人任せで、反逆的な記述がされていたりしますが)が存在しますが、そんなものはシナリオの中でも下の下の存在です。
 しかし、喜んでください!
 パラノイアでは、わざわざそんなことに頭を悩ます必要はないのです(偉大なるUVならば一桁の足し算をする程度の労力でしょうが)。
 なにしろ、我々が相手をしているのは、疑いようもなく完璧なトラブルシューターなのです。UVが準備をしておかなくとも、素晴らしくスマートでエレガントで スパニッシュな解決手段を思いついてくれるに違いありません。


 さて、トラブルシューターたちはUVが提示した障害を目の当たりにして、その対処法を次々と立案していきます。実に幸福そうに。
 そのとき、UVは爪を磨きながらトラブルシューターたちの対処法に聞き耳を立て、その対処法に対する対処法を同時に考えるのです。
 この方法ならば、トラブルシューターの行動に対して即座に嫌がらせを考え出す必要はありません。彼らの作戦を前もって聞き、その間にゆっくりとこちらは対応 策を考えることが出来るのです。
 もし、UVが彼らの立案にわずかでも失敗する可能性を見いだすことが出来れば、それは現実のものとなります。間違いなく!
 完璧なトラブルシューターが完璧な対処法を立案した場合は、その障害に隠された新しい事実をねつ造してください。コンピューターでない人間がすべての情報を 得ることは不可能なのです。いままで練り歯磨き粉と信じて疑わなかったチューブが、実は酸化すると爆発する新型プラスチック爆弾であったということは、アル ファコンプレックスの日常風景なのです。
 UVは、トラブルシューターたちに教えてあげてください。
 机上の空論というものが実在することを!
 無駄な努力の苦い味を!
 そして、コンピューターの愛を!
 それこそが、UVの重要な仕事なのですから。


 ところで、リプレイでのトラブルシューターたちの動向を見てみましょう。
 はっきり言って、彼らにはやる気があまり見られません。
 すでに彼らは、机上の空論と無駄な努力というものが、自分の眉毛と同じぐらいに身近なものであることを悟っています。
 彼らは行き当たりばったりという行動指針に基づいて動いています。
 こんな、彼らは反逆者です!
 遺伝子がミスリードされたミュータントです!
 そして、きっとコミーです!
 といったわけで、UVはある程度、努力の結果というものをトラブルシューターに与えても良いかもしれません。あまりに厳しいしめつけは、脆弱な精神を持つ矮 小なトラブルシューターたちに世の無常さを悟られてしまう結果になりかねません。
 獲物は泣き叫び逃げまどうからこそ、狩りは楽しいのです。
 そこのところをUVはわきまえておくべきでしょう……少しは。

 では、今回はこれまで。
 市民の幸福を祈ります。
 幸福は義務です。


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