1,はじめに

 このシナリオはコールオブクトゥルフd20とクトゥルフの呼び声TRPGの共用のシナリオです。
 コールオブクトゥルフd20では、1レベルのPC2〜4人向けに、クトゥルフの呼び声TRPGでは作りたての探索者向けにデザインをされています。プレイ時 間はPCの作成時間を含まない場合、4時間程度でしょう。
 舞台は現代の日本を想定していますが、土地とNPCの名前を変えることで、他の舞台でプレイすることも可能です。
 技能の判定方法については、最初に書かれているものがコールオブクトゥルフd20の判定方法で、括弧書きにされているものがクトゥルフの呼び声TRPGの判 定方法です。

2,シナリオの概略

 穴場の海水浴場にバカンスを楽しみに来たPCたちは、そこで失踪した友人の行方を捜すことになります。その友人が埋蔵金探しという奇妙なバイトをしている最 中にいなくなったことを突き止めたPCたちは、さらなる調査を進めるうちに、この土地で密かにディープワンを守り続けてきた一族の存在を知ることとなります。
 さて、PCたちは失踪した友人を無事に見つけ出し、この土地の神話的秘密を解き明かすことが出来るでしょうか?

3,シナリオの背景

 塩瀬家は、シナリオの舞台である九津ヶ浜(くつがはま)に江戸時代から続いている旧家です。
 江戸末期、この家の娘がディープワンに妊娠させられるという忌まわしい事件が起こりました。塩瀬家の先祖は、ディープワンの形質が強く遺伝して生まれた子 を、密かに地下牢へ幽閉してしまいます。
 姿は化け物とはいえ、一族の人間には変わりありません。塩瀬家には、不死の存在であるディープワンの世話をする役目が代々に受け継がれることとなりました。 しかし、ディープワンのおぞましい姿に、ある者は家を捨てて失踪し、またある者は精神に異常をきたして自殺をするなどしたため、塩瀬家は徐々に衰退をしていっ たのです。
 時代は現代となり、塩瀬家には忠夫という男が婿養子にやってきました。
 塩瀬家の一員となった彼は、ディープワンの秘密を知ることになりますが、彼にはとてもその化け物を受け入れることはできませんでした。ディープワンの存在に 怯え、我が子までがあのような怪物になることを恐れて子供を儲けることも出来ず、夫婦仲は最悪のまま結婚生活を続けてきました。
 やがて、彼はこの異常な生活に耐えきれずに、ディープワンを地下牢から追い出そうと考えます。
 ところが、成長したディープワンは地下通路よりも大きくなってしまっていたため、しかたなく地上から地下牢の天井まで穴を掘って、上から逃がすことにしまし た。塩瀬忠夫は地下牢の真上にある、老朽化した離れに別居をするふりをして、ひそかに床下を掘り起こしていったのです。
 穴が深くなるにつれてひとりで作業するのは困難になってきたため、塩瀬忠夫は九津ヶ浜に遊びに来ている岡村浩介という余所者の大学生をバイトに雇いました。 当然、事の真相を話すようなことはせずに、彼には埋蔵金を密かに探していると説明をしました。
これまで秘密裏に進められてきた塩瀬忠夫の計画ですが、あともう少しというところで塩瀬忠夫の妻である塩瀬文枝にばれてしまいます。彼女は、塩瀬家の代々続け てきた習わしを否定する夫の行動を許せずに、彼を殺害してしまいます。さらには、何も知らない岡村を地下に幽閉して、塩瀬家の跡取りを作るため、役立たずだっ た夫の代わりに利用することにしました。彼女の精神は完全に正気を失っていたのです。
 そのようなときに、何も知らないPCたちは九津ヶ浜にやってきたのです。

4,シナリオへの導入

 シナリオの時期は、暑い日々の続く夏休みシーズンです。
 PCたちは九津ヶ浜という海水浴場に泊まりがけで遊びに来ています。この九津ヶ浜が何県にあるのかはPCの住んでいる場所にあわせて、GMが決めて構いませ ん。
 田舎にあるあまり人気のない海水浴場ですが、そのおかげで海の水も浜辺の砂もきれいで、実は穴場なのです。PCはこの海水浴場で唯一の民宿である「あさひ 屋」で、岡村浩介という友人と合流する予定です。この岡村が、PCたちに穴場の海水浴場である九津ヶ浜をPCたちに紹介してくれたのです


●岡村浩介とバイトについて
 岡村浩介はPCたちの共通の友人です。二流大学の二年生で、授業よりも遊ぶこととバイトが忙しいという典型的な日本の大学生です。
 その性格は、明るく活発で、誰からも好かれていました。
 去年、九津ヶ浜にサーフィンをしに来たときに、ここの海が気に入った岡村は、今年は長期滞在をしたいと思い、夏の間だけ住み込みでバイトが出来るところはな いかと探していました。しかし、なかなか良い条件のものが見つからないで困っていたところ、地元の人に塩瀬家のバイトを紹介してもらったのです。
 塩瀬忠夫は穴を掘る本当の理由を話すわけにはいかないので、岡村に対しては埋蔵金探しをしていると嘘をつきました。埋蔵金については半信半疑でしたが、日当 と民宿の宿泊費を出してくれるという好条件に惹かれ、岡村はこのバイトを引き受けることにしました。
 仕事は早朝から午前十時ぐらいまでで、バイトが終わったあとは、好きなサーフィンなどを楽しんでいます。仕事の時間が短いのは、塩瀬忠夫の体力的な理由と、 塩瀬文枝に気づかれないように朝早い時間に作業をしているためです。


 PCたちは岡村のバイトについては、塩瀬という人の家で働いているという程度しか知りません。
 また、PCのひとりは岡村から下記のような携帯メールを受け取っています。メールが発信されたのは、PCたちが九津ヶ浜に到着した日の二日前の夜です。


●岡村からのメール
 もうすぐバイトも終わる。いまは話せないけど、すげーものを見つけた。みんながこっちに来るころには、大騒ぎになっているかも。バイト料もかなりもらえそ う。
 あと、久美ちゃんっていう、かわいい子と知り合いになれた。こっちに来たら紹介してやる。


 九津ヶ浜の民宿に、岡村はいません。民宿の人に岡村の行方を尋ねても、二日前の夜(メールが発信された日です)から宿に戻ってきてはいないと答えます。岡村 の携帯電話に電話をかけても、「電源が入っていないか、電波の届かないところにいる」とのことでつながりません。

 民宿に残された岡村の荷物は、宿の従業員にわけを説明すれば見せてもらうことが出来ます。
 着替えや洗面道具などの旅行用品、サーフボードや水着など、ほとんどの荷物がそのまま残されています。無いのは携帯電話と財布ぐらいなものです。
 荷物の中に、埋蔵金探しに関する本が二冊ほどあります。「徳川埋蔵金の秘密」といったような胡散臭い内容の一般向けの本です。PCの知る限り、岡村が埋蔵金 に興味があるような話は聞いたことがありません。
 岡村は衣服の洗濯は民宿の人に頼んでいました。洗濯物について尋ねると、いつも服は上から下まで泥まみれで、いったいどんなことをしていたら、あそこまで汚 れるのか不思議だったと話します。
 岡村がいなくなった日のことを宿の人に尋ねると、その日の岡村は妙に上機嫌であったこと、夜遅くに塩瀬文枝から岡村に電話がかかってきて、そのあと岡村が出 かけていったことを憶えています。それっきり岡村は戻ってくることなく、いまだに連絡も無いそうです。
 民宿の従業員は塩瀬家にでも宿泊しているのだろうと考え、それほど気にはしていません。警察に通報しても、捜索はすると請け合ってくれますが、彼らがこの神 話的事件を解決するようなことはありません。

 岡村の失踪に対して、今後、PCがどのような行動をとるかは自由です。岡村が戻ってくるのを待ちながら、海水浴を楽しんでも良いでしょう。しかし、いくら 待っても岡村と連絡が取れるようにはなりません。
 遅かれ早かれ、PCは岡村のバイト先の塩瀬家を訪ねようと考えるようになるでしょう。

 九津ヶ浜は住人も少ない田舎の海水浴場ですので、地元の人ならばみんな塩瀬家の場所は知っています。その場所は九津ヶ浜の海岸から徒歩で二十分程度のすぐ近 所です。
 ただし、地元の人はPCたちに「あの腹切り屋敷になんの用なんだい?」と怪訝そうな顔で尋ねます。塩瀬家は変わり者で、地元の人たちとすらほとんど交流がな いというのに、PCたちのような若者たちが訪ねてきたことを不思議に思ったからです。
 PCが塩瀬家について詳しく尋ねた場合、GMは下記の情報を参考にして伝えてください。


●塩瀬家の情報
 塩瀬家は九津ヶ浜に昔からある旧家です。現在、塩瀬忠夫(41歳)と塩瀬文枝(38歳)の夫婦だけで暮らしており、子供はいません。そこそこ広い山林を所有 していため、ふたりともこれといった定職にはついていません。
 
 塩瀬家が腹切り屋敷と呼ばれているのは、過去に塩瀬家の人間で二人も腹を切って自殺した(自殺したのは、文枝の曾祖父と大叔父です)ということが由来してい ます。また、腹を切ってではありませんが、首つりや投身自殺、または失踪した塩瀬家の人間は何人もいます。


5,腹切り屋敷

 やたらと広い敷地は、高い土塀で囲まれています。
 塀の門には呼び鈴もなく、中には自由に入ることができます。敷地内は家が何軒も建てられるほど広いのですが、ひどく荒れています。庭木の枝は伸び放題で、地 面は雑草に覆われています。
 門に一番近いところに、古びた平屋の日本家屋が建っていますが、屋敷というにはずいぶんとお粗末な建物です。また、母屋から少し離れた場所には、さらにみす ぼらしい小さな家屋が建っています。
 敷地内を歩き回れば、古びた離れの近くに最近耕された畑のようなものがあるのに気づきます。ただし、土を詳しく調べると、別の場所で掘り出した土を地面にま いただけであることがわかります。
 この土は塩瀬忠夫が穴を掘ったときに出たものです。彼は塩瀬文枝に気づかれないようにその土を処分するために、畑を作っているように偽装して庭にばらまいて いたのです。

 塩瀬文枝はほとんどの時間を自宅で過ごしています。
 塩瀬文枝は口元に色っぽいホクロのあるなかなかの美人です。彼女のPCに対する態度は非常に冷淡で、いろいろ訪ねられることを露骨に迷惑がります。
 彼女は塩瀬忠夫と岡村の行方については何も知らないと答えます。二人が庭で何をしていたのかについては、畑を作っているようだったが、詳しいことは知らない と答えます。
 彼女は二人が何をしようとしていたのかすべて知っていますが、そのことをPCに話すようなことはありません。別居をするようになってからは、ほとんど接点が 無かったし、関心もなかったというのが、彼女の言い分です。

 塩瀬文枝が暮らしている家屋の玄関の脇には、鮮魚などをいれておくような発泡スチロール製の箱が山積みになっています。この箱を調べた場合、宅配便の伝票が 貼られたままになっているものを見つけます。それは隣の県の魚屋からの荷物で、荷物の内容はアジやサバとなっています。箱の大きさからして、アジなら三十匹ぐ らいは入りそうです。この箱の山を三十分以上をかけて調べると、約二〜三週間に一回は、この箱が三箱ほど送られてきているのがわかります。二人暮らしの家にし ては、その量は明らかに多すぎます。
 箱に貼られた送り状には魚屋の電話番号も記されているので、その店に連絡を取ることも可能です。ただ、塩瀬文枝が定期的に干物を大量に買ってくれているお得 意様である以外の情報を得ることは出来ません。この付き合いは、塩瀬文枝の父親の代から、もう四十年以上も続いているそうです。
 この大量の魚はディープワンの食料です。近所の魚屋で購入すると、不審に思われるためわざわざ遠くから取り寄せているのです。

6,塩瀬忠夫の離れ

 塩瀬文枝はPCたちだけで離れに入ることは許しません。PCがどうしても離れを見てみたいと主張した場合、しかたなく塩瀬文枝は自分も同行することと、勝手 に離れの中のものをいじらないことを条件にそれを認めます。

 離れは雨風がやっと防げる程度の、ひどく老朽化した建物です。畳すらなく、板の間のうえに大きなビニールシートが敷かれているだけです。いくら夫婦仲が悪く なったとはいえ、よくもこんなひどいところに別居する気になったものだと思えるほどです。
 小屋には生活に必要なものは最低限揃っています。他には、土間にスコップなどの穴を掘るための道具が置かれてあります。DC15に対する《判断力》判定 (《アイデア》ロール)に成功すれば、穴を掘る道具はありますが、クワや肥料など、畑を作る道具が無いことに気づきます。
 板間にあがってみると、歩くたびに床板はギシギシと音を立てて、かなりガタが来ています。DC15に対する《判断力》判定(《アイデア》ロール)に成功すれ ば、ビニールシートの下の床の板が簡単にはずせるようになっていることがわかります。
 離れの中を探しても、岡村の行方を知る手がかりは見つかりません。

 離れの板間の下には、塩瀬忠夫が掘った穴が残っています。ただし、ビニールシートをめくって、床板を外さないといけないため、塩瀬文枝の目があるときに穴を 発見することは不可能です。
 この穴を調べるには、深夜に忍び込むなどする必要があるでしょう。
 床下の穴は、直径四メートル、深さは二メートル強ほどの大穴です。
 中をのぞき込んでみると、底には大きくて平らな石が顔をのぞかせています。また、スコップがひとつ落ちています。
 穴は木枠などで補強されており、最近、掘られたものであることがわかります。木枠を使えば、穴の底へ降りることは容易です。
 穴の底の石はかなり大きな石で動かそうとしても動きません。
 穴の底に降りたPCは、石の下からうなり声のような音が聞こえてくるのに気がつきます。音はしばらくすると止んでしまいます。このときDC10に対する《聞 き耳》判定に(《聞き耳》ロール)成功すれば、この石の向こう側には空洞があって、そこから音が聞こえてくるのだということがわかります。キーパーは音を聞い たPCをさりげなくチェックしておいてください。以降の「7,悪夢を見る」で必要になります。
 穴の底のスコップには、血痕と人間の髪の毛らしいものがついています。

7,悪夢を見る

 穴の底から聞こえる不気味な音を聞いたPCは、その夜から悪夢を見るようになります。
 悪夢の内容は、深い海の底に自分が引き込まれていくといったものです。


 気がつくと、あなたは深い海に沈み続けていた。
 水圧によって胸はどんどん苦しくなり、凍てつく水温は容赦なく体温を奪っていく。
 光の届かない海の底だというのに、なぜかあたりの様子を見ることが出来た。奇怪な深海魚がゆったりと泳ぐ海底に、ねじ曲がった巨大な建造物がそびえ立つのが 見える。
 いつのまにか、あなたの周囲には深海魚とは違う、ずんぐりとしたカエルのようなものたちがプカプカと浮かんでいた。
 やがて、あなたは過酷な深海の環境が心地よく感じられてくる。水温はほどよい暖かさに、水圧は母に抱かれたような心地よい感触へと変わる。
 その時、あなたは気づいた。
 自分の手にも、あのカエルのような生き物と同じ水かきができていることに……


 この夢を見たPCは、0/1d6の正気度を失います。
 この悪夢は塩瀬家の地下に幽閉されたディープワンから送られたテレパシーの影響によるものです。悪夢はクトゥルフが眠りにつくという石造都市ルルイエの情景 なのです。

8,地元の人からの情報

 この事件の真相に近づくための最良の情報源は、地元の住人たちです。
 以下にこの事件に関係する有用な情報を明記します。PCの質問に応じてGMはこの情報を提供してあげてください。

●塩瀬忠夫について
 九津ヶ浜の隣町に住んでいた男で、昔から彼のことを知っている地元の人もいます。その評判は悪く、誰もが彼を馬鹿にした態度を取っています。
 若い頃に多額の借金を作り、その肩代わりをしてもらうという条件で塩瀬家の養子になったという話です。婿入りする前は、普通に人付き合いもする男でしたが、 塩瀬家に入ってからは途端に人が変わったように、いつもふさぎ込んでいるような無口な人物になったそうです。
 塩瀬家には贅沢をしなければ生活できる程度の資産があるため、家を継いでからは定職に就くことなく、週に二日ほど近所の居酒屋に来るぐらいしか、世間と交流 を持たなくなりました。この居酒屋で酔っぱらうと、必ず「いつかあいつを追い出してやる」という独り言を何度も繰り返していたそうです。地元の人たちは、その 言葉に対して「追い出されるのはおまえのほうだろう」とからかっていました。本当はその言葉は地下のディープワンに向けられていたのですが。
 また、居酒屋に顔を出すのは、たいてい夜の十時半ぐらいであったため、飲み屋の常連達は密かに「十時半からの男」といったあだ名で呼んでいたそうです。彼が その時間にばかり居酒屋に来ていたのは、塩瀬文枝がディープワンに餌をやっている間に家を抜け出していたためです。
 塩瀬忠夫を知る多くの人が、彼は塩瀬家を出てしまったら、のたれ死にするしかないほど自活能力の無い男であると思っています。二週間ぐらい前から敷地内の離 れに別居をするようになったらしいので、いよいよふたりが別れるのも時間の問題と噂されています。なお、別居をしてからは、飲み屋に顔を出すこともなくなった そうです。財布は塩瀬文枝が握っていたので、たぶん飲み代すらもらえなくなったのだろうと地元の人たちは考えています。
 庭に畑を作っているという話については、これまで土いじりなどとは無縁の男だったのに、どういう風の吹き回しだろうと地元の人たちは首をかしげます。

●塩瀬文枝について
 塩瀬家の先代の一人娘で、塩瀬家の血をひくたったひとりの人物です。
 忠夫を婿にとったのは彼女が三十を過ぎてからのことで、地元の人々は塩瀬家にまつわる噂のせいで婚期が遅れたと評しています。
 二人の結婚生活はあまりうまくいっていなかったようです。
 その原因のひとつとして、二人の間に子供に恵まれなかったということが挙げられます。口さがない人は、塩瀬忠夫が男性的不能であったことが二人の不仲の理由 であると語ります。
 ただし、このことについて他の地元の住人に尋ねた場合、別の話を聞くことが出来ます。
 その地元の住人は、以前に塩瀬忠夫に「子供は作らないのか」と尋ねたことがあったのですが、それを聞いた彼は「子供なんて作るか。そんな恐ろしいことが出来 るものか!」と激昂したことがあったそうです。理由はまったくわからないが、彼は子供を作ることに対して強い恐怖を抱いていた様子だったと、その人は語りま す。

●塩瀬家について
 塩瀬家は数百年前から続く名家です。明治初期頃は敷地にはもっと立派な屋敷が建ち、倉をいくつも持っていたそうですが、だんだんと衰退していって、いまはあ の有様だそうです。
 衰退の原因は、明治になったあたりから、塩瀬家の人間に多くの自殺者や失踪者が出たためです。
 信憑性を別とすれば、塩瀬家についての噂話はいろいろと聞くことが出来ます。
 その噂は、塩瀬家は怪しい宗教に傾倒していたとか、娘が怪物に夜ばいをされたとか、その結果、怪物の子供が生まれたといった、胡散臭いものばかりです。
 塩瀬文枝の父親は、約一年前に死亡しましたが、その死因は酒の飲み過ぎによる肝硬変だったようです。医者にもかからず不養生を続けた結果の死だったため、あ る意味、これも自殺と言えるだろうと考えている人もいます。
 腹切り屋敷には地元の人もほとんど出入りはしたことがありませんが、昔から出入りしている雑貨屋(後述の桃山商店)がいるそうです。

●埋蔵金について
 塩瀬家の埋蔵金について、地元の人たちは多くを知りません。それは、塩瀬家の地下には何かが隠されているという昔話程度のものです。
 その正体については、人によってまちまちで、埋蔵金であったり、狂い死にした塩瀬家の人間の死体であったり、秘密の地下通路であったりと、非常に信憑性のな い無責任な噂ばかりです。

●岡村浩介について
 バイトの合間に、よく海水浴場に遊びに来ていたため、多くの地元の人たちが、岡村の姿を目撃しています。
 サーフィンをしている以外にも、防波堤で釣り客と話をしていたり、雑貨店に買い物に来たりと、その様子は普通の観光客と変わりなかったそうです。
 地元の人たちの岡村に対する印象は、良くも悪くもありません。普通すぎて、特に印象には残っていないからです。
 ただ、一度、岡村に塩瀬家に埋蔵金伝説のようなものはあるのかと尋ねられたという地元の人がいます。そんな話はデタラメだから信じるほうが馬鹿だと答える と、岡村は非常にがっかりした様子を見せたことを憶えています。

●久美について
 岡村からのメールにあった久美という女性について地元の人たちに尋ねた場合、後述の桃山商店の一人娘であることを教えてもらえます。また、彼女が塩瀬家によ く出入りしている雑貨屋の娘であることも教えてもらえます。

9,桃山商店での情報

 商店の名前は「桃山商店」といい、人付き合いを嫌っている塩瀬家に、昔から生活用品や食材等を配達してきました。店は中年の夫婦とひとり娘の三人で切り盛り しており、商売柄、PCたちの質問にも愛想良く答えてくれます。
 塩瀬家への配達をしていたのは、桃山久美(20歳)です。少し気が強そうですが、快活で好感の持てる女性です。岡村が紹介してやるとメールで書いていた女性 は、彼女のことです。
 PCが尋ねたとき、ちょうど久美は塩瀬家に配送を頼まれたものを準備しています。
 その荷物に関心を持ったPCは、食料品などの荷物の中に包帯や消毒薬、痛み止めなどが含まれているのに気づきます。久美はこれまでいろいろな雑貨を頼まれて 配送してきたが、こういった医薬品(桃山商店は医薬品の販売はしていないので、これらは近所の薬屋から買ってきたものです)を運ぶのは珍しいと話します。な お、岡村が失踪した翌日にも、包帯や消毒薬などの医薬品を配送したそうです。
 この医薬品は地下に幽閉されている岡村を治療するためのものです。

 口の軽い岡村は、久美に塩瀬家で埋蔵金を探しているという話を漏らしています。ただ、久美自身はたいして気にもしていなかったので、その話はすっかり忘れて います。探索者が岡村が塩瀬家でどんなバイトをしていたのか尋ねたり、埋蔵金のことを尋ねた場合のみ、そのことを思い出します。
 ちなみに、久美は岡村のことを長期滞在の観光客としか思っておらず、二人が特別な関係だったということはありません。ふたりが恋愛関係にあったのではなどと 勘ぐられると、久美は心外そうな顔で、「あの人は女性なら誰でも自分に関心があると思ってるんじゃないかな? 塩瀬の奥様が自分を妙な目で見てるとかも言って たし」と語ります。

10,腹切り屋敷への侵入

 調査を進めたPCは、塩瀬忠夫と岡村が何らかの事件に巻き込まれたことを推測するでしょう。そして、その事件の中心が腹切り屋敷の地下にあることを突き止 め、どうにかして屋敷に潜入はできないものかと考えることでしょう。

 塩瀬文枝が家を空けたりしないか、腹切り屋敷を監視していた場合、PCは奇妙なことに気づきます。
 夜十時ぐらいになると、一度、家中の明かりが消えて、小一時間もすると、また家に明かりがつくのです。その後、十二時前にはまた明かりが消えます。その後 は、朝まで明かりがつくことはありません。
 外に出かけている様子は無いのですが、明かりが消えている間、屋敷の中には人の気配はまったくしなくなります。
 家の明かりが消えるのは、ディープワンに食料を与えるため塩瀬文枝が地下に降りているからです。

 腹切り屋敷を捜索するには、この時間帯を狙うしかありません。それ以外の方法ですと、塩瀬文枝を拘束するといった乱暴な方法でしか屋敷の中に入ることは出来 ないでしょう。屋敷とはいえ、古くなった床板はギシギシと音を立てるうえ、部屋数も少ないので、彼女がいる間にPCが忍び込むのはかなり困難です。

 屋敷の中は古びた外見に比べると、掃除はよく行き届いています。
 家具類は古く、家電品も十年ぐらい前の古いものしかありませんが、普通の家にあるものならばだいたい揃っています。
 屋敷を捜索して、まず見つかる奇妙な点は、台所にある二台の冷蔵庫です。
 中を開けてみると、一台には普通の家庭にあるような食材や飲料品が入っており、もう一台には、ぎっしりと魚が詰まっています。アジやサバといった安い大衆魚 がほとんどです。これはすべて地下のディープワンのための食料です。
 もう少し屋敷を捜索すると、廊下の突き当たりの床板が外されていることを発見します。
 下をのぞいてみると、地下へと続く階段が見えます。この階段は地下通路へとつながっています。

11,静かに見つめている

 腹切り屋敷の地下には、古い時代に作られた地下通路があります。石組みはかなり老朽化が進んでおり、所々にコンクリートなどで補修がしてあります。この石組 みの構造などを見てDC10に対する《知識(建築)》判定に(《歴史》ロール)成功すれば、この地下通路が百五十年以上は経過していることがわかります。さら に、DC15に対する《視認》判定(《目星》ロール)に成功すれば、石畳にわずかに血の跡が残っているのを発見します。血はすっかり乾いており、奥へ血の付い た何かを引きずったように残っています。
 地下は外に比べると涼しいのですが、強烈な魚の生臭い匂いに満ちています。
 地下通路を進むと、床に大量の血が広がっているのに気づきます。その血の中心には、両手と片足が切断された塩瀬忠夫の無惨な死体が転がっています。近くには 切断に使用したものらしい木材用のノコギリが落ちています。
 この死体を見たPCは、0/1d4の正気度を失います。
 死体を調べれば、背中に深い刺し傷が残っています。その傷を見て、DC10に対する《知識(医学)》判定に(《医学》ロール)成功すると、それが包丁などの 刃物による傷であることがわかります。
 また、そのすぐ脇には、地下通路の補強柱に荷造り用のビニール紐で両手を縛り付けられた岡村がいます。岡村は全裸で、頭には白い包帯が幾重にも巻かれていま す。
 岡村はこの地下通路に監禁され、塩瀬文枝に性交を強要され続けていたのです。よく見ると、その身体には塩瀬文枝と性行為をした際に爪でつけられたひっかき傷 がたくさんあります。
 岡村は惚けたような顔をしており、PCの呼びかけに対しても明瞭な答えを返すことが出来ません。目の前で塩瀬忠夫が解体されていく恐怖と、この地下での異常 な体験が彼の精神を蝕んでしまったのです。DC20に対する《精神分析》判定に(《精神分析》ロール)成功すれば、彼を正気に戻すことが出来ます。
 岡村を正気に戻せれば、彼から多くの情報が得られます。GMは「3,シナリオ背景」などを参考にして、彼の身に起こったことについて説明をさせてください。
 岡村はかなり衰弱していますが、ビニール紐さえ切ってやれば、自力で外に逃げ出すことぐらいは出来ます。

 さらに先に進むと、通路の先にユラユラと揺れる灯りが見えます。これは奥にいる塩瀬文枝のオイルランプの明かりです。DC10に対する《方向感覚》判定に (《ナビゲート》×5ロール)成功すれば、この先がちょうど塩瀬忠夫が掘っていた穴の下に位置することに気づきます。
 奥にいる塩瀬文枝に気づかれないようにPCは《忍び足》(《忍び歩き》ロール)に挑戦したりするでしょうが、たとえロールの結果が悪くても塩瀬文枝はPCの 接近には気づきません。ただ、プレイヤーの肝を冷やすには効果的なので、判定はしっかりさせてください。

 行き止まりは、鉄格子がはめられた部屋になっています。DC10に対する《判断力》判定に(《アイデア》ロール)成功すると、鉄格子には扉がついておらず、 奥の部屋から出ることも入ることも出来ないことに気づきます。
 その鉄格子にすがりつくようにして塩瀬文枝が地面にうずくまっています。彼女はPCが近づいても一心不乱に何かをブツブツと呟いています。
 しかし、そんな塩瀬文枝などよりも、鉄格子の奥にいるもののほうが重要です。
 それは巨大な人型をした生き物です。身長は五メートル近くあります。ずんぐりとした身体に、両生類を思わせるぬめぬめした深緑色の肌。手足には水かきと鋭い かぎ爪がついています。なにより印象的なのは、その目です。その怪物は、魚のような丸い目でPCたちをジッと静かに見つめています。しかし、その目からはどん な感情も読み取ることは出来ません。それはまったく人間とは異質の精神構造を持った生き物である証拠です。
 突き当たりの部屋に比べて、その怪物は大きすぎます。背中を丸め、膝を立てて座り、非常に窮屈そうな姿勢をしています。部屋に怪物がいるというよりは、部屋 に詰まっていると表現したほうが良いでしょう。
 そんな不自然な姿勢のまま、怪物はボリボリと白いものをかじっています。それは塩瀬文枝が証拠隠滅とディープワンの食事を兼ねて与えた、塩瀬忠夫の足です。
 この恐るべき光景を見たPCは、1/1d8の正気度を失います。

 塩瀬文枝に話しかけるなり、近づくなりした場合、彼女はPCの存在に気づきます。
 彼女はPCに気づくなり鉄格子をかばうように両手を広げて、
「この子に手は出させないわ。この子は私が守る。塩瀬家がずっとそうしてきたように。それが塩瀬家の役目なのだから!」
 と叫びます。その顔つきには鬼気迫るものがあり、DC15に対する《精神分析》判定(《心理学》ロール)に成功すれば、彼女が完全に狂気に陥っていることが わかります。
 彼女は狂人ならではの凶暴さで、PCたちに襲いかかってきます。
 塩瀬文枝の腕力は、成人男性に比べれば貧弱なものです。何人かで相手をすれば、すぐに無力化することはできることでしょう。
 そんな騒ぎをディープワンは檻の中から、不気味なほど静かに見つめ続けます。
 塩瀬文枝はPCとの争いの途中で、床に置いてあったオイルランプを倒してしまいます。ランプからはオイルが漏れて床に広がり、すぐに引火して大きな炎となり ます。
 この炎に対しては、いままで静かだったディープワンも敏感に反応します。水道管が詰まったときの音のような叫び声をあげると、両手両足を伸ばして壁や天井、 鉄格子を力任せに叩き始めます。ディープワンの怪力はすさまじいもので、石組みの天井は崩れだし、鉄格子はいまにも外れそうです。すぐに地下通路を逃げ出さね ば生き埋めにされてしまうことでしょう。
 無事に地下通路を脱出するためには、DC10に対する《敏捷》判定(《DEX》×5ロール)に成功する必要があります。もし失敗した場合は、落下する天井の 石が命中して1d3ポイントのダメージを受けます。そのPCがまだ自力で移動が可能ならば、再度、DC10に対する《敏捷》判定(《DEX》×5ロール)に挑 戦することができます。失敗すれば、またダメージを受けることになりますが、PCが動ける限りは何度でも判定に挑戦することができます。
 この時点で塩瀬文枝がまだ自力で動ける場合、彼女はディープワンをなだめるため鉄格子へ近づこうとします。そのままにしておけば、彼女は崩れる地下通路に生 き埋めにされることでしょう。彼女を無理に連れて行こうとするのならば、《組みつき》をして《押さえこむ》必要があります(ルールブック97ページ参照)。押 さえ込まれた塩瀬文枝は、そのまま力尽くで連れ出すことが可能です(クトゥルフの呼び声TRPGの場合は《グラップル》か《ノックアウト攻撃》を使用しま す)。《押さえこむ》ことに失敗した場合、PCには落下する天井の石が命中して1d3ポイントのダメージを受けます。
 塩瀬文枝が意識を失っているか、押さえ込まれている場合、彼女の身体を抱きかかえて運んでやる必要があるので、DC10に対する《筋力》と《敏捷》判定 (《STR》×5と《DEX》×5ロール)の両方に成功する必要があります。もし失敗した場合は、前述したように1d3ポイントのダメージを受けます。もちろ ん再挑戦は可能です。なんらかの理由で身動きの出来ないPCを運び出す場合も、上記と同様の判定をする必要があります。

2,海へと還る

 PCたちが地下通路を脱出すると、家の外から何かが崩れる音が聞こえてきます。
 外に出てみると、離れが倒壊して、その中からディープワンの巨体が姿を現します。
 崩れた瓦礫を払いのけながら這いだしてきたディープワンは、闇夜の空気を肺一杯に吸い込んでゴボォォとゾッとするような雄叫びをあげると、何かを探している かのようにあたりを見まわします。
 そして、近くに塩瀬文枝がいた場合、彼女をさらおうと近づいてきます。PCが彼女をおとなしく渡した場合、ディープワンは彼女を抱きかかえ、のそのそと海の 方向へと歩いていきます。
 PCが塩瀬文枝を守ろうとした場合、ディープワンはグルグルと喉を鳴らしたあと、あっさりと彼女のことをあきらめて海へと還ります。塩瀬文枝が地下通路で生 き埋めになっていた場合も同様です。
 腹切り屋敷から海までの進路には人家などはないので、放っておけばそのままディープワンは九津ヶ浜の海へと姿を消していき、二度と姿を現わすことはなくなり ます。おそらくはルルイエにでも行ったのでしょう。

 この事件について、警察にどのように説明するかはPCに任されます。
 塩瀬文枝が生き残っていた場合、守るべきディープワンを失ってしまった彼女は観念してすべての罪を認めます。ただ、その証言はあまりに荒唐無稽であるため精 神鑑定に送られることになります。塩瀬文枝がディープワンに連れ去られてしまった場合は、PCがどんな証言をしたところで、塩瀬文枝が猟奇殺人を犯して逃亡し たと警察は判断することでしょう。
 岡村も精神的ショックが大きかったため、しばらくは精神病院に通院することになりますが、持ち前の明るさと柔軟さで、すぐに回復して日常生活に復帰すること になります。
 こうして九津ヶ浜の腹切り屋敷に起きた神話的事件は解決したのです。

13,経験点の報酬と正気度の報酬

◆コールオブクトゥルフd20の場合の典型的なストーリー・ゴール
・塩瀬家の地下に何かがあることを推測する。
・文枝が家にいない時間帯があることに気づく。
・地下のディープワンを海へ解放する。
・岡村浩介を生きたまま救出する。
・地下通路からPCが全員生還する。
・塩瀬文枝を生きたまま警察に突き出す。

◆コールオブクトゥルフd20のボーナス正気度報酬
 ディープワンを解放し、岡村浩介を生きたまま救出した場合:1D6
 ディープワンを解放したが、岡村浩介は死亡してしまった場合:1D3

◆クトゥルフの呼び声TRPGの場合の正気度報酬
 ディープワンを解放し、岡村浩介を生きたまま救出した場合:1D8
 ディープワンを解放したが、岡村浩介は死亡してしまった場合:1D3


塩瀬 文枝(コールオブクトゥルフd20のデータ) 塩瀬家の最後の生き残り
1レベルの女性
hp7
イニシアチブ+0
速度30フィート
AC10
攻撃+0
近接(1d3 非致傷、こぶし)
セーブ頑健+1
反応+0
意思+2
【筋】9、【敏】10、【耐】12、【知】12、【判】14、【魅】15


塩瀬 文枝(クトゥルフの呼び声TRPGのデータ) 塩瀬家の最後の生き残り
STR9  CON12 SIZ11
INT12 POW14 DEX10
APP15 EDU12 SAN0
耐久力12 ダメージボーナス なし
技能:言いくるめ60%、信用60%、隠れる50%、聞き耳40%、忍び歩き50%、追跡40%



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