これでシナリオは終了です。
探索者は祥子を助け出すことができたでしょうか。そして、ヒルコは?
ヒルコはともかく、祥子を無事に助け出すことさえできれば、このシナリオは完全に成功したことになります。報酬として正気度ポイントを1D10+1D8を獲
得します。
もし、祥子を助け出さず(出せず)にツァトゥグアから逃げ帰った場合は、報酬として正気度ポイントを1D8を獲得します。万が一、探索者が途中で事件を投げ
出してしまった場合には、正気度ポイントの獲得はありません。
ヒルコを持って帰った場合、その処分は探索者に任されます。
シナリオ中に出てくる情報では、ヒルコの正体を暴くのは非常に困難です。ヒルコの処置に探索者が悩んでいるようでしたら、キーパーは祥子か静江の口から、
「そのようなものは、海の底にでも沈めてください」とでも言わせれば、探索者も無駄な悩みを抱えないですむでしょう。
もし、探索者がヒルコをなんらかの手段で破壊したとしても、世界各国にイホウンデー神官が運んだ生命の種は残っています。そして、ヒルコたちは人類滅亡後に
栄えるとされている鞘翅類(カブトムシ)となるのです。
余談ですが、未来においてこの生物達は千匹から六千匹の巨大な群れをなして活動しています。イス人の精神は、このカブトムシ一匹ずつに移ったのではなく一個
の精神が群れ全体に移ったのです。
いままでは、この生物は群れをなして行動するだけの下等生物でしたが、イス人の精神が移ったことによって大きく進歩し、群棲動物でありながら一個の精神と柔
軟な自由意志を持つような存在へとなったのです。
このカブトムシの群れはイス人にとっては理想に近いものでした。
アブホースの性質を受け継いでいるので旺盛な繁殖力を持っており、個々の肉体的脆弱さを群生として生きることによって補っているのです。しかも、群生生物と
してはかなり完成された生物である珊瑚などよりも優れている点に、自ら移動することができるというものがあります。これにより、自然災害に対しても珊瑚などよ
り格段に強いのです。
生態系に組み込まれていないため天敵の存在もなく、イス人の高度な科学力を手に入れたカブトムシは地球的な環境の変化 (イス人にすらコントロール不可能な
ほどに激しい惑星規模の環境変化)がないかぎり繁栄し続けることでしょう。
すべてはイスの偉大なる種族の計画通りに運んだのです。
さて、ではツァトゥグアは、なぜヒルコを欲したのでしょうか。
無原罪の魂という珍味を味わいたかったためかも知れませんし、魔術的な存在を否定する生意気なイス人の計画を邪魔しようと考えたのかも知れません。
最も有力な説は、単なる気紛れからといったところでしょうが……(神とはそんなものです)
なにはともあれ、こうして野中家と探索者を巻き込んだ事件は終了しました。
いまでもイスの偉大なる種族の計画は進行中ですし、ン・カイではツァトゥグアが惰眠し、アブホースは落し子を生み続け、そして喰らい続けています。地球全体
の流れから見れば、何も変化はなかったかのように見えます。
地球の隠された真実の歴史に関わった探索者が成しえたことは、結局、一人の女性の命を助けることだけでした。
ですが、これを大きな成果と考えるか、小さな成果と考えるかは探索者次第なのです。
クトゥルフ神話に関係する一連の小説の登場人物たちと同様、シナリオの主人公である探索者たちは隠された謎のすべて明らかにすることはできないでしょう。地
球の隠された歴史は、通常の人間(探索者を含む)にとって、あまりにも理解しがたいものであるからです。
普通にプレイするのならば、探索者にとってこのシナリオは、ツァトゥグアへの生け贄を捧げようとする狂信者から美しい女性を守るという単純なストーリーに映
ることでしょう。
イホウンデー神官や隠れキリシタンといった要素は、ストーリーの味付けと狂信者の動機づけ、それを探索者が知るまでの経緯として加わっているのだと思うはず
です。
大掛かりなストーリーとプレイが楽しいシナリオとは別個のものですので、これは正しいことです。「シナリオ背景」でキーパーに与えられた情報は、あくまでシ
ナリオの背景であってシナリオの中心ではありません。
膨大な情報と謎をキーパーから聞かされるだけのシナリオは、多くの人にとっては不可解で退屈なものとなってしまうものです。キーパーはプレイヤーに恐怖とス
リルある探索を与えるのが最も大切なことであり、その探索のスパイスとして背景はあればよいのです。スパイスのきいていないゲームは味気ないものですが、きき
すぎたゲームはくどくなってしまうものです。
ただ、RPGとして考えてみると、最後まで明らかにならない謎があるというのに納得できないキーパーやプレイヤーもいることでしょう。
さきほども述べたように、このシナリオを普通にプレイするだけではシナリオ中に登場する謎をすべて消化することはできません。
ハイパーボリアの滅亡の物語、イス人の秘密、古事記や聖書、どれ一つを取っても一口では語れない情報量です。このすべてをシナリオ中に詰め込んでしまっては
円滑でおもしろいゲームをマスタリングすることは不可能になります。
ある程度、明確にならない情報や謎があったほうが物語に深みを持たせますし、すべての事実が明らかになってしまうと、せっかくの謎が色あせてしまうこともあ
ります。物語をおもしろく感じさせるには、このシナリオで判明する情報程度でちょうど良いと著者は考えています。
事件を解決するための情報と、真相の一端を知るだけの必要な情報は、シナリオ中に提供されているはずです。
後はシナリオ中に探索者が得た情報からプレイヤー自身の知識や判断によって、様々な推論を出せば良いことです。
もちろんプレイが終了してからならば、キーパーはプレイヤーの推論が正しいかどうかを教えたり、シナリオ背景を参考に物語の真相を明らかにすることも自由で
す。プレイヤーには何も教えないで、すべてを謎のままにするというのもキーパーの密かな喜びでしょう。
このあたりは、すべてキーパーの裁量に任されていることです。