神話と科学を別物と考えてはいけない。
リンゴが落ちるのも、大いなるものが海の底で眠るのも、すべてはアザトースの御心。
つまり、宇宙に存在する絶対的法則に支配されたものなのだ。
1,はじめに
このシナリオは、ホビージャパンより日本語版が出版されているRPGルールブック「クトゥルフの呼び声・改訂版」に対応したものです。
探索者は、「クトゥルフの呼び声・改訂版」の1990年代用探索者シートを使用して作成されたキャラクターでプレイするのが望ましいのですが、「クトゥルフ
ナウ」「黄昏の天使」等のルールで作成されたキャラクターでも十分にプレイすることができます。その際には、シナリオ中に設定された《医学》ロールなどの改訂
版独自の技能を、別の適当な技能に置き換えてからプレイを開始してください。
シナリオの舞台は、現代日本の東京近郊を想定しており、プレイヤーキャラクター(以降、探索者)は日本人が最適です。
このシナリオでは、探索者の調査活動がゲームの主となります。
そのため、あらかじめ探偵や学生など時間に余裕があり、好奇心の強いタイプの探索者を作成すると、ゲームに参加しやすくなります。キーパーはあらかじめその
ことをプレイヤーに伝えておくと良いでしょう。
また、キーパーはゲームの前に、ページ内のNPCやアイテムイラストなどをプリントアウトしておいて、ゲーム中に適時プレイヤーに手渡すことでマスタリング
に役立ててください。
プレイ想定時間は、探索者の創造時間を含まなければ六時間程度です。
キーパーの判断にもよりますが、このシナリオが二晩にわたってプレイされることはないでしょう。
2,シナリオあらすじ
南極調査隊に参加した探索者の知人が遭難しました。
それから数ヶ月がすぎ、探索者のもとを少女が訪れます。
彼女は、南極で遭難したはずの知人に言われて、探索者のもとへ来たのだと話します。
探索者たちは、その少女と暮らすうちに、彼女が普通の人間でない印象を受けることとなります。
この浮き世離れした不思議な少女の正体は、ある魔道士がウボ=サスラの下から石板を盗み出すために創り出した神話生物だったのです。
やがて、探索者たちは知人の安否を確認するため、その行方を追う過程で、はからずもその魔道士と対決することとなります。
さて、探索者は魔道士の陰謀を阻止し、無事に生還することができるでしょうか?
3,登場人物紹介(ここをクリックすると、印刷用のイラストに
なります)
高尾 浩一(34歳) 夢を捨てきれなかった山男 STR10 CON14 SIZ14 INT13 POW10 DEX13 APP10 EDU20 SAN50(南極出発前) 耐久力14 ダメージボーナス:なし 技能:登はん80% おおらかで明るく、人好きのする性格の男です。 家族はなく、天涯孤独の身です。 以前は小学校の教師でしたが、大自然に挑戦したいという自分の夢を捨てきれませんでした。そして、とうとう教師を辞職し、日本における極地研 究、観測の為の主要機関である極地研究所に勤めるようにまでなった、筋金入りの山男です。 彼はシナリオの序盤で極地研究所が組織した南極調査隊に参加することになりますが、その調査隊はシナリオの黒幕である前田という魔道士の手にか かって、隊員全員が遭難するという悲惨な結果に終わります。 ところが、高尾だけは前田に助けられ、秘かに日本へ帰ってきていたのです。 一時は正気を失い、前田の計画の手助けをしていた高尾でしたが、やがて正気を取り戻し、前田の邪悪な陰謀を阻止することを決意し、探索者に助け を求めることとなります。 |
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祥子(16歳ぐらいに見える) 少女の形に造られた神話生物 STR27 CON24 SIZ8 INT19 POW13 DEX8 APP15 EDU7 SAN0 耐久力16 ダメージボーナス:+2D6 装甲:ショゴスと同様 正気度喪失:0/0 落ち着いた物腰と、静かな瞳が印象的な少女です。 髪型は先が切りそろえられていないセミロングで、長い前髪をヘアバンドでとめています。化粧はまったくしておらず、服装も洒落っけのないもので す。 言葉遣いは礼儀正しいのですが、表情の変化に乏しく、内に隠った感じを受けます。 彼女の正体は、前田が「古のもの」によるショゴス製造に似た技術で作り出した神話的生物です。 彼女は人間以上の知能を持っているため、人間のように振る舞うことができますし、すばらしい速さで学習する能力も持っています。 データのEDU7という数値は、初めて探索者に出会ったときの初期値です。彼女のEDUは最低でも一週間に1ポイント上昇し、EDU20までは このペースで上昇を続けます。 探索者と出会ったばかりの彼女は、まだ生まれたばかりなので社会常識というものにかなり疎い状態です。 そのため、時に他人を驚かすような行動をすることがあります。 彼女は肉体的にも人間を超えた能力を有していますが、それを上手く隠して生活する術を知っています。感情や社会常識といった微妙な問題に比べれ ば、肉体的能力を隠すのは容易なことなのです。 |
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前田 秀文(43歳) 狂信を超えた純粋な魔道士 STR10 CON15 SIZ14 INT17 POW16 DEX13 APP10 EDU21 SAN0 耐久力15 ダメージボーナス:なし 呪文:門の創造、手足の萎縮、シュド・メルの赤い印(改良版)、肉体の保護、被害をそらす、黄金の蜂蜜酒の製法(その他、キーパーが適当と思うも の) 装備:五本足の椅子(追加マジックポイント40ポイント) 彼の表向きの顔は、極地研究所の管理部二課の課長を務める、普通の公務員です。所内での評判は、ワンマンだが頭の切れる有能な人物とされていま した。 外見は、長身、痩せ形のインテリ風の男ですが、眼鏡の奥の瞳は相手を威圧するような印象的な輝きを持っています。 また、彼はハンガリー製の「Kapitan」という銘柄の煙草を好んでよく吸っています。 しかし、そんな普通の社会人と思われる彼の裏の顔は、現代には珍しい純粋な魔道士なのです。 ここで「純粋な」というのは、異形の神々の信者となることによってではなく、信仰とは離れた知識として魔道を手に入れたことを意味しています。 彼はアザトースを絶対者と考えてはいますが、それは神に対する敬虔な態度ではなく、宇宙の絶対法則として認めているだけにすぎません。 よって、彼は神に対して恐れることはすれど、神自身を崇拝したりはしません。 ただの人間にしては実にパワフルな存在なのです。 さらなる神話的知識を求め、ウボ=サスラの石板に目を付けた彼は、それを手に入れるべく祥子を造り出したのです。 |
4,シナリオを始める前に
このシナリオは依頼型シナリオではなく、徐々に事件が探索者のまわりで発生し、神話的陰謀に巻き込まれていく展開のため、キーパーはあらかじめ探索者同士を
知り合いとしておいたほうが望ましいでしょう。
そうでないと、先に事件に関わった探索者が先に話を進めていき、他の探索者たちが探索に参加するきっかけを失ってしまう危険性があるからです。
また、シナリオを始める前に、キーパーは少なくとも探索者の誰か一人をNPCの高尾浩一の知り合いと設定しておく必要があります。年齢や立場的に考えて不自
然でなく、高尾がその探索者を頼りとする可能性があるよう、キーパーは高尾とその探索者との関係を独自に設定してください。
具体的な例としては、親戚関係や大学の親しい先輩、後輩といったところでしょう。
できれば、キーパーは自宅をもっていて、あまり時間に縛られていない生活をしているような探索者(探偵や学者など)を選んでください。逆に、家族と暮らして
いる未成年者や、忙しいビジネスマンといった探索者は、なるべく避けたほうがよいでしょう。
シナリオの本編は、その探索者が高尾からの奇妙な手紙を受け取るところからスタートします。そのため、できるだけ行動的なプレイヤー、もしくは他の探索者と
知り合いが多いキャラクターを選んだほうが他の探索者を巻き込みやすく、シナリオもスムーズに進むことでしょう。
5,シナリオの背景
この項では、前田秀文の陰謀と、シナリオ背景に関する説明をします。
本シナリオの事件の黒幕である前田秀文は、多くの才能に恵まれた男でした。
天才的な頭脳と、それを支える強靭な精神力と健康な肉体、さらに高校、大学、大学院と日本における最高に近い教育を受け、ありとあらゆる知識を貪欲に吸収し
てきました。
しかし、残念なことに、そんな彼は正常で健全な精神を育むことだけは出来なかったのです。
優秀過ぎるがゆえに、すべてのことに退屈しきっていた前田は、様々な言語で書かれた古い奇書を漁ることを「良い暇潰し」としていました。その暇つぶしの最
中、彼は偶然にも世界的にも非常に希少で、しかも極めて背徳的な魔道書である「エイボンの書」に出会いました。
その古書を解読していくにつれ、彼はそこに記された人類史以前の超古代の知識に強く惹かれていくことになります。ハイパーボレア時代の偉大な魔道士に、彼は
多くの共感し得るものを見出したのです。
しかも、多くの者がその禁断の知識に溺れ、狂信へいたるところを、彼は現代人らしい無機的な思想によって、神ではなく神々の知識のほうを崇めるようになりま
した。
彼は紛れもなく狂人ではありますが、その狂気の対象は神を崇拝することへではなく、知識を渇望することにのみ向けられています。
何年にも及ぶ神話的書物の収集、研究の結果、前田は多くの魔道の秘術を会得することができました。
しかし、彼はやがて人の手によって伝えられた知識では満足できなくなってきます。なぜなら、彼が求めるものは秘められた宇宙の真理であり、脆弱な人間のフィ
ルターを介した中途半端な知識ではないのです。
そんな彼が最後にたどり着いたのは、最初に出会った魔道書である「エイボンの書」でした。そこには外なる神、ウボ=サスラの守る偉大なる石板「旧き解答」の
ことが記されていたのです。
超星石に刻まれた宇宙究極の真理は、前田が最も欲するものでした。
しかし、どんな魔道士も手にすることの叶わなかった知識を手に入れようと思いたったとき、彼もまた禁断の領域に入り込んだ者が必ず辿る、破滅への道を一歩踏
み出したのです。
それが、これまで見下していた狂信者と同じ道であることも気付かずに。
前田は、まず始めにウボ=サスラの居場所を探すことにしました。
幸いなことに「エイボンの書」から、この神が南極のとある地点にいることは判明していましたが、さすがの前田も、あまりに過酷で危険な南極を自分の足で探索
する気にはなれませんでした。
そこで、彼は日本の南極調査の主要機関である極地研究所へ入所し、十年以上もの間、静かに機会を待ちつづけたのです。
そんな彼に幸運の神は微笑みました。
日本の観測拠点のひとつである「あすか観測拠点」より南西の地域で発生している不定期の微弱地震(その原因がウボ=サスラによるものかどうかは、神のみぞ知
るです)に関する調査計画が持ち上がったのです。
その地点こそが、かの「エイボンの書」に記されたウボ=サスラがいるとされる場所だったのです。
前田は、この絶好の機会を逃がさぬよう、表に裏に出来る限りその計画を援助し、調査期間と範囲を広げることに努めました。
こうして、最高のバックアップを受けながら、何も知らない哀れな南極調査チームはウボ=サスラの待つ恐ろしい地点の調査へ出発したのです。
ここで幸運の神は、彼に二度目の微笑みを見せます。
探検チームは、信じがたい規模で隆起した氷床の断層に、ウボ=サスラの御許へと続く氷穴を発見したのです。
勇敢な調査チームはメンバーを二つにわけ氷穴の調査を試みますが、その結果は高尾のみが生還という悲惨なものでした。
彼らは、恐るべき神の御座に出くわしてしまったのです。
無慈悲な神の威光の前から逃れることが出来たのは、高尾一人だけでした。
しかし、地獄の穴から這い出した高尾が遭遇したのは、待機していたはずのメンバーの死体と、魔道士としての恐るべき本性を表した前田でした。
ウボ=サスラの御許へと続く氷穴の場所が限定できた前田は、さっそく秘術のひとつである「門の創造」によって、ここまでやってきたのです。
ウボ=サスラの恐怖から逃れられたと安堵した直後の、さらなる恐怖によって、高尾の最後の理性は音を立てて崩れ去り、彼は恐怖の対象である前田に従うことし
かできない精神薄弱の人間と成り下がったのです。
こうして、前田はウボ=サスラの居場所を見つけだし、同時に予期せぬ副産物として高尾という忠実な僕を手に入れたのです。
さて、神の居場所を見つけた前田でしたが、神を崇拝することのない彼でも、神の力が偉大であることは知っています。そして、自分の存在が神の前では塵に等し
いことも。
彼は、ウボ=サスラの御許から石板を盗み出す方法として、あの盲目の神が攻撃の対象としないような存在を使うことを考えました。そして、魔道書から学びとっ
た古のもののショゴスの製法を真似て、よりウボ=サスラ御大に近い存在の新生物を創造しようとしたのです。
神と同じ肉体を持ちつつ、自分の言うことに従う奉仕種族。
彼はその原料として、洞窟内から採取したウボ=サスラの肉体の一部と、自分自身の遺伝子を含む細胞を使用しました。
当初、その二つの物質から発生した新生物は、人間を退化させたような下等生物ばかりで、人の言葉を理解することもできない出来損ないばかりでした。
しかし、そんな数々の失敗の末、やっと彼は満足するだけの知能を持った生物を造り出すことに成功しました。
それこそがシナリオの序盤で探索者たちの前に登場する少女、祥子なのです。
ただし、この祥子も先天的な知能は高いのですが、人の言葉を理解させるためには一からの教育が必要です。
前田は、かって教師だったという高尾に祥子の教育を任せます。
しかし、ここに前田の大きな誤算がありました。
その正体がなんであれ、外見と性質は純粋無垢な美しい少女である祥子に物を教えることは、高尾にとっての精神の安らぎでもありました。高尾にとって祥子と接
することは、精神状態の回復につながることだったのです(ルール的に言えば、良い環境で療養したため正気度が回復したのです)。
高尾は祥子の正体を知っていましたが、だからといって前田の邪悪な陰謀に利用してよいとは考えませんでした。
人間としての正常な精神を取り戻し、前田の恐怖の呪縛から逃れた高尾は、ある日、祥子を連れて逃げ出すことを決意します。
高尾は地元である東京で、祥子と二人で逃亡生活を続けましたが、本当の心の平穏を得るためには前田の陰謀を阻止しなくてはいけないと考えるようになりまし
た。
高尾は、前田との決着を付けることを思いたちます。
そこで、前田の陰謀を完遂させるための最大の鍵である祥子を、頼れる知人である探索者たちに預け、単身、前田の実験場へと赴くこととなります。
しかし、残念ながら常人である高尾が、前田にかなうわけもありませんでした。彼は、前田が造り出した祥子の失敗作の牙にかかって、無残な最期を遂げることに
なります。
前田はすべてを知る高尾を始末したところで、ひとまず安心しています。これで、自分の陰謀が世間に明かされることはなくなったからです。
ですが、新生物の中でも最高の出来だった祥子を失ったことは手痛い損失でした。
彼は出来ることならば祥子を取り戻したいと考えていますが、そのために危険を冒すようなことはするつもりはありません。時間と手間をかければ、また祥子のよ
うな生物を生み出すことは可能だからです。
そのためシナリオ中、探索者を付け狙うようなこともしません。
ただ、自分の目の前に祥子を連れて探索者が現れたとき、彼は容赦なくその魔道の力を使って取り戻そうとするでしょう。彼は、殺人に対し禁忌を感じることはな
いのです。
6,シナリオ導入
この項では、探索者は知り合いである高尾が、南極調査隊メンバーに選抜されたことを聞かされます。ここで、探索者は高尾という人物の人柄を知ることになりま
す。
シナリオの導入部は本編の約半年前の年の瀬です。
キーパーは、まだ探索者同士が知り合いでない場合は、いまのうちに知り合いになるように仕向けておくと良いでしょう。
まず、キーパーは探索者たちが高尾と出会う機会を作らねばなりません。すべての探索者を高尾と会わせる必要はありませんが、多いことに越したことはありませ
ん。
高尾が参加しそうなものとしては、大学サークルのOB会や同窓会などが考えられるでしょう。季節が年の瀬なので、忘年会という絶好の口実もあります。
キーパーは探索者の経歴や世代を考慮して、自然な形で高尾との対面が出来るようなシチュエーションを考えてください。
高尾はキーパーが最初に設定しておいた彼と知り合いの探索者のところへ、にこやかにやってきます。そのとき、他の探索者たちも、その探索者と同席していたこ
とにすれば、他の探索者も高尾に面識ができて良いでしょう。
高尾と知り合いの探索者は、彼に関して以下の情報を知っています。
◆高尾に関する情報
彼は大学で教職免許をとり、卒業後は地方の小学校で三年ほど教師をしていました。しかし、大自然に挑戦したいという自分の夢を捨てきれず、とうとう国立極地
研究所(国立極地研究所に関しては「12,南極調査隊について」を参照)に勤めるようになりました。
もっとも、極地研究所とはいっても、所員全員が南極調査へ行くわけもなく、彼は研究グループの一員として、じっと南極へ行く機会がまわってくるのを待ってい
るというのが現状のようです。
彼の趣味は登山で、その登山技術は本職の登山家に負けないほどのものです。
性格的には明朗活発な好人物ですが、夢を追うあまり経済的には常に困窮しています。
彼は探索者のところへやってくると、いきなりグラスをあげて(そこが酒の席ならば)、「俺のために祝杯をあげてくれ!」と上機嫌で言います。
高尾は訳を聞かれると、以下のような話をしてくれます。
「とうとう、長年の夢だった南極へ行けるんだ。
年が明けたら、すぐ出発だ。
日本では久しぶりの大がかりな南極調査隊になりそうで、その栄光あるメンバーに、俺も選ばれたってわけさ」
高尾は南極へ行けることを大変よろこんでおり、地に足が着かない状態です。
キーパーは探索者と高尾の会話の時間を少し作って、彼のことを、自分の夢を追っている好人物であるという好印象を与えてください。
会話中に、高尾は思い出したように変わったパッケージの煙草を取り出します。
「そういえば、今回の計画の打ち合せの時に、お偉いさんから珍しい煙草をもらったんだ。その場じゃあ有り難くいただきますとか言っちゃったけど、俺はあまり煙
草を吸わないから、おまえにやるよ」
と、その場にいる煙草を吸いそうな探索者に煙草を渡します。
この煙草は「Kapitan」というハンガリー製の煙草です。日本では煙草専門店でもなかなか見かけられない、かなり珍しい銘柄です。
また、高尾と祝杯をあげている探索者は、彼の左手の薬指が第一間接から失われているのに気付きます。
訳を聞けば、高尾は数年前の雪山登山で凍傷になって切断したのだと、まるで戦歴と戦傷を自慢するかのような口調で説明します。
この煙草と指の傷のイベントは後の伏線ですので、キーパーは忘れないよう注意してください。
なお、このシーンは、探索者が高尾に聞きたいことがなくなったとキーパーが判断したならば、適当なところでおわらせてください。
7,南極調査隊遭難
この項では、探索者たちは新聞で高尾が所属していた南極調査隊が遭難したことを知ることになります。
前項のイベントから数か月が過ぎ、季節は春となっています。
朝刊を読んだ探索者たちは、以下のような記事を発見します。
なお、このイベントは探索者が揃っていなくてもかまいません。
「日本南極調査隊遭難
調査隊メンバー五人
捜索は難航の模様
南極のあすか観測拠点より出発した日本の調査隊メンバー五人から、本日で四日間にわたって連絡が途絶えていることを、調査隊を組織した国立極地研究所が発表
した。現在のところ、懸命な捜索にも関わらず、メンバーの安否は確認されていない」
この記事を読んだ探索者が、この時点で行動をしても、たいした実りはありません。
調査隊を組織した文部省と極地研究所では、メンバーの救助に全力を尽くすと表明していますが、マスコミはメンバーの安否について悲観的な意見を述べていま
す。
それから約一ヵ月間、調査隊の捜索は続けられましたが、結局、生存者どころか、彼らの行方を示す手がかりすら発見することはできませんでした。
文部省と極地研究所は、彼らの生存の可能性は極めて低いとマスコミへ発表し、それ以降、この事件が世間を騒がすようなことはなくなりました。
この新聞を読んだ探索者は、すぐに調査を始めるかも知れません。
それが調査物シナリオに慣れたプレイヤーならば、前田の自宅の捜索まですっかり済ませた後、それ以上調べる場所が無くなってしまったことに困惑してしまうで
しょう。
キーパーはそうなる前に時間を経過させ、「8,祥子登場」のイベントに移行しましょう。
8,祥子登場
この項では、祥子という少女が探索者の元へやってきます。このときから、探索者は高尾が不可解な事件に巻き込まれたことを感じはじめるでしょう。
高尾の参加した南極調査隊が遭難してから数ヶ月が経って、季節は真夏となります。
キーパーが選んだ高尾の知り合いの探索者(複数いる場合は、一番、頼りになりそうな人)の家に電話がかかってきます。
電話は、探索者の自宅の最寄り駅前の交番からで、なんでも探索者を訪ねてきたらしい少女が交番に来ているので、引き取りにきてほしいとのことです。
詳しく話を聞こうにも、どうにも少女の話は要領を得ないので、とにかくすぐ来てほしいと困り果てた様子で警官は話します。
言われたとおり交番に行ってみれば、交番入口の脇に置かれた椅子にちょこんと小柄な少女が座っています。
ブカブカのジーンズに綿のシャツという、年頃の女の子にしては洒落っけのない服装です。また、小柄な彼女には似合わない大きく無骨なナップザックを足下に置
いています。
警官は、探索者の名前、住所、電話番号の書かれたメモを探索者に見せて、困った顔をして以下のように話します。
「このメモを持ってきて、『ここに行きたいんです』の一点張りなんですよ。何を聞いても、そう繰り返すだけで……お知り合いですか?」
探索者が彼女に名乗れば、少女は椅子から立ち上がって口を開きます。
もし、なかなか探索者が名乗ろうとしないのなら、警官が「ほら、この人がメモに書いてあった人だよ」と、探索者がメモの人物であることを少女に伝えます。
どちらにせよ、少女は探索者がメモの人物であることを知ると、椅子から立ち上がって深々とお辞儀をしてから、挨拶をします。
「はじめまして、わたしは祥子です。タカオに言われて、あなたに会いに来ました」
そして、ポケットから封筒を取り出し探索者に渡します。
封筒の表には探索者の名前が書かれてあり、裏の差出人の部分には「高尾浩一」の署名がしてあります。
封筒の中には、探索者宛の手紙が一通入っています。
その内容は、以下の通りです。
「突然のことをゆるしてほしい。
時間がないので、本題に入らせてもらう。
私は、ある人物に追われている。
それはおそろしい相手だ。
頼みというのは、祥子を……
この手紙をもってきた少女を私が迎えに行くまでかくまってほしいことだ。
彼女も追われているのだ。
その理由をいま話すことはできない。
もし、彼女を守りきれないと思ったときには■■■■■■ほしい。
もちろん、用事がすめば、すぐに迎えに行くつもりだ。
それまで、よろしくたのむ。
頼れるのは、君だけなんだ。
高尾浩一」
レポート用紙を便せん代わりに使ったもので、ボールペンで書かれた文字はひどく乱れいます。
途中にある「もし、彼女を守りきれないと思ったときには■■■■■■ほしい」という部分は上から斜線を書いて消されており、特に「■■■■■■」の部分は念
入りに消されていて、簡単に読むことはできません。
手紙をよく調べて、《目星》ロールに成功すれば、その消された部分には「彼女を殺して」と書かれてあることがわかります。この一文は重要なので、キーパーは
探索者の工夫次第で、ロールをしなくてもこの隠された文字が読めることにしても良いでしょう。
高尾は祥子を守りきれずに前田の陰謀に利用されるぐらいならば、彼女を殺してしまったほうがマシとも考えたのですが、途中、思い直してその部分を消したので
す。
また《精神分析》ロールに成功すれば、手紙の主はかなり精神的に不安定な状態であることが読みとれます。
もし、探索者が高尾浩一の筆跡を知っているのならば《アイデア》ロールに成功すれば、随分と乱れてはいますが、この手紙の筆跡はおそらく高尾本人のものに間
違いないとわかります。その際、高尾からの年賀状などの筆跡を参考にするならば、《アイデア》ロールの必要はありません。
メモと高尾の手紙とを照らし合わせてみても、その二つが同じ筆跡だとわかります。
半年前に南極で遭難したはずの高尾からの奇妙な内容の手紙は、探索者の関心をひくことでしょう。
もちろん、彼が日本へ帰ってきたという情報はなく、彼の遠い親戚筋やマスコミ、極地研究所に確認をとってみたところで答えは同じです。
この手紙をもってきた祥子は、一見すると礼儀正しい普通の少女です。
高尾の手紙には追われているとありましたが、彼女からはそんな切迫感のようなものは感じられません。落ち着いているというよりは、超然としているといったほ
うがいいような、そんな態度です。
彼女は名字は名乗らず、ただ「祥子」とだけ名乗ります。
警察は、探索者に「知り合いならさっさと連れていってくれと」無責任なことを言って交番から追い払おうとします。
もし、探索者が不可解な手紙や、祥子のことで警察を頼ろうとしても無駄なことです。まだ、警察が動きだすような具体的な事件は起きていないからです。
手紙にあった高尾との約束をはたそうとするならば、素直に彼女を自宅に連れて帰るしかないでしょう。
9,祥子との会話
この項では、探索者の祥子への質問に対する答えの指針や、彼女の所持品などについて記します。
探索者たちは自分たちのもとへやってきた謎の少女である祥子に、いろいろな質問を投げかけることでしょう。
しかし、彼女は高尾と暮らしていた以前の過去について、一切語ることはありません。
それも当然で、彼女が造り出され物心ついたときには、すでに高尾と一緒に暮らしていたからです。
彼女は、自分が神の御許から「旧き解答」を盗み出すために、ウボ=サスラの身体から造り出された生物であることは、前田から教えられています。
しかし、そのことを探索者に話すことは決してありません。なぜなら、高尾から前田のことや、具体的にどこで暮らしいてたのかなど、探索者に危険が及ぶような
ことは話さないよう口止めされているからです。
彼女にとって高尾の言葉は絶対であり、彼のいいつけを故意に破るようなことはありません。生まれたときから、ずっと一緒にいて、多くのことを教えてきれた高
尾は、彼女にとって父親以上の存在なのです。
そのため彼女の口から、前田の陰謀について聞き出すことは不可能です。彼女はどんな人間よりも、口は堅いのです。
彼女は口止めされていることについて嘘をつくときには、高尾に教えられたとおり、「覚えていません」と答えることが多くあります。
もし、祥子が記憶を失っているのではと考え、探索者が《精神分析》ロールを試みた場合、成功すれば彼女には記憶喪失といった疾病にかかっている傾向が見られ
ないことがかわります。しかし、一方で、精神分析の結果、彼女の迷いのない言葉は嘘をついているようにも思えません。
それは、とても奇妙なことと思えます。
以下に、予想される質問への回答例を記します。キーパーはそれを参考にして、祥子への質問に答えてください。
◆祥子への質問例
・あなたの名字は?
「私には名字はありません。最初から無いんです」
・年齢は?
「覚えていないんです。でも、高尾は16歳ぐらいだろうと言ってました」
・ご両親は?
「両親ですか……よく覚えていません。でも、いつもタカオは自分のことを兄と思えと言ってました」
・どこで生まれたの?
「昔のことは覚えていないんです。高尾と会う前のことは……」
・高尾とはいつ会ったの?
「始めて会ったのは、97年の7月3日です」
・高尾との関係は?
「タカオは私の先生です。兄でもありますが、本当の兄ではありません」
・高尾はどこにいるの?
「わかりません。私には何も教えてくれませんでした」
・高尾とどこで暮らしていたの?
「覚えていません。ごめんなさい」
・高尾と別れたのはいつ?
「今日の朝です。あなたに会いに行けとだけ言われて、東京駅で別れました」
・前田という男を知っている?
「さあ、覚えていません。ごめんなさい」
・高尾とこれまでどこにいたの
「昔のことは、よく覚えてません。半月ぐらいは、東京にいました。ホテルとか、公園のベンチとかで暮らしていました」
・あなたは人間なの?
「わかりません。いったい何が人間であることを証明するのか……あなたにはわかりますか?」
探索者を訪れたときの祥子の所持品は、約三万円の入った安物の財布と、大きな男物のナップザックひとつだけです。
もし、探索者がナップザックの中を見せてくれといえば、祥子は素直にうなずいて、いきなり中身を所構わずぶちまけます。キーパーは、ここで祥子の非常識な行
動を演出してください。
荷物の内容は、着替えと本が主です。
着替えは春物のパーカーや洒落っ気のない薄手のズボン、安物の下着類など、必要最低限のものしかありません。
また、彼女は年頃の女の子だというのに、下着などを男性の探索者に見られても恥ずかしがるようなことはありません。彼女には羞恥心といったものを理解できな
いためで、そういったことには実に無頓着です。
シンプルな着替えとは対称的に、本はいろいろなジャンルにわたっています。
幼児用の絵本、小学校中学年向けの国語のテキスト、動物、植物のポケット図鑑、山の写真集、そしておそろしく古びた古書です。
祥子は古書以外は、自分の勉強のための本だと説明します。
なお、この古書についての詳しい情報は、「11,古びた書物」の説明を参照してください。
もちろん、祥子の年頃を考えれば、絵本や低学年向けのテキストで勉強するというのは奇妙な話です。
そのことを尋ねられれば、彼女は「少し前まではこれで勉強していましたが、もう全部覚えてしまいました」と答えます。驚くべき事に、彼女は言葉通り絵本とテ
キストの一字一句、すべてを暗記しています。
10,祥子との生活
この項では、謎の少女である祥子の生活を演じる際の、キーパーへの指針を記します。
キーパーは、探索者たちが事件の調査をすすめている合間に、息抜きのワンシーンとして、祥子の奇妙な言動を織り交ぜてください。
奇妙な言動は多いものの純粋無垢な祥子と接することで、探索者が彼女を守ってやりたいと感じさせることができれば上出来です。
祥子を演じるポイントは「高い知性に、いびつな知識。そして乏しい感情」です。
基本的に「本で読んだような知識だけはあるが、世間知らずのお嬢様」を、やや極端にした調子で演じてください。
ただし、彼女は知らないだけで、学び成長する能力は人間以上にもっています。そのため、彼女は同じ過ちを繰り返すことはありません。
また、感情に乏しいからと言って、彼女をロボットのような無機的な存在に演出してはいけません。彼女にとって感情はまだ理解できないものであって、嫌悪すべ
きものではないのです。
その証拠に、彼女は人の感情を学び取ろうとしています。しかし残念ながら、本当の意味での感情とは、他人に教えられて得られるものではないのです。
このことは、彼女を戸惑わせます。
知識としての感情と、人間ならば自然と沸き上がる真の感情の違いを理解できないためです。
祥子と少し暮らせば、彼女が正常な人間でないことはすぐにわかるでしょう。
しかし、そのことを祥子自身の性質とせずに、彼女の育った環境の不幸としてください。なぜなら、彼女には、それを正そうという姿勢があるのですから。
そんな祥子の態度を演出すれば、おそらくは探索者の同情を買うことができるでしょう。
現在の祥子は、高尾から小学校三年生程度の教育を受けています。しかし、記憶力や理解力が極めて高いため、その知識はいびつなものです。
大人でも悩むような問題を簡単に理解できるわりには、日常の常識的な事柄を知らなかったりするのです。
普段の彼女は、常に生活に有用な知識を得ようとしています。
普通の人間として暮らしていけるために勉強するよう高尾に言われたため、それを守り続けているのです。
しかし、狭い社会で育った彼女は、経験で学ぶということを知りません。そのため、高尾がしてくれたように、本やテレビから知識を得ようとしているのです。
そんな祥子にとって、いままでとは比べものにならないほどに自由な探索者たちとの共同生活は刺激が多いものとなることでしょう。
祥子と探索者の間に発生するイベントについては、探索者がどのように祥子に接するかで大きく変わってしまいますが、参考までに考えられるイベントを以下に記
します。
キーパーは、これらイベントをすべて発生する必要はありませんが、この中には後半の軽い伏線となるものも含まれているので、時間に余裕があれは、できるだけ
多くのイベントを発生させることを推奨します。
ただし、これらは洋子独自の行動パターンをつかんでもらうための、あくまで例にすぎませんので、もちろん、キーパーの使いやすいように内容をアレンジしても
かまいません。
なお、イベントは重要度の高い順に記されています。
◆手伝いをする祥子
内にこもった印象を受ける彼女ですが、家事の手伝いといったことだけは積極的にしようとします。
探索者が客である祥子に手伝いなどをさせないようとしても、強引とも思えるほどの頑固さで手伝おうとします。
これは、高尾に「探索者の家では、手伝いをして良い子でいるように」と言いつけられているためです。
彼女は料理に関して、なかなかの腕をもっています。家庭料理とは違った、ちょっと凝った料理が彼女のレパートリーです。これは料理番組で勉強した成果です。
ただ、最初は洗濯や掃除などには、不慣れな様子が目立ちます。これは高尾の教え方が悪かったためで、ちゃんと教われば、なんでも器用にこなしますし、同じ過
ちは絶対に繰り返しません。
キーパーはその手伝いの最中に、彼女が重い荷物を軽々と持ち運ぶといったり(彼女のSTR27もあります)、包丁で指を怪我したはずなの傷がない(再生能力
があります)といったような、彼女の肉体的特異性を伝える演出をしてください。
ただし、その際は、すぐに彼女が人外の生物であると悟られない程度にさりげなくやってください。
祥子は手伝いをしたことで探索者たちに喜ばれると、「タカオは、人に喜ばれることをしろって言ってました。もっと手伝うことはありませんか」と答えます。
探索者が祥子に好感をもつように、この辺りに彼女の健気な態度を演出すると良いでしょう。
◆普段の祥子
祥子は暇さえあればテレビを見ているか、自分の持ってきた本や、探索者の家にある本を読んでいます。
テレビは、たいていNHK教育テレビを見ています。内容が小学生向けでも、大人向けでもおかまいなしで、チャンネルを変えることなく何時間でもずっと見続け
るのです。民放は理解できないバラエティ番組が多いため、あまり好みません。
また、本については、写真週刊誌から専門学術書まで乱読しています。読む本はどんなものでもかまわないようなのですが、どちらかといえば写真の多い本を好み
ます。理由を尋ねられれば、「写真は嘘じゃないから」と答えます。
一方、小説や漫画などはほとんど読みません。理由は「嘘が書いてあるから」です。彼女には、創作のおもしろさを理解することができないのです。
今、彼女が気に入っているのはポケット図鑑です。写真や図はもちろん、細かな注釈まできっちりと読んで、時には探索者に漢字や言葉の意味を聞いたりします。
また、祥子は非常に夜更かしであり、そして早起きです。実のところ、彼女には睡眠の必要がないのです。
そのため、いつも深夜遅くまでテレビを見ていたり、わずかな明かりで本を読んでおり、朝も日が昇らないうちからひとりで静かに目を覚ましては、テレビや新聞
を読んでいます。
ただし、探索者たちに奇妙に思われない程度に、眠る演技をすることも心得ています。
◆怯える動物たち
人間以外の動物は神話生物である祥子に対し、本能的な恐怖を感じます。
探索者の家にやってくるノラ猫は、祥子を見た途端に逃げ出して、それっきり寄り付かなくなるでしょうし、小鳥や金魚のペットも、祥子が近付くと怯えたように
騒ぎたてます。彼女と散歩をすれは、普段はやかましい隣の家の飼い犬も、小屋に閉じこもって震えていることでしょう。
◆風呂に入る祥子
前にも述べたように祥子には羞恥心というものがありません。
彼女は風呂からあがっても体を拭いた後、裸のままで着替えを取りにいくようなことがあります。男性の探索者に裸を見られようがおかまいなしです。
祥子の裸体を見た探索者は《目星》ロールに成功すれば、彼女の身体にはホクロやシミといったものがまったくなく、まるで彫刻やマネキンといった作り物のよう
な印象を受けます。
11,古びた書物
この項では、探索者が祥子の持っていた古びた書物である、かの「エイボンの書」を調べようとした場合の説明を記します。
この本は、かなり年代を経た、すべて手書きによる写本です。《博物学》ロールに成功すれば、装丁の特徴などから、これが15世紀後期のイギリスあたりで製本
されたものだということがわかります。
表紙は深い緑色に染めた動物の皮で装丁され、電話帳ぐらいの厚さがあります。
表紙には、あまり見たことのない文字の焼印が押されています。《博物学》、《オカルト》、《歴史》のどれかのロールに成功すれば、これがルーン文字で書かれ
た魔除けの言葉であることがわかります。そして、そのような印を押しているということは、この書物が忌まわしいものであることの証明だとわかります。
また、本の間には沢山の付箋と、しおり代わりに使っていたらしい、「Kapitan」の煙草のパッケージが一枚挟まっています。
この煙草を本に挟んだのは、前田本人です。
賢明な探索者ならば、以前、高尾が同じ銘柄の煙草を極地研究所の関係者からもらったと言っていたことを思い出すでしょう。つまり、高尾に煙草をあげた人物こ
そが、この本の真の持ち主である可能性が高いというわけです。
なお、この煙草のパッケージ(正確には煙草の匂いですが)を見ると、祥子は怯えたように顔をそらし、そこから離れようとします。理由を尋ねられると、「なぜ
かはわかりません。ただ、その煙草が怖いんです」と震えながら答えます。
彼女が、これほどまでに感情をあらわにするのはとても珍しいことです。彼女が「Kapitan」の煙草を恐れる理由は、後述の「22,前田との対面」を参照
してください。
他の煙草では、彼女はこのような反応をすることはありません。
祥子は、この本について尋ねられると、「なんの本かはわかりません。ただ、タカオは大事に持っていろといっていました」と答えます。この本の内容や由来など
について、彼女は本当に知りません。
この本こそが、前田が魔道に手を染めるきっかけともなった魔道書である「エイボンの書」です。どのような魔道書もオカルト本も、この偉大な「エイボンの書」
には遠く及ばないものであり、いまだにこれは前田にとって最高の研究材料です。
そのことを知った高尾は、前田にこれ以上の邪悪な研究をさせないため、この魔道書を盗みだし、祥子に託したのです。
すぐに処分しなかった理由は、この本に記された知識が、前田の魔道に対抗するための手がかりになるかもしれないと考えたからです。
英語に弱い高尾では、この魔道書を完全に理解することはできませんでしたが、彼の推測どおり、この魔道書を読むことができれば、以下のような探索者にとって
興味深い記述がなされていることがわかります。
この内容を本当に理解するためには、多くの時間(ルールブック68ページを参照)を必要としますが、貼られている付箋のページに重点をおきながら、重要そう
な部分だけを斜め読みをすることも可能です。その際には、5時間以上の時間をかけて本を読んだ後、《英語読み書き》ロールに成功する必要があります。
このロールは英語に堪能な探索者がいない場合、非常に困難なものとなりうるので、キーパーは探索者の学歴や《EDU》にあわせて、《英語読み書き》の基本成
功率が15〜25%程度あることにしてもよいでしょう。また、探索者が英和辞書やコンピューターの英文翻訳ソフトなどを利用するといった工夫をした場合は、そ
のロールにボーナスを与えるべきでしょう。
●エイボンの書(BOOK OF EIBON)
英語。正気度ポイント喪失は1D4/2D4。《クトゥルフ神話》に+11%。呪文倍数は×2
・南極大陸のどこかにある洞窟の奥には「ウボ=サスラ」というすべての地球生物の母たる神が存在し、その御許には「旧き解答」という宇宙の神秘の一端を記した
石板がある。
・人間以前に栄えた超種族は神の肉体の一部を利用して、主人に奉仕するためのみに存在する強い力を持った生物を造り出した。それは玉虫色の悪臭、ショゴスと呼
ばれる忌まわしき存在である。
・偉大な神「ヨグ=ソトース」の力の一端を借り、空間をねじ曲げ、一瞬で世界の裏側でさえ行くことのできる秘術がある。
「エイボンの書」には、上記のような、この事件の核心に迫るような情報が記されています。
しかし、キーパーは上記の情報をすべて探索者に告げずに、プレイヤーたちの能力に応じて情報量の調整をしてください。
なぜなら、クトゥルフ神話の知識が豊富なプレイヤーたちならば、わずかの情報でも幅広い推理を展開するでしょうが、そうでないプレイヤーたちでは、十分に推
理の材料を提供しなくては推測の立てようが無いはずだからです。
具体的には、前者のプレイヤー相手なら、南極にいるという強大な神が「旧き解答」という石板を守っている、といった程度の情報でも十分でしょう。あまり多く
の情報を与えては、先が読めすぎて興醒めな展開にもなりかねません。
しかし、これが後者のプレイヤー相手ならば、上記の情報をすべて伝えた上で、イメージの掴みづらい概念(クトゥルフ神話において、神は一柱ではないなど。神
話的知識は、ある種の人間にとって命を懸けるに値するほどの価値を持つこと)についてはキーパーが補足してあげる必要があるでしょう。でなければ、この先で真
相が判明しても、結局、敵が何をしたかったのか理解できないという結末にもなりかねません。
それでは、事件から生還はできても、プレイヤーの心情としては納得できないものがあるでしょう。
12,南極調査隊について
この項では、もし探索者が高尾が参加したという南極調査隊について踏み込んだ調査をしたいと考えたとき、いろいろな場所で得られる情報を記します。
このイベントは、南極調査隊の遭難が新聞で発表されてからならば、いつ起きてもかまわないものです。探索者が調査を開始するのに対応して、この項のイベント
を適時発生させてください。
前述したことですが、高尾が参加し、そして遭難した南極調査隊は極地研究所によって微弱地震を調査する目的のため、日本人メンバー五人によって組織された調
査隊です。
当時は、それなりに報道で騒がれたこの事件も、いまでは、すっかり人の記憶からは忘れ去られています。
そんな過去の事件を調べるための、いくつかの手段を下記に記します。
◆当時の新聞を調べる
当時の記事を詳しく調べようとするのならば、新聞社か図書館に行けば当時の新聞を読むことができます。
新聞社か図書館で当時の新聞を調べて《図書館》ロールの二倍ロールに成功すれば、この南極調査が日本では珍しい大がかりな規模で行われたものだったという記
事を発見します。
大規模な計画に相応しい、最善のバックアップがされていたにも関わらず、このような大事故が発生したことに、関係者たちは困惑するばかりだったようです。
そして、記事を読みすすめていっても、最終的に確実な原因究明は為されていないことがわかります。
◆高尾の遺留品を調べる
高尾の遺留品について調べても、何の手掛かりも見つかりません。彼が日本にいる間、前田の神話的陰謀とは接触していなかったのですから当然です。
高尾の遭難が確実と報道された後、彼の私品などは親族の手によって処分されています。もっとも、親族とは言え、ほとんどつき合いがなかったため極地研究所の
職員に任せっきりでしたが。
職員の話では、その中のほとんどのものが生活雑貨品で、特に気にかかるような物はなかったそうです。
ただし、高尾の遭難が報道された直後ならば、まだ私物は残されています。
板橋区の安アパートが、彼の住居です。
部屋は長期留守にする為、きっちりと片づけてあります。山の写真などが多く飾ってありますが、特に目につくものはありません。
◆極地研究所を訪問する
最初に明記しておきますが、今回の奇怪な事件に関して、極地研究所は何の関与もしていません。すべては、前田が個人で仕組んだことなのです。
ただ、極地研究所はひとつの事実をひた隠しにしています。
それは、調査隊が隆起した氷床の断層に発見した氷穴を調査へ赴いたことです。これは前田の勝手な独断によって指示されたもので、世間に知られれば危険な調査
を一所員の権限で断行させたというスキャンダルにつながりかねません。
しかも、消息を途絶えた地点を捜索隊が調査しても、そのような氷穴が発見されなかった(神話的場所が、常に同じ場所にあり続けるとは限らないのです)ことに
も極地研究所は困惑しています。
そのような不確実な状況の為、極地研究所は南極調査隊から報告された氷穴についての情報をすべて極秘扱いとすることとし、遭難した原因は不明と発表すること
を決定したのです。
そのため、通常の手段で探索者が調べたとしても、この事実を得ることは不可能です。計画に深く携わった管理職以上の人間を脅迫するなどして、強引に聞き出さ
ない限り、この情報を得ることはできません。
極地研究所は東京の板橋区にあります。
この極地研究所とは、日本での極地に関する総合研究と極地観測を行うことを目的とした文部省に連なる国立の機関です。この機関が主となって、昭和基地などの
南極地域観測隊を組織しています。
もし探索者が極地研究所を訪問した場合、調査隊メンバーの高尾の知り合いだということを告げれば、南極調査隊の計画を担当したという人物への面会を許可され
ます。なお、所員たちの態度は、犠牲者の知合いに対してはとても丁寧なものです。
この後の展開は、探索者が極地研究所に訪れた時期によって変化します。
新聞を見て一ヶ月以内に極地研究所を訪れた場合、南極調査隊の計画担当者として、この事件の黒幕である前田本人が応対に出ます。
それ以降の場合、前田は辞職しているため、志賀良信という若い所員が応対に出ます。
しかし、どちらにせよ探索者が極地研究所に直に話を聞きにいっても、報道が伝えたこと以上の情報は得られません。 前述した、氷穴に関する情報は固く口止め
されているため、所員たちはマスコミに発表された情報を繰り返すのみです。
前田本人と話をした場合、彼は高尾の知り合いである探索者たちに深く詫びて、現在、懸命に捜索を続けているところだと謝罪します。
前田は探索者たちに対し、怪しい素振りを一切見せたりはしません。一見したところ丁寧な態度で、今回の事件に深く心を痛めているといった態度をとっていま
す。
また、彼の身体には「Kapitan」の煙の独特の匂いが染み付いています。《アイデア》ロールに成功すれば、その匂いに気付きます。
前田が辞職してから極地研究所を尋ねた場合、前田の代わりに志賀が探索者たちの応対し、事件について深く謝罪をします。
もし、探索者が高尾の言葉を思い出すなどして前田のことを尋ねた場合、遭難事故の後、責任をとるように辞職してしまっていることを教えて貰えます。
実際、前田は調査隊に独断で氷穴の調査を指示した失態の責任をとらされ、辞職したのですが、志賀はそのことは知りません。
志賀は、この計画を誰よりも積極的に推し進めていたのが前田自身であったため、その責任を感じたのだろうと語ります。
担当者は、計画についてこれ以上詳しいことを聞きたいのならば、住所を教えるので個人的に前田の家を訪ねてはどうだといいます。
前田がどんな人物だったかを尋ねられれば、多少ワンマンなところはあったが、優秀な男で、特に部下には信頼されていた。ただ、あまりプライベートなことは話
したがらないクールな人物だったと教えてくれます。
また、「11,古びた書物」で見つかる「Kapitan」という煙草について尋ねれば、前田がいつも吸っていた銘柄であることを教えてくれます。この変わっ
た煙草の嗜好は、娯楽に興味の薄い彼の、唯一と言ってもよい趣味だったようです。また、この煙草ならば、池袋のとある百貨店で購入できることも教えてくれま
す。
◆前田の自宅
前田の自宅は郊外の高層マンションの6階です。
彼は独身で、ここにひとりで暮らしています。
ただし、前田が極地研究所を辞職してからは、彼が自宅に戻ることはなく、戸締まりもしっかりしてあります。もし、自宅に入ろうとするのならば、それなりの手
段を講じる必要があるでしょう。
まだ、前田が怪しいと確定していないというのに、探索者が面白半分な気持ちで自宅へ忍び込むような行動に出た場合、常識的に考えて、その行動はおかしくない
かと注意してください。不慣れなプレイヤーが相手だった場合、「クトゥルフの呼び声」において違法行為を行うのは、リスクが高いことを説明してあげましょう。
前田の自宅についての詳しい情報は、「13,前田の自宅」の説明を参照してください。
13,前田の自宅
この項には、前田に不審を抱いた探索者が、彼の自宅に忍び込んだ場合の情報を記してあります。
前述したとおり、前田の自宅は郊外のマンションの一室です。
一階にある前田の郵便受けを見れば、新聞と郵便があふれています。一番古い新聞は4月17日のものです。
前田の部屋の扉には鍵がかかっています。どんなに待っていても、彼が帰宅することはありません。
隣室の住人に聞けば、ここしばらく前田の姿は見かけていないという答えが返ってきます。
近所の人の前田に対する評判は、近所づきあいをまったくしない無愛想な人だったと、あまり良いものではありません。
ですが、その他には、怪しげな奇行が目立つといった話もなく、際だって嫌われているわけでもないようです。
室内に入るためには、管理人を上手く説得して鍵を手に入れるか、《錠前》ロールに成功する必要があります。
前田の部屋は、きちんと整頓された、飾り気のないものです。
書斎兼寝室には、大変な量の蔵書があります。世界各国の古書が本棚には並び、それに応じた各国の辞書もあります。
書斎を調べて、《オカルト》ロールに成功すれば、これらの本が世界のオカルト秘儀や魔術に関する奇書ばかりだということがわかります。中には大変珍しい高価
な稀書もあり、これらのコレクションが趣味のレベルを超えたものだということがわかります。
また、書斎机の引き出しには「Kapitan」の買い置きがあります。
その他、部屋のタンスなどをくまなく捜索し、《目星》ロールに成功すれば、財布や免許、手帳や着替えなどといったものが無く、彼が長期旅行に出ているのでは
ないかということがわかります。
それ以外に、前田の部屋にめぼしい手掛かりは見つかりません。
14,祥子の失踪
この項では、祥子が突然の失踪することになります。彼女はあるニュースを見て、山梨県の韮崎市へと向かったのです。
ある日、突然、祥子が探索者の元から姿を消します。
このイベント以降、探索者は山梨県の韮崎市へ行くことになってしまうので、「12,南極調査隊について」で起きるのイベントなど、東京でのイベントや調査が
一段落着いてから発生させてください。
祥子は高尾のものらしい腕が発見されたというニュース(「15,謎の腕のニュース」)を見て、探索者には黙って山梨県の韮崎市へ向かったのです。
祥子は深夜や、探索者のふとした隙をついて、前触れもなく素早く姿を消します。
書き置きなどは残されておらず、荷物も財布以外はそのまま残されており、まるでちょっとそこまで出かけたといった様子です。しかし、何日待ったところで、祥
子が帰ってくることはありません。
祥子が失踪したことによって、これまでの緊迫感の薄い状況も一変し、探索者たちも積極的な行動を開始するようになるでしょう。
探索者が警察などに失踪届けを出したところで、相手にされることはないでしょう。身元もわからない少女の捜索をしてくれといわれたところで、警察は逆に探索
者のほうを怪しむだけです。
もし、探索者が24時間にわたり交代するなどして、きっちりと祥子をガードや監視でもしている場合、無理にこのイベントは発生させなくてもよいでしょう。あ
まり無理にシナリオに固執すると、プレイヤーの自由度が下がり、やる気を削ぐことになるからです。
その場合は、このイベントは省略して、「15,謎の腕のニュース」のイベントへ移行してください。
15,謎の腕のニュース
この項では、探索者たちは、高尾のものとおぼしき左腕が韮崎市の山中で発見されたというニュースを聞くこととなります。
祥子が失踪してから、少なくとも六時間程度が経過してから、このイベントは発生させてください。
探索者たちは、偶然、テレビやラジオから気になるニュースが流れているのに気づきます。
◆ニュースの内容
「先日、山梨県韮崎市矛ヶ岳の渓流で、男性の左腕が発見された事件ですが、いまだその身元は判明しておりません。
韮崎警察署では、死体遺棄事件の可能性もあるとして、発見された腕の身元の確認を急いでおります。
発見された腕の切断部には、獣の噛み跡のような傷がついていたことから、野犬などが死体から咬みちぎったものではないかと警察は見ており、現在、現場の山中
では大がかりな捜索が続けられています。
また、左手薬指の第一関節から先が古傷により無くなっており、身元を調べる大きな手がかりとして、警察では市民からの情報を広く求めています」
賢明なプレイヤーならば、高尾と出会ったとき、彼の薬指が無かったことを思い出すことでしょう。
もし、プレイヤーがそのことを忘れているようでしたら、キーパーの判断によって《アイデア》ロールに成功すれば思い出すことができるといった救済措置をとっ
ても良いでしょう。
探索者が韮崎市の警察に連絡をとれば、ニュースより詳しい情報を得ることができます。
警察は死体の身元に心当たりがあると言えば、「まだ、非公式ですが」と前置きをしてから、以下のような情報を教えてくれます。
◆電話での警察の情報
・腕は20〜30代の、やや筋肉質な男性。
・腕は切断されてから、一週間程度が経過している。
・腕を損傷させた動物は、また限定できていない。かなり大きな動物と思われる。
・指の傷以外に目立った特徴はない。
電話では、これ以上の情報を得ることはできません。
警察はできれば韮崎市まで来て、死体の確認をしてもらえないかと言います。
ただし、探索者が腕の持ち主は南極で行方不明になった高尾のものだなどと荒唐無稽な話をした場合、とたんに警察の態度は硬化します。
どちらにせよ、腕が本当に高尾のものであるかを確認するためには、探索者は韮崎市まで行く必要があるでしょう。
それに、もしかすると祥子もこのニュースを見て、韮崎市へ向かったのかも知れません。
もし、祥子が失踪していない場合、探索者が韮崎市へ行こうとするのを知ると、「タカオのことが心配だから、一緒に行きたい」と申し出ます。彼女が自分の意志
を表に出すことは珍しいことです。
もし、探索者がなかなか韮崎市へ行こうとしない場合は、祥子は探索者たちには黙って、ひとりで勝手に韮崎市へ向かいます。探索者が、祥子を同行させることを
頑なに拒んだ場合も同様です。
しかし、探索者に残された、彼女を追う手がかりは、例のニュースしかありません。祥子を捜し出すには、やはり韮崎市へ行くこととなるでしょう。
16,死体安置所にて
この項では、探索者は警察署で高尾の腕と対面し、腕の持ち主が高尾であることを確信します。
探索者たちが韮崎市の警察署に行き、腕の持ち主に心当たりがあることを告げれば、簡単に問題の腕は見せてもらえます。ただし、その際に「南極で行方不明に
なった男のものかもしれない」といった、とうてい信じがたいことをしゃべれば、警察の態度は硬化し、身元の確認など面倒な手続きを経なくてはいけなくなること
でしょう。
腕の検分の許可をもらった探索者は、地下にある冷房のきいた死体安置所に連れていかれます。
担当の検死官が、冷蔵ロッカーから半透明のビニールに包まれた腕をトレーに乗せて運んで来て、ステンレスのテーブルの上に置きます。
ビニールが外されると、蝋細工のように生気のない、青白くふやけた腕があらわになります。その切断部は無残にズタズタに引き裂かれており、筋肉の繊維や、血
管が紐のように露出しています。そこからは、あきらかに刃物などで切断されたものでないことがわかります。
この腕を見た探索者は、0/1の正気度を失います。
腕を簡単に調べたところ、薬指の先が失われていること以外、これと言った特徴はありません。高尾と会ったことのある探索者は、《アイデア》ロールに成功すれ
ば、薬指の特徴などからこの腕が高尾のものに間違いないと確信をします。
同伴している検死官に話を聞いても、「15,謎の腕のニュース」で、警察から電話で聞いた以上の情報を得ることはできません。
探索者が自分たちで腕を調べることはできますが、もちろん、解剖するなどといったことは許してもらえません。せいぜい、触ったり裏返したりする程度までで
す。
傷口を調べてみて《生物学》ロールに成功すれば、その牙の跡の形状が、細かく鋭い歯を持ったある種の肉食動物(例えばイルカや巨大カマス)によって噛み切ら
れたものではないかと考えますが、もちろん、日本の山中でそんな動物に腕を噛み切られるなんてことも考えられません。
つまりは、腕を噛み切った動物は常識で考えれば見当がつかないというわけです。このことに気付いた探索者は、正気度は失わないもの、高尾の腕を噛みちぎった
のは未知の肉食生物であるという恐ろしい考えにとらわれます。
他には、《医学》ロールなどに成功すれば、腕が切断されてから経過した時間を割り出すことができますが、それについては約一週間程度という警察の情報と同様
の答えが得られるだけです。
警察は、ある程度の検分が終われば、この腕に心当たりがあるかを確認します。 この時、探索者が「人違いだった」と嘘を答えれば、警察の確認はそれで終わり
です。
もし、この腕が「南極で行方不明になった男のものだ」などと答えれば、警察はあきらかに信じていない様子で「なるほど、では、確認のほうは進めておきましょ
う」と、おざなりな返事をします。
ここで、探索者が警察に高尾の捜索について、いくら協力を求めても無駄なことです。
このシナリオにおいて、警察機関はまったく役立たずな存在だからです。
もし、不慣れなプレイヤーがあまりしつこく警察に協力をもとめようとするならば、「このシナリオに登場する警官は、無能ばかりだから役に立たないよ。この神
話的事件は、きみたちの機転と勇気で解決してくれたまえ」とはっきり言ってしまって構わないでしょう。
17,斉藤良江登場
この項では、探索者は高尾と祥子が韮崎市の貸別荘で一緒に暮らしていた頃、その近所に住んでいた老婆と出会います。
探索者が検分を終えたところを見計らって、キーパーは次のイベントを発生させてください。
死体安置所に警官が老婆を連れて入ってきます。そして、検死官に「このかたも、腕の身元に心当たりがあるそうです」と、事務的な口調で告げます。
少しでも頭の働く探索者ならば、この老婆に関心を持つことでしょう。
幸いなことに、死体安置所から探索者が追い出されるようなことはないので、老婆が腕の検分を終えるまで、そこにいることが出来ます。
その老婆は、少し日焼けした顔の、感じの良い人物で、名前を斉藤良江と言います。年令は70歳で、韮崎市の山中で農業を営んでいます。
彼女は、高尾が祥子の教育をしていたときに住んでいた貸別荘の近所に住んでいて、自分の畑の野菜やおかずをお裾分けするなどと高尾たちと近所付き合いをして
いました。
ところが、最近突然、高尾と祥子が別荘からいなくなったので心配していました。
今日、警察へやってきたのは、ニュースで見た腕の持ち主が高尾ではないかと思ってのことです。彼女は、高尾と祥子が何かの事件に巻き込まれたのではとも考え
ています。
もちろん、彼女は前田の神話的陰謀や、高尾が行方不明になった南極調査隊のメンバーであることなどは、一切知りません。
彼女は腕を見ると、首を捻りながら「うーん、もしかすると、高尾さんの腕かもしれないねぇ」と頼りない調子で呟きます。
警察は斉藤に、その高尾というのはどんな人だと尋ねますが、近所の貸別荘に住んでいた人でそれ以上のことは知らないし、それに今はいなくなってしまったと、
ゆっくりとしたペースで答えます。
警察は一通りの話を聞いて、「ごくろうさまでした。あとは警察に任せてください」と事務的手続きののち、彼女を帰します。その態度は、本当に真面目に調べる
気はあるのかと疑いたくなるようなものです。
斉藤は探索者から話し掛けられると、「あなたも高尾さんの知り合いかね」と尋ねます。
彼女は田舎のお婆さんらしく、かなりのんびりとした性格です。そのため、高尾たちが奇妙な事件に巻き込まれていると知っても、あわてて警察に通報したりはし
ません。まずは、じっくりと探索者たちの話を聞こうとします。
キーパーは、彼女をトラブルメーカーではなく、探索者が知らない高尾と祥子の生活を伝えるための情報源として利用してください。
斉藤は理解ある女性なので、よほど無茶な(邪神がどうのといった)ことでないかぎり、探索者の言葉を信じます。彼女は信じやすい性質なので、適当な嘘で誤魔
化すことはたやすいことです。必要と思うならば、キーパーは探索者の説明に応じて、《言いくるめ》《説得》といったロールの二倍で判定させてください。
斉藤が納得できるだけの説明をすれば、彼女は探索者の問いになんでも答えてくれるようになります。
以下に、探索者が彼女にするだろう質問に対する解答を記します。
◆斉藤の話
・自分は韮崎市の北東に位置する矛ヶ岳に畑を作って暮らしており、その近所の貸別荘に高尾たちは暮らしていた。
・暮らしていた期間は、だいたい七月の初旬から八月の初旬ぐらい(正確には7/3〜8/3)までだった。それっきり、二人の姿は見ていない。
・時々、中年の男が別荘に出入りしていた(前田の特徴を話したり、前田の写真を見せれば、その男が前田だということがわかります)。
・二人はいつも一緒にいて、兄妹かと思っていた。
また、斉藤は頼まれれば、自宅へ帰るついでに、その貸別荘まで案内してくれます。このチャンスを逃す探索者はいないことでしょう。
18,二人の貸別荘
この項では、高尾と祥子が暮らしていた別荘を探索者は調べて得られる手掛かりについて記します。
韮崎市内からバスを二本ほど乗り換えれば、一時間半程度で二人が暮らしていた別荘のある山に着きます。
交通はやや不便ではありますが、それほど山奥というほどでもありません。レンタカーなどを借りれば、韮崎市内から一時間弱の距離です。
もし、別荘の借り主を調べようとした場合、この別荘の管理業者を市役所などで調べ、韮崎市内にある貸別荘業者を割り出す必要があります。その貸別荘業者に
《言いくるめ》か《信用》等の適当な技能で説得を成功すれば、現在の借り主の情報を聞き出すことができます。
業者の人間は、前田秀文という人物が今年の二月から丸一年間という長期契約をしていることだけ教えてくれます。
別荘の近くには渓流が流れています。別荘からでも、そのせせらぎが聞こえてきます。
地図で確認するか、斉藤や地元民に聞いてみれば、この川の下流で高尾の腕が発見されたことがわかります。この渓流についての詳しい情報は「20,淵に潜むも
の」を参照してください。
探索者が別荘に着くと、山道を下ってくる男に出会います。
人の良さそうな中年男性で、ジャージ姿と長靴という軽装なところを見ると地元の人のようです。彼は探索者のほうに笑いかけながら、
「あんたら、釣りにきたのかね。だとしたら、このへんはやめたほうがいい。ここ一ヵ月ぐらい、まったくあたりがなくてよ、さっぱりなんだよ。やるんなら、もっ
と下流にしたほうがいいかよ。もっとも、下は下で、人の腕が見つかったとかで大騒ぎだがね」
と、親切に教えてくれます。
この男は、この辺りに住む釣りが趣味の農家の人です。
彼は、最近魚が釣れなくなったということ以外には、何も有益な情報は知りません。なぜ魚が釣れなくなったかについては「20,淵に潜むもの」を参照してくだ
さい。
また、斉藤が一緒にいる場合は、この男と顔見知りで、一緒に自分の家に帰るということにすると良いでしょう。探索者が望むならば、斉藤も一緒に別荘へ入りま
すが、この後、彼女がいても特に役立つことはありません。
別荘は古びた感じのする3LDKの小さな建物で、あまりぱっとしない雰囲気ですが、世間に隠れ住むにはちょうどよいかもしれません。
別荘の鍵は開いているので、簡単に中へ入ることができます。
なお、この貸別荘には、生活に必要な家具などはすべて備え付けてあります。
間取りはキッチン、リビング、寝室、そしてバストイレとなっています。別荘と言っても、それほど豪華なものではありません。
以下に各部屋の情報を記します。
◆玄関
玄関を入ると、下駄箱の上に置いてある変わった長靴が目につきます。
これは胴長と呼ばれるゴム製の長靴とズボンをあわせたようなもので、川釣りなどで川の中へ濡れずに入るためのものです。玄関には、LサイズとSサイズのの胴
長が一着ずつ置いてあります。
高尾に会ったことがある探索者ならば、高尾の体型ならばLサイズぐらいだろうとわかります。なお、祥子はSサイズです。
なお、これは前田が川の中にある実験場へ濡れずに入るため、高尾と祥子のために用意したものです。賢明な探索者ならば、このことから近くに流れる渓流には何
か秘密があるのではと疑念を抱くことでしょう。
また、下駄箱を開けると、サンダルが二足残されているだけで、他に靴はありません。サンダルのサイズもLとSです。
◆キッチン・バストイレ
キッチンやバストイレは、人の生活感が強く残されたままになっています。
キッチンには買いだめしてあるらしいインスタント食品が山積みされ、冷蔵庫の中にはしなびた野菜などがそのままに残されています。
また、流しに置かれたままの食器類や、捨てられていない生ゴミなど、まるで不精者の独身男性のアパートのような有様です。
◆リビング・寝室
キッチンの状況もひどいものですが、リビングと寝室の散らかりかたはそれ以上で尋常ではありません。
タンスやドレッサーは空きっぱなしになっており、床には衣類や本などが散らかしっぱなしになっています。
これは、前田が高尾達の足取りの手掛かりになるものはないかと、部屋を家捜しした後、そのままにしてあるからです。
以下にリビングと寝室で見つかる手掛かりについて記します。
・祥子のテキスト
床には多数の絵本や、小学生向けのテキストが散乱しています。
テキストには幼児が書いたようなのたくった字と、それを採点する高尾のものらしい書き込みがあります。
こののたくった文字は、祥子が文字を習いたての頃に書いたものです。このことから、彼女が物凄い速さで読み書きを覚えていったことが推測できるでしょう。
・祥子のスケッチ
床に散乱する本を調べた探索者は、絵本の一冊に挟まれた一枚のスケッチを発見します。
クロッキー帳の一ページを切り取ったもので、鉛筆で描かれています。右下に「Takao」というサインと、「1997.7.20」と日付が書いてあります。
絵の内容は、渓流の大きな岩の上にたたずむ少女です。背格好や髪型から、それが祥子であることがわかります。
これは、高尾が別荘で暮らしていた頃、暇つぶしに祥子を描いたものです。
・「Kapitan」の吸い殻
また、リビングのテーブルの上には、まだ中身が数本残っている「Kapitan」の煙草が置かれています。灰皿には、同じ銘柄の吸い殻も残っています。
これは、前田が残していったものです。
・二種類の防寒着
ドレッサーを探せば、非常に重装備の防寒服と、ワカサギ釣りなどで釣り人が着用するような防寒ジャンパーとズボンが一着ずつかけてあるのを発見します。
重装備の防寒服を見て、《知識》か《博物学》ロールに成功すれば、これが南極調査に使用されるような、一般では入手できないような珍しい代物だとわかりま
す。
防寒服をよく調べてみれば、極地研究所のあすか観測拠点に所属することを証明する高尾の身分証と、使い込まれた手帳を発見します。手帳についての詳しい情報
は「19,高尾の手記」を参照してください。
防寒ジャンパーとズボンのほうは、普通に市販されているものです。サイズはLサイズです。この服は、玄関にあった長靴と同様に、前田が恐ろしい寒さである実
験場で高尾に着せるために用意したものです。祥子の分がないのは、彼女は寒さを感じない体質のため用意しても無駄だからです。
19,高尾の手記
この項では、貸別荘で発見される手帳について記します。この手帳を読むことで、探索者は高尾の身に降り掛かった神話的事件の一端を知ることとなります。
水の染みなどのついた、ずいぶんと使い込まれた手帳で、カレンダーを見ると去年の日付になっています。
予定帳の部分には、日記のようなものが書かれてあります。
また、はさんであるアドレス帳には、探索者の名前や、極地研究所の名前と住所、電話番号が記してあります。
日記を読んでみれば、この手帳が高尾のものであることはすぐにわかります。
以下に、日記の内容を抜粋します。
◆高尾の日記
・高尾と探索者が最後に会った日
今日、(探索者の名前)と祝杯をあげた。
・3月24日
南極に到着する。すばらしい世界だ。ここには、人の知らない多くのものがある。それを見て、感じることのできる幸せは、何にも変えがたい。
・3月26日
指示された地点が近付いてくる。どうしてだろう、なぜか不吉な予感がしてならない。仲間たちも同じ気持ちらしい。疲労のせいだろうか。
・3月27日
仲間の多くが、毎晩、悪夢に悩まされている。自分もそうだ。ゼリーのような怪物が……いや、気の迷いだ。疲れてナーバスになっているだけだ。
・3月29日
やっと到着した。計画にあった地点を調査したところ、厚い氷を引き裂いた断層に不思議な氷穴を発見した。地質学はわからないが、これがただの地殻変動による
ものとは思えない。極地研へ正確な座標を報告し、次の指示を仰ぐ。
・3月30日
例の穴へ下りるよう指示が下った。自分も、そのメンバーに選ばれる。いつもならば心踊る探険も、なぜか気が乗らない。
・3月31日
あなのなかにいた。
かいぶつだ。
おそろしいかいぶつだった。
なかまはしんだ。
にげられたのは、おれだけだ。
けど、あなのそとのキャンプにいたみんなもしんでいた。
こえがきこえる。
あれは、まえだかちょうのこえだ。
・8月17日
ああ、ここに日記を書くのは、ひさしぶりだ。
南極以来、まるで自分が自分でなかったような気分だ。
しかし、祥子と暮らしていて、だんだんと昔のことが思い出せるようになった。
高い山、広い海、友人、教師だった頃の生徒たちの顔。
やらなければならないことがある。
祥子や殺された仲間のためではなく、自分のために、あの男を止めなくてはいけない。私にはその責任がある。
もし、この日記を私以外の人が読んでいるのなら、私はすでにこの世にはいないだろう。
無理だとは思うが、祥子という少女に伝えて欲しい。
おまえはアレとは違う。
おまえは私の可愛い教え子だ。
手帳を見て、《精神分析》ロールに成功すれば、3月27日の日付のあたりから、彼が情緒不安定になりつつあることがわかります。
さらに、《クトゥルフ神話》に成功すれば、南極探検隊が精神的に不安定な状況に陥ったのは、かのルルイエが浮上した際にも確認された、強大な神の影響による
症状ではないかと推測します。
また、8月17日の日付の文章は、明らかに最近書かれてもののようです。
これは、高尾が前田との対決をしに戻ってきたとき、思い出の場所でもある貸別荘に寄りました。
そのとき、思い立って書き残したのです。
20,淵に潜むもの
この項では、探索者は失踪した祥子と対面することになりますが、同時に恐るべき神話生物と対決することになります。また、川の上流に前田がいるという手がか
りを得ることにもなります。
別荘から続く小道を下れば、谷底に流れる渓流の川原へと突き当たります。
大きな岩がごろごろとしており、渓流釣りが楽しめそうな場所です。
高尾が描いた祥子の絵を見ている探索者は、《アイデア》ロールに成功すれば、山の形などから、ここが絵にあった風景と同じ場所だということに気付きます。
ここでスケッチのあった大きな岩を探せば、すぐに見つかり、そしてそこに祥子の姿を発見します。
祥子は岩の上に登って、川の流れを見つめています。
探索者も一緒に岩に登れば、岩の下は川底が深く、流れの緩やかな淵になっているのがわかります。
祥子はやってきた探索者のことは無視して、川の流れをじっと見ながら、「タカオはここへ戻ってはいけないっていってた……なのに、なんでわたしは約束を守ら
なかったんだろう」と、自問するように呟きます。
そのときの祥子の表情はどことなく悲しそうです。彼女が感情を表に出すのは、これが初めてのことでしょう。
彼女は、自分に芽生えはじめている人間らしい心に戸惑っています。高尾の言葉を守ることと、高尾の身を心配して行動することによって生じる矛盾に、彼女は困
惑しているのです。
キーパーは、探索者のうち誰が祥子と一緒に淵をのぞきこんでいるかを確認してから、次のイベントを発生させてください。
祥子と肩を並べて淵をのぞきこんだ探索者は、川底から白っぽいものがゆっくりと浮かび上がってくるのに気付きます。
それは、女性の顔でした。しかも、驚くべきことに、それは祥子そっくりの顔なのです。
水面に顔だけを出して、祥子と同じ顔はじぃっとこちらを見つめます。まるで、隣にいる祥子の顔が水面に映っているかのようですが、間違いなく、そこには生身
の顔が存在しているのです。不思議にそれほど水は淀んでいないのに、顔の下にあるはずの身体が見えません。
川の中の祥子は虚ろに見開かれた瞳で、こちらを見つめ続けます。その瞳を見た探索者は《幸運》ロールに成功すれば、その無表情な瞳の奥に不吉な色を感じ取り
ます。それはまるで人間の目というよりは、意志を表に見せない魚の目のようです。
探索者がなにかしらの行動に移ろうとする前に、川の中の祥子は動きを見せます。その人形のような美しい顔の上顎と下顎がぱっくりと分かれ、細かくも鋭い牙の
並んだ貪欲な口を開いたかと思うと、ゆっくりと水中から這い出て水のなかに隠れていた身体の部分を顕わとします。
その姿を、地球上の生物で言い表わすならば、ウナギやミミズに近いでしょう。
鱗の無いぬめりとした表皮は、まるで皮を剥かれたかのように血管の浮いた薄ピンク色をしており、巨大な身体を軟体動物のようにぶよぶよと動かしながら、怪物
は水面に鎌首を持ち上げます。
しかし、そのような巨大な身体よりもおぞましいのは、その鼻面にある祥子と同じ顔です。
まるでミミズに祥子の仮面をつけたかのようですが、あきらかに怪物はその顔の眼と鼻と耳と、そして口を自身の器官としているのです。
この怪物は、前田が祥子を造り出す過程で生まれた出来損ないの一匹です。
前田は、この怪物を使って高尾を始末したのです。その後、怪物は前田の支配から逃れ、この淵に潜むようになりました。そのせいで、この付近の流れに住む川魚
は激減しています。
怪物は探索者たちに襲いかかろうとしますが、「Kapitan」の煙草や、その空き箱を持っている探索者には攻撃をしません。怪物は、その煙草の匂いを恐れ
ているからです(理由は「22,前田との対面」を参照)。もし、近くに煙草を持っている探索者しかいない場合は、彼らを無視して、他の獲物を追い求めます。怪
物の移動速度は、陸上でもなかなかの速度です。
祥子は探索者の行動にかかわらず、怪物の前に無防備で立ちはだかり、
「あなた、タカオを食べたのね」
と、静かに呟きます。
すると、怪物は祥子にも襲いかかろうとします。それを助けようとするかどうかは探索者の自由です。突き飛ばすとか、抱き抱えるなどして彼女を助けようとする
場合、その探索者が《回避》ロールに成功すれば、怪物の牙が襲いかかる寸前に祥子をかばうことができます。
怪物の牙は彼女の肩をかすめ、危機一髪のところで逃れることができます。
そのとき、祥子は肩に深い傷を負います。服の袖口は裂け、血が流れでています。
もしも、ロールが失敗するか、誰も祥子を助けようとしなかった場合、彼女は怪物の口にくわえられることになります。
そして、怪物は祥子をくわえたまま地面に一度叩きつけると、次は川の中へと放りこみます。その怪物の行動は、まるで鳥などが捕らえた魚に止めを刺す仕草その
ものです。誰の眼にも、もはや祥子の命はないと思われます。
どちらにせよ、怪物は探索者に襲いかかろうとします。
この怪物を撃退するには、戦闘で倒すか、もしくは怪物が恐れる「Kapitan」の煙草を使って淵へと追い込むかしかありません。
怪物が煙草の匂いを恐れていることに気付き、煙草の吸い殻や空き箱などで脅すといった行動をとれば、無条件で撃退することが可能です。もちろん、
「Kapitan」以外の銘柄の煙草では、このような効果はありません。
◆淵に潜むもののデータ
STR12 CON10 SIZ18 INT3 POW7 DEX12
移動 13(陸上)/11(水中)
耐久力 14 ダメージボーナス:+1D4
武器:噛みつき 30% ダメージ 1D6+db
装甲:なし
呪文:なし
正気度喪失:淵に潜むものを見て失う正気度ポイントは1/1D3
技能:水のなかに潜む 85%
怪物は煙草の匂いによって追い払われた場合、二度と探索者たちの前に現われることはありません。
戦闘などによって、怪物の耐久力を0にすることができれば、普通の生物のように死亡します。やわらかな肉体は自重のためつぶれたゼリーのようになり、グロテ
スクな肉塊と変貌します。おそらく、この物質が、元は一匹の生物だったと思う人はいないでしょう。
怪物を調べて、《生物学》ロールに成功すれば、これが、ひどく原始的(ミミズよりも)な生物で、まるで線虫のような微生物のそのまま大きくしたような体の構
造をしていることがわかります。もちろん、このような生物の発見例は世界中を探しても一度たりともありません。ロールに成功して、そのような信じがたい事実に
気付いてしまった探索者は正気度ポイントを0/1d3失います。
また、高尾の腕に残された噛み傷を見た探索者が、怪物の口を調べて、《医学》《動物学》《目星》のどれかのロールに成功すれば、怪物の牙の形状と腕の傷が一
致していることがわかります。
どちらにせよ、怪物を撃退することができたら、次のイベントに移ってください。
このイベントは探索者が祥子を怪物の牙からかばうことができたかどうかによって、微妙に変わります。
◆祥子を怪物から助けるのに成功している場合
気のきく探索者ならば、肩に傷を負った祥子の手当てをしようと考えるでしょう。
しかし、いざ手当てをしてみようと思うと、あれだけ激しい出血だったにもかかわらず、肩の傷はほんのかすり傷であることがわかります。《応急手当》か《医
学》ロールに成功すれば、この程度の傷であれだけ出血するということはありえないことだとわかります。
◆祥子を怪物から助けるのに失敗している場合
おそらく、探索者は川に落ちた祥子を助けようと考えることでしょう。
しかし、怪物が撃退されると、祥子は川の少し下流から自力で川原にあがってきます。牙にくわえられた服は無残に裂け、出血した跡も残っていますが、不思議な
ことに彼女の身体のほうには傷ひとつありません。
このようなことがあれば、さすがに探索者たちも祥子の身体や、もしくは彼女の存在自体に疑問を感じることでしょうが、それに関する問いに彼女はいっさい答え
ようとはしません。
探索者たちの追求が厳しくなる前に、キーパーは次のイベントを発生させてください。
怪物が撃退され、祥子が探索者のもとへ戻ってくると、川の上流から煙草の吸い殻が流れてきます。
キーパーは、必ず探索者たちにこの吸い殻を発見させなくてはなりません。
そのため、まずは《目星》ロールをさせて、全員が失敗した場合は、救援措置として《幸運》ロールをさせましょう。この二つのロールを全員失敗するということ
は、よほどの不幸が無い限りありえないと思います。
《目星》に成功した場合でも、《幸運》に成功した場合でも、煙草の吸い殻が発見されることには変わりありません。ただ、キーパーは前者の場合は「きみは目ざと
く煙草の吸い殻を……」と説明して、後者の場合は「きみは幸運にも煙草の吸い殻を……」と説明してあげればよいのです。そのほうが、プレイヤーは実力によって
吸い殻を発見したのだという実感を得ることでしょう。
吸い殻は流れにもまれながら、探索者の近くの岩場に引っ掛かります。それを拾いあげることは容易なことです。
その吸い殻を調べて、《アイデア》ロールに成功すれば、これが貸別荘の灰皿で見つけた「Kapitan」の銘柄の煙草と同じだということがわかります。も
し、その吸い殻を持っているならば、《アイデア》ロールの必要もなく、その二種類の吸い殻が同じ銘柄の煙草だとわかります。
吸い殻は流れにもまれていたにもかかわらず、それほど水を吸っていません。つまり、さほど上流から流れてきたわけでもないというわけです。せいぜい、水に浸
かってから二〜三分といったところでしょう。
賢明な探索者ならば、この吸い殻から上流に前田がいる可能性を推理することでしょう。
21,実験場への入口
この項では、探索者は渓流の上流にある前田の実験場への入口を発見することになります。
貸別荘の近くを流れる渓流を、上流のほうへ五分ほど歩くと、岩が細かくなり、川原が広くなった場所にでます。
川の流れも緩やかになっており、川底も浅くなっています。
川向こうの山間に面した川辺は、切り立った険しい崖になっています。
探索者が周辺に注意しながら川を遡っていた場合、《目星》の二倍ロールに成功すれば、川向こうの崖に横穴があるのを発見します。
穴の下の四分の一は川に沈んでおり、穴のなかへ川の水が入り込んでいるのですが、奇妙なことに穴の淵には薄い氷が張りだしています。
今の季節は真夏ですので、それはかなり異常なことといえるでしょう。
穴のある場所までは、川を渡って行くことができます。川底は膝ぐらいまでの深さなので、濡れることを気にしなければ簡単に行くことができます。何の装備もせ
ずに川を渡ろうとした場合、《DEX》の五倍ロールに失敗すると足を取られ転倒します。このとき、その探索者がの装備品(例えば煙草やダイナマイトなど)はび
しょぬれになってしまいます。
このとき、貸別荘で見つけた長靴を使用すれば、《DEX》ロールは必要ありませんし、水にも濡れずにすみます。
凍結した川面を調べると、明らかにこの辺りの水温は他の場所に比べて低く感じられます。冷たい水は穴の奥から流れでており、一緒に尋常ではない冷気も流れだ
しています。
それはまるで、この奥が冷凍倉庫にでもなっているのではと思えるほどです。
穴は、かなり昔に人の手によって作られたものらしいのですが、何の目的で作られたものかはわかりません。《歴史》のロールに成功すれば、おそらくは昔の地元
民が氷室か貯蔵庫として自然の洞窟を広げて作った穴ではないかと考えます。《考古学》のロールに成功すれば、作られてから百年程度は経っていることが推測でき
ます。
川面の薄い氷を砕いていけば、穴の中へ入ることは容易です。
もちろん穴の中は真っ暗なので、懐中電灯かライターなどで明かりを作らねば暗闇の中を進むことになります。
穴の気温は真夏とは思えないほどの低さ(氷点下)です。いくら、清流の流れこむ洞窟とはいえ、この寒さは異常です。よほどの冷凍施設がないかぎり、これほど
の気温を保てるとは思えません。
穴は登りになっているので、ほんの数メートル進めば水は無くなり、カチカチに凍り付いた土の上に立つことができます。冷気は奥から流れ出しており、その強さ
は増すばかりです。
6メートルも奥へ入れば、通路は徐々に広くなり突き当たりの大きな空洞にでることができます。広さは約8メートル四方の楕円形の空間です。天井は二メートル
を少し超える程度で、なんとも重苦しい感じのする空洞です。
この空洞に入ると、寒さは頂点に達します。そこは真冬でも滅多に体験できないような冷気に満ちており、探索者たちのまつ毛や濡れた服は徐々に凍り付き始めま
す。
ここで用心深く、賢明な探索者ならば、この明らかに怪しい横穴に祥子を連れていくのを躊躇するかも知れません。
しかし、祥子は探索者との同行を強く望みます。それは、いままでの素直な祥子にしては珍しく強硬な態度です。キーパーは、これまでの祥子とのギャップを利用
して、彼女の決意の強さを探索者たちに伝えてください。
万が一、探索者が祥子を拘束する等の強硬手段に出た場合、彼女は自分の肉体能力を最大限に駆使して逃れようとします。彼女の常人をはるかに越えた筋力をもっ
てすれば、それは容易いことでしょう。
彼女はこれまでにない乱暴さで探索者たちを振り切ると、勝手に横穴へと入っていきます。その後は、横穴の奥にある空洞で前田と対面した状況で、探索者たちの
到着を待つこととなるでしょう。
探索者が空洞の中へ入ると、一番後ろにいる探索者の背中に何者かが飛び降りてきます。そして、白く細い女性のような腕がその探索者の首をしめようとします。
明かりを持っていれば、その正体を見ることはできますが、その姿は大変おぞましいものです。
全体は、体長五十センチぐらいで、体表がピンク色に透けているカエルのようです。眼は無く、口は両生類独特の横一文字に大きく開いたものですが、前脚は大き
く違います。その前脚だけが、奇怪にも人間の腕とそっくりの形をしているのです。しかも、それは美しい女性の腕です。
この生物も、淵に潜む怪物と同様に、前田が造り出した祥子の失敗作です。
前田は、この生物を「背寄るもの」と呼んでいます。
◆背寄るもののデータ
STR12 CON5 SIZ5 INT3 POW7 DEX8
移動 5
耐久力 5 ダメージボーナス:なし
武器:鈎爪 30% ダメージ1D3
噛みつき 25% ダメージ1D6
装甲:なし
呪文:なし
正気度喪失:背寄るものを見て失う正気度ポイントは0/1D3
技能:ヒタヒタと忍び寄る80%
シナリオ上の背寄るものの役どころは、プレイヤーの肝を冷やすことと、探索者が侵入したことを前田に前もって気づかせることにあります。
よって、もし、探索者が背寄るものに殺されそうになっても、適度のところでダメージや命中判定を加減をしてください。
22,前田との対面
この項では、シナリオの黒幕である前田と探索者は対面することになります。彼は祥子が戻ってきたことを喜び、実験場とウボ=サスラのいる空間を門によって繋
げます。
探索者が背寄るものを撃退すると、空洞内に白熱電球の明かりがつきます。強烈な光は、空洞内を白と黒の二色に照らしだします。
この広い空洞は前田の実験室です。
あまり大きな装置などはありませんが、地面に直接置かれたガラスケースの中には無数のシャーレ(中には背寄るものの細胞が培養されています)が積み重ねられ
ており、大小さまざまなビン(背寄るもののサンプルがホルマリン漬けになっています)や、保温器、冷蔵庫、発電器などが整然と並べられています。
この設備を見て《医学》か《生物学》ロールに成功すれば、これが生物を培養するためのものであることがわかります。
また、空洞の中央には灰色の金属で出来た五本足の椅子があり、そこに背広の上に防寒ジャンパーを着た前田が腰を下ろしています。彼は肘掛けに片肘をかけて、
余裕いっぱいの表情で探索者のほうを見つめています。
その膝には小型のノートパソコンが置かれています。
パソコンからはコードが伸びており、前田の後ろにある、二メートルぐらいの長さの三本のアンテナのようなものに接続されています。
アンテナには樹氷のように氷が張り付いており、アンテナに囲まれた空間には黄色い霧のようなものがたちこめています。この空洞を満たす強烈な冷気は、そのア
ンテナの辺りから発っせられているようです。
この不思議な装置は、「門の創造」の手助けとなるもので、この門の先はウボ=サスラがいる「どこか」に通じています。神話的な魔道と超古代テクノロジー、そ
して現代の科学技術が見事に融合した前田の天才的才能ならではの産物と言えます。
また、前田の足元には無数の背寄るものが群がっています。
どれもこれも、ひとつとして同じ姿のものはいません。節足動物、軟体動物、魚類、両生類、比較的下等な生物の形に似たものが多く、共通して体色は半透明のピ
ンク色をしています。また、おぞましいことに、その怪物たちのどれもが祥子の体の一部を持っています。たとえば、祥子の胸を持った巨大ムカデとか、祥子の脚を
持ったウミウシといった感じです。
この光景を見た探索者は正気度ポイントを0/1D3失います。
背寄るもの達は、探索者たちの存在に気付くと足元に群がってきます。背寄るものの大部分は生物として不完全なため、グロテスクな外見とはあいまってその危険
性は低いものです。ただし、数がむやみに多いため、群がられた探索者は《DEX》が1/2になるというペナルティーをうけます。
ただし、背寄るもの達は、「Kapitan」の銘柄の煙草の匂いがする探索者には近づこうとしません。もし、探索者の誰かが煙草に火を付ければ、背寄るもの
達は潮が引くように逃げていきます。
用心深い前田は、この忌まわしい生物を生み出すと同時に、「Kapitan」の銘柄の煙草の匂いを恐れるよう調教を施しました。背寄るものが、例の煙草の煙
を恐れるのは、そのためです。
前田が座っている椅子の足は正五角形を形づくっており、針金が巻き付けられています。よくみると、その針金は星型になるよう巻き付けられているのがわかりま
す。
この椅子は古代の秘術によって作り出されたマジック・ポイントの容器で、前田の貴重な魔道具です。通常、この椅子には最大許容量である40ポイントのマジッ
クポイントが入っています。
前田の後ろにある装置と、五本足の椅子を見比べて、《アイデア》ロールに成功すれば、このふたつがどことなく似ていると感じます。さらに、《クトゥルフ神
話》ロールに成功すれば、これらが系統の近い神話的技術に基づいて作成されたものだということがわかります。
前田は探索者を待っていたかのように、椅子に座ったまま、祥子に歓迎の言葉を述べます。
「私の実験場へ来るとは、いったい何者だろうと思ったら、まさかおまえだったとはな」
と、祥子のほうを見つめて冷酷な笑みを浮かべると、今度は探索者のほうを見ます。
「で、きみらは誰かね。まさか、私の計画のために祥子を差し出しにきたというわけでもあるまい。まあ、あの高尾の仲間といったところかな?」
ここの台詞は、以前、極地研究所で探索者が前田と会っているのならば、以下のように変更してください。
「ほう、きみらは確か高尾の知り合いだったかな? ここに何の用かね。まさか、私の計画のために祥子を差し出しにきたというわけでもあるまい」
もし、探索者にはやっと出会えた事件の黒幕に対し、何か言いたいことがあるようでしたら、思う存分を言わせてあげましょう。
前田は高尾を殺したのは自分であることなど、聞かれたことには答えますが、一般人の理解できない神話的な質問については、「おまえに説明しても無駄なこと
だ」と面倒臭そうにはねのけます。
この時点で、キーパーがくどくどと狂人の神話的陰謀を説明したところで、プレイヤーにとっては興ざめになりますし、これ以後の展開で、彼の計画の一端はわか
るようになっているからです。
もしかすると、探索者が問答無用で攻撃を仕掛けてくる場合もあるでしょう。
しかし、前田は現実的で用心深い魔道士であり、多彩な呪文を操って、自分の身を守りつつ効率良く人を殺す術を心得ています。
前田は誰がやってくるとわかったときに、あらかじめ「肉体の保護」の呪文(ルールブック181ページ参照)で装甲を44ポイントを用意しています。そのた
め、五本足の椅子に貯えられたマジックポイントは現在23ポイントに減少しています。
しかし、これだけの装甲があれば、そう簡単に探索者によって彼が殺されることはないでしょう。
もし、探索者が拳銃などの遠距離攻撃武器を所持していた場合、前田は自分の身体よりも、手に持っているノートパソコンを守ろうとします。これが装置の制御装
置だからです。
キーパーは探索者たちの行動が一段落したところを見計らって、今度は前田の行動に移ってください。
「さて、祥子。私の言葉がわかるな」
前田は探索者の相手に飽きたかのように、祥子に語りかけます。
すると、祥子は素直にうなずきます。
「よろしい、ならばいますぐウボ=サスラの御許から《旧き解答》の石板を持ってこい。おまえならそれができるはずだ、神の体から創り出したおまえならな」
その言葉に祥子は戸惑ったように、探索者と前田のほうを見比べます。
「どうした、自分の主人が誰かを忘れたわけでもあるまい」
そんな祥子の様子を見て、前田は苛立たしげに、「Kapitan」の煙草に火をつけ、煙を吐き出します。
その煙の匂いに反応して、祥子は身体をガタガタと震わせます。
「さあ、早く来い!」
その前田の呼びかけに、祥子は素直に彼のほうへと歩き出します。
おそらく、探索者も黙っては行かせはしないでしょう。しかし、人間を超える力を持つ祥子を強引に止めることは非常に困難です。《グラップル》か、もしくは肉
体的ダメージを与えて行動不能にさせるのが有効でしょうが、彼女の能力を考えると、それはほぼ不可能と言えるでしょう。
しかも、前田は探索者が祥子や自分に近づこうとするのを呪文によって阻止しようとします。
前田は煙草を筆のように使って、空中に印を描き始めると、煙草の赤い光が不思議なことに残像のように空中に残り、赤い複雑な文様が浮かび上がります。
すると、突然、前田の足元に群がっていた背寄るものたちが苦しみのたうちまわります。そして、背寄るもの柔らかい皮膚を破って、血管や内蔵が痙攣しながら飛
び出します。
これは、「シュド・メルの赤い印」の呪文(ルールブック178ページ参照)に似た呪文で、前田から8m以内にいるものは、内臓が激しく痙攣して激痛を身体が
襲い、筋肉や血管が膨張、破裂することになります。この呪文の影響下では、呪文から逃げ出そうとすること以外、能動的な行動をとることができません。ルール的
には、呪文の範囲内にいると毎ラウンド1D3ポイントのダメージを受け続けます(元の呪文の効果よりもやや強力ですが、効果範囲が狭くなっており、術者への呪
文によるダメージも入らなくなっています)。
呪文の範囲を出れば、まったく影響はありません。ちなみに、空洞の入口近くにまで後退すれば、呪文の範囲外にでられます。1ラウンドも移動すれば十分脱出が
可能な距離でしょう。
ただし、入口近くまで追いやられてしまうため、探索者は呪文の影響を受けずに前田に近づくことができなくなってしまいます。
祥子は、そんな恐るべき呪文の範囲内を平然と歩いていきます。
一歩歩くごとに、その白い肌が裂け、肉片が飛び散り、血が噴き出すのですが、その傷は見る見るうちに再生していきます。これは、彼女がショゴスと同様の再生
能力を持っているからです。
「シュド・メルの洗礼は脆弱な存在には激しすぎる。だが、あの忌まわしきショゴスと同等の身体を持つおまえにとっては、この赤い印の力、霧雨ほどにも感じはし
ないだろう」
前田は次々と死んでいく背寄るものと血塗れの祥子を見比べながら満足げに喋り、そしてノートパソコンのキーボードをカタカタと叩きます。
するとアンテナがブーンと唸りをあげて、黄色い霧が一段と濃くなり、ひとつの光景が浮かび上がります(正確に言えば、その光景の世界と、この空間が繋がった
わけなのですが)。
そこは、暗く凍てついた洞窟です。
そして……そこには神がいました。
キーパーは以下の描写文を読み上げてください。
そこには無形の塊が粘液と蒸気の中で横たわっていた。
頭もなく、器官や手足もない肉塊はジクジクとしたその側面からゆっくりとした波状運動によってアメーバのようなものを吐き出し、またそれを捕らえては食
らっている。
肉塊の中に埋もれるように、いくつかの巨大な石板が見えた。
あそこには、宇宙に真理が刻まれているという。
その石板を守るためか、はたまた我々には理解しがたい理由か、そこには神がいた。
そう、この存在こそが自存の源ウボ=サスラであり、神話の中で地球生命の原型を生み出した存在と記される、外なる神なのだ!
ウボ=サスラが鎮座する御姿を拝顔した探索者は、正気度ポイントを1D8/5D10失います。ただ、機械を介して空間の隔たり越しに遭遇しただけなので、
キーパーの裁量でこの正気度の減少は加減しても(1D4/2D10ぐらいに)構いません。なぜなら、これはあまりに致命的な数値だからです。
23,祥子の裏切り
この項では、祥子は前田を裏切り、門を閉じようとします。探索者はウボ=サスラの触手を避けつつ、その手助けをすることになります。
ウボ=サスラの姿を見て混乱する探索者(狂気に陥らずとも、混乱はするはずです)とは対称的に、祥子は神を見ても躊躇することもなく黄色い霧の中へ入ってい
きます。
そして、ウボ=サスラの御許に難なく近づき、ひとつの石板の前に立ち、そこに刻まれた文字をじっと見つめます。
前田はその様子を見て満足そうに笑みを浮かべると、祥子をアゴで指して、探索者たちに語りかけます。
「アレはなんだと思う?
アレは、この実験室で生み出された、私に奉仕するための生き物だ。
アレを生み出したものは何だ?
科学か?
それとも神話的魔道か?
君たち、神話と科学を別物と考えてはいけない。
リンゴが落ちるのも、大いなるものが海の底で眠るのも、すべてはアザトースの御心。つまり、宇宙に存在する絶対的法則に支配されたものなのだ。
だから、この世界と君たちが異質と感じる神話を、別のものと考えてはならない。その二つは、アザートースという源で袂をわけた支流なのだから。
そう考えれば、世界が見えてくるだろう。神話の住人に比べれば悲しいまでに矮小な我々にも、まだ見込みがあるということだ。
そのためにこそ、あの『旧き解答』を!
あれさえ得ることが出来れば、人間であるこの私も神に近づくことができる!」
そう叫んで、祥子のほうへ手を差し出します。しかし、祥子は装置の中で石板を見つめたまま動こうとはしません。
「どうした、おまえの身体ならば、それを動かすことぐらいたやすいはずだろう」
ここで、初めて前田は焦りを見せます。
しかし、そんな前田に対し、祥子はやわらかい笑みを浮かべて彼のほうを見つめます。それは、探索者たちもいままで見たことのないような笑みです。
もし探索者が祥子に優しく接していて、そのロールプレイが印象深いものでしたら、以降の祥子が高尾について語る台詞をアドリブで探索者の名に差し替えると良
いでしょう。
「この笑みはタカオ(もしくは探索者の名)が教えてくれたの。嬉しいときに、人はこうやって笑うそうね」
「な、なにをいってるんだ」
「いま、とても嬉しい。だって、タカオの感じた苦しみをあなたにも与えることができるんですもの」
その優しげな表情とは裏腹の事を祥子は言います。
いつのまにか、祥子の足元にはウボ=サスラの触手が巻き付きつつあります。その触手に触れた足は灰色に変色しカサカサと乾いて崩れていきます。
「な、なぜだ? なぜ、ウボ=サスラは自分と同じものを襲うんだ」
「わたしはこれとは別のもの……わたしは心を持ってしまったから。タカオが言ってた。わたしはこれとは違うって。だって、これには心がないもの」
「心だと……そんなもの……肉体は同じもののはず……心など……関係ないはず……」
「あなたに神の何がわかって?」
「お、おまえは……何なんだ」
「こんな話はもういいわ。あなたには、タカオ以上の苦しみをあげる」
祥子は取り乱す前田に、冷淡に告げます。
「ふ、復讐か!?」
「復讐? わからないわ。タカオはそんな言葉は教えてはくれなかった……タカオは言ってたわ。ただ、美しいものを見て、優しく生きればいいといってた」
そうして祥子は語り終えると、石板に記された呪文を声高に詠唱し始めます。
それは人間の言葉とはかけ離れた、「テケリリ、テケリリ」という不吉な旋律の混ざった歌声です。
前田はその詠唱を聞いて、慌てて逃げ出そうとしますが、その途端、腹が大きく割けて、そこから無数の触手が伸びだします。同時に空中にあった赤い印も消えて
しまいます。
この光景を見ても、正気度の喪失はありません。
「……これは?」
裂けた腹から溢れ出す、徐々に太くなっていく触手を見て、前田は信じられないような顔をします。
「ウボ=サスラの腕は、誰であろうと区別無く振りおろされるの。そう……神に相応しい平等さで」
祥子は淡々と語ります。
この呪文は「ウボ=サスラのわしづかみ」とでもいうべき呪文で、犠牲者の体内にウボ=サスラの触手の一部を招来させるものです。招来された触手は、犠牲者の
肉体と精神を食らって成長をしていき、すべてを喰らい尽くしたところで元の身体へと返っていきます。
「く、食われていく。退化していく。私の身体が、精神が……」
前田は無惨な姿になりながらも、空洞の出口のほうへ歩いて逃れようとします。触手の太さが増すにつれて、前田の体は老化して萎んでいくように見えます。
「みなさん、あれを使って門を閉じてください。わたしはこの男と一緒にウボ=サスラの元へ返ります」
祥子は探索者たちのほうを見ると、前田が取り落としたノートパソコンをを指差します。
いつのまにか、アンテナの中にいたウボ=サスラの体が徐々に外に染みだしてきています。外とはつまり、探索者のいる空洞にということです。
このままにしておけば、恐るべき神が韮崎市山中に降臨することとなります。その被害ははかり知れません。
それを阻止するためには、祥子の言うとおりに「門」を閉じるしかないでしょう。
ノートパソコンへ近付くには、ウボ=サスラに喰われつつある前田の脇を通り抜けなくてはなりません。前田の体から生え出ている触手は無差別にあたりのものを
打ち壊しており、かなり危険と思われます。
すでに身体の半分近くがウボ=サスラと同化している前田に対して、生半可な攻撃は無意味であることをキーパーは探索者に伝えてください。
ルール的に言えば行きと帰りの二回分、《回避》ロールを成功させれば、ノートパソコンを操作して無傷で戻ることができます。
もし、《回避》ロールに失敗した場合、触手に殴打され1D6のダメージを受けることになります。ただし、ダメージを受けても、それに耐えることが出来れば移
動することは可能です。
キーパーはこの行為に必要な《回避》ロールについては、プレイヤーに告げるべきですが、失敗した際のダメージについては秘密にするべきです。そのほうが、失
敗することへの恐怖が増すからです。
上記の方法以外にも、別のやりかたとして、誰かが前田を引きつけるという方法もあります。
この場合、前田を引きつけようとする探索者が《幸運》ロールに成功すれば、彼の注意を引きつけることができるので、他の探索者は安全にノートパソコンへ近づ
くことができます。ただし、注意を引きつけている探索者は《DEX》7による抵抗表のロールを成功させる必要があります。もし、失敗すると探索者は触手にはじ
き飛ばされて1D8のダメージを受けてしまいます。
もし、他に探索者が機転をきかせた作戦を思いついた場合は、それに応じてロールにボーナスを与えてあげましょう。
ただし、前田に対する説得、攻撃などを試みた場合、それらはすべて失敗に終わります。
無事にノートパソコンにたどり着いた探索者は、「門」を閉じることに挑戦できます。
パソコンの液晶画面には、普通のパソコンと同じようなメニュー画面が開かれています。この中から、「門」を閉じるためのコマンドを探し出すには、《コン
ピューター》の五倍ロールか、《アイデア》《知識》のどれかに成功する必要があります。
ロールに成功すれば、前田が自分で組んだ「門」の装置を制御し、開かれた「門」を再び閉じるコマンドを発見します。
また、ロールに失敗した場合、前田の触手の攻撃(ダメージ1D6)を受けることになります。ただし、《幸運》に成功すれば、幸運にも触手は探索者とは別の場
所を打ち据えることになります。
また、探索者の中には、ノートパソコンを操作すると同時に、「門」の向こうにいる祥子を助けだそうと試みる勇敢な者もいるかもしれません。
しかし、彼女の下半身はウボ=サスラに取り込まれつつあり、まったく身動きできる状態ではありません。常識的に考えれば状況は絶望的と思われます。キーパー
はそのことをよくプレイヤーに告げてください。
それでも、たとえ命を捨ててでも祥子を助けだそうと「門」の装置の中へ入ろうとする探索者がいた場合は、「門」の装置の中へ入った途端、ロールのチャンスも
なく無条件でウボ=サスラに飲み込まれることとなります。残念ながらもはや身動きすることは出来ません。他の探索者たちは、神の前では、なんと人間は無力な存
在なのだろうと実感することでしょう。
そんな無謀で勇敢な探索者のその後の運命は、「24,そして祥子は」の説明を参照してくだい。
なお、ストーリーの流れとしては、外にいる探索者のイベントを処理してシナリオを終了してから、後日談として中へ入った探索者の処理をすると良いでしょう。
どちらにせよ、ノートパソコンの操作に成功すると部屋全体が鈍く振動を始め、空間がテレビのノイズのようにひずみ始めます。これは、祥子が「門」の範囲を広
げて部屋ごと移動しようとしているのです。
前田は、そのことに気づいて慌てて外へと出ようとしますが、すでに下半身はウボ=サスラと同様の無形の塊に変化して、自由に歩くことも出来なくなっていま
す。それどころか、徐々に染みだしてくるウボ=サスラ本体に捕われつつあり、生きたまま喰われるという無残な最期を遂げようとしています。
前田を捕らえたウボ=サスラは意志を持たないゼリーのように、やや速度を増してぶるぶると空洞にあふれだしています。
空洞の中に残っていた探索者はそれぞれ《DEX》3による抵抗表のロールを成功すれば、ウボ=サスラよりも早く空洞を出ることができます。この際、けが人
や、身動きのとれない発狂した探索者などを背負っている探索者は、自分の敏捷度を半分にして判定をしてください。
このロールに失敗した探索者は、ウボ=サスラに足を捕われ「門」の影響下に取り残されてしまいます。
もし、ロールに成功している探索者が、失敗した探索者を助けようとした場合、手などをつかんで引っ張ってやる必要があります。その際、ウボ=サスラの触手か
ら仲間の探索者を引き離すためには、《STR》21による抵抗表のロールに成功しなくてはなりません。このロールは複数の探索者と協力することが出来ます。そ
の場合は、ロールを試みる探索者の《STR》の値を合計した数値で判定します。
ロールに成功すれば、探索者はウボ=サスラの触手に捕われた自分の足を引きぬくことが出来ます。しかし、もしもロールに失敗した場合は、捕らわれていた探索
者は完全に触手に取り込まれることになります。こうなってしまったら、どのような手段を持っても探索者を助けだすことは不可能です(ただひとつ、この神を殺さ
ないかぎり)。
探索者が空洞の出口の方へ逃れると、やがて照明器具がウボ=サスラに飲み込まれていき、辺りは元の闇に包まれていきます。
最後の照明が消え、祥子の姿が見えなくなる寸前、なぜだかはっきりと祥子の声が探索者の耳に聞こえてきます。
「『遥か永劫の輪廻の果てウボ=サスラがもとに帰す』
エイボンの予言が正しければ、また出会えるときがくるかも知れません」
この祥子の言葉は、エイボンの書に予言されている地球上のすべての生命はウボ=サスラから発生し、何十億年もの未来には、すべての生命は退化し再びウボ=サ
スラに吸収されるであろうという予言の一節を話しているのです。
そして、その声が聞こえなくなると、突然、バスンという轟音が響き、空洞に向けて強い突風が吹きます。「門」によって、中の空気ごと空洞全体が移動したため
真空状態になったせいです。
探索者が空洞に戻ってみた場合、内部にあったものはいっさいなくなってしまっており、それどころか内壁までが表面数センチほどきれいに削り取られてしまって
いるのを目にします。
すべては、祥子と共にどこかへ行ってしまいまったのです。
24,そして祥子は
この項では、祥子を助けようと「門」の装置の中へ入った探索者がいた場合にのみ起きるイベントを説明します。
祥子を助けようとして「門」の装置に中へ入り、ウボ=サスラに飲み込まれた探索者は、薄れる意識の中で精神に呼び掛けてくる声を感じ取ります。
もし、空洞からの脱出に失敗した探索者がいた場合にも、このイベントを流用しても良いでしょう。その判断はキーパーに任されますが、個人的意見を述べれば、
そのまま殺してあげたほうが、その探索者にとっては幸福かも知れません。
声は祥子のもので、以下のように囁いてきます。
「もう、誰もわたしのために死んではいけません。今度は、わたしがあなたを助けます」
そんな声を感じた次の瞬間、その探索者はあまりの寒さに目をさまします。
目を開けてみると、あたりは見渡すかぎりの雪原です。おそらく探索者がこれまで見たいかなる雪景色も、この光景の前には色褪せることでしょう。
そう、ここは南極なのです。
探索者がウボ=サスラに喰われる寸前に、祥子が「門」によって探索者をここまで運んだのです。
寒さで凍える探索者の前に、全裸の祥子がどこからか現われます。
この極限の寒さの中でそのような姿で立つ祥子は、不思議と現実味の感じられない希薄な存在に思えます。
祥子は探索者をやさしく抱き締めると、こう囁きます。
「タカオがいなくなりました。次は、あなたがわたしを支配してください。『旧き解答』を知ったわたしを得たことで、あなたは真の神以外に恐れるものはなくなり
ました」
そう言って、祥子は探索者の瞳を見つめます。
その探索者は祥子の瞳の奥にウムル・アト=タウィルのヴェールの向こう側に似たものを垣間見ることとなります。そう……偉大なる『旧き解答』を知った彼女
は、限りなく神々に近い存在となったのです。
新たな小神が生まれ出た、この神話的大事件に遭遇した探索者は正気度ポイントを1D8/5D10失います。
この時点で、まだ探索者の正気度ポイントがゼロになっていない場合、その後の展開は探索者の行動に任されます。
祥子を使役して人間世界を滅ぼすことも、超次元への永遠の旅を始めるのも、神の真理を探索するのも、東京へ戻って普通の暮らしを演じるのも、探索者の自由で
す。
常に、その傍らに祥子がいるのを拒むこと以外は、すべてが自由なのです。
しかし、ここでシナリオは終了します。
探索者が、それからどのような道を選び、どのような運命にいたったかは、本シナリオでは語られるべきものではありません。
25,事件の結末
こうして、シナリオは終了します。
警察は高尾の腕に関する捜査を続けていますが、やがては迷宮入りすることでしょう。
貸別荘に残された南極調査隊の防寒服以外に、この奇妙な事件を立証するものは何も残されていません。もっとも、たとえあの防寒服を世間に公表したところで、
手のこんだ悪戯としか受けとめられないことでしょう。世間にとっては、あの事件はすでに過去のものとなってしまっているのです。
すべてはウボ=サスラと共に消えてしまい、この事件は本当に終わってしまったのです。
前田の陰謀を阻止して、無事に生還した探索者は1D6+1D10の正気度を獲得します。
装置を破壊した探索者、前田を引きつけたり足止めをしたりした探索者は、ボーナスとしてさらに正気度を1D6獲得します。
最後に祥子と一緒に南極へ行ってしまった探索者は、残念ながら正気度の獲得はありません。
26,タイムテーブル
この項では、シナリオのタイムテーブルをNPC三人の視点から、わかりやすくまとめておきます。プレイヤーにイベントの発生した日などを質問されたときの参
考にしてください。
日付 | 前田秀文/極地研究所 | 高尾 浩一 | 祥 子 |
1980.某月 | 大学在学中、エイボンの書を入手。 魔道書の研究に没頭。 |
||
1982.某月 | 「旧き解答」の存在を知り、手に入れることを決意。 | ||
1983.4.1 | 極地研究所へ就職。 | 小学校の教師となる。 | |
1991.某月 | 教師を辞職。 | ||
1992.4.1 | 極地研究所へ就職。 | ||
1996.7.4 | 微弱地震に関する南極調査隊計画を企画。 | ||
1996.12.10 | 調査隊を組織。 | 南極調査隊に選抜される。 | |
1996.12.? | 探索者に挨拶。 | ||
1997.1.4 | 南極へ出発。 | ||
1997.2.20 | 矛ヶ岳に実験場を準備。貸別荘と長期契約を結ぶ。 | ||
1997.2.24 | 微弱地震多発地点の調査を開始。 | ||
1997.3.1 | ウボ=サスラの氷穴を発見。 極地研究所へ報告 |
||
1997.3.2 | 氷穴の調査を独断で指示。 | 氷穴の調査を開始。 | |
1997.3.3 | 門」により南極へ跳躍。調査隊を呪文により殲滅。 調査隊の痕跡を隠滅した後、高尾を連れて日本へ帰還。 |
ウボ=サスラと遭遇し、調査隊は高尾を残し全滅。 自分は恐怖のため発狂。前田と共に秘かに日本へ帰国。 |
|
1997.3.4 | 極地研究所が調査隊の遭難の可能性に気付く。 | 前田の僕として貸別荘での生活を始める。 | |
1997.3.7 | 極地研究所が調査隊遭難を公式発表。 | ||
1997.4.10 | 極地研究所が調査隊の生存を絶望的と公式発表。 | ||
1997.4.15 | 極地研究所を辞職。 | ||
1997.4.18 | 矛ヶ岳の実験場にて、研究に没頭。 | 前田の助手として行動。 | |
1997.7.2 | 数々の失敗の末、祥子の創造に成功 | この世に誕生する。 | |
1997.7.3 | 祥子の教育を任される。 | 高尾と出会う。 | |
1997.7〜 | 祥子との交流で徐々に正気度を回復。 斉藤との近所付き合いを始める。 |
急速に言語などを学習。 | |
1997.8.2 | 正気を回復し、前田を裏切ることを決意。 | ||
1997.8.4 | エイボンの書を盗みだし、祥子をつれて東京へ逃亡。 | ||
1997.8〜 | 二人の足取りを探すが、手掛かりが無く断念。 | 東京での逃亡生活。 | 東京での逃亡生活。 |
1997.8.16 | 前田の陰謀を阻止することを決意。祥子と別れる。 | ||
1997.8.17 | 高尾と対決。 | 前田と対決するが返り討ちにあい、淵に潜む怪物に喰い殺される。 | 探索者のもとを訪れる。 |
1997.8.? | 警察が彼の腕を発見。 |