タイトル

――あのぉ、みなさんホントに怖くはないんですかぁ?(岡崎さゆりの呟き)

1,はじめに

 このサプリメントは、「クトゥルフの呼び声・改訂版」用シナリオの「追い求めたものは」に対応したものです。
 このサプリメントを読む前に、必ずシナリオ「追い求めたものは」を読んでおいてください。このサプリメントだけを読んでもその意味はまったくわかりません し、これだけでは何の役にも立ちません。

 シナリオ「追い求めたものは」は単体でも十分にプレイ可能なシナリオとして完成していますが、このサプリメントでは「追い求めたものは」をプレイする際に キーパーが気をつけるべき補足説明がなされています。
 これらの補足説明は、熟練キーパーにとっては必要のない初歩的な内容のものや、プレイスタイルに関わるような突っ込んだ演出方法など、通常のシナリオには明 記されないような内容となっています。
 多くのシナリオでは常識として説明がなかったり、蛇足として明記されないものですが、ゲームに慣れていないキーパーにとって、これらの補足説明は、より深く 突っ込んだひと味違うマスタリングの指針として役立つかと思います。

 また、このサプリメントでは、シナリオに登場しないNPC「岡崎さゆり」が、新たに設定されています。
 この岡崎さゆりは、ゲーム内での誘導、情報提供、演出手段として有効に利用できるように設定されています。
 シナリオ本編には関わりの薄いNPCなので、自分には自分なりの誘導、情報提供、演出手段があるというキーパーにとっては無用の長物でしょうが、慣れていな いキーパーには自分の代わりに探索者を導いてくれる便利な存在となってくれるでしょう。

 なお、蛇足ながら、当ページに掲載されているようなタイプのシナリオは、いったいどのような考えに基づいて作成されているのか、そのことを知るのにも、この サプリメントはとても役立つことでしょう。
 当ページに掲載されているようなタイプのシナリオを作成したいという人にとって、このサプリメントは良い参考資料となるはずです。


2,あらすじ

 岡崎さゆりの大学の先輩である河野睦美が行方不明となってしまいます。
 彼女は民俗学の研究のため、島根県にある羽葉という廃村寸前の古い村に訪れていたはずなのです。
 岡崎さゆりは、頼りになる友人(探索者)と一緒に、河野睦美の足跡を追って羽葉の村へと向かいます。
 しかし、その村には不気味なヘビ人間たち、殺人事件、そして神話的陰謀が待ちかまえていたのです。
 さて、岡崎さゆりは、それらの事件を無事乗り越え、河野睦美を救いだし、生還することができるでしょうか?
 それはすべて、探索者の知恵と勇気次第なのです。


3,NPC紹介

・岡崎 さゆり(19歳)事件に巻き込まれる女子大生

 とある大学(おそらくは大学生の探索者と同じ)に通う女子大生です。
 生まれは東京で、その後、探索者の住む街へとやってきました。
 歴史や古代ロマンに興味があり、テレビの特番や、一般向けの歴史書などから、広く浅く勉強をしています。
 何事にもまずは挑戦してみようという積極的な性格で、交友範囲も広く、皆に好かれています。
 ただ、わからないことや困ったことがあると、すぐに人に頼るという癖があります。悪い癖というほどではないのですが、見方によっては他力本願と 見えるかも知れません。
 また、「クトゥルフの呼び声」においては致命的とも言えますが、彼女は少し臆病なところがあります。そのため、何か不可解な出来事があるたび に、探索者に助けを求めることでしょう。
 歳は離れていますが、彼女は河野睦美と友人です。
 図書館で同じ本を探しているのをきっかけに友人となり、知的で頼りがいのある河野睦美のことを「先輩」と呼んで、慕っています。

STR8  CON14 SIZ10
INT10 POW10 DEX15
APP13 EDU16 SAN50
耐久力12 ダメージボーナス なし
技能:言いくるめ25%、応急手当40%、オカルト20%、回避50%、隠れる30%、聞き耳35%、考古学30%、コンピューター20%、忍び 歩き50%、心理学35%、人類学30%、説得35%、図書館55%、博物学40%、英語30%、目星55%、歴史60%

4,零落したヘビ人間

 本編では、零落したヘビ人間はなかなかその姿をあらわにはしません。
 クライマックスまでは、彼らは物音や足跡などで、気配を探索者に感じさせるだけです。
 これは怪奇映画などでは定番の手法なので、その効果をわざわざここで説明する必要はないでしょう。
 ただし、クトゥルフの呼び声独自の演出として、彼らの数が多いことを効果的に利用すると良いでしょう。多くの場合、クトゥルフの呼び声のシナリオに登場する 神話生物は数は多くありません。
 そのため、自分たちが無数の神話生物が潜む土地に迷い込んできてしまったのだというイメージを探索者に与えることが出来れば、それは相当な恐怖となるでしょ う。
 零落したヘビ人間たちは人間に比べると矮小な存在ですが、姿を現さないことによって、その存在感を何倍にもすることが出来ることをキーパーは忘れないでくだ さい。

 ちなみに、岡崎さゆりは多くの女性がそうであるように、爬虫類や両生類はあまり好きではありません。
 それが60センチもあるような化け物であれば、なおさらのことです。
 彼女が零落したヘビ人間に遭遇し場合、その姿の恐ろしさに多くの場合、悲鳴をあげて誰かに助けを求めることでしょう。
 ただし、ヘビの岩屋への潜入などの切迫した雰囲気では、彼女は恐怖を押し殺して我慢します。もっとも、その目には少し涙がにじんでいるでしょうが……


5,シナリオ導入

 このシーンは言うまでもなくシナリオへの導入です。
 クトゥルフの呼び声では、探索者全員がどのようにしてシナリオに関わり合いを持つようになるのかが最初の難問となります。様々な年齢、仕事の探索者を選べる ゲームなので、そんな人たちが一堂に会すというもっともな理由を考えるが難しいのです。
 よって、キーパーは探索者の創造の時点で、全員が知り合いであることを強要してしまったほうが良いでしょう。それどころか、もう一歩進んで、選べる職業を前 もって限定しておいても良いぐらいです。
 あまり強引に探索者を知り合いにすると、せっかくの現代物のリアリティというものが失われてしまうおそれもあるので注意してください。ただし、いかにして探 索者が知り合いになるのか、その課程こそがおもしろいのだというキーパーはご自由にすると良いでしょう。

 もし、シナリオに設定されているように、探索者全員が河野睦美と知り合いという設定が不自然と感じられるのならば、キーパーは岡崎さゆりと探索者が知り合い であるということにしてもよいでしょう。
 そして、岡崎さゆりがその探索者を旅行に誘うというような展開にすればよいのです。
 年齢の高い探索者の場合、今回の導入に絡ませるのが困難な場合もあるでしょう。そのような場合は、彼女の両親などに保護者として旅行に付き添ってもらえない だろうかと頼まれるという展開も良いでしょう。しっかりものの河野睦美よりは、まだ未成年の岡崎さゆりのほうが説得力があるというものです。

★岡崎さゆりの行動例

・旅行の計画中
 岡崎さゆりは旅行の話になると、
「私は伊豆諸島とか、沖縄に行きたいですね。ダイビングとかしてみたいなぁ」
 と、提案しますが、河野睦美が津和野を提案すると、
「へぇ、なんか渋くておもしろそうですねぇ。私は別に津和野でもいいですよ。泳げないのは、ちょっと残念ですけどね」
 と、簡単に意見を覆します。
 もし、津和野への旅行を渋る探索者がいるのなら、河野睦美と岡崎さゆりの二人がかりで迫れば、さすがに意見を変えてくれることでしょう。

・河野睦美と田村淳一の関係について
 彼女は河野睦美と田村淳一が付き合っているらしいことを探索者から聞くと、
「ええ〜っ、うそ! ほんとですかぁ? なんかショックだなぁ。田村先生って、なんか軽くていい加減で先輩とは全然お似合いじゃないですよ〜! 先輩には、 もっといい人ができると思うけどなぁ〜」
 と、露骨に不満げな顔をします。
 岡崎さゆりは、あまり田村淳一のことが好きではないのです。
 もし、探索者の全員がロールに失敗してしまい、誰も二人の関係を知らないと言う場合には、岡崎さゆりの口から、田村淳一のキャンパス内での評判と河野睦美と の関係を聞かせておくと良いでしょう。


6,津和野にて

 導入に続くシーンは、探索者に事件が発生したと実感させるまでのイベントです。
 キーパーは、今回のシナリオに要するプレイ時間と相談をして、このイベントを展開させてください。
 あまりプレイ時間に余裕がないようでしたら、津和野での観光などは省いて、早めに秋山浩介のイベントを発生させると良いでしょう。
 また、岡崎さゆりに河野睦美のことを心配させて、探索者の不安をあおるという誘導方法も有効です
 逆にプレイ時間に余裕がある場合は、岡崎さゆりに余裕のある態度をしめさせ、津和野の観光などに時間を費やすという展開もあります。導入部分でのんきな旅行 を演出することによって、後半の神話的事件とのギャップを演出することが出来るので、このような展開もまったく無駄になると言うことはないでしょう。

 また、シナリオ本編にも明記されてはいますが、民宿「大山」の女将も演出に利用できます。
 彼女の口から、河野睦美がいかに今回の探索者との旅行を楽しみにしていたかを説明すれば、探索者も頑張って彼女を探し、助け出してやろうという気持ちになる ことでしょう。

★岡崎さゆりの行動例

・旅行の当日(プレイ時間に余裕のない場合)
 探索者が津和野へと行く日となって、もちろん、岡崎さゆりもそれに同行します。
 彼女は探索者と合流すると、
「あの、あの〜、先輩からなんか連絡はいりました〜?
 昨日の夜も電話したのに、留守電になってて、全然つながらないんですよ。
 いったいどうしたんでしょう……」
 と、困惑した顔をしています。

・宿に到着してから(プレイ時間に余裕のない場合)
 探索者が津和野に到着し、民宿「大山」の女将から河野睦美のことについて聞いたとき、彼女は、
「なにやってるんでしょうね、先輩ったら。
 もしかして、研究で頭が一杯になって、私たちのこと忘れてるのかもしれませんね。
 ほんとに、しょうがない人ですねぇ〜」
 と、あっけらかんとした顔で笑っています。


7,リックの中身

 このリックが発見されることによって、探索者は河野睦美が何かの事件に巻き込まれたのではないかという危機感を本格的に感じることとなるでしょう。
 さらに、このリックにはシナリオの大きな伏線となる、「宅配便の伝票」があります。
 キーパーは、この手がかりを探索者が見落とさないように細心の注意を払ってください。
 もし、財布を開けるという行動を思いつかなかった場合には、岡崎さゆりが財布に興味を持ったことにすると良いでしょう。
 また、宅配便をあまり利用したことのないプレイヤーにとっては、宅配会社に問い合わせることによって荷物を集配した取扱店を調べるという行動も思いつかない 可能性があります。そのときも、岡崎さゆりを使った情報提供をすると良いでしょう。

★岡崎さゆりの行動例
・探索者が財布に関心のない場合
 彼女は突然思いだしたように、
「そういえば、先輩はレシートとか何でも財布にしまっておく癖があるんですよ。もしかして、このあたりで立ち寄ったお店とか、何か手がかりになるかも!」
 と、財布を持っている探索者に提案します。

・宅配便の伝票について
 彼女は宅配便の伝票をしばらく、じい〜っと見つめてから、
「あの、あのっ! この伝票に書いているサービスセンターってところに電話すれば、どこから送られた荷物なのかわかるんじゃないでしょうか?」
 と、提案します。

・ルーズリーフを見たとき
 彼女はルーズリーフを見ると、
「やっぱり先輩のものに間違いありません!
 このルーズリーフ、学校の近くのお店で一緒に買ったものです。でも、ルーズリーフがあるのに、一緒に買ったお気に入りのネコのバインダーがないのはおかしい ですね……」
 と、首を傾げます。


8,河野睦美の行動

 この項には、特にこのサプリメントで紹介すべきものはありません。


9,田村淳一の影

 この項の田村淳一に関するイベントは、後の伏線となる大切なものですが、あまり露骨に発生させてしまうと探索者に無用な警戒心を与えることとなってしまいま す。
 そんなとき、岡崎さゆりを利用すると良いでしょう。
 探索者が田村淳一を発見してしまうと、あとを追跡したり、警戒心を抱くようになってしまいますが、NPCである岡崎さゆりが発見したことにすれば、追跡も難 しくなり、ただの見間違いだろう(賢明なプレイヤーならば、そうは感じないでしょうが、探索者としてはそう感じるはずです)と軽く流すことが出来るからです。
 プレイヤーの心には疑惑を残し、探索者の心にはわずかな記憶を残すというのが、最良の伏線なのです。

★岡崎さゆりの行動例

 探索者の車などに同乗しているとき、突然、岡崎さゆりが「ああ〜っ!」と素っ頓狂な声をあげます。
 いったいどうしたと尋ねられると、
「あそこの角に、田村先生がいたんです!
 ……いえ、たぶん見間違いですよね。
 こんなところに田村先生が来てるわけないですし……すみません、びっくりさせちゃって」
 と、みんなに謝ります。


10,予備調査

 クトゥルフの呼び声において、予備調査は重要なイベントです。
 特に探索中心のシナリオでは、自分が探索しようとしている対象について深く知ることは、ゲームに奥深さを与えてくれることにつながります。よって、この部分 をおろそかにしてしまっては、クトゥルフの呼び声独自の味わいが失われてしまうこととなりかねません。
 もし、気の早い探索者が当てずっぽうで羽葉へと行こうとするならば、広大な島根の山の中を手がかりなしに探しても見つかるはずがないことを、岡崎さゆりに示 唆させると良いでしょう。
 また、ふたつめの伝説を収集したところで、伝説がこの事件の真相に近づく重要な手掛かりであることもプレイヤーに気づかせておきたいところです。

★岡崎さゆりの行動例

・探索者が情報無しで羽葉を目指そうとした場合
 彼女は、そんな無計画な探索者に対し、
「あの〜、いくらなんでも無茶ですよ〜
 ここはひとつ、先輩の立場になって、先輩が津和野でどんな風に羽葉のことを調べたかを考えてみたらどうでしょうか?
 行き当たりばったりで探すよりは、そっちのほうが先輩の足取りがつかめると思うんですけど……」

・羽葉の伝説を読んだとき
 彼女は首を傾げて、
「なんか、あんまり似てないですね、このお話。
 そういえば、先輩に聞いたんですけど、時間がたって変化してしまった伝説の原型を調べるには、似た題材の話を同じ土地で収集して、共通しているキーワードを 集めていくのがいいんですって。
 となると、この話のキーワードは大蛇と黄金、娘がさらわれることと、夢のお告げってところでしょうか?」
 と、ちょっと知ったかぶりをします。


11,羽葉への道

 予備調査を終えて、いよいよ神話的な匂いのする、未知の土地へと向かうというのは、実に心躍る展開のひとつです。
 その場合、重要なのは物理的、時間的距離というものの実感です。
 あまり簡単に、神話的舞台から普通の人が暮らす町へと行き来できると、せっかくの雰囲気が半減してしまうことがあります。すべてのシナリオがそうだというわ けではありませんが、「追い求めたものは」では羽葉と匹見町は離れた存在であるほうが好ましいものです。
 今回のシナリオでは、やや難易度の高い《自動車運転》の判定と、その失敗によるトラブルによって、その距離を表しています。
 この演出がうまくいけば、探索者はあまり気軽に羽葉と匹見町を行き来することはなくなるでしょう。このことは、羽葉という土地の閉塞感、神秘性を高めると同 時に、ゲーム世界に現実味を与えるのにも役立ちます。
 なお、キーパーは、「いま、ちょうどお昼を過ぎた」、「日がだいぶ陰ってきた」「すっかり暗くなってしまった」といった具合に、時間経過をこまめにプレイ ヤーたちに告げるべきでしょう。探索者とキーパーがバラバラの時間感覚でゲームをしていると、せっかくの現実味が薄れてしまうおそれがあるからです。
 このような時間の経過の演出にも、岡崎さゆりは有効に利用できます

★岡崎さゆりの行動例

・羽葉へ向かう途中
 羽葉へと向かう山道は険しく、だんだんと細く頼りない道へとなっていきます。
 岡崎さゆりは不安そうに、
「あの……道、間違ってないですよねぇ。迷ったとか、そう言うことないですよねぇ」
 と、運転する探索者に尋ねてきます。
 羽葉への林道は一本道なので迷いようはないのですが、キーパーは探索者に《ナビゲート》のロールを要求してみるのも一興でしょう。もっとも、成功しても失敗 しても、道に迷うようなことはないのですが。
 ただ、《ナビゲート》に失敗すると、探索者も自分がいま地図のどのあたりを走っているのかわからなくなってしまいます。
 それを聞いた岡崎さゆりは青ざめた顔をして、
「だ、大丈夫ですよね! ガソリンとか足りてますよね! 遭難とかしないですよね!」
 と、探索者の肩をつかんで、ガクガクと揺さぶったりします。

・カブトムシを見て
 自動車のトラブルや休息などで、自動車を降りたとき、岡崎さゆりは偶然カブトムシを見つけます。
「うわぁ、これってカブトムシですか〜?
 わたし、初めて見たかも……
 普通は、デパートとかで売っているんですよねぇ。
 こんなのが道ばたにいるなんて、やっぱりすごい田舎ですねぇ〜」
 と、都会育ち風な感想を言いながら、おっかなびっくりの表情でカブトムシを指でつついたりします。

・河野睦美の車を見て
 岡崎さゆりは、乗り捨てられた河野睦美の愛車を見て、
「先輩が大切にしていた車を、こんなふうにほったらかしにしておくなんて……
 いったい、どうしちゃったんでしょう?」
 と、不安そうな顔をします。

・羽葉の廃墟を見て
 岡崎さゆりは、誰もいなくなってしまった羽葉の廃墟を見て、
「誰もいませんね……
 せっかくこんなに立派な畑を山奥に作ったのに、ここにいた人はどこに行ってしまったんでしょうか?」
 という問いを口にします。


12,奥山家滞在GOマンガ01

 ここで奥山家という、このシナリオでのメインの舞台となる場所が登場します。
 これまで時間の経過と同じ順序でシナリオは語られてきましたが、ここからその順序は曖昧になり、キーパーに任される部分が多くなります。
 これはプレイヤーがある程度自由に行動を選択する余地のあるTRPGとしての宿命であり、逃れられない部分です。
 とはいえ、キーパーは必要以上に受け身になる必要はありません。もちろん、探索者の行動によってイベントを発生させることが出来れば、それに越したことはあ りませんが、キーパーからのアプローチによって探索者を動かし、望むイベントを発生させるという手段もあります。
 それにはまず、キーパーが探索者に何をしたいか尋ねることです。
 そして、何が出来るのか、どんなものがあるのか、どんなNPCがいるのか、それを説明していくことです。そうすることによって、プレイヤーは自分のしたいこ とを探すはずです。
 そのとき、キーパーはシナリオに設定されているイベントに関わるものを優先して説明すればよいのです。
「風呂がある」
「古いかまどがある」
「畑がある」
「渓流がある」
「入ってはいけない部屋がある」
 こうして説明していけば、自然に探索者をイベントへと誘うことが出来るのです。
 そして、もうひとつ、NPCを利用するという手も非常に有効な手段です。

 また、ここでは本編では提示されていなかった偽情報による誘導を紹介しましょう。
 岡崎さゆりは奥山源蔵に疑惑を感じています。
 どう考えても、こんな山奥で老夫婦が暮らしているというのはおかしいと思っているのです。その根拠は電気や水道が無い場所で人が暮らせるはずがないという、 実に浅はかなものですが……
 そして、彼女は「こもり」の部屋に疑惑の目を向けます。
 もしかして、あの部屋に河野睦美が監禁されているのではないか?
 そんな考えにとらわれ、そのことを探索者に相談します。
 これに対する探索者の行動はプレイヤー次第ですが、このことでひとつの疑惑と想像のタネを植え付けることになるでしょう。
 もしかして、奥山ハナと名乗る人物は、河野睦美なのでは?
 などという突飛な発想に広がっていけば、この偽情報はおおいにシナリオを盛り上げるのに役立ったこととなるでしょう。
 探索者があれこれと悩むこと……それこそが、こういった探索系のシナリオの醍醐味のひとつなのですから。

★岡崎さゆりの行動例

・奥山家を見て
 歴史が好きで、よく観光で旧跡や旧家巡りなどをしている岡崎さゆりは、奥山家の家屋を見ると、
「うわ〜、こんな山奥に、こんな立派な家が残ってるなんて……驚きです!
 すごいですよ、この家。少なくとも、戦前のものですね。
 ほら、この柱なんて、いまどき見られないですよ!」
 と、感嘆の声を上げます。
 また、この家に電気、ガス、水道などのライフラインが届いていないことを知ると、
「なんか、昔話に出てきそうな家ですね。
 ある山に、お爺さんとお婆さんが住んでいましたって感じで……」
 と、図らずも事件の真相に迫った台詞を、探索者に囁きます。

・風呂場の気配
 岡崎さゆりが風呂に入っている間、探索者が部屋で待っていると、風呂場から叫び声が聞こえてきます。
 探索者が風呂場に行くと、中から岡崎さゆりが、
「だ、誰かが外からのぞいていたんですぅ〜!」
 と、半泣きの声で叫んでいます。
 その後、岡崎さゆりは探索者の男性陣を疑いの眼で見るようになりますが、全員にアリバイがあることを知ると、
「じ、じゃあ、いったい誰がのぞいていたんでしょうかぁ?
 この村って、他に人はいないんですよね〜」
 と、今度はとたんに気味悪がり始めます。

・田村淳一の気配
 岡崎さゆりは散策の途中などで、田村淳一の残した手掛かりを発見します。
 風呂場でのイベントのあとならば、彼女は、
「やっぱり、この村には誰かいるんですよっ!
 これがなによりの証拠です。もしかして、その人が先輩のことを知っているかも!」
 と、興奮した面もちで探索者に訴えます。
 羽葉に潜む謎の人物の存在は、探索者の緊張感を高めるのに役立ってくれるでしょう。

・奥山源蔵の誘い
「奥山源蔵の誘い」のイベントは、シナリオ通り、奥山源蔵がストレートに探索者に警告するよりも、岡崎さゆりに警告をして、それを彼女が相談という形で探索者 たちに告げるという展開にしても良いでしょう。
 直接、自分で体験した情報ではなく、間接的に得た情報というのは、それだけで謎を多く含んでいるように感じるものなのです。
 奥山源蔵に山を下りるように説得された岡崎さゆりは、
「あの〜、さっきおじいさんに山を下りるように説得されてしまいました。
 なんでも、ハバ様に目をつけられるかもしれないぞって……
 やっぱり、あのおじいさん、先輩のことで何か知ってるんじゃないでしょうか?」
 と、探索者に相談します。


13,深夜の奥山家

 この項には、特にこのサプリメントで紹介すべきものはありません。


14,夜の祭

 分散行動というものは、通常のゲームですと時間のロスになるだけであまり歓迎されたものではありませんが、イベントによってはゲームを盛り上げる有効な手段 ともなり得ます。
 そういったイベントの典型的なものが、この項のような、不気味な雰囲気を出そうとするときです。
 言うまでもなく、このような不気味な雰囲気のイベントでは、大人数の探索者がワイワイと参加してしまっては、せっかくの雰囲気が薄れてしまいます。
 逆に、探索者がひとりで遭遇すれば、誰も相談相手がいなく、何かがあっても一人で対応しなくてはならないという恐怖から、その不気味さは倍増します。
 このシナリオでは、やや強引ではありますが探索者に分散行動を取らせるための誘導方法が明記されていますので、キーパーはそれを参照して、うまく探索者を誘 導してください。

 このイベントで岡崎さゆりの役目は「足手まとい」です。
 普通、命をかけた探索をしている探索者にとって、パーティーの中に足手まといは邪魔でうっとうしい存在です。小説や映画ならば、そんな存在も許せますが、自 分自身が知恵を絞り、勇気を出して探索しているというのに、たいした意味もなく(探索者にとって、岡崎さゆりの存在にたいした意味はないでしょう)足手まとい がついてくるというのは我慢できないことでしょう。
 しかし、その探索者がひとりで行動している場合は少し違います。
 クトゥルフの呼び声において、ひとりの探索者というのは、ひどくか弱い存在です。肉体的にも、技能的にもです。
 そんなとき、たとえ足手まといであろうとも、仲間がいることは心の支えとなります。心情的にも、ルール的にもです。

 さて、彼女は夢を見ることなく、奥山ハナの気配に気づき目を覚まします。そして、そのあとをつけようとします。
 同じように目を覚ました探索者は、十中八九、岡崎さゆりと一緒に後をつけようとするでしょう。危険があるかもしれないという理由から、岡崎さゆりを残してい こうとした場合は、彼女がその言いつけを守るかどうか、キーパーが判断してください。
 このシーンに岡崎さゆりを登場させることによって、キーパーは情景描写以外の方法で、その場の不気味な雰囲気を演出することが出来るようになります。また、 足手まといという時限爆弾的な存在は、探索者に絶えず不安を感じさせることでしょう。
 しかしながら、探索者に岡崎さゆりに相談するという選択肢をひとつ増やしてあげることは、プレイヤーにとってはありがたいことに思えるはずです。一人ですべ てを決めなくてはいけないという状況は、意外とプレイヤーに精神的負担をかけるものです。そんなとき、キーパーの代弁者とも言える岡崎さゆりがいることは、ひ とつの逃げ道となってくれるのです。
 このシーンで、そのプレイヤーが一緒に恐怖を体験した岡崎さゆりに親近感を覚えるようになれば、それだけで大きな収穫となるでしょう。
 シナリオに登場するNPCにプレイヤーが親近感を感じてくれれば、そのゲームは半分成功したようなものですから。

★岡崎さゆりの行動例

・目を覚ましたとき
 奥山ハナの気配に目を覚ました岡崎さゆりは、
「こんな夜中に変ですよ。
 もしかして……あのおばあさん、先輩をどこかに監禁していて、その様子を見に行くところなのかも……」
 と、奥山家に疑惑を感じている彼女は突拍子もない推理を述べます。

・追跡中
 山道を探索者と歩いていると、岡崎さゆりは山の静けさに耐えきれず、つい探索者に話しかけてしまいます。
「いったいどこに行く気なんでしょう……」
 それはほんの小さなささやき声のつもりでしたが、虫の声しか聞こえない山の中では、想像以上に大きな声のように聞こえます。
 そのとき、まるでその声が聞こえたかのように奥山ハナは立ち止まり、後ろを振り返ります。
 岡崎さゆりは青い顔をして、自分の口を押さえます。
 そのままじっとしていると、奥山ハナはまた山道を進んでいきます。

・流れてきたものに対して
 岡崎さゆりは流れてきた白い長い物体を見てヘビと勘違いをします。
 また、それを拾い上げた奥山ハナを見て、
「まるで桃太郎の昔話みたいですね……」
 と感想を述べます。


15,ヘビ人間の計画

 この項には、特にこのサプリメントで紹介すべきものはありません。


16,暗示的な夢GOマンガ02

 クトゥルフの呼び声では、伝統的に夢による情報提供という手段が存在します。
 それはラヴクラフトを初めとする原作のクトゥルフ神話小説にて、夢による幻視が物語の重要な要素となっているからでしょう。
 ただ、そういった「約束事」に慣れていないプレイヤーにとって、このイベントはあまりに説明的でご都合主義的なものに見えるかもしれません(事実、説明的で ご都合主義的なのですが……)。
 そこで、本シナリオではこの便利な情報伝達方法を、少しでも説明的でご都合主義的でないように見せるため、その夢は伝説の中で語られている「お告げ」である としています。いきなり夢をみて情報を入手するよりも、前もって夢から情報が得られるかも知れないという伏線が張ってあれば、プレイヤーに対する説得力も少し は増すというものです。
 ただし、これも探索者が「夢」を「お告げ」と感じてくれなければ意味はありません。
 そこで、キーパーは岡崎さゆりを利用して、そのことを示唆しましょう。

★岡崎さゆりの行動例

 探索者の夢の話を聞いた岡崎さゆりは、
「それってもしかして伝説に出てくる『夢のお告げ』ってやつじゃないですか?」
 と、冗談っぽくも、興味深そうに尋ねます。


17,奥山ハナとの対面

 このシナリオのメインNPCである奥山ハナの登場です。
 ここで彼女がどういう人間(神話生物ですが)なのかを旨く伝えられるかどうかが、シナリオの成功の可否に深く関わってきます
 本シナリオでは奥山ハナの心情と言動に比較的多くの説明をすることでフォローをしていますが、いかにキーパーが雄弁に彼女について説明をしようとしても、最 終的にそれについてどのように感じるかは、当然、探索者次第となってしまいます。
 具体的に言えば、本シナリオでは奥山ハナは厭世的な哀れな老人として演出するようにとされていますが、このような山奥に暮らす怪しい老婆に対し、疑惑を持っ た探索者はそのようには感じないかもしれません。
 もちろん、どのように感じるかは個人の自由なのですが、それでは本シナリオのオチが活きてこなくなってしまうのも事実です。それに、プレイヤーの感情を操る ことこそが演出なのですから、これをおろそかにしてしまってはキーパー失格です。
 そこで、このサプリメントではもう少し簡単な演出方法を紹介します。
 それは第三者、つまり岡崎さゆりによる、奥山ハナに対する意見を探索者たちに伝えることです。
 何も難しいことではありません。ただ、岡崎さゆりが奥山ハナに対してどのような思いを抱いたかを探索者に伝えるだけでよいのです。
 第三者の意見というものは、現実に比べて、極端に情報量の少ないTRPGにおいて、重要かつ有効な感情操作の手段なのです。
 奥山ハナと話をして、岡崎さゆりが「かわいそうな人ですね」と感想を述べたとします。
 すると、探索者はまず「かわいそうな人らしい」という最初の認識から、彼女のことを観察するようになります。これが、いわゆる先入観というやつです。
 この手段は、これまで友人、仲間として行動してきて、探索者が警戒心を抱いていない岡崎さゆりだからこそ効果的に行える演出方法です。せっかくですので、 キーパーは彼女を使って探索者達にシナリオにとって望ましい先入観を与えてやりましょう。

★岡崎さゆりの行動例GOマンガ03

 奥山ハナとしばらく会話をした後、岡崎さゆりは探索者しか居ないところで、
「あのおばあさん、ずぅ〜っとこの村で暮らしてきて、そのうち他の人はみんないなくなってしまって……それでも、まだこんな寂しいところで二人だけで暮らして いて……なんか、私たちにはとても想像できないことですよね。
 けど、なんでだろう。
 あのおばあさん、ちっともそのことを寂しいって感じてないみたい……
 それよりも、何かに疲れたような……あのおばあさんがこの村にいるのは、何かを待っているような……そして、それが来るのを待ちくたびれているような……そ んな感じがしたんですが、私の気のせいでしょうか?
 もしかして、おばあさんはずっと羽葉様って神様を待っているのかも。
 だとしたら、それってなんだか悲しいですよね。せっかくまだまだ元気なのに、何かを待っているだけの生き方なんて……」
 と、感傷的な言葉を呟きます。


18,奥山源蔵の殺害

 これまで気配はあれど、事件らしい事件の起きていなかったシナリオも、いよいよ殺人事件が発生してクライマックスへと突入します。
 わかりやすく、特に難しい演出方法も必要無いイベントですが、ここで岡崎さゆりを使って、ちょっとおもしろい話の展開に導くことも可能です。

 奥山源蔵が殺害されるイベントは、探索者が家から離れていて、奥山源蔵が家にいる時に発生します。このとき、岡崎さゆりを奥山家に残しておくのです。
 その理由としては、岡崎さゆりが奥山源蔵の仕事の手伝いを申し出たとか、昨日の疲れが出たので、少し家で休みたいと申し出るなどということにすれば、探索者 と別行動をとらせることは可能でしょう。
 用心深い探索者が岡崎さゆりの身を案じて、彼女と一緒に奥山家に残るとした場合、その後の展開はやりづらくなります。その場合はやむを得ないので、岡崎さゆ りも探索者と同行して、奥山家を出ていくということにしたほうが良いかもしれません。
 探索者が用事をすませて奥山家に戻ってくる途中、岡崎さゆりの悲鳴が聞こえてきます。
 そして、家から走って出ていく岡崎さゆりを見つけます。《目星》に成功した探索者は、彼女の手に血が付いていることに気づきます。この血は奥山源蔵の具合を 調べたときに付着したものです。
 岡崎さゆりは完全に取り乱しており、探索者の呼びかけを無視して、ただひたすらどこかへ逃げていこうとします。探索者は彼女を取り押さえ、落ち着かせる必要 があります。もし、誰も彼女を止めようとしなかった場合、最悪、岡崎さゆりは道を見失い遭難してしまうことでしょう。
 また、奥山家の部屋には探索者が家に戻ると、部屋には殺害された奥山源蔵の無惨な死体が転がっています。
 この状況を見ると、岡崎さゆりが奥山源蔵を殺害したと見えないこともないでしょう。
 もっとも、これまでの展開からして彼女が犯人であると本気で信じるプレイヤーはいないとは思いますが、疑惑のタネというものは多いほうがおもしろいもので す。
 キーパーは探索者をちょっとだけ惑わすために、この状況を利用してください。

★岡崎さゆりの行動例

 岡崎さゆりは、いったいどうしたのかを尋ねられると、
「わ、わたし、何もわかりません!
 お爺さんの畑を手伝ってたんですけど……
 用を思い出したって、お爺さんは家に戻ったんです。
 そのあと、全然、帰ってこないものだから様子を見に来たら……おじいさんが!
 なんでこんなことに……」
 と、涙ながらに説明します。


19,黄金の三角板

 たいした情報源ではありませんが、こういった神話的な匂いのする物品は、クトゥルフ好きのプレイヤーにとっては実に魅力的に映るものです。
 ファンサービスとして、こういった味わい深いアイテムを積極的にシナリオに盛り込むと、普通のシナリオでもぐっとクトゥルフっぽくなるので、これはおすすめ の手段です。
 その物品のイラストなどを用意しておけば、さらに申し分ありません。


20,田村淳一の不幸

 死体の発見と、謎の神話的物品の発見というショッキングなイベントに続いて、今度はアクション色の強いイベントの発生です。
 ところで、あまり濃いイベントを連続して起こすと、各々の印象が薄れてしまうというおそれがあります。例えば、意外なNPCがクライマックスに登場という盛 り上がるシーンも、続いて2人、3人と現れたら興ざめでしょう。
 しかし、本シナリオのようにタイプの違うイベントを連続して発生させると、それは場を盛り上げる相乗効果を持たせることができます。
 まず、殺人事件という、誰にでもはっきりとわかる重大な犯罪の発生。
 そして、神話的物品の発見。このふたつは、どちらかといえば新しい調査対象が登場するというイベントであり、探索者の動きとしては「静」です。
 そんな二つの調査対象に手を焼いているところに、「動」であるイベントの「田村淳一の不幸」を発生されることによって、ゲームの展開に動きを持たせることが 出来るのです。

 このシーンでは、いままでのんびりしていた岡崎さゆりにも、ホラー物のヒロインらしくちょっとひどい目にあってもらいましょう。

★岡崎さゆりの行動例

・悲鳴が聞こえた土地
 岡崎さゆりは、家の外から聞こえてきた悲鳴を聞くと、
「あれって、田村先生の声じゃないですか!」
 と、びっくりした声をあげます。彼女は田村淳一のことを良く知っているからです。

・さらわれたさゆり
 岡崎さゆりは田村淳一の身を案じて、声のしたほうへと向かいます。
 田村淳一の悲鳴が聞こえた地点で、姿の見えない気配に探索者が翻弄されていると、岡崎さゆりが悲鳴を上げます。
 探索者と少し離れた位置に立っている岡崎さゆりの周囲のススキがザワザワとうごめき、その動きから、彼女を遠巻きに取り囲もうとしているのがわかります。
 探索者がそのことに気づき、助けに行くなどの行動をとろうとした瞬間、短い悲鳴と共に岡崎さゆりの姿が下草の中に消えてしまいます。
 その場でつまづいたようにも見えますが、下草の中から岡崎さゆりの取り乱した、助けを求める悲鳴が聞こえてきます。
 彼女は零落したヘビ人間に捕らえられたのです。
 彼女が姿を消したのと同時に何か大きな物を引きずるように、下草がザワザワと動きます。
 探索者が追跡しようとした場合、《DEX》×5に成功する必要があります。かなり容易なロールですが、万が一、探索者の全員が失敗した場合、岡崎さゆりは零 落したヘビ人間にさらわれてしまいます。
 今度、彼女と再会するのは、ヘビの岩屋内の実験場でしょう。
 探索者にはいざというときにロールに失敗してしまったことを悔いてもらいましょう。

《DEX》ロールに成功した場合、その探索者は下草の間を引きずられていく岡崎さゆりの手をつかむことができます。
 一瞬、凄い力で探索者まで引っ張られそうになりますが、すぐに零落したヘビ人間は岡崎さゆりを手放します。彼らは基本的に臆病なので、探索者を相手にしよう とは考えません。そのまま、すぐに逃げてしまいます。
 岡崎さゆりは下草の中を引きずられたため、擦り傷、切り傷、さらに泥まみれという、ひどい有様ですが、無事に助かります。
 一体何があったのかと尋ねられると、彼女は涙ながらに、
「突然、何かに足をすくわれて、ころんだと思ったら、両足を捕まれてそのまま引っ張られたんです……」
 と、思いだしたように足首を見ます。
 そこには、するどいツメでつけられたようなひっかき傷があります。これは零落したヘビ人間の爪痕です。

 もし、冷徹な探索者が岡崎さゆりを助けないで、アジトを突き止めるために尾行などを試みた場合、彼女は茂みの中で自力で零落したヘビ人間を撃退し、探索者の もとに戻ってきます。
 その際は、いくら何らかの理由があったとは言え、自分を助けに来てくれなかった探索者にたっぷりと恨み言をぶちまけます。


21,河野睦美のノート

 本シナリオに関わる神話的謎を解く、大きな手がかりとなってくれるのがこのノートです。
 キーパーは忘れずにこのノートを探索者に読ませるようにしてください。

 ところで、優秀な探索者というものは、すべての情報を集めようという習性を持っているものです。
 それは、逆を言えば、すべての情報を集めないと満足できないということになります。
 キーパーは露骨でもかまわないので、「これでだいぶ情報は揃ったので、少し整理してみたらどうだろう?」と自分から提案してみましょう。
 まだ、決定的な情報があるかもしれないという考えで、総合的分析をせずにズルズルとクライマックスまで行ってしまうと、なんとなく消化不良のゲームとなって しまいます。そのため、こういった提案をキーパーからすることは満足度の高いゲームを演出するうえで重要なことです。


22,消えた死体

 この項の死体が消えるというイベントは、さほど意味のあるものではありません。
 何かの気配が消えてしまった奥山家を演出するに際して、死体が無くなった方が効果的と思われたので、このようなイベントを作りました。
 また、死体が消えた足取りを追うと、渓流に向かっているという情報も得ることが出来ます。
 誰もいなくなってしまった静かな奥山家に、かっての主人である奥山源蔵の死体だけが残されているという状況も、それなりに味わいのあるものなので、死体を消 すタイミングが得られなかった場合は、そのまま残しておいても良いでしょう。

★岡崎さゆりの行動例

 岡崎さゆりは消えてしまった奥山源蔵の死体よりも、家の雰囲気の変化が気になっています。
 探索者が奥山源蔵の死体の行方を推理している最中に、
「あのぉ……変な話なんですけど……
 この家、奥山さんの家ですよねぇ……?
 なんか、さっきまでとは雰囲気が違う気がするんですけど……
 なんていうか、きゅうにからっぽになったっていうか……こんなに、この家って広くて、静かでしたっけ……
 あ、ごめんなさい……なんか変なこと言っちゃって。気にしないで下さい」
 と、自分でもよくわからないといった様子で言います。
 岡崎さゆりは、零落したヘビ人間のいなくなった奥山家に違和感を感じているのです。


23,カメラ

 本シナリオ、最大の手がかりであるカメラです。
 TRPGでは、プレイヤーの行動によって重要な手がかりを得るタイミングが変わってしまうことがあります。あまりにも早い時点で、目的地への鍵が手に入って しまう冒険は、それほどおもしろいものではありません。
 しかし、だからといって、鍵のある戸棚を開けたときに、そこに鍵がないというわけにもいきません。プレイヤーが苦労して、その戸棚を探し出したというのなら ばなおさらのことです。
 よって、気の利いたシナリオでは、最後の鍵を二つ用意しておくものです。
 早い時点で見つかった場合は、一個だけ。十分にシナリオが展開した後で見つかった場合は、二個の鍵を同時に発見させるのです。
 そうすることによって、キーパーは容易にシナリオの展開をコントロールすることが出来ます。

 さて、いままでの説明はあくまで例です。実際に金の鍵と銀の鍵が二本あるなどという展開は古典的ファンタジーならともかく、今時、あまりスマートとは言えな いでしょう。
 そこで、本シナリオではカメラの種類を変えることによって、シナリオの展開を操作するようになっています。
 シナリオのほうに明記はされていますが、デジタルカメラと通常のカメラの二種類を設定してあるのはそういったわけがあるのです。

 同時に、これまで優秀だった探索者が、まるで大事な頭のネジが抜けてしまったかのように最後の手がかりに気づけないという時があります。
 本シナリオで言うならば、他の写真に比べて、あきらかに撮影を失敗している一枚の写真です。この写真こそが、クライマックスの舞台となる場所への手がかりと なるのですが、逆にこれに気づけないと永遠にその舞台へ上ることはできません。
 そこで、キーパーは探索者が気づかない場合(自分で気づくならば、それに越したことはありません)にのみ、以下のように岡崎さゆりの口から気になる情報を語 らせましょう。

★岡崎さゆりの行動例

 カメラに残る写真を見て、岡崎さゆりは、
「きれいな写真ですね……そういえば、先輩は高校生の頃、なんか風景写真に凝っていたそうですよ。
 けど、この写真だけなんか良くとれていませんね……」
 と、問題の一枚を不思議そうに見つめます。


24,ヘビの岩屋

 このイベント自体には、さほどの意味はありません。
 伝説に何度も登場する桶の意味が、ここで解明するというだけのものです。
 ですが、このような簡単な謎であっても、謎が解けると言うことは探索者にとって嬉しいことですので、まったく無駄というわけではありません。
 むしろ、こういった謎解き(いわゆるリドル)をひとつぐらいシナリオに盛り込んでおくと、だらけていたテーブルの雰囲気も少し引き締まります。
 ただし、その謎解きは、それ自体がシナリオのメインの謎でない限りは、幼稚と思えるぐらい簡単なものにしておいた方がよいでしょう。
 昔から言われていることですが、キーパーが思っているほどプレイヤーは賢くはないのです。注意してください。


25,ヘビの国

 この項には、特にこのサプリメントで紹介すべきものはありません。


26,再会

 この項には、特にこのサプリメントで紹介すべきものはありません。


27,つぼみの中の赤子

 このシーンではシナリオの都合上、探索者に予定通りの動きをしてもらうための誘導手段を明記してあります。
 こういったシーンでは、探索者の位置関係というものが重要になってきます。
 それが曖昧になっていると、こちらで河野睦美を助けていたと思ったら、次の瞬間、赤ん坊を殺しに行っているといったスーパーマン的な行動が可能であるかのよ うに、プレイヤーに勘違いをさせてしまいます。
「そんなことはできない」と、キーパーが否定することは簡単ですが、それではもしかするとプレイヤーはこのゲームは自由度が低いなどと不満に感じるかもしれま せん。
 それを防ぐためにも、キーパーは紙に適当に実験室の絵を描き、その上にユニット(消しゴムでもダイスでもかまいません)を置いて、各人の位置関係をしっかり と把握させましょう。
 このことに注意しつつ、シナリオの誘導方法を利用すれば、かなりの確率でシナリオで望ましいとされている展開を実現することが出来るでしょう。

 ただ、それでも誘導が上手く行くかどうか不安な場合、キーパーは岡崎さゆりを利用して、手っ取り早く河野睦美を救出させてしまいましょう。
 これで、河野睦美が真っ先に救出されるという望みの展開が、容易に実現可能です。
 ただし、この展開ですと、NPCにイベントを操作されたという不満がプレイヤーに残るの可能性があるので、そのあたりは注意して下さい。
 できれば、河野睦美は探索者に助けさせることに越したことはありません。


28,奥山ハナ登場

 いよいよ最後の敵が正体を現し、すべての謎を「語る」というイベントです。
 本当ならこのようなイベントは無いに越したことはありません。しかし、シナリオ内ですべての情報と謎の解答を提示することが出来ない場合、やむを得なくこの ようなイベントを発生させることとなってしまいます。
 ただし、それは探索者がシナリオのすべての謎の解答を欲しているときの話です。
 もし、そんなことよりも、少しでも早くこのような神話的事件から解放されたいと探索者が望んでいるのならば、このようなイベントは必要ではないでしょう。
 そのような場合は、キーパーは「語り」を省略してもかまいません。誰も望んでいないのに「語る」NPCは、キーパーの自己満足にしか過ぎないからです。
 一方、もし探索者がシナリオの謎を知りたくてNPCの「語り」を期待しているのならば、それはこのイベントで十分に答えてあげるべきです。もしも、探索者が そのような態度を取るようでしたら、そのゲームは大成功であったとキーパーは自負して構わないでしょう。

 零落したヘビ人間との戦闘では、岡崎さゆりがこの怪物達に襲われるというイベントを発生させてみましょう。
 本来、零落したヘビ人間との戦闘は、戦闘力から言って、探索者のほうに分がある勝負です。
 そのため、下手をすると戦闘に緊張感が生まれない可能性があります。
 しかし、身を守る術のない岡崎さゆりが教われるというイベントを発生させれば、彼女を守らねばならないということで、緊張感を別のアプローチから高めること が可能です。
 探索者が簡単に死亡してしまうクトゥルフの呼び声において、戦闘の緊迫感を高めるには、単純な数値バランスではなく、こういった特別なシチュエーションに探 索者を置いたほうが効果的なのです。

 つぼみの中の赤子に対して、岡崎さゆりは中途半端な立場を取り続けます。
 その赤子が普通の人間ではないことには薄々気づいていますが、それでも彼女の目から見れば、無力で可愛い赤ん坊なのです。
 もし、探索者や田村淳一が赤子に手をかけようとした場合、彼女はそれを止めるような言動をとります。
 もっとも、覚悟を決めた探索者や、狂気に陥った田村淳一にとって、彼女の存在はさほどの障害とはならないでしょう。ただ、探索者が迷いながらも赤子に手をか けようとしているのならば、彼女の言動は、さらに探索者の心を惑わす効果的なものとなることでしょう。そうなれば、めでたくシナリオのクライマックスがひとつ 増えたというわけです。キーパーは探索者に十分に悩んでもらいましょう。


29,大団円

 これでシナリオはすべて終了します。
 クトゥルフの呼び声のシナリオの多くは、非日常的神話的事件から生還し、日常生活へ帰るというところで終了します。
 そのため、どうしても最後のシーンが地味になってしまうことが多いものです。
 キーパーは探索者にシナリオをクリアーした達成感を感じさせる工夫をするべきでしょう。
 探索者が守ったもの……例えば、助け出したNPC、自分たちの命、美しいこの世界、そういったものを再確認するようなシーンを最後に盛り込み、演出をするの です。
 ただ、これはシナリオに設定することが難しいものです。
 なぜなら、シナリオの展開や、各プレイヤーの価値観によって、自分たちが守ったものが何であるかというのは大きく異なると思われるからです。
 キーパーにはそのゲームでの探索者たちの言動に注意し、彼らがホッと胸をなで下ろし、日常生活へ戻れるような締めくくりの言葉を考えておいてもらいたいもの です。
 それでこそ、探索者もプレイヤーも、苦労して神話的事件を解決して良かったと思えるものです。


30,タイムスケジュール

 この項には、特にこのサプリメントで紹介すべきものはありません。



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