新クトゥルフ神話TRPGシナリオ
―― 改訂版 ――
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本作は、「 株式会社アークライト 」及び「株式会社KADOKAWA」が権利を有する『新クトゥルフ神話TRPG』の二次創作物です。
Call of Cthulhu is copyright (C)1981, 2015, 2019 by Chaosium Inc. ;all rights reserved. Arranged by Arclight Inc.
Call of Cthulhu is a registered trademark of Chaosium Inc.
PUBLISHED BY KADOKAWA CORPORATION 「新クトゥルフ神話TRPG ルールブック」
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1,はじめに
このシナリオは"新クトゥルフ神話TRPG ルールブック"(以降、ルールブック)に対応したシナリオで、探索者2〜4人向けにデザインされている。"新クトゥルフ神話TRPG クトゥルフ2020"があれば、より楽しめるだろう。
プレイ時間は探索者の作成時間を含まずに3時間程度だ。
舞台は現代の日本。季節は真冬。
探索者はバスの事故に巻き込まれ、雪深い山奥で立ち往生する。そして吹雪を避けるために避難したロッジにて恐ろしい体験をする。
なお、探索者同士が知り合いである必要はない。
2,キーパー向け情報
探索者は北国の雪道でバスの事故に巻き込まれ、雪深い山奥で立ち往生することとなります。吹雪を避けるため探索者はロッジに避難するが、そこはシャガイからの昆虫(以降、シャン。詳しくはルールブック286ページ参照)がアザトース礼拝をする儀式の場であった。
探索者たちはロッジに残された手がかりを集めて、そこに潜むシャンの存在にいち早く気づかねばならない。そうしなければ、シャンは次の犠牲者として探索者の頭に潜り込もうとする。
シャンの目的は、犠牲者の健常な精神を恐怖と狂気で蝕んだのち、体系的な拷問によってアザトースに生け贄に捧げることだ。それはシャンにとって大切な儀式である。
シナリオ開始前から、シャンは何人もの犠牲者の頭を渡り歩いてきた。
シナリオ開始の約半年前、シャンは山根忠彦という男の頭に潜り込んだ。自分の精神がシャンによって狂気に毒されていくのを恐れた山根忠彦は、家族に被害が及ぶ前に、ゲームの舞台となるロッジに引きこもった。
ただ、シャンにとって、この環境は人目を忍んでアザトース礼拝をするのに絶好の環境であった。
シャンは山根忠彦を完全な狂気に陥らせると、今度は、父親を心配してロッジを訪れた娘、山根俊子の頭へと移動する。その後、彼女に正気を失った父親の看病をさせながら、徐々に精神を毒していき、最終的には実の娘に父親をアザトースへの生け贄にさせたのだ。
現在、山根俊子は完全に正気を失っており、シャンの忠実な手下となっている。
新たな犠牲者の候補として、旅行者の松本孝三を虜にしているが、もっと多くの犠牲者を求めている。なお、シャンは健全な精神を持った人間を狂気に毒することを好む。そのため、シャンにとっては、すでに狂気に陥りつつある松本孝三は遊び飽きた玩具のような存在である。
シャンと山根俊子は、新しい犠牲者を手に入れるため、バスを雪道に足止めして乗客をロッジへ誘い込む計画を立てた。
その際、乗客に警戒されずに行動するため、松本孝三を容疑者に仕立て上げ、このロッジの異常な状況に対する疑惑を彼一人に向けさせようとしている。その隙に一人ずつ自由を奪い、監禁していこうとしていたのです。
ただ、山根俊子は自ら企んだ交通事故によって、思いがけない怪我を負ってしまい、自由に歩けなくなってしまう。これは、彼らにとって誤算だった。
最悪の場合、シャンは山根俊子の脳から抜け出して、探索者の頭の中に潜入しようと考えている。しかし、取り憑いた相手をシャンが望むように堕落させるには時間がかかるため、なるべくならば山根俊子を破棄したくないと考えている。
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コラム:ザイクロトルからの怪物
このシナリオにおけるザイクロトルからの怪物は、白い木のような外観をしている。背丈は5m程度だ。幹にあたる部分には、枝のような複数の腕を生やしており、その先端は円盤状に広がっている。頂部が頭にあたる部分となるが、目も鼻もなく、恐ろしい牙を生やした口だけがある。
ザイクロトルからの怪物は、とてつもない怪力と、強靱な肉体を持ち、さらには人間並みの速度で移動もという恐るべきクリーチャーだ(ただし、知性は人間よりやや低い)。このシナリオではザイクロトルからの怪物との戦闘は想定していないため、能力値などのデータは記載しない。ゲーム内では、生身の人間ではとても勝ち目のない巨大クリーチャーとして扱うこと。
ザイクロトルからの怪物は、ロッジから逃げようとする人間を追い戻すように命じられている。雪深い山中でザイクロトルからの怪物の追跡を振り切るのは困難だ。
さらに、いくら追い戻してもあきらめないようなら、その人間を食事にしてよいとも命じられている。
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3,主なNPC(下記のイラストをクリックするとサイズが大きくなります)
4,シナリオの導入
季節は真冬。時間は夕暮れ近く。
探索者はとある北国の雪深い山道を行くローカルバスに乗り合わせることとなる。
乗り合わせて理由は、プレイヤーたちに自由に決めてもらってかまわない。ただし、探索者がローカルバスの路線に住んでいる地元民だという設定は許可してはならない。
このバスの目的地は小さな観光地で、そこでは温泉とスキーが楽しめる。特に理由の思いつかないプレイヤーには「観光に来たというのはどうか?」と提案してあげても良いだろう。
バスはゆっくりと安全運転で雪道を進んでいく。
外は雪まじりの強い風が吹く悪天候のため、視界はかなり悪い。
バスには運転手と探索者以外にも、山根俊子、古賀良一、清水啓介、吉本香苗が乗り合わせている。
キーパーは乗客について「携帯ラジオをイヤホンで聴いているコート姿の中年男。恋人らしい、スノーボードを持った若い男女。小さな旅行カバンを持った若い女性の4人だ」と説明すること。乗客はみんな押し黙ったままである。特に、清水啓介は外の天候が気になっており、ずっと窓の外を見たままだ。
やがて、運転手は車内の重い空気を何とかしようと思って、運転席の近くに座っている探索者(適当に決めること)に、なまりのある言葉で話しかけてくる。
「この田舎のバスに、こんなたくさんの人が乗るのは珍しいことですよ。お客さんは観光ですか?」
この問いに答えるかどうかは探索者しだいだが、その会話を聞いて、近くに座っていた吉本香苗は、
「ほんと、すごい田舎よね。携帯も通じないなんて、しんじらんない」
と、不満げに圏外の表示がされた携帯電話を探索者たちに見せる。キーパーはプレイヤーたちにこの地域では携帯電話がつながらないことを印象づけること。
そして、この会話の直後、車内は強い衝撃に襲われる。
何かにぶつかった音がしたかと思うと、振り回されるような強い横揺れが起き、バスの照明は消えて、車内は悲鳴がとどろく。
さきほど運転手との会話に参加していた探索者は〈目星〉に成功すれば、バスの前方に一瞬、白い木のようなものが見えて、バスはそれにぶつかったのだわかる。
バスの揺れが止まって、停車しても、車内の照明はいっこうにつく気配はない。フロントガラスは割れて、寒風が車内に吹き込んでくる。
この事故で探索者がダメージを受けることはないが、運転手は強く頭を打っている。これは致命傷だ。探索者が運転手は助けようとすれば、
「白い木が……口を開いて……のっぺらぼうだっ!!」
と、謎の言葉を叫んだ後に絶命する。もはや〈応急手当〉の余地もない。運転手の死を目撃した探索者は0/1D3正気度ポイントを失う。
バスを降りて車体を調べれば、前方に何かに硬いものと激突したような大きな損傷があるのがわかる。エンジンは完全に停止している。〈運転(自動車)〉か〈機械修理〉に成功すれば、とても修理できる状態ではないことがわかる。運転席も大破しているため、バス無線も使用不能だ。
また、バスがぶつかったはずの白い木が道路のどこにも見あたらない。ただ、雪道には何かを引きずったような跡が残されている。その跡は道路を外れて、山中へ続いているが、この吹雪ですぐに消えてしまうため追跡するのは不可能だ。この白い木の正体は、シャンが惑星ザイクロトルから連れてきた奴隷の怪物である。ザイクロトルからの怪物は、シャンに命じられバスを足止めしたのち、その場を去った野だ。
バスの暖房も止まり、外部と連絡も取れず、このままでは凍死しかねない状況となる。
さらに山根俊子は、事故の際に足首を捻っており、とても歩くことはできない様子だ。〈応急手当〉か〈医学〉に成功すれば、骨に異常はないが、雪道を歩き続けるのは厳しいだろうとわかる。
キーパーはタイミングを見て、古賀良一に発言させること。彼はラジオのイヤホンを耳にいれたまま、その場にいる全員に声を呼びかける。
「大変だ! この吹雪は夜半になるにつれて激しくなるらしい。そのせいで、かなりの道路が封鎖されているそうだぞ!」
そう言うと、古賀良一はラジオのイヤホンを外して、他の探索者にもニュースを聞かせる。ラジオは地方ラジオ局のニュースだ。
『……現在、降り続いている雪は、これからもその強さを増す模様です。先ほど申し上げた幹線道路以外にも、多くの道路が夜半にかけて封鎖される恐れがあります。山間部を車で走られる方は十分に注意してください。
では、次のニュースです。
会社役員の松本孝三さんが旅行先で行方不明となっている事件ですが、いまだその行方はわかっておらず……』
ここで救助を待っていても、道路が封鎖されているせいで、いつ救助が来るかわからないというわけだ。また、松本孝三の行方不明のニュースは、伏線となる情報なので、忘れずに描写すること。
キーパーはここでプレイヤーに時間を与えて、これからどうするのかを相談させること。
吹雪はどんどん強くなっていく、あたりは暗くなる。
バスがここで立ち往生をしていれば、いずれは関係者が異変に気づいて救助が来るだろうが、それまで、この寒さに耐えられるかという問題がある。少なくとも、吉本香苗は「ここで待つ」という意見には、「そんなの耐えられない!」と猛烈に反対する。そして、清水啓介にはそんな吉本香苗をなだめることはできない。
とは言え、雪で視界の悪い中、むやみに移動するのもまた危険だ。車道を先に進むという意見には、古賀良一が慎重な意見を述べる。
探索者が相談の途中、山根俊子に話しかけるか、またはどこかに移動しようという提案が出たところで、キーパーは山根俊子からこのような提案をさせること。
「ここから遠くないところに、私の父の家があるんです。よかったら、みなさんいらっしゃいませんか。ただ、私は歩けないので、どなたか肩を貸していただけないでしょうか?」
古賀良一をはじめとしたNPCたちは、そんな山根俊子の提案に一も二もなく賛成する。
キーパーは雪はどんどん強くなっていることを描写して、探索者もその提案を受けるように誘導すること。また、ケガを負った山根俊子を支えて雪道を進むには人手が足りないと、NPCたちに助けを求めさせれば、それをむげに断る探索者もいないだろう。実際、NPCたちのSTRは平均より低い人物ばかりだ。
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コラム:魔性の山根俊子
山根俊子は狡知に長けた魔性の女だ。
彼女はケガをしていることや、父親の尋常ではない様子に弱気になっているふりをして探索者の同情心をさそう。また、ケガを理由に探索者の肩を借りるなど肉体的に接触して誘惑もする。それはいざというときのために味方となってくれる人物を増やそうとしているのだ。
キーパーは探索者の性格やバックストーリーなどを確認して、山根俊子が味方に引き入れやすそうな人物を選ぶと良いだろう。探索者があまりに警戒心が強すぎるようなら、山根俊子はNPCの清水啓介を誘惑して、味方に引き入れる。
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5,雪山のロッジ
山根俊子の提案に乗れば、車道を外れて、しばらく未舗装の雪道を進むことになる。
道は山根俊子がよく知っている。ただし、その途中、誰かが山根俊子に肩を貸すか、背負ってあげる必要がある。山根俊子は助けてくれた探索者に深く感謝する演技をしつつ、親密性を高めて、相手の油断を誘う。
10分も歩けば、木々に囲まれた洋風のロッジにたどり着く。
山根俊子は、昔は観光客向けのロッジだったが、不便な場所のため繁盛せず閉鎖していたものを、彼女の父親が安く買い取ったのだと説明する。
ロッジの玄関には、チャイムがついている。それを鳴らせば、男が出てくる。
この状況では、当然、山根俊子の父親のはずだが、実際のところ、出てきた男は山根忠彦ではなく、松本孝三だ。
山根俊子は探索者たちが山根忠彦の顔を知らないことを利用して、彼が山根忠彦であるかのように振る舞う。以降、特に但し書きの無い限り、シナリオでは松本孝三のことを山根忠彦と表記する。キーパーがシナリオを読んで、うっかり言い間違えないための配慮である。
山根忠彦は探索者たちと一緒に山根俊子がいるのに気づくと、激しく怯えたような顔をして顔をして、
「帰れっ、ここに来てはだめだ! ここは……!!」
と、血走った目を大きく見開いて、物凄い剣幕で怒鳴りつける。
しかし、ひと呼吸する間もなく、突然、山根忠彦は顔や喉や胸など、身体のあちこちを血がにじむほど強く掻きむしり始め、口から泡を吹いて卒倒してしまう。このとき〈目星〉に成功すれば、一瞬、山根忠彦の額が青白く火花を散らすように光ったことに気づける。倒れた山根忠彦を調べてみると、全身に引っ掻き傷や打撲痕があるのがわかる。それは新しいものもあれば、数日経過しているものもある。また、〈医学〉か〈目星〉に成功すれば、手足にとても細いもので拘束したような痕跡がうっすらと残っているのに気づける。これは以前、山根俊子が拘束したときについたものだ。
ただ、〈医学〉に成功しても、彼が卒倒した原因については不明である。
どれだけ治療しても、山根忠彦はそのまま昏睡状態に陥ってしまい、「11.松本孝三の死」のイベントまで目を覚ますことはない。
山根忠彦に起きたことは、山根俊子の頭の中に潜んでいるシャンの仕業である。シャンはせっかく連れてきた新たな犠牲者を逃したくないと考えて、山根忠彦の口を封じるため神経ムチを使ったのだ。これまでの拷問により心身共に衰弱していた山根忠彦はその激痛に耐えきれず、卒倒してしまったのだ。
思わぬトラブルに遭遇したわけだが、山根俊子は取り乱すことなく、まずはロッジに入るようすすめてくれる。そして、足を痛めている自分の代わりに、父を寝室まで運んでくれないかともお願いする。
もし、山根俊子から父親のことを聞けば、以下のようなことを涙ながらに話してくれるが、その言葉のほとんどが彼女の虚言だ。
「半年前、父が突然このロッジを購入して、私たち家族を避けて一人で暮らすようになったのです。最初のうちは、何か考えがあってのことだとも思ったのですが、その後、仕事も辞め、私たちに連絡もしてこなくなって……私には、父が何を考えているのかわからなくなりました。それで、とにかく父に会い、よく話し合おうと思ってここまでやってきたのです。でも、数ヶ月ぶりに会ったというのに、父があんな状態では……」
また、家族構成については、両親と自分の三人家族であること。住んでいる場所は東京で、よく家族でこの先の温泉地に遊びに来ていたことなど、質問に応じて答える。
●ロッジの間取り
家の間取りは、約半年前、まだこの建物がロッジだった頃の面影を強く残しており、多くの設備はそのまま使える状態だ。
○1階
暖炉のある大きな吹き抜けのホールを血雄心に、食堂、トイレ、風呂、食料庫がある。
食堂には、探索者達が数日間は困らないだけの食料の蓄えがある。そのほとんどがインスタント食品で、山根忠彦の生活があまり健康的ではなかったことがうかがえる。
ホールには大型の石炭ストーブがある。このストーブからの各部屋に暖気が送られる、旧式のセントラルヒーティング方式となっており、命の要とも言える。
山根俊子以外のNPCたちは、就寝するまでは、ストーブの前に集まり、天候が回復するのを待つことになる。ロッジ時代から使われている大きなソファーと柔らかい絨毯のおかげで、こんな状況ではなければとても快適な環境だ。
ホールには固定電話があるが、回線はつながっていない。これは電話料金を払っていないためであり、回線の修理以前の問題である。
○2階
ロッジ時代、客室だった個室が8部屋ほどある。
現在使用されているのは、山根忠彦の寝室兼書斎のひと部屋だけだ。
ほかの7部屋は、以前の客室だったころのままで、一室につき二つのベッドとクローゼットなどの調度品が残されています。少し掃除すれば、問題なく使用できるが、どちらかと言えばホールのほうが温かく、居心地も良いだろう。
なお、山根俊子は頭も打ったのか、ひどく頭痛がするといって、二階の一室に寝込むことになる。
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コラム:プッシュ・ロールの失敗
キーパーがプッシュ・ロールの失敗した結果に迷った場合、3人のNPCたちが探索者にトラブルを引き起こすとしても良いだろう。
古賀良一は探索者の行動を不審に感じて、疑惑の目を向けるようになる。以後、探索者に非協力的になるだろう。状況によっては、山根俊子に報告しに行くかもしれない。
清水啓介は探索者の失敗を見て、自分のほうがうまくできるとでしゃばる。吉本香苗にいいところを見せたいだけの彼は、無能さゆえに、いろいろなものを台無しにするだろう。
吉本香苗は作業に熱中する探索者に飽きて、つまらないイタズラを思いつく。例えば、探索者の所持品をいじったり、重要な手がかりを隠したりするのだ。彼女の性格を理解していなければ、それは犯人と誤解されてもしかたのない不審な行動に思えるかもしれない。
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6,山根忠彦の書斎
探索者が山根忠彦に興味や不審を持って、彼がロッジで何をしていたのかについて調べようとしても、それを推し量るのは困難だ。なにしろ、シャンに取り憑かれていた彼はここで何もしていなかったからだ。
ロッジにはインスタント食品や、わずかな着替えなど最低限の生活感しかない。
ただし、2階の書斎兼寝室には、いくつかの有益な手掛かりが残されている。
探索者が昏倒した山根忠彦を運ぶのを手伝うのなら、書斎にやってくることになる。そのとき、キーパーは忘れずに部屋の様子を描写すること。
○部屋の様子
部屋にはベッドと書き物机がひとつ置かれています。本棚はなく、机の上にはノートと、分厚いハードカバーの本が何冊も積み重ねられている。
○机の本
本は最近購入されたものだ。どれもが精神医学に関するもので、素人には難しい内容である。ざっと本を調べて〈医学〉か〈精神分析〉に成功すれば、これらの本は素人向けの簡単な内容ではないが、それでも医学生などを対象とした入門書のようなものだとわかる。
本にはいくつも折り目がついている。前述のロールに成功すれば、折り目のついている部分からして、この本の持ち主は「多重人格」について関心があったことがうかがえる。
これらの本は、本物の山根忠彦が自分に潜む狂気の正体を調べようと集めたものだ。
○山根忠彦の日記
机の上にある大学ノートは山根忠彦の日記だ。
日記は約半年前から綴られており、2ヶ月前で終わっている。最後のページは、かなり文字が乱れている。
この日記を読むのにロールは不要だが、通して読むのなら2時間程度かかる。ただし、〈母国語〉に成功すれば、1時間程度で読める(失敗した場合は、2時間かかる)。キーパーはプレイヤー資料「山根忠彦の日記」を渡してから、日記の5ヶ月前にあたるページが破られていることも伝えること。
なお、この日記を読んだ探索者が〈心理学〉か〈精神分析〉に成功すれば、この文章の主が少しずつ精神が壊されて、異常な状態に陥っているのがわかる。
○アルバム
机の引き出しの中には、家族写真が収められた分厚いアルバムがある。
アルバムの中は、山根家の幸せな家族写真だが、大量にある写真すべてから、父親である山根忠彦の写っていたらしい部分のみがきれいに切り抜かれている。
この作業を一人でしたのだとしたら、それは恐るべき執念の所業である。切り抜かれた部分の写真はどこにもない。この異常なアルバムを目撃した探索者は0/1正気度ポイントを失う。
探索者が山根忠彦の写っていた切り抜きあとと、玄関で出会った山根忠彦の体格を見比べてみるのならば、ロール不要で両者の体格が微妙に違うことに気づける。
○破られたページ
書斎を探して〈目星〉に成功すれば、丸められた紙がベッドの下に落ちているのに気づける。開いてみれば、それは大学ノートを破りとったものである。
ただし、そこには文字は書かれておらず、奇妙な絵が鉛筆で描かれている。
それはギョロリと丸い目をした三つのくちばしを持つ怪物の顔がかかれている。一見するとくだらない落書きのようだが、これは山根忠彦がシャンの姿を描いたものである。
なお、この紙と日記の破られた部分と照らし合わせれば、その断面はぴたりと合う。つまりは、この絵は5ヶ月前、まだ日記の主が比較的正常だった時期に描かれたものだということだ。
○ゴミ箱の中
部屋にあるゴミ箱には、短い針金のきれはしが落ちている。これは探索者が〈目星〉に成功すれば、偶然気づくことにしても良い。
針金はペンチのようなもので切断された跡が残っている。これは山根忠彦を拘束するのに使用した針金だ。山根忠彦の腕にある拘束の痕跡に気づいている探索者が、針金の太さと痕跡を見比べてみるなら、ぴたりと合致することがわかる。
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●プレイヤー資料:山根忠彦の日記(抜粋)
■約半年前、最初のページ
「私自身の正気が保たれていることを確認するために、この日記を綴ろう。この日記を書くことができなくなったときは、私の正気があの夢によって失われたときだ」
■約4ヶ月前のページ
「いくら本を調べても、私は救われない。これは妄想なのか、それとも現実なのか。それすら、私には判別がつかない。ただ、この痛みと苦しみだけは現実のものだ。そして、外にいる怪物も……」
■約3ヶ月前のページ
「また俊子から手紙が届いた。会いたい……会って、この苦しみを……いや、ダメだ! そんなことをすれば、私の頭に潜む怪物が……」
■約2ヶ月前、最後のページ
「なんとうれしいことだろう。私は苦しみから解き放たれようとしている。いまは苦しいが、いずれまた心の眠りが……これで、この日記も最後となるだろう……そして、もう、あの怪物に心を蝕まれることもなくなるのだ」
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7,バラバラ死体
ロッジの2階の一番奥にある個室には、バラバラ死体が隠されている。これはシャンの手で、アザトース礼拝儀式の生け贄とされた、本物の山根忠彦である。
死体は寝室のベッドの上に、毛布を被せられた状態で隠されている。死体はバラバラにされたうえ、胴体がないため、毛布の膨らみはわずかなものだ。毛布をめくるまでは、そこに死体が隠されているようには思えない。
寒さと、部屋の乾燥のため、死体は干涸らびており腐敗は進んでいない。
死体はきれいに並べられている。正確には、頭部を中心として、手足の指、手足、耳、鼻、舌、男根が真円を描くように並べられている。死体の胴体部分はどこにもない(ザイクロトルからの怪物の胃袋にある)。この異様な死体を見た探索者は1/1D6正気度ポイントを失う。
この状況を見て〈オカルト〉に成功しても、このように死体を並べるようなオカルト儀式の記録が無いとわかる。また、〈医学〉か〈科学(法医学)〉に成功すれば、この死体が50歳前後の中年男性のもので、死後約1ヶ月経過しているとわかる。前述のロールが難易度ハードで成功していた場合、犯人は犠牲者は生かしたまま、非常に手際良く切断したことと、死体の部品を並べる際には、よく血抜きをしたことがわかる。この残酷な殺人方法に気づいてしまった探索者は、さらに0/1正気度ポイントを失う。
なお、死体を見つけた探索者がバスルームで〈目星〉に成功すれば、わずかに残された血痕を発見できる。
8,のっぺらぼう
このイベントは、探索者が「6.山根忠彦の書斎」か「7.バラバラ死体」を調べるために2階にいるときに発生する。そのタイミングはキーパーに任されるが、探索者が分散して行動しているときなどに発生させると危機感が増すだろう。
その場に居合わせた探索者の中で一番〈目星〉の技能値が高い者だけが、不幸にも窓の外にのっぺらぼうがいるのに気づいてしまう。
ここは2階だというのに、その顔は窓と同じ高さに位置している。
真っ白な丸坊主の顔には、目も鼻もなく、ただ恐ろしげな牙をむいた口だけが、にたりと笑っているように見える。その顔は、すぐに吹雪にかき消されてしまうが、その姿は見た者の心に強い不安を残す不気味なものだ。
のっぺらぼうの正体はザイクロトルからの怪物だ。ザイクロトルからの怪物を目撃した探索者は0/1D6正気度ポイントを失う。
9,不審な遺留品
ロッジの外には事件の真相に迫る重要な手がかりがある。
探索者が外に注意が向いていないときのために、シナリオではそうするように誘導する2つの仕掛けを用意しておく。
一つ目は、「8.のっぺらぼう」のイベントで、吹雪に消えたのっぺらぼうを不気味に演出して、好奇心旺盛な探索者に調べに行かせることだ。
二つ目は、暖炉の石炭が少なくなり、このままでは凍えてしまうという状況を演出ことだ。石炭のストックは外の物置にあり、探索者に取りに行かせるのである。
○下駄箱の疑惑
探索者が外に出ようとすれば、古賀良一も「外の様子を見に行く」と言ってついてこようとする。
ただ、古賀良一は革靴のため、長靴でもないかと下駄箱を探す。都合の良いことに、下駄箱にはサイズの違う防寒用の長靴が二足入っている。古賀良一は「よかった。こっちはサイズが合いそうだ」と、上機嫌でサイズの大きい長靴に履き替える。
興味を持った探索者が、下駄箱にあるほかの靴を調べれば、サイズの大きい靴はこの長靴一足だけである。この長靴は松本孝三が、このロッジに来たとき履いていたものだ。ほかは本物の山根忠彦の靴である。
もし、昏睡中の山根忠彦の足のサイズを調べてみれば、大きなほうの長靴と同サイズだとわかる。つまり、ほかの靴は小さくて履けないというわけだ。これは奇妙なことである。
○外の痕跡
外に出た探索者は、ロッジの周囲の雪に何かとてつもなく重い物を引きずったような跡がついているのに気づく。ただし、その跡の周囲には、人の足跡などはない。INTロールか〈追跡〉に成功すれば、この跡は重い物が引きずられたと言うより、何か重い物が自力で這いずった痕跡だとわかる。この不気味な痕跡に気づいてしまった探索者は0/1正気度ポイントを失う。
○軽トラック
外に出た探索者は、ロッジの裏に雪に埋もれた軽トラックを発見する。ただし、軽トラックを動かすためには雪かきが必要だ。そして、この吹雪の中では運転することはたいへん危険であることを、キーパーは伝えること。
ドアはロックされていないため、車内を調べることは可能だ。
エンジンキーは車内に置きっぱなしにされており、ガソリンも十分である。
また、運転席の脇には、財布と手紙が置いてある。
財布の中には、現金以外に免許証とクレジットカードなどが入っていまる。免許の氏名は「山根忠彦」とあるが、その顔写真の男はロッジで出会った男とは別人だ。この写真の男こそが、本当の山根忠彦なのだ。
手紙のほうは、差出人は山根俊子となっている。消印は約3ヶ月前のものだ。内容は「お父さんの健康を心配している」というもので、最後は「来月にでも、一度、ロッジを訪ねたいと思います。そして、よくこれからのことを話し合いましょう」と、締められている。
この手紙によれば、2ヶ月前に山根俊子はロッジに訪ねていたことになり、「半年ぶりに父親に会った」という言葉に疑念が生じるだろう。もしも、プレイヤーがこの矛盾に気づかないようなら、キーパーの判断で〈アイデア〉ロールに成功することで、山根俊子の言葉を思い出せることにしても良い。
10,松本孝三の死
このイベントは、探索者がロッジのホールにいるときに発生させると効果的だ。可能であれば、探索者が山根忠彦の免許証の写真が別人であると気づいて、山根俊子に疑いを持ってから発生させると、なお良いだろう。
ロッジのホールにいる探索者は、吹き抜けとなっている2階部分の廊下から、いつのまにか目を覚ました山根忠彦がこちらを見下ろしていることに気づく。もし、山根忠彦が用心深い探索者によって拘束されていた場合などは、NPCの誰かが彼をかわいそうに思って自由にしたとすること。
山根忠彦は、乱れた髪に無精ひげの風貌とは対称的に、その目は冷静そのものだ。ただし、その胸にはペーパーナイフが深々と刺さっており、血で染まっている。
山根忠彦はその場にいる者に向けて、叫ぶように語る。
「私は自由だ。この両目がなければ、もはや奴も恐怖の夢で縛ることもできまい。悪いが私は先に行かせてもらうよ……部屋の遺言状は不幸にもまだ生きている君たちへの言葉だ。心して読むがいい!」
山根忠彦はそう叫ぶと、指で自分の両目をえぐり出してから、探索者のいるホールへと身を投げて絶命する。落下の衝撃で首の骨は折れて、もはや手の施しようはない。
山根忠彦の壮絶な死に様を目撃した探索者は1/1D4正気度ポイントを失う。
山根忠彦の部屋を調べてみれば、壁に以下の文章が血で書かれてある。これが彼の言っていた遺言状だ。
『怪物は心に潜む。しかし、もっと恐ろしいのは怪物によって引き出される、己の魔性だ。
あの女に気をつけろ。あの女の中に潜む怪物と、あの女自身の魔性に気をつけろ。
私は己の魔性に殺されるよりも、自らの狂気と死を望む。
松本孝三』
山根忠彦の日記を読んだ探索者が、壁の文字を見てINTロールに成功すれば、日記と壁の文字の筆跡がまったく違うものであると気づける。探索者が日記を開いて、筆跡を照らし合わせるのなら、それはロール不要でわかるほどの違いだ。
もしプレイヤーたちが「4.シナリオの導入」で、ラジオのニュースで聞いた「松本孝三」の名を忘れてしまっているようなら、キーパーの判断で〈アイデア〉に成功すれば、その名前を思い出すことにしてもよい。
11,山根俊子の魔性
山根忠夫(松本孝三)が死亡したあとに、山根俊子が寝ている部屋に入った探索者は、扉の脇で待ち伏せをしていた彼女から火かき棒(ダメージ1D8)による「先制攻撃(奇襲)」(ルールブック102ページ参照)を受ける。
探索者が不意打ちを警戒していなかった場合、攻撃は自動的に成功する(ファンブルの結果をロールしないかぎり)。探索者が警戒していた場合、回避か応戦を選択できる。
この先制攻撃の結果がどうであれ、山根俊子は探索者に攻撃を続ける。
探索者は反撃もできるし、戦闘マヌーバーによって彼女を無傷で取り押さえることもできる。ルールブックに従って、以降は戦闘ラウンドで処理すること。
戦闘の結果、山根俊子が行動不能に陥った場合、彼女の意識の有無に関わらず、「キアアアアアアアン」という、甲高い金属音が聞こえてくる。この音は山根俊子から聞こえてくるのだが、奇妙なことに彼女は口を開いていない。これは彼女の頭の中に潜んでいるシャンが、ザイクロトルからの怪物を呼ぶための念力を使っている音なのだ。
甲高い金属音が鳴り響いたあと、〈聞き耳〉に成功した探索者は、ロッジに近づいてくる物音に気づく。それは重いものに雪が踏みしめられるような音だ。
キーパーはこの物音に気づいた探索者にどうするか尋ねること。
窓の外を見るのなら、〈目星〉に成功すれば、吹雪の中、こちらに巨大な何かが迫っているのが見える。そのことに気づいてしまった探索者は0/1D3正気度ポイントを失う。
もしも、探索者が部屋に残っていた場合、次のイベントに巻き込まれてしまう。
何かが近づいてくる物音が止むと、いきなり雪をかぶった楕円形の円盤が窓を突き破って飛び込んでくる。それはものすごい勢いで部屋にいるものをなぎ払うように動く。
その場にいる探索者は〈回避〉に挑戦できる。成功した場合はダメージを受けずにすむ。失敗した場合は1D6ポイントのダメージを受ける。
このとき、山根俊子も円盤に吹き飛ばされてしまう。たとえ意識を失っても、このショックで彼女は意識を鳥も出す。
彼女は部屋で暴れ狂う円盤を呆然と見つめ、口から血の泡を吹き出しながら、
「なぜ、私まで……アザトース、アザトース、アザトース、アザー……」
と、不吉な名前を呟きつつ息絶える。
ザイクロトルからの怪物の攻撃により、部屋の壁や天井は崩れつつあり、急いで逃げ出さねば危険だ。
しかし、シャンはこの混乱に乗じて、死んでしまった山根俊子から抜け出して、今度は探索者の頭の中に潜り込もうと狙っている。
シャンが狙う優先順位は、まず「ザイクロトルからの怪物の一撃で行動不能の者」である。それがいない場合は「部屋にいる者でDEXが一番低い者」だ。
もし、探索者が山根俊子の内部に怪物が潜んでいて、次の犠牲者を求めているのではと警戒しているなら、ロール不要で山根俊子の頭からシャンが這い出していることに気づける。
探索者が警戒していない場合、部屋にいる探索者が〈目星〉に成功すれば、自分たちを狙っているシャンの不吉な視線に気づける。
探索者がシャンに気づかなかった場合、狙われている探索者は〈幸運〉に成功すれば、偶然、部屋にかけられた鏡に背後から迫るシャンが映っている事に気づける。ただし、狙われている探索者が意識不明の場合は気づけない。
どのような経緯であれ、山根俊子の頭から鳩ぐらいの大きさの昆虫が沸き出すように現れ、コウモリのような羽を広げ、自分たち目掛けて飛びかかろうとする姿を目撃した探索者は0/1D6正気度ポイントを失う。
シャンの存在に気づきさえすれば、このクリーチャーを撃退することは可能だ。探索者が戦おうとするなら、以降は戦闘ラウンドで処理すること。なお、外にいるザイクロトルからの怪物は、シャンを巻き添えにしないように待機している。
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山根俊子の頭に潜んでいたシャン
STR 10 CON 10 SIZ 5 DEX 155 INT 80 POW 85
回避 77%(38/15)
※能力値以外はルールブック286ページのデータ参照。
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シャンは神経ムチで攻撃する。山根忠彦が神経ムチによって昏倒したとき、額に瞬いた青白い火花を見た探索者は、この神経ムチの光と火花が同質のモノだと気づける。
なお、このシャンは攻撃されても、応戦を選ばない。探索者の攻撃に対しては、常に回避を選ぶ。
探索者全員がシャンの気配に気づくロールすべてに失敗した場合、残念ながら狙われた探索者は、誰も気づかないうちにシャンに取り憑かれてしまう。
すべての探索者がシャンの神経ムチで行動不能になった場合も同様である。
12,燃えるロッジ
シャンが倒されると、主人からの命令が途絶えたザイクロトルからの怪物は、血肉を求めて大暴れを始める。
知能は低いものの、非常にパワフルなザイクロトルからの怪物に対して、探索者のできる賢明な選択はロッジから逃げることだろう。
ただし外へ出た探索者たちは、ロッジの2階の屋根の向こうに、のっぺらぼうの顔を見ることになる。巨大な木のような身体に、枝のように生えた触肢。そして楕円形のつるりとした顔には目も鼻もなく、ただ恐ろしげな牙を生やした口だけがある。ザイクロトルからの怪物を目撃した探索者は0/1D6正気度ポイントを失う。
探索者がすでに満身創痍であるのなら、このままロッジを逃げられたことにして良い。
しかし、キーパーがもう少し探索者を追い詰めたいと考えるのなら、ザイクロトルの怪物が執拗に追いかけてくるよう演出しよう。
この怪物から逃れる手段の一つとして、雪に埋もれた軽トラックに乗って逃走する方法がある。もちろん、探索者が他に良いアイデアを思いついたのなら、キーパーは積極的に採用してあげること。
十分な雪かきもせずに軽トラックを車道まで走らせるには〈運転(自動車)〉に成功させる必要がある。運転手以外の探索者が、ザイクロトルからの怪物に狙われるのを恐れず、タイヤの回りの雪をどけたり、勢いがつくよう後ろから押すことで、運転手のサポートができる。雪をかくのならDEXロール、後ろを押すのならSTRロールに成功すれば、運転手の〈運転(自動車)〉にボーナス・ダイスが1つ与えられる(最大2つまで)。
キーパーは探索者に運転が成功するようにサポートするかどうか尋ねよう。上記以外の方法でサポートする良いアイデアを思いついたのなら、キーパーは積極的に採用してあげること。ただし、ボーナス・ダイスは最大2つまであることに変わりはない。
そして、外で作業した探索者(運転手は除く)たちによる〈グループ幸運〉ロールをしてもらう。不幸にも失敗すれば、ザイクロトルからの怪物が投げ飛ばしたロッジの柱が飛んでくる。〈回避〉に失敗すれば、柱が命中して1D6ポイントのダメージを受ける。
運転手の〈運転(自動車)〉はプッシュ・ロールが可能だ。しかし、プッシュ・ロールに失敗した場合、軽トラックのエンジンは焼き付いて、完全に故障してしまう。
キーパーは、ザイクロトルからの怪物に軽トラックを踏み潰させても良いし、探索者に最後のチャンスとして、軽トラックから脱出して雪山で〈隠密〉に挑戦させてあげても良い。または、探索者のあがきに応じて、別のロールを求めてもよいだろう。
しかし、チャンスは一度だけだ。この〈隠密〉に失敗した探索者は、残念ながらザイクロトルからの怪物の餌食となってしまう。
探索者が軽トラックで逃げ出すか、〈隠密〉で隠れたあとも、ザイクロトルからの怪物は暴れ続け、ロッジを破壊していく。そして、ロッジで大きな爆発が起きる。怪物が調理用のプロパンガスのボンベを破壊したのだ。
ロッジは炎に包まれて、その火はザイクロトルからの怪物にも燃え移る。怪物は霧笛のような恐ろしげな声を上げながら、燃え続ける身体を引きずって吹雪の中へと消えていく。
13,結末