1,はじめに
このシナリオは1999年、二学期が始まったばかりの残暑厳しいHJ学園が舞台です。
シナリオの性質上、大人数のプレイヤーでのプレイにはむいておりません。PCの人数は最低ひとりの男性PCを含む、ひとりから三人ぐらいでプレイすることを
お薦めします。
もし、プレロールドキャラクターを選択する際には、「オカルティスト」や「ゴシップ屋」を選ぶと、シナリオで活躍できる場面が多くなるので良いでしょう。
また、あらかじめGMは適当な男性PCひとりを選んで、そのPCの父親がHJ学園の卒業生であり、また西野朋恵と同級生だったと設定しておく必要がありま
す。なお、これ以降、そのPCのことを「PC・A」と表記します。
2,シナリオあらすじ
最近、HJ学園では少女の幽霊騒動が起きています。
この幽霊の正体は、20年以上前にPC・Aの父親と同級生だった女生徒です。
彼女はPC・Aの父親と埋めたタイムカプセルが、約束した今年の夏になっても掘り出されないので、それを告げるために現れているのです。
やがて、その息子であるPC・Aは、少女にとり憑かれてしまい、なんとしても彼女の願いを成就しなくてはならなくなります。
しかし、タイムカプセルを探し出そうとするPCたちは、学園に恨みを持つイチョウの古木の霊に邪魔をされることとなります。
さて、PCたちは彼女との「約束の夏」を守ることができるでしょうか?
3,NPC紹介
・西野 朋恵(享年16歳)
長い黒髪と、悲しそうな眼差しの美少女です。ただし、幽霊として現れたとき、彼女は常に目を閉じています。イチョウの木の力によって、視力を奪われているの
です。
彼女は、いまから約20年前、PC・Aの父親たちと同級生でした。
PC・Aの父親たちと一緒に1999年の夏になったら掘り出そうと約束して、タイムカプセルを埋めてからまもなく、持病のためこの世を去りました。
しかし、彼女にとっては大切な約束だったそのことが心残りで、その魂は幽霊となってしまいました。
彼女は、これまでは静かに時を過ごしてきましたが、「約束の夏」になってもタイムカプセルが掘り返されないため、生徒達の前に姿を現すようになりました。
口調は古くさい丁寧なもので、常に沈んだような調子です。
・PC・Aの父親(約40歳)
PC・Aの父親で、HJ学園が、まだ八丈学園だったころの卒業生です。
細かい設定は、必要に応じてPC・Aのプレイヤーと相談して決定して下さい。
・イチョウの古木
樹齢百年を越える古木で、長い時を経て霊的な力を宿すようになりました。
四十年前、この木は学園の中心に位置していました。しかし、校舎の増改築が進むにつれて、学園の中心だったこの場所も、いつしか学園裏の焼却炉が置かれてい
るような寂しい場所となってしまいました。
さらに、その焼却炉からのゴミによってイチョウの木の根は埋められ、そのことで木は学園の人間に対して強い怒りをおぼえています。その復讐のため、西野朋恵
の魂を喰らって強い力を得ようとしているのです。
4,セーラー服の幽霊
シナリオは夕暮れのHJ学園からスタートします。
いつものように、窓のそばで友人たちと話していたPC・Aのところへ、はらりと一枚の黄色く紅葉したイチョウの葉が舞いおります。そして、その時、どこか遠
くに「忘れていませんか?」という女性の声を聞いた気がするのですが、不思議なことに、その声の主らしき人物はどこにもいません。
そのイチョウの葉を調べて、<生物学>のロールに成功すれば、これが押し花などではなく、最近に紅葉したイチョウだということがわかります。まだ秋は先の話
だというのに、これはとても奇妙なことです。
その翌日、PCたちの友人の噂好きの女子生徒の大沢はるな(ルールブック55ページ参照)から、以下のような話を聞きます。なお、彼女は噂話を人にするのが
大好きなので、たとえPCたちが嫌がっても無視して話を続けます。
「最近、夕方の学校で女子の幽霊がでるんだって。見たこともない制服を着ているから、たぶん他校の生徒だと思うんだけど……なんでも、夕暮、何人かで学園を一
緒に歩いていると、『忘れていませんか?』って後から呼び掛けてくるんだって。
で、ふりかえってみると、すごい美少女が立っているんだけど……その姿をよく見てみると、幽霊定番の足が無いってわけなのよ。まあ、その人は、それで恐く
なって逃げ出しちゃったらしいんだけどね。結構、同じような幽霊を見たって人もいるのよね〜」
と、大沢はるなは非常に興味ひかれている様子です。
もし、PCが興味を持って幽霊のことを調べれば、目撃者から情報を得ることができます。ただし、この時点でGMからはプレイヤーに幽霊のことを調べるよう誘
導しなくてかまいません。
プレイヤーが特にしたいことがないようでしたら、GMはテンポよく日を進めていきましょう。シナリオが進めば、嫌でもPCは事件に巻き込まれるので、本格的
な調査をさせるのはそれからでも遅くありません。
5,目撃者からの情報
もし、PCが幽霊について調べた場合、主に目撃者たちから、以下の情報が得られます。
(1)少女は自分たちと同じ高校生ぐらいの年格好。地味な(ダサイ)セーラー服を着ていた。
(2)幽霊だけあって、膝から下が透けていてた。幽霊は美人だけど、目を閉じていて、とても悲しそうだった。
(4)少女は「忘れていませんか?」と言っていた。
(5)勇気を出して、「なんのこと?」と聞き返したら、悲しそうに「あなたはあの人じゃない」とつぶやいてすぐに消えてしまった。
(6)幽霊の消えた後には、黄色く色づいたイチョウの葉が落ちていた。
学園で幽霊の目撃者を探すのは、クラスをひとつひとつあたっていけば簡単です。目撃者の数は調査開始時期によっても変わりますが、シナリオ開始時ですでに五
回ほど目撃されています。
最初の目撃はいまから約二週間ぐらい前で、それから、だいたい一日おきのペースで出現しています。
幽霊はすぐに姿を消してしまうため、これ以上くわしいことを目撃者から聞き出すことはできません。外見については、イラストを参照してだいたいの説明(スト
レートの長髪だったなど)をしてあげてください。ただし、似顔絵が描けるほど、くわしく顔を覚えている目撃者はいません。
また、目撃者たちが幽霊に出会った状況を詳しく聞けば、例外なく五時四十五分から六時までの学園の敷地内、生徒がX人(PCと同じ人数。もし、PCと特別仲
の良いNPCがいれば、その人数をプラスしてもよいでしょう)でいる時に限って幽霊は出没していることがわかります。
(6)のイチョウの葉については、葉を保管していた生徒にその葉を見せてもらえば、シナリオスタート時にPC・Aの前に舞いおりたものと同様のものだと言うこ
とがわかります。しかしながら、この時点では、イチョウについて調べても、学園内には無数にイチョウの木はあるので有用な手掛かりにはなりません。もちろん、
現在、紅葉しているようなイチョウの木もありません。
キーパーはPCたち学園生活風景に織り交ぜながら、これらの情報を小出しにしていってください。いろいろな人に出会うであろうこのシーンは、プレイヤーに
ゲーム世界の雰囲気をつかんでもらう良い機会だからです。
6,変わる目撃談
前の項で、PCが幽霊に関心を持つ、持たないに関わらず幽霊の出没は続きます。
そして、日数が経つにつれて、幽霊の目撃談に食い違いが発生してきます。
(1)いままで悲しそうな顔をしていただけの幽霊が、最近ははっきりと涙を流していること。
(2)膝ぐらいまでは身体がはっきり見えていたののに、最近は腰ぐらいまでしか見えなかったこと。
(3)いつものお決まりの台詞が「忘れていませんか?」から「忘れてしまったの?」に変わっていること。
積極的に幽霊を調べているPCならば、最近の目撃者からこの話は聞けますし、まだ興味を持っていない場合は、例によって大沢はるなが幽霊最新情報と称して報
告をしにきてくれます。
そして、これらの情報が出そろった頃合いを見計らって、GMは次のイベントを発生させてください。
7,最初の犠牲者
とうとう幽霊の仕業によるものらしい犠牲者がでました。
この話は学園内で大きな騒ぎになっているので、PCも大沢はるなを通じて、すぐに耳にすることができます。
その時の状況は以下の話のとおりです。下記の台詞の中で「○○さん」となっている部分は、PC・Aの名字が入ります。以降、シナリオ中、○○と表記されてい
る場合には、PC・Aの名字が入ると考えて読み進めてください。
「その生徒は幽霊の噂なんか気にしないで六時ちょっと前にX人(PCと同じ人数)で校門を出ようとしたんだって。そしたら、やっぱり例の幽霊が出て『忘れてし
まったんでしょう? ○○さん……』って、涙を流した悲しそうな顔で聞いてきたんだって。
で、その生徒は、自分は○○なんて名前じゃないって答えたんだけど……それを聞いた幽霊は突然、苦しそうな顔をして『なぜ来てくれないの……今年が約束の夏
なのに……』って言い残して消えてしまったんだって。そしたら、突然、突風に乗ってイチョウの葉っぱが飛んできて、そこにいる生徒達の服とか手とかが、かまい
たちにやられたみたいに斬られたんだってさ。きっと、これって幽霊のたたりだと思うな。
あれぇ、そういえばあんたの名字も○○よね……あんた、なんか女の子に恨みを買うようなことしたの……ははっ、なんてね」
なお、その犠牲となった生徒に直接話を聞きに行けば、風が吹いたとき、なんだか焦げ臭い嫌な匂いがしたと語ってくれます。
8,狙われたPC
最初の犠牲者が出た日の翌日。
またまた、大沢はるながPC・Aのところまでやってきますが、今度はなんだかいつもの元気が無く、申し訳なさそうな顔をしています。
そして、やがて意を決したように以下の話をします。
「実は、昨日、知り合いを集めて幽霊見物をしにいったのよ。で、噂どおり、幽霊には会えたんだけど……私が会ったとき、身体は腰から下は全部透けていてね、な
んだか悲しい顔っていうよりも、とっても苦しそうな顔をしていたの。
でね、あんまり幽霊がかわいそうだから、ついつい、あたしの友達に『〇〇』って人がいるって教えちゃったのよねぇ。
ほら、あたしって困ってる人をほっとけない性格なもんだからさぁ……もし、なんかたたりでもあったらごめんね。先にあやまっとくわ」
と、素直に謝ります。
ちなみに、その後、幽霊は何も言わずにすぐに消えてしまったそうです。
さて、大沢はるなの親切のおかげで、この日より、PC・Aのまわりでは不可解な現象が続発していきます。
例えば、いつのまにかノートに「忘れていませんか?」と女性の筆跡でかかれてあったり、鏡に映る自分の顔が、一瞬、悲しげな少女の顔に見えたり、ウォークマ
ンなどから「忘れていませんか?」という少女の声が聞こえたりなどなど、いわゆる超常現象が発生します。そして、その言葉の内容は時が経つにつれて、「忘れて
いませんか?」から、「忘れてしまったの?」「忘れてしまったんでしょう?」「約束の夏はもうすぐおわるのに」へと変化していきます。
なお、この変化はだんだんと何からの状況が進行していることを伝えるための演出なので、時期に関わらず「忘れていませんか?」からスタートさせて、すぐに次の
言葉へと変化させていってください。
さらに、PC・Aは超常現象が始まってから、毎晩、少女に悲しげに上記のような台詞をささやかれるという悪夢に苛まれ、一晩毎に1ポイントの正気度を失って
いきます。俗にいう、とり憑かれたという状態です。そして、朝起きると、例によって紅葉したイチョウの葉が枕元に落ちていることもあります。
また、この悪夢を見続けると、日がたつにつれて悪夢に登場する少女の身体が希薄に弱々しくなっていくような気がします。
この頃になれば、PCも本格的に幽霊に興味を持って、なんとかしなければと思うようになるでしょう。
9,幽霊との対面
PCが西野朋恵の幽霊に出会いたいと考えた場合、以下の条件を満たす必要があります。
・HJ学園の敷地内で待つ。
・幽霊を待っている人数がX人(PCの数と同数)であること。ちなみに、この人数に幽霊がこだわるのはタイムカプセルを一緒に埋めた友達の人数だからです。
・全員が西野朋恵と年齢が近いこと。
・時間が五時四十五分から六時までであること。この時間も、タイムカプセルを埋めた時間です。
この条件を満たしていれば、PCたちの前に西野朋恵は現れます。
古くさいセーラー服を来た、地味な感じのする長髪の美少女です。幽霊らしく暗く悲しげな表情で、なぜか目は閉じたままです。
初めて西野朋恵の幽霊に出会ったすべてのPCは《正気度》ロール(正気度喪失0/1D6)を行います。
なお、西野朋恵の姿と台詞については出会った時期によって違います。
シナリオ開始直後は膝の上までの姿で、台詞は「忘れていませんか?」です。
『6,変わる目撃談』のイベント以降では、両足が見えなくなり、台詞は「忘れてしまったの?」に変わり、『7,最初の犠牲者』のイベント以降では、腰のあたり
まで透けて、台詞は「忘れてしまったんでしょう?」となります。
彼女の制服などを注意してみれば、スカーフを止める部分に「H」という刺繍がしてあるのがわかります。PCがそういった行動を気付かない場合、<アイデア>
のロールに成功すればそのことに気づいたことにしても良いでしょう。
彼女とはほとんど会話をすることはできません。
ただし、もし、PCが彼女に「〇〇さん」と呼び掛けられたときに、自分がその「〇〇さん」だという意味合いの返事、もしくは、「○○さん」は自分の父親だと
いう意味合いの返事をすれば、「なら、なぜ来てくれないの? X年(PCの父親の年齢から16を引いた年数)も待っているのに、もうすぐ約束の夏は終わってし
まうわ」と、とても苦しげな顔をして消えていきます。
その後、突如、イチョウの葉を巻き込んだ突風が吹き荒れて(たとえ室内でも)、その時に発生したかまいたちによって、PCたちは全員1D4−1のダメージを
受けます。
西野朋恵と出会えば、「X年も待った……」という重要なキーワードを手に入れることになり、シナリオは大きく進展することでしょう。
よって、このイベントは『8,狙われたPC』での大沢はるなのイベント以降に発生させたほうがシナリオの展開上はよいでしょう。
もしも、プレイヤーが冴えていて、シナリオ開始早々に幽霊に出会う条件を調べあげ、西野朋恵と対面しようと考えた場合、GMはダイスを振るフリをして「残念
ながら、今日は会えなかったみたいだね」とでも告げて、幽霊と出会う時期を調整してください。
ここで重要なのは、プレイヤーたちに自分たちのやり方が間違ってはいないのだが、ダイス運のせいで幽霊に会えなかったのだと印象づけることです。
10,あの子は誰だ?
PCが西野朋恵の正体を調べる手掛かりは、彼女のこの辺では見かけないセーラー服と、学園の図書館に所蔵している卒業アルバムです。
刺繍の形などを手掛かりに西野朋恵のセーラー服について調べてみれば、古くから学園にいる教師や、用務員のおじいさん(ルールブック55ページの飯島清吉の
設定をそのまま使うとよいでしょう)から、その制服がHJ学園がまだ八丈学園だったころの旧制服だという情報を得ることが出来ます。これで、彼女が昔のHJ学
園の生徒だということがわかるでしょう。
また、学園の図書室などで卒業アルバムを探せば、幽霊の少女とよく似た、西野朋恵という名の女子生徒の写真を見つけることが出来ます。ただし、その写真の少
女は目を開いています。
この方法でも、古いアルバムを見れば、彼女のセーラー服がHJ学園の旧制服と同じ物だと気付くでしょう。
ただし、なんのあてもなく膨大なアルバムを探すのは大変な労力と注意力が必要なため、八時間ほど時間をかけて調べた後、<図書館>のロールの1/2倍に成功
させなくてはなりません。
もし、西野朋恵から「X年も待った……」という台詞、もしくは西野朋恵の同級生だったPCの父親の卒業した年を参考にして、その頃のアルバムを重点的に調べ
れば、一時間ほど時間をかけて調べた後、<図書館>のロールの2倍に成功させれば西野朋恵の写真を発見することが出来ます。
ただし、彼女の写真は、卒業記念の集合写真で隅に丸いはめ込み写真となっているため、このことから彼女が卒業の前に死去したことがわかります。
また、西野朋恵の載っているアルバムを発見すれば、同時にPCの父親の名前を発見し、彼女と父親が同級生だったことに気付きます。また、当時の父親の写真を
見ると、息子であるPC・Aとよく似ている気がします。
11,父の思い出
勘の良いプレイヤーなら、西野朋恵の「○○さん」という呼びかけから、自分の父親が関わり合いがあるのではと考えるでしょう。もちろん、PCは父親がHJ学
園の卒業生だということを知っていてかまいません。
しかし、PCがただ幽霊の話をしただけでは、父親はその幽霊の少女と西野朋恵を結びつけることはしません。何のことやらと首をひねるばかりです。
ただし、PCが幽霊の正体が西野朋恵であることを突き止め、彼女の名前とアルバムの写真を父親に突き付けられれば、やがて高校時代の彼女にまつわる出来事を
思い出し、感慨深そうに以下のことを語ります。
「そういえば、私がおまえと同じ年の頃、今年みたいな暑い夏休みに西野さんと友達何人かで校庭のどこかにタイムカプセルを埋めたっけな……1999年の夏に
なったら、これを掘り出そうって約束してな。そうかあ、あのころは99年なんて遠い未来の話だと思ってたのになぁ」
「でも、それからすぐに、もともと体の弱かった西野さんは持病が悪化してな……秋が来るのを待たずして、この世の人ではなくなってしまったんだ」
しかし、肝心のタイムカプセルの埋めた場所は、どうしても思い出せません。増築や改築などで、すっかり学園の様子が変わってしまったためです。
また、一緒にタイムカプセルを埋めた当時の友達のことも離ればなれになってから久しいので、名前や住所は思い出せません。
12,タイムカプセル
何十年も前に埋められたタイムカプセルを探すのは至難の業ですが、方法がないわけでもありません。
以下に考えられる手段の例をあげておきますが、PCが他に妥当な手段を考え付いた場合は、もちろんそれを採用してもかまいません。
・昔の資料を捜す
当時の学園の敷地図や写真などの昔を想いださせる資料を集めれば、薄れてしまった父親の記憶を呼び戻すことができます。なお、それらの資料は学園の図書室や
資料室などを調べれば手に入ります。
それらの資料を元に、父親と一緒に学園内をじっくり捜せば、タイムカプセルの埋めた場所は判明します。
・ダウジング占い
ちょっと非科学的な手段ですが、このゲームでは立派な捜索手段のひとつです。
大きな書店や、規模の大きな図書館などで失せ物探しの占いについて丸一日をかけて調べ、<オカルト>のロールの1/2倍に成功するか、学園のオカルトマニア
(ルールブック54ページの『水城志弦』の設定をそのまま使うと良いでしょう)に手伝ってもらえば具体的なやり方はわかります。ルール的な判定はダウジング占
い(ルールブック47ページ)を参照してください。なお、タイムカプセルの受動能力値は25です。
もし成功すれば、タイムカプセルの埋めた場所を限定することができます。
タイムカプセルは学園裏の焼却炉の脇に生えるイチョウの古木の根元に埋めてあります。このイチョウは、20年以上もの間、動かされることなく当時と同じ場所
に現在も残っています。
現在、このイチョウの木はほとんど枯れてしまっており、夏だというのにまったく葉もつけていません。そのため、学園のほとんどの人はこの木がイチョウだとい
うことにすら知りません。<生物学>のロールの2倍に成功すれば、この木がイチョウであり、かなり弱っているがまだ生きていることがわかります。
なお、その木の根元には焼却炉で出た灰に混じって、焼けこげた不燃性のゴミなどが積み上げられています。
13,イチョウの古木
ゴミをかき分け、イチョウの木の根本を掘り返せす作業を三十分ほど続ければ、油紙で包まれた何かを掘り当てます。
これが、西野朋恵とPCの父親が埋めたタイムカプセルです。
しかし、PCたちがその何かを取り出そうとすると、イチョウの木がざわざわとざわめき始めます。
あたりに不吉な風鳴りが響きわたり、夏だというのに黄色く紅葉したイチョウの葉がどこからか現れて、PCたちのまわりを渦巻きます。
そして、そんな中、西野朋恵の幽霊が姿を現します。
その姿はイチョウの木に下半身を飲み込まれているように浮かび上がり、その表情には悲しみというよりは、苦悶の色を浮かべています。
また、目の錯覚かイチョウの古木の幹が奇妙なうねりを見せて、まるで憤怒の表情を浮かべる老人の顔のように見えてきます。そして、その口に西野朋恵は飲み込
まれようとしているように見えるのです。
西野朋恵は、
「約束の夏……この木に誓った……約束の夏。忘れてしまったの、○○さん?」
と、うなされるようにつぶやいています。
イチョウの葉の渦はどんどん勢いを増していき、風は肌を切り裂くほどで、PCたちは完全に渦の中に閉じこめられてしまい、タイムカプセルに近づくことも、こ
の場から逃れることもできなくなってしまいます。
さらに、イチョウの葉の一枚一枚に人の顔の形をした染みが浮かび上がり、西野朋恵の口を借りてしゃがれた老人の声が聞こえてきます。
「この娘は裏切られ、私は虐げられた。私は娘の魂を喰らい、この怒りを貴様らに……約束の夏など来ない。私達は忘れられたのだ!」
この超常現象に遭遇したPCは《正気度》ロール(正気度喪失1/1D4)を行います。また、この時、<オカルト>のロールに成功すれば、これは古木に宿る霊
が、西野朋恵の魂を利用してこのような強い力を発揮しているのだとわかります。
この危機的状況を脱するには、西野朋恵にとっての「約束の夏」を成就させる必要があります。それはつまり、タイムカプセルを掘り出すことです。
PCが渦巻くイチョウの葉の中を突き進んで、木の根元にタイムカプセルを手にするためには<STR>の対抗ロールを行う必要があります。渦巻きの受動能力値
は12です。 もし、複数のPCが協力して渦巻きへ突入を試みるなら、挑戦するPCの中で一番<STR>が高いPCが代表してロールをします。その際、協力し
ているPCの人数と同じポイントのボーナスを得ることができます(つまり、二人で突入するなら+1、三人なら+2といった具合です)。
物語的にはPC・Aが先頭に立って、他のPCたちが協力して渦の中へ突入するといった展開が望ましいでしょう。
渦巻きの中に突入するPCたちのまわりには、人の顔が浮かび上がるイチョウの葉がまとわりつき、以下のような叫び声をあげ、PCたちの肌を切り裂いていきま
す。
「この小僧どもが……学園よりも長い時を生きた私を汚し続けた報い……いまこそ、受けるがいい!」
ここで、<STR>の対抗ロールに成功すれば、PC全員はヒットポイントに1D4のダメージを受けますが、タイムカプセルの所まで行き着くことができ、土の
中からタイムカプセルを取り出すことができます。
もし失敗すれば、PC全員は1D4のダメージを受けた上、突風にはじき飛ばされてタイムカプセルの所まで行き着くことはできません。ただし、再度の挑戦は可
能です。
14,約束の夏
PCがタイムカプセルを西野朋恵に手渡せば、イチョウの葉の渦巻きは急に弱くなります。
そして、西野朋恵は閉じていたその目を開くと、イチョウの木の幹から身体を抜け出してPCたちの前に立ち、嬉しそうにこう言います。
「ありがとう、おぼえていてくれて。約束の夏を、私の夏を……」
そして、そっとタイムカプセルに手を寄せると、そのまま姿が薄らいでいきます。
「さようなら、みんな……さよなら、○○さん……」
最後に、初めて西野朋恵の口から嬉しそうな声を聞くことができます。
タイムカプセルは油紙で幾重にも厳重に封をされた年代物のブリキの缶でできています。その中身は、当時の写真や、雑誌、お決まりのテストの答案などといった
他愛のないものばかりです。ただ、中に油紙に丁寧に包まれた和封筒が入っています。差出人は「西野朋恵」となっており、宛名はPCの父親の名前です。
封を開けるかどうかは、PCの自由です。
手紙の内容を読めば、当時、病弱だった自分に優しく付き合ってくれたPCの父親をはじめとする友人達へのお礼が書き綴られています。そして、最後の一文は、
「1999年、約束の夏に○○さんと一緒にこの手紙を読めたら嬉しいです」
と、しめられています。
西野朋恵がどんな気持ちで、この手紙をしたためたのか……その判断はPCたちに任せることにしましょう。
この手紙をPCの父親に渡せば、涙を浮かべながら、
「どうやら、私は大切なことを忘れていたようだ……すまなかった、朋恵さん。ほんとうに、すまなかった」
と呟き、手紙を前にうつむきます。
そして、
「今度、墓参りに行こう。おまえはあったことのない人だが……きっと、あの人は喜んでくれるはずだ」
と、息子のPCの肩を叩きます。
もし、まだ内容を読んでいないPCが読ませてほしいと願うなら、快く父親は手紙を見せてくれます。
15,大団円
こうして、HJ学園を騒がした幽霊騒動は終わります。
肝心の西野朋恵が現れなくなったため、やがては生徒達もこの事件のことは忘れてしまうでしょう。
後日談として大沢はるなから、学園の焼却炉と、イチョウの根本にあった燃えカスからからダイオキシンが検出されて、焼却炉が使用禁止になったという話を聞く
ことができます。
大沢はるなは、
「『だいおきしん』ってのはさぁ、ベトナム戦争の枯れ葉剤って爆弾にも使われたっていうアブない猛毒らしいのよ。最近、いろんなところの焼却炉から見つかって
てね、やばいらしいよ」
と、どこからか聞きかじってきた知識をひけらかします。
もしかすると、あのイチョウの古木が弱っていたのも、ダイオキシンが原因だったのかも知れません。
とにかく、焼却炉は閉鎖され、イチョウの根本はきれいに掃除されたので、二度とこんな事がおきるようなことはないでしょう。
西野朋恵のために、彼女の「約束の夏」を成就させてあげたPCたちは報酬として1D4点の《正気度》を得ます。また、イチョウの葉の渦を越えてタイムカプセ
ルを彼女に手渡したPCは、ボーナスとして、さらに1D4点の《正気度》を得ます。