シナリオ本文


1,シナリオへの導入

 このシナリオでは、一般人であるはずの探索者が偶然に神話的事件に巻き込まれるという形になっているので、自然に探索者がゲームに参加できるよう、導入の仕 方が二種類用意されています。
 キーパーは探索者の職業や性格に合わせて、このふたつを使い分けてください。

[導入A,野中祥子との出会い]
 ここでは、探索者は事件の重要人物である、野中祥子(のなかしょうこ)と知り合いになります。
 この導入は、正義感の強いタイプの探索者に向いています。また、大学生や大学教授という探索者ならば、祥子とは大学の知り合いだという設定にするのも良いで しょう。

 探索者は夜の繁華街を歩いていると、祥子にしつこくからんでいる男、荒井嘉次(あらいよしじ)に出くわ します。
 荒井はかなり酔っ払っているようで、祥子になにやら囁きかけています。 《心理学》か《アイデア》に成功すると、どうやら二人は知り合いのようだとわかりま すが、同時に祥子が荒井を本気で嫌がっていることもわかります。
 荒井は、「祥子ちゃん、そんなに邪険にしなくたって……もしかすると、僕達は結婚することになるかもしれないんだよ」などと、言っています。
 探索者が祥子のことを助けようとすれば、気の弱い荒井は酔いが冷めたような顔をして、祥子と探索者にぺこぺこ謝りながら、すぐに逃げ出してしまいます。彼の ことは、女好きで、情けない男であるとプレイヤーに印象づけるようマスタリングしてください。
 もし、探索者が祥子を助けようとしなければ、祥子は強引に荒井から逃げようとします。それを追いかける荒井は酔っ払っているため足取りが不確かで、探索者に 正面からぶつかってしまいます。酔っ払っている荒井は、ぶつかった探索者に因縁をふっかけてから、ぶつぶつ呟いて、どこかへ行ってしまいます。所詮は酔っ払い なので、探索者に因縁をふっかけている間に、祥子のことはすっかり忘れてしまったのです。

 どちらにしても(後者の場合は勘違いして)、祥子は探索者に助けられたことを感謝します。
 祥子は、「あの人は、荒井さんと言って、父の古い友人で主治医さんなんです。いつもはああじゃあないんですが……今日は、ずいぶんと飲んでらっしゃるみたい で」などと、荒井のことを弁護します。
 詳しく聞かれると、荒井とは偶然この繁華街で会っただけだと説明します。

 祥子をよく見てみると、なんとなく日本人ばなれした、白人のような感じの顔をしています。彼女の顔を見て、《人類学》×3か《考古学》に成功すれば、祥子の 顔つきから、彼女にはヨーロッパ北部の古いコーカソイドの血が入っているのではと思います。ですが、このように古いコーカソイド系の特徴を表わしているのは珍 しいので、偶然、そのように見えるだけだろうとも思えます。なぜなら、本場のスコットランド地方でも、ゲルマン系の血に押されてここまで純粋な血統は残ってい ないからです。
 むろん、これは常識的に考えればのことで、探索者自身がこのことをどのように考えるかは自由です。
 先の技能に成功した探索者が、さらに《人類学》か《考古学》に成功するれば、祥子の顔には純血のコーカソイドとも違った、現代のどの人種とも当てはまらな い、もっと古い血を感じます。
 これは、祥子が古代に日本に逃れたイホウンデー神官の血をひいているためです。

 このことをきっかけに祥子と探索者は知り合いとなります。探索者が祥子と同じ大学の教授や学生だった場合は、より親しい友人となるでしょう。
 彼女は礼儀正しいお嬢様といったタイプですが、親しい友人となれば、くだけたところもある一緒にいて実に楽しい女性です。

[導入B,奇妙な声]
 探索者は路地を歩いていると奇妙な声を聞きます。
 それは怪物に喰われつつある、荒井の断末魔の声です。
 美川はツァトゥグアの求める生け贄の情報を集めるため荒井を呼び出し野中の秘密を聞き出そうとしました。ですが、荒井が何も知らないことを知ると、美川は怪 物を使って口封じのために荒井を殺害します。
 この時の荒井の断末魔の声を偶然、探索者は耳にするのです。

 どのような探索者にも使用できる導入ですが、探求心の強いタイプの探索者に特に向いています。探偵、超心理学者、新聞記者といった探索者が適当です。逆に、 シナリオへの押しとしても使用できる導入なので、事件に参加しにくいような職業の探索者にも向いています。

 探索者は人気の無い細い路地道を歩いています。時間はいつでも構いませんが、なるべくなら夜が良いでしょう。
 すると、雨でもないのに水溜りに足を踏み入れます。
 よく見てみると、その水溜りは血で、血溜まりの中には一冊の本が落ちています。
 タイトルは「大和創世記」とあります。
 これは、しつこく迫る美川に荒井が頭にきて、突っ返そうと持ってきたものです。
 本を拾い上げてよく見てみるのならば、文庫サイズの薄っぺらいもので、どこにも出版社名が無いことから個人による自費出版の本だとわかります。奥付を見てみ れば、最近に出版されたものだということもわかります。
 本の作者の名前は美川満男(みかわみつお)です。この美川の名前を聞いて、《考古学》か《知識》1/5 に成功すれば、その人物がマイナーな民俗学者であることがわかります。
 いまはじっくりと読んでいる暇はありませんが、読んでみれば、内容は隠れキリシタンに伝わる日本独自の変化を遂げた聖書の収集資料であることがわかります。 作者による考察文などはなく、収集された聖書の内容以外のことはほとんど書かれていません。
 その中の冒頭にある聖書の抜粋(資料1)を読んだ探索者は、《歴史》か 《知識》1/2に 成功すれば、この内容が日本のキリシタンの聖書である『天地始之事』に似てはいるが、古事記の一節にあるイザナギ、イザナミの国生みが混ざりあった奇妙なもの だと思います。

 そのすぐあとに探索者は、道に置かれたポリバケツのほうからゴボゴボという泥水が泡立つような音と奇妙な声を聞きます。
『汚泥が泡立つような不快な音の合間に声を聞いた。
「私は……関係ない。ヒルコなんて……知らないんだ!」
 その声は、まるで溶け出した声帯から無理矢理搾り出すような、無気味にくぐもった声だった』

 排水口のほうを見ようとすれば、排水口の溝に黒っぽい液体がズルズルと流れ込んでいるのが見えます。
《アイデア》に成功すれば、流れるというより吸い込まれているという感じがします。さらに、《アイデア》1/5で成功すれば、まるで、その液体自体が生きてい るのではなどという考えに捕われます。
 この液体は、ツァトゥグアを信仰する無形の落し子の亜種です。
 排水口を覗こうとすれば、下水の底に巨大な目が見えた気がします。
『その目は人間のものよりもはるかに大きく、最初は白い皿かとも思えた。充血し桃色をした白目と、どん欲な瞳を 持つその巨大な目は、こちらが気づくと、すぐに消えてしまった』
 この巨大な目を見た探索者は、0/1正気度ポイントを失います。

 もし、探索者が排水口の蓋を開けて中を調べれば、下水の底に靴が見つかります。靴を拾い上げてみると、その靴の中には足首が残っています。これを目の当りに した探索者は1/1d3正気度ポイントを失います。
 足首の傷を調べて、《アイデア》《医学》《生物学》のどれかに成功すれば、足首の傷が生物に噛み切られたような形状をしていることがわかります。また、《生 物学》に成功すると、その歯形が肉食動物のものではなく、草食動物のような臼型の歯を持った生物のものだとわかり、それが人知の生物のどれにも当てはまらない 形をしているのに気づきます。そのことに気づいてしまった探索者は0/1正気度ポイントを失います。

 大量の血痕か足首のことを警察に通報すれば、警察は大掛かりな捜査を開始します。通報した探索者がその場に残っていれば、第一発見者として現場に残ることを 許されます。その他の一般人は現場への立入りは禁止されます。
 現場に残った探索者は、警察が排水口の奥に残された、ぼろぼろの背広の上着の断片を発見するのに立ち会います。背広には「荒井」という縫い取りがしてありま す。
 探索者は背広のことや荒井という人物について、いろいろと聞かれます。警察は一応は探索者のことも容疑者と疑いますが、すぐに疑いを晴らします。
 血痕から推測するに、加害者は相当の返り血を浴びているはずだと判断したからです。

 翌日の新聞には、残虐なバラバラ殺人事件として報道されています。三流新聞には、『都会の下水に巣くう、巨大白ワニの仕業か?』などという疑わしい記事が 載っています。ですが、この新聞の記者は検死官から、死体の傷口にあった歯形はどう考えても生物のものだという話を聞いて記事に書いたもので、実は、この事件 の新聞記事の中では最も正しい事実を報道しているのです。

【事件の予感】
「導入B,奇妙な声」を体験した探索者には、深夜、このイベントが発生します。
 それが複数の場合は、血塗れの「大和創世記」を拾って、そのまま所持している探索者か、血痕の血に触った探索者が、このイベントに遭遇します。

 探索者が眠っていると悪夢を見ます。
『音が聞こえる。汚泥が泡立つような、あのゴボゴボという音が。
 追いかけてくる。巨大な口を持った暗闇が追いかけてくる。
 気づくと、手には本が握られていた。何の本かはわからない。ただ、その本は血塗れだった。そして、巨大な口は本ごと自分を飲み込んだ』
 悪夢から目を覚ますと、どこからかボドボドという粘りのある液体が落ちるような音が聞こえてきます。
 音は探索者の寝ている場所から一番近い場所にある蛇口(普通は、キッチンか洗面所でしょう)から聞こえてきます。
 探索者が、音の聞こえてくる蛇口のある部屋の明かりをつけると、ひゅっと蛇口の中に何かが入ったのに気づきます。
《目星》に成功すると、それが、あの排水口に流れていたものに良く似ていることに気づきます。それに気づいてしまった探索者は、その存在に何か底知れぬ恐怖を 感じて0/1d3正気度ポイントを失います。
 そして、一瞬、間をおいて、蛇口から水が激しい勢いで出てきます。蛇口の取っ手をひねっても水は止まりません。
 水道会社に修理に来てもらうか、《機械修理》に成功すれば、蛇口の栓が腐蝕してボロボロになっています。専門家は、その様子を見てこんな状態になる前に、か なりの水漏れがあるはずだから事前に気づくものだがと首を捻ります。
 腐蝕した栓を見て《科学》か《機械修理》に成功すれば、これが自然な腐蝕などではなく、強い酸に似たもので溶かされたものだとわかります。

 水道管をこんな有様にしたのは、荒井の血の匂いにつられてやってきた美川の怪物の仕業です。
 怪物は光が嫌いなので、探索者が明かりを点ければ、すぐに逃げてしまいます。
 ですが、怪物は探索者が隙を見せると、再びやってきます。探索者が自宅で休んでるときや、安全と思える場所にいるときなど、まさかという場所からこっそり やってきては、探索者が荒井本人でないことを知ると帰っていきます。
 キーパーは何度か状況を変えて、怪物のイベントを繰り返し、姿を見せない怪物の恐怖を演出してください。


2,事件発生

 いよいよ、本格的に事件が発生します。
 祥子の父である野中英男(のなかひでお)が、何者かに殺害されたのです。
 この犯人も美川です。
 野中家の秘密を英男に問い詰めたところ、逆上した彼に殴りかかられ争いとなったので、とっさに呪文を使って殺害してしまったのです。
 美川は秘密を聞き出すまで英男を殺すつもりはなかったのですが、手に入れてしまった呪文の強大な力に翻弄されています。
 手に余る呪文を手にしてしまった者は自分の意志にかかわらず、魅入られたようにその力を使ってしまうのです。これは、古くから人間を狂気に陥らせる要因の一 つとされており、その実例は枚挙に暇がありません。
 美川は英男を殺害した後、野中家の秘密に関する文献でもないかと書斎を捜索しますが、何も発見することはできずに現場から逃走します。
 美川が逃走した後、何も知らずに自宅に帰ってきた英男の妻である野中静江(のなかしずえ)は、英男の死 体を発見します。
 英男が死んでいることを知った静江は、異常な行動に出ます。英男の腹部を切り裂き、野中家に伝わるヒルコを取り出したのです。なぜそのような行動に出たのか は、『8,祥子誘拐』と静江のキャラクター紹介の項に説明があります。

 英男の死の急報は、携帯電話などによって祥子の元へも届きます。
 なお、このイベントを発生させるのは、祥子が最低でも探索者の一人と一緒にいる時にしてください。
 理由としては、友人の探索者の家に遊びに行っている、大学教授に授業の相談をしているなどが適当でしょう。
 探索者は車で送ってあげるなどして、祥子と一緒に自宅へ行っても構いませんし、その場に残っても構いません。
 以下の情報は、事件に興味を持って新聞記事を調べたり、事件現場でやじ馬などから情報を収集した場合にわかるものです。
 後になって野中家に興味を持った探索者が調査を開始したときなどにも、この情報を流用してください。

・野中家について
 野中英男は郊外に豪邸を持つ投資家です。戦後になってから東京(もしくはキーパーがシナリオの舞台に選んだ都市)にやってきたそうで、その豊富な資産によっ て、堅実な株式投資を行なっているそうです。
 自宅には妻の静江と祥子の三人で暮らしていました。
 この情報は祥子や近所の人などから、簡単に聞き出すことができます。

・事件について
 英男は家族が留守の間に何者かによって殺されました。殺された場所は自宅の書斎です。
 警察では殺人事件と断定して捜査を開始しています。
 しかし、その死因は奇妙なもので、全身打撲によるショック死となっています。ものすごい力で壁に叩き付けられたようで、まるでビルの上から落ちたような状態 だったそうです。
 これらの情報は新聞記事や現場で収集できます。

・事件の非公開情報
 英男の遺体には左腹部に幅15cmにわたる深い傷があり、内蔵をまさぐったような形跡があったそうです。奇妙なことに、これは殺害後に付けられた傷らしく、 このことから警察では怨恨によるものではないかと捜査を進めています。また、この傷を付けた凶器は見つかっていません(大型のナイフか包丁のようなものだった らしいことはわかっています)。
 また他にも、英男の体にはアザや引っ掻き傷など、何者かと争った形跡が残っています。
 現場の書斎はかなり荒らされていますが、家族の話によると盗まれたものはないそうです。
 死体の第一発見は静江です。彼女の話によると、その日に客の予定はなかったそうです。
 これらの情報は警察関係者から聞き出すか、静江からうまく聞き出さなくてはいけません。後述の香山弁護士からならば、比較的簡単にこの情報を得ることができ るでしょう。


3,祥子からの依頼

 事件があってから数日後、祥子は知り合いとなった探索者に探偵(もしくは、そのような調査を得意とするような職業の人)に心当たりはないかと聞きます。
 理由は、祥子が弁護士から見せてもらった遺言書の写しに、不思議なことが書いてあり、それがこの殺人事件に関係するのではと考えたからです。

 問題の遺言書の概要は、
『証券、預金の相続はすべて妻の静江に任す。ただし、実家の土地権利、その他の遺品(私品、骨董、体内の品)、 については娘の祥子に相続させる。その際の後見人として、野中家主治医の荒井嘉次を任命する。また、この遺言書の内容を世間へ公表することを固く禁ずる』
 とあります。《法律》に成功すれば、この遺言書が法的にも有効なものだとわかります。
 遺言書の公表を禁じるということから警察に届けるのに抵抗を感じた祥子は、友人の探索者を頼って相談しに来たのです。
 これは祥子の独断による行動です。母親の静江からも遺言書のことは誰にも言わないようにと口止めされており、自分で積極的に調べに動いたりできないのです。
 祥子は、腹部の傷と、遺言書にある「体内の品」というものが関係あるのではないかと考えています。
 もし、探偵の探索者や、その他の探索者が祥子の相談を受けて遺言書にあった「体内の品」に関して調査をすることを約束した場合、祥子と野中家の弁護士である香山清二(かやませいじ)が、正式な依頼者として契約します。

 香山は「体内の品」というものに関して、生前の英男は何も言っておらず、見当はつかないと語ります。静江にもこのことを聞きましたが、静江も知らないと言っ ているそうです。
 香山は英男の意志を尊重して、警察へは遺言書については聞かれない限り答えるつもりはありません。生前の英男は、それほど遺言書に関することを世間へ公表す ることを嫌っていたのです。
 本来ならば、探索者にも秘密にすべきことだと考えていますが、正式な相続人である祥子が相談したいというので仕方なしに許可したのです。
 それでも、探索者に出来る限りの協力はすることを約束します。香山は警察関係に強いコネがあるので、警察の非公開情報などに関してならば役に立てるだろうと 言います。
 契約内容は、体内の品の正体を解明したとき成功報酬として二十万円ぐらいの報酬が妥当でしょう。必要経費などは、すべて香山が負担します。
 このシナリオでは、日本を縦断することになるので金銭面に苦しく交通費をケチるような探索者の場合、香山から交通費を支給することにしてシナリオを円滑に進 めてください。


4,荒井医院

 探索者は「体内の品」という言葉から、英男のレントゲン写真などが無いかと考えるでしょう。また、遺言書にある祥子の後見人である荒井という男に興味を持つ かもしれません。
 荒井は郊外にある小さな町医者で、野中ほどの資産家の主治医にしては、あまり腕は良さそうではなく、近所の評判もいまいちです。

 医院に訪ねてみると荒井は留守で、医院は臨時休診となっています。
 留守番の看護婦、桜田鈴代(さくらだすずよ)が残っています。臨時休診なので、知らずにやってくる予約 患者などの応対をしているのです。
 桜田は退屈しているので、探索者に荒井のことを聞かれると、荒井が女好きで、自分にもしつこく言い寄ってきていたことをペラペラと話します。
「このあいだ、あまりしつこいからバシッと言ってやったら、『いずれ、おまえのような年増でなく、もっと若い子をものにできるんだ。馬鹿にするな!』なんて いってたけど……まあ、負け惜しみよね」
 内容としては、こんなところです。

 いきなり尋ねてきた探索が、いきなり英男のレントゲン写真を見せてもらおうとするのは少々困難です。
 探索者の交渉の仕方によって、《言いくるめ》か《信用》か《説得》か《APP》×(任意の倍率)、どれかの技能判定をさせてください。これに成功すれば、桜 田は英男のレントゲン写真を見せてくれます。
 レントゲン写真は肺と頭蓋骨の写真があります。
 ヘビースモーカーで高血圧だったので、かなり健康には気を付けていたらしく、季節の変わり目には定期検診を受けていたそうです。
 レントゲン写真を一時的にでも借用するためには、《信用》1/2か《APP》×1に成功する必要があります。カメラを持っていて《写真術》に成功すれば、レ ントゲン写真をうまく複写することができます。医院にあるコピー機では、あまり鮮明にコピーは出来ません。
 腹部のレントゲン写真(資料イラスト参照)を見ると、肋骨の一番下に異物が埋めこまれているのを発見 します。《医学》に成功すれば、これが内臓などではないことを確信します。
 頭部のレントゲン写真を見て《人類学》に成功すると、その頭蓋骨の形状から白人の血が混ざっている気がします。
 また、《目星》に成功すると、頭蓋骨の額両脇が、ほんのわずか骨が盛り上がっているところがあるのに気づきます。さらに《医学》に成功すれば、この骨の盛り 上がりが後天性の異常ではなく、遺伝的な特徴なのであろうことがわかります。
 これは、野中英男が鹿の角を生やしていたイホウンデー神官の血をひいているためです。
 静江や祥子の頭にも見ただけではわかりませんが、レントゲン写真を撮るか、実際にさわって調べてみれば、頭に微かな盛り上がりがあるのがわかります。

 荒井について詳しく調べてみれば、彼の実家が佐賀県の伊万里にある稲穂村というところだとわかります。


5,事件現場調査

 警察の現場検証は二日前後で終了します。それ以後は、家族の許可さえあれば探索者も殺人現場の書斎に立ち入ることも可能ですが、もちろん証拠物件となるよう な物品の持ち出しは固く禁じられています。
 静江には内密で探索者に調査を頼んでいる祥子の手前、あまり露骨に調査をすることはできないでしょう。
 探索者が機転を利かした理由が思いつかない場合は、静江が留守のときに、祥子からの連絡によって現場を調査する機会を作るという形にすると良いでしょう。

 現場の書斎の壁には、血痕が生々しく残されています。
 壁紙一面に血が飛び散っており、よほど強い力で叩き付けられなければ、これほど血が飛び散るようなことはないだろうとわかります。《アイデア》に成功すれ ば、どう考えても人間技とは思えないとわかります。
《目星》に成功すると、壁の痛み具合などから間違いなく死体は壁に激突したのだとわかります。
 書斎は荒らされており、本や引き出しなどは床に放り出されたままです。床の物品がひとつひとつチョークで囲ってあることから、現場はそのままに保存されてい ることがわかります。

 英男の書斎の本だなを探すと、導入[B,奇妙な声]で血溜まりに落ちていた本と同じ「大和創世記」を発見します。
 書斎にある本は経済や証券関係の本がほとんどで、この本だけがミスマッチに見えます。
 祥子に聞いても、こんな本に心当たりないと答えます。
 静江は、英男がこのようなことに興味があったとは思えないと答えます。英男は知人が多かったので誰かに貰ったものなのではと話しますが、《心理学》(これは ルール通り、キーパーが秘密にロールするべきでしょう)に成功すると、彼女がなにか隠し事をしているような気がします。

 また、机の引き出しで大型封筒に入れられたノートのコピーを発見します。封筒の宛名は野中英男となっています。差出人は不明です。消印は殺人事件のあった日 から二週間ほど前です。
 そのノートはある奇書に関する研究ノートです(資料2)
《クトゥルフ神話》に成功すれば、このノートに登場する奇書が、かの有名な「エイボンの書」であることがわかります。

 英男の書斎では、これ以外のものは見つかりません。
 探索者に対して、祥子のほうはもちろん協力的ですが、静江はあまり好感を持っていないようです。礼儀正しい性格なので、態度で露骨に示すわけではありません が、積極的に探索者に情報を提供しようとはしません。
 静江は荒井について聞かれると、昔から英男の主治医をしており、遠い親戚でもあると話します。
 荒井と祥子の結婚に関して聞くと、珍しく感情を露にして、
「年齢が違いすぎます、そんな馬鹿なことがあるはずありません」
 と、強く否定します。《精神分析》に成功すると、彼女がだいぶ精神的にまいっていることがわかります。


6,美川満男

 導入で血溜まりの中に発見した「大和創世記」が、野中英男の書斎にもあったことは、探索者にとって興味深い事実でしょう。しかも、美川の親戚である荒井が行 方不明となっていることも気になります。
 キーパーは探索者が導入で発見した「大和創世記」と書斎の本が同じものであり、自費出版の珍しい本であることを強調して、これが単なる偶然でないことをプレ イヤーに気づかせてください。
「大和創世記」のような、素人考古学者が自費出版したような本は、普通の本屋などには置かれません。作者である考古学者の知り合いなどに贈与したり、内容に関 連する研究室がある大学などに配られるのが普通です。
 つまりは、野中英男の手にあるような本ではないということです。

 作者である美川満男のことは奥付に書かれてある印刷所などに問い合わせれば、すぐにわかります。
 美川満男は郊外の古びた一軒家に住んでいます。
 ガレージには使い込んだ白いワゴンが駐車してあります。これは後の伏線となるので、ワゴンの自動車メーカーを特定するなどしてプレイヤーに印象づけさせてく ださい。
 近所の住人に美川満男の評判など調べてみれば、もともとは美川の家はかなりの資産家だったそうなのですが、考古学、民俗学に狂って資産も使い果たし、今では かなり生活に困っているらしいとわかります。

 美川満男は現代に蘇ったツァトゥグア信者です。彼は完全な狂人ですが、自分の正気を望んで切り捨てた魔道士ですので、狂気に陥りながらも狡猾に行動をするこ とができます。彼は正常人のふりをすることによって現代社会に解け込み、その演技を楽しんでいるかのようなふしさえ見受けられます。
 彼は社会的地位はないものの、法的には完全に保護されており、場合によっては探索者から身を守るために警察機関などを利用することすらあります。
 探索者と美川の対面で、キーパーは美川を何も知らない情報提供者といったマスタリングをしてください。この時点で、美川があまりに怪しいと思われるのは良く ないからです。
 彼の言葉は嘘で塗り固められていますが、探索者がハッタリをかけたり誘導尋問をしたりしても、人間以上の知能と精神力を持つ美川に対してはほとんど通用しま せん。彼は自分の計画が完璧と信じているため、そのことに動揺などせず計画通り嘘をつきとおします。

 家の中は蔵書に埋め尽くされていています。部屋の中はもちろん、廊下や押入れなど、本の置ける場所にはぎっしりと本が置かれています。
《図書館》で成功すると、美川の蔵書は内容は多岐に渡っているが、民間伝承や古代民俗学、考古学などが中心だとわかります。海外の考古学に関するものが多く、 一方、日本の隠れキリシタンに関する文献は意外と少なく十冊程度です。
 蔵書の中には、グリーンランドあたりの北極近くの資料が目につき、イヌイットの民間伝承に関するものから、地質学的な資料まであります。
《知識》1/2か《考古学》に成功すると、約十年前、グリーンランドで現地人を集めて大規模な発掘作業が行なわれたという話を思い出し、その代表者の名前が美 川という名だったと思い出します。

 興味を持った探索者が、後で図書館や新聞社などで当時のことを調べても、記録はほとんど残ってはいません。ここで《図書館》に成功すると、美川の発掘の目的 は、極地にあった古代都市の発掘だったそうで、成果はほとんどなく終了したそうです。当時の専門誌などでは美川を俗物的な扱いをしており、真面目に記事には取 り上げていません。

 美川自身にグリーンランドのことを詳しく聞けば、ある古い文献に言及されている「北風の向こう側」というものを探していたと答えます。話しぶりによると、 「北風の向こう側」というのは、どうやら地名のようなのですがはっきりはしません。
《語学》《ギリシア語》《考古学》《クトゥルフ神話》のどれかに成功すれば、古代ギリシア語で「北風の向こう側」という言葉があり、ハイパーボリアと発音する ことをふと思い出します。
 以下に、美川に対する探索者の質問を想定して、その答えをまとめておきます。

★「大和創世記」について
 美川は自分が書いた本だと認めます。
 最近になって、隠れキリシタンに興味を持ち、各地をまわって研究をしていた。収集した隠れキリシタンの貴重な聖書がたまったので、記録を残すという意味で出 版したのだと語ります。
 美川は、野中英男という名の人物は知らないと答えます。大学などに大量に無料配布したので、どのように経路で野中英男が自分の本を手に入れたのかなど知らな いと言います。
 本に掲載した聖書の収集は長崎を中心に、生月、平戸、外海、五島、伊万里、などで行なったと語ります。《知識》1/2に成功すると、生月などは隠れキリシタ ンで有名ですが、伊万里のキリシタンというのは、あまり聞かないことがわかります。
 伊万里のキリシタンについて詳しく聞くと、伊万里の稲穂村というところで調査をしたと言います。
 美川は、そこの村人はカソリック教会に改宗してしまっており、調査するのは大変だったと苦労談を語ります。その話の中には、教会の宮 沢・クレスケンス・慶輔(みやざわ・−・けいすけ)の名が出てきます。稲穂村に住む真面目な神父らしく、隠れキリシタンを嫌っていて調査の邪魔ば かりしたのだそうです。

★古い文献について
 貴重な奇書で、若い頃、オーストリアのオークションで買い取ったものだと答えます。
 この本の中に、現在に知られていない、古代文明についての記述がなされていたのだと語ります。
 そのことについて詳しく尋ねるならば、正確に言うならば、完全に本の形をしてはいなくページの断片だったそうです。ページの断片なのでタイトルもなく、当然 内容も断片的だったので、一口ではどんな内容だったのかは説明できないと答えます。
 その文献を見せてくれと言われると、金に困ったため好事家に売ってしまったと笑いながら答えます。ずいぶんと散財をさせてくれた腹立たしいものなので、コ ピーもとらずに安値で売ってしまったそうです。売った人の名は昔のことなので覚えてないと答えます。
 しかし、これは嘘です。美川は文献の断片を売ったりはしておらず、書斎の金庫に大事にしまってあります。もちろん、その文献は「エイボンの書」のことです。

★グリーンランドの発掘について
 発掘成果はほとんどなかったが、その土地にすむ部族の噂話で興味深いものを収集したことを話します。
 五十年以上前の話ですが、永久氷土のかなり深い地層で、体毛をもたず服のようなものさえ着ている人間の凍結ミイラを発見したということを聞いたそうです。
 美川はその噂から再現したスケッチを残しており、頼まれればそのスケッチを見せてくれます。
 稚拙なスケッチで、普通の人間の体に鹿のような角が生えているだけのものです。スケッチを見せながら、この生物は現代人に近い二足歩行をしており、頭部もか なり発達していたと熱っぽく語ります。
 この絵に書かれた生物の最大の特徴は、頭に鹿のような角があることです。このことに関して美川は「当時はトナカイすら知られていなかった極寒のイヌイットの 土地で、このような角の形を想像だけで思いつくとは思えなく、このことからも、この噂の信憑性は高いのでは」と語ります。
 さらに、「もしかすると、人類発生がアフリカであったという常識を覆し、科学者を悩ませている猿と人間の中間点であるミッシングリンクを埋める大発見かも知 れないな」などと冗談まじりに話を補足します。
 ですが、このときの美川の言葉や顔つきを見て《心理学》に成功すると、どうも、未知の古代生物を語っているというよりも、その生物を自分よりも優れた存在と して、畏怖と嫌悪の念が入り混じった口調で語っているのがわかります。
 そして、彼の口調には、どことなく神を語る宗教家の姿とだぶるところがある気がします。

★研究ノートについて
 野中英男の書斎で見つけた研究ノートについて聞かれても、美川は知らないとしか答えません。
 ただ、あたりに散らばっているメモなどを見て《アイデア》に成功すると、ノートと美川の筆跡がよく似ていることがわかります。
 ノートコピーの現物を見せれば、美川は確かに自分の筆跡に似てはいると、素直に認めます。しかし、偶然の一致であろうと、さほど気にもとめていないふりをし ます。
 内容については、北極付近の文明や、鹿の角を生やした人間についての記述を見て、「エイボンの書」という本は知らないが、実に興味深い内容の本のようだと感 想を述べます。
 そして、自分が持っていた奇書の断片は、この本の一部だったのかも知れないと、白々しく推測を語ります。


7,稲穂村

 探索者は、野中家の実家や、美川が隠れキリシタンの調査を行なった場所である稲穂村に興味を持つことでしょう。
 実際に佐賀県まで遠出するのに探索者は抵抗を感じるかも知れませんが、キーパーは野中の実家について静江や祥子は詳しく知らず(静江は隠しているだけなので すが)、探索者に実家を調査してみる必要性を感じさせてください。野中祥子から、実家に行ってみてはと提案させるのも良いでしょう。
 キーパーは探索者が香山か野中祥子に行き先を伝えておくようにさせてください。後のイベントの際に、それが必要となってきます。旅行前日に香山か野中祥子か ら電話があり、調査の様子を聞くなどのイベントを起こせば、それは自然に行なえるでしょう。
 その話を聞いた香山は、旅券と伊万里のホテルの予約してくれ、何かあったら連絡をくださいと言います。
 もし、探索者が祥子も稲穂村に同伴させようとした場合、彼女は精神的に弱っている静江が心配だという理由で断わります。
 ここでは、後のイベントの都合上、祥子と探索者を引き離す必要があるのでキーパーはそのことに注意してください。

 前もって、稲穂村について調べるのならば、図書館などで以下の情報が手に入ります。《図書館》ロールを二回させてください。

・野中家について
 稲穂村は江戸初期から続く古い村で、江戸末期あたりから、豪農であった野中家が有力者であった。

・キリシタンについて
 稲穂村でキリシタンに対する弾圧があったのは事実である。その後は、キリシタンは地下に隠れていたが、明治になってから、カソリック教会が村にできると、村 人のほとんどはカソリックに改宗した。

 ここでキリシタンがカソリックに改宗というのは奇妙に思えるかも知れませんが、日本で信仰を続けてこられた隠れキリシタンは、カソリック教義から変形してし まった土着信仰となっているため、現在のカソリックとは相容れない存在なのです。そのため、カソリックから見れば、隠れキリシタンの教義を守るものは異教徒な のです。
 現地以外で手に入る情報は、この程度のものです。
 もちろん、稲穂村の村人に聞いても、これらの情報を得ることは出来ます。

 稲穂村は、佐賀県、伊万里の南、山間に位置する小さな村です。人口は少ないものの過疎化は進んでおらず、一見したところは普通の村に見えます。
 ただ都会でもないのに、やたらとカラスと野バトが多い気がします。カラスとハトと聞いて、ノアの放った鳥のことを思い出すかもしれませんが、真相のほどは定 かではありません。
 また、小さな村には不釣合いなほど立派な教会が立っています。村のどこにいても、高い鐘楼が見えます。これはカソリック教会で、隠れキリシタンが明治になっ てカソリックに改宗してから、村をあげて建造したものです。

 稲穂村では多くの情報源から、いろいろな種類の情報を得ることができます。
 ですが、村人は口が固く、野中の実家の土蔵には膨大なガラクタと手掛かりが詰め込まれていまるので、これらを一日ですべて調査しきるのは不可能です。
 ここでキーパーは、探索者たちを香山が用意してくれた伊万里のホテルに数日滞在させ、じっくり手掛かりの調査と、事件の整理と推理をする時間を与えてくださ い。

★カソリック教会
 この教会にいる神父は、宮沢・クレスケンス・慶輔という若い男です。
 宮沢は、死去した前任の神父である父親の跡を継いで、この教会に入りました。
 彼は、この地に伝わっていた隠れキリシタンの曲がった教義に対しては嫌悪を隠しません。もし探索者が不用意に彼の神に対して冒涜的な意見を述べたりすれば、 彼は激怒します。彼は村人に信頼厚いので、彼の怒りを買えば、村での行動はしづらくなります。
 それでも、うまく話を持っていけば、隠れキリシタンのことについて、「この土地がノアのたどり着いた土地だとか、そんな戯言をいっている連中です。もちろ ん、いまではそんなことを信じている人はいませんがね」と、この程度のことは教えてくれます。
 宮沢は野中家が、かっての隠れキリシタンの当主であったと村人に聞いていますが、そのことを口にしようとはしません。もはや昔のことであり、そのような話題 を続けることは、彼にとって愉快ではないからです。

★村人からの野中家の情報
 村人たちは野中家のことを知っています。もちろん、古い話なので昔話といった程度の情報でしかありませんし、真相とは間違った部分が多々あります。
 以下の断片的な情報を、適当に組み合わせて村人のマスタリングをしてください。

・このあたりも近代化が進み、昔の面影は残っていない。
・野中家は、かって、かくれキリシタンの当主だった血筋の家だ(これは間違った話が伝わったものです。詳しくはシナリオ背景にあります)。
・野中家は、旧家にしては村人たちとの交流はなかった。その原因は、年寄りの話だと隠れキリシタンの弾圧のとき、当主だったにもかかわらず、あっさりところん だ(改宗すること)せいらしい。
・ころんでからは、お上を相手にうまく立ちまわって、家としては栄えてきたが、村八分のような状況だったらしい。しかし、不思議なとこに、そのことを野中の家 はあまり気にしていなかったようだ。と言うより、自ら交流を絶っていた気さえする。
・そんな家なので、村人との婚姻の話も持ち上がらず、一族に近い家のものとばかり血縁をもっていたそうである。
・あそこの家は血が濃いから、村とはおりがあわない。
・さすがに、戦後になって村が大きくなってくると居づらくなったらしく、本家の若造は村を出ていった。名前は、野中英男と言った。若い嫁も一緒だった。
・野中家と親交があった荒井家の一人息子の荒井嘉次も、英男がいなくなり両親も死去すると村を出ていった。
・荒井の屋敷は処分されたが、野中の屋敷と大きな倉はまだ残っている。昔からまかないをしていた老夫婦が管理しているはずである。

★野中の実家
 野中の実家は、立派な母屋に離れ家、土蔵まであるお屋敷ですが、今は管理人の老夫婦がすんでいるだけです。
 老夫婦は人当たりの良い人で、今回の事件には何の関係もありません。祥子に頼まれて調査をしていることさえ伝えれば、母屋や土蔵を見せてくれます。
 老夫婦に自分たち以外に誰かが来たことがあるかと聞くと、数ヶ月前に、大学の宗教学者と名乗る、石塚という人物がここにやってきたと言って、その人に貰った という名刺を見せます。
 名刺には、S大学助教授、石塚昌英とありますが、これは美川が偽名に使った名刺です。石塚という人物は実在しますが、彼は何も知りませんし、名刺のことにつ いても、多くの人にあげているので誰が偽名として使用したのか見当がつかないと答えます。
 老夫婦は、その人物の外見をあまり憶えていませんが、探索者が美川の容貌を伝えれば、その人に似ている気がすると頼りない返答をします。

 母屋の家財道具の大部分は処分されています。英男が上京するときに、財産整理をしたからです。
 土蔵のほうには、まだいろいろと残っています。ほとんどは古くなりすぎて価値の無くなった調度品や、農作業の道具などのガラクタです。
 キーパーは土蔵で、どのようなものを探したいのかプレイヤーに聞いて、それにあわせて以下の情報が手に入るようにしてください。
 もしプレイヤーが何も思いつかないようでしたら、《目星》などをさせると良いでしょう。

・家系図
 古い巻物になっており、三百年前から続いています。
 これを見てみると、野中と荒井はイトコであったことがわかります。あと、静江も古くは野中の一族であったことがわかり、この家系が非常に血統として閉じられ たものであることがわかります。
 また、一族には死産や早期の死亡が多いのに気づきます。《知識》か《医学》×5に成功すれば、長い間、近親婚を続けてきたことによる遺伝的なものが原因だろ うと思います。
 家系図の最後を見てみれば、現在では荒井家と野中家以外は続いていなく、一族の血をひくのは野中静江と祥子、そして荒井嘉次の三人しかいないことがわかりま す (荒井が死んでいることを探索者が確信していれば、残っているのは野中静江と祥子の二人きりだとわかります)。

・手術道具
 高価そうな黒檀の箱の中に、古い手術道具一式が入れられてあります。箱の中には、一緒に古書が入ってます。《日本語読み書き》1/2に成功すれば、これを読 むことができます。この本には「腹部を開き秘物を隠す法」というものが書かれています。挿絵には、人体の腹部を切り開いたものがあるので、ロールに失敗して も、そのことは推測できます。
 本は相当に古いものです。すべてが毛筆による手書きで、紐で丁寧に綴じられています。《歴史》に成功すれば、これが十三世紀前後の本だとわかります。
《知識》1/5か《治療》で、この技術(神経や血管位置などが、異常なまでに正確)が現代に迫るもので、明らかに当時の医療技術を超えたものだとわかります。

・木彫りの骸骨
 正方形の桐の箱に、茶色い頭蓋骨(資料イラスト参照)が入っています。ちょっと調べてみれば、これが 古い木彫りの頭蓋骨だとわかります。
 頭蓋骨の額両脇には小さな角が生えています。
 これは野中家の古い血筋にあった特徴である、鹿の角です。イホウンデー信仰の原形を強く留め、魔道の力をもっていた先祖への崇拝に昔の野中家が使っていた偶 像(昔は、オリジナルである本物の頭蓋骨があった)ですが、現在の野中家には、意味の分からない鬼の骸骨として伝えられています。

・古書諸々
 蔵書もあります。古い文庫本などがほとんどですが、気になるものとしては、古事記の一節(資料3)や 旧約聖書、隠れキリシタンの聖書などが置かれています。
 隠れキリシタンの聖書は《知識》1/5か《人類学》に成功すれば、稲穂村で信仰されていたものではなく、長崎周辺などで、いまでも信仰されているものだとわ かります。
 これらは野中英男の祖父が稲穂村のキリシタンについて興味を持ったときに収集した文献で、なんの意味もありませんが、「大和創世記」と符合する部分の多い古 事記の一節はプレイヤーにとって興味深い内容のものでしょう。


8,祥子誘拐

 探索者が稲穂村へ調査へ出掛けている隙を狙って、美川は邪悪な計画を実行に移します。
 ツァトゥグアへの贄とするため、イホウンデー神官の血筋である祥子を誘拐したのです。これまで、狡猾に正体を隠していた美川ですが、いよいよ大詰めとなって いるので大胆な行動をするようになっています。

 このイベントは稲穂村に行っている探索者が香山からの電話を受けるところから始まります。
 数日たって稲穂村での調査が一段落ついた頃、香山の予約してくれたホテルで、このイベントを発生させるとよいでしょう。
 香山からの電話の内容は、野中祥子が誘拐されたというものです。
 警察による報道管制によって、このことは公にはされていません。香山は野中静江に相談を受けたため、このことを知りました。
 香山はこの事件が遺言書の奇妙な一節に関係あるのではと直感し、探索者に連絡を取ったのです。香山は、探索者たちにすぐに戻ってきてほしいと頼みます。

 戻ってみれば、野中の家には静江と香山、そして刑事らしい二人がいます。刑事は録音装置を前に、犯人からの電話を待っています。
 警察では誘拐した人物に見当はついていません。警察は探索者に対して非協力的ですが、香山から情報が聞き出せるので問題はありません。

 警察の調べによると、犯人は初老の男だったそうです。白昼堂々、強引に白いワゴンに乗せてつれ去ったらしく、目撃者も複数います。
 白いワゴン、初老の男という情報を聞いて、美川のことを思い出すことでしょう。
 刑事や、近所に住む目撃者(探すのは容易です)に美川の外見を伝えれば、誘拐した人物と美川がよく似ていることがわかります。

 ここに来て、野中静江は祥子のために事の真相を語ることを決意します。
 なるべくならば、探索者が再び稲穂村に出発する前に、このイベントは発生させてください。

 野中静江は、まず何も言わずに探索者にある物(資料イラスト参照)を見せます。
 これこそが野中の秘物であり、遺言書にあった体内の品でもある、ツァトゥグアが求める生け贄の正体です。

 野中静江は、
『野中家には、代々秘物と呼ばれるものが伝わってきました。それが、この秘物です。家の長子は、これを体に埋め ることで守り続けてきました。
 古くは、野中家とは神託を受ける神の御使いとされており、その霊力の象徴が秘物であるヒルコ様なのです。
 野中家は、その神に繋がる血を守るため、極力一族のものと婚姻を続けてきました。その結果、一族の血は濃くなり、私も祥子を授かるまで二度も死産をしま した……そのころから、私は古い慣習に囚われるのに嫌気がさしていました。
 英男が家を捨て、村を出ると言ったときは心の底から喜んだものです。
 ですが、そんな英男も所詮は野中家の一族だったのです……そう、あの人が、よりによって、あの荒井と祥子を結婚させようなどと言い出したとき、私はこの 家が狂っていると気付いたのです。
 私は英男があのような死に方をしたとき、あの人の腹を裂いてヒルコ様を取り出したのです。もちろん、祥子に埋めるためではありません。私の手で、これを 処分して、すべてをおしまいにしてしまおうと思ったからです……今考えてみると、自分でも、そんな恐ろしいことがよくできたと思います。
 もしかすると、私もすでに狂っているのかも知れませんね』

 そう言って、野中静江は泣き崩れます。
 野中静江は誘拐犯の目的は秘物なのではと考えています。英男の異常な死にざまを見て、そう感じたのです。
 彼女は秘物の正体については本当に知りません。

 秘物は、直径は親指の長さぐらいで、昆虫の蛹のようにも見えますし、装飾を施したマガタマの様にも見えます。
 色は灰色で石でも金属でもない何か未知の物質で作られています。
 意外と軽く、振ってみると、かすかにぴちゃぴちゃと音がします。
 秘物は耐久力100点、装甲10ポイントで、一時間で1点耐久力を回復します。つまり生半可な方法では叩き壊すことは出来ないということです。
《科学》に成功すれば、有機物が硬化(完全に石化する前の琥珀に近いでしょう)したもののようですが人知外の物体だということがわかります。
 旋盤工場で切断を試みるなど、なんらかの手段で秘物を破壊した場合、中から灰色の液体がこぼれ出し、変態途中の不完全な新・偉大なる種族のカブトムシが出て きます。これを見た探索者は、0/1正気度ポイントを失います。
 カブトムシは外気に触れると乾燥してすぐに死んでしまいます。
 どのように調べても、それが昆虫の一種であったらしいということしかわかりません。《クトゥルフ神話》に成功すれば、それがイスの偉大なる種族が、はるか未 来において次の肉体とする予定であるカブトムシなのではと思います。

 この項で問題となるのは、警察の積極的な登場です。
 時には非合法な活動をする探索者(長年、探索者をしていれば人を殺したことがあってもおかしくありません)にとって、警察は苦手な相手です。
 神話生物の徘徊する「クトゥルフの呼び声」の世界では頭の固い警察は有用な情報源であることはあっても、神話的事件を解決させるほど有能な存在ではないとさ れています(少なくとも、このシナリオではそうです)。
 この項の警察も、独力で調べられるのは犯人が白いワゴンに乗っていたことまで、あとは来るはずの無い犯人からの電話を待ち続けるだけの存在です。それから先 のことは探索者の仕事なのです。
 ですが、この「お約束事」を知らないプレイヤーは事件解決を警察に任せようと考えるかもしれません。
 もし、そのようなことになったら、キーパーはできる限り警察の無能ぶりを探索者に見せつけてください。
 まず、警察は素人の口出しを極端に嫌います。白いワゴンが美川のものだと主張しても、適当にあいづちを打つだけでまともに取り上げようとはしません。外見の 一致も、またしかりです。
 書斎にあるノートのコピーや「大和創世記」、その他の情報を警察に提示したとしても、一笑に付されるだけでしょう。それどころか、探索者の異常な言動に不審 感を抱くこともありえます。
 キーパーは少しやりすぎなぐらいに警察の無能さをアピールして、探索者に警察に頼ることは無駄であると思わせてください。


9,美川家ふたたび

 探索者は白いワゴンと、外見の一致という情報から美川のことを怪しいと考えるでしょう。
 もし、プレイヤーがすっかり美川のことを忘れてしまっているのならば、 《アイデア》などに成功したら思い出すようにしてあげると良いでしょう。

 美川の家に行ってみると、白いワゴンはなく、美川の姿もありません。
 キーパーは「美川家見取り図」を参照しながら宅の中のマスタリングをしてください。

NO,1「リビング」
 食堂とつながった造りになっているリビングルームです。ソファなどをおけばそれらしく見えるのでしょうが、本やガラクタが所せましと置かれているため、ただ の汚い部屋と化しています。

NO,2「食堂」
 使い古したテーブルがあります。椅子やテーブルの上には本が積み上げられています。
 洗っていない皿やコップなどが置きっ放しになっています。

NO,3「キッチン」
 キッチンです。冷蔵庫やステンレスの流しがあります。なにかが腐ったような異臭がします。
 冷蔵庫の中には、瓶詰めにして保管された真赤な液体が五本あります。
 一本のビンは半分ほど液体がなくなっており、ビンの横にはマジックで線がひいてあり、横に日付が細かく書いてあります(資 料イラスト参照)
 中の液体が何かを調べたいときは、栓を開けて調べてみて、《知識》《医学》×5に成功すれば、これが保存用血液だとわかります。

 もし、探索者が冷蔵庫を開けるという行為を思いつきそうにないときは、 《目星》などに成功すれば、それに気づいたことにしても良いでしょう。

 キッチンの調査を続けていると、以下のイベントが発生します。
『どこからか音が聞こえる……
 あたりを見回してみて、その音の正体はすぐにわかった。水道の蛇口の取っ手がひとりでに回っているのだ。
 だが、水は出てこない。そのうちネジがあらわになり、ごとりと取っ手は外れてしまった。
 そして、取っ手が取れた穴から、噴水のように何かが吹き出した。
「ひゅる、ひゅる、ひゅるぅぅぅぅ」
 その何かは、まるで口笛のような音を立てていた。
 最初は水かと思った。
 だが、それは我々の知っている水よりも、はるかに粘りをもったものであり、我々の知っているすがすがしい水とは明らかに違う、どんよりと灰色に濁った液 体だった。
 液体は部屋じゅうにまき散らされた。床、天井、壁を問わず、どろどろとした液体で部屋は汚された。
 そして、トロリと液体が重力にしたがって下に流れたかと思うと、ぴたりと申し合わせたように、その動きを止めた。
 そして、変化が起こった。
 部屋中に散らばった液体のひと塊ごとに、巨大な目と、巨大に口が形成されていったのである。すべての目は、こちらを無表情に見つめている。そして口は、 そのどん欲そうな臼型の歯をこちらに見せつけるように剥き出したのだ』

 
 この怪物を見た探索者は0/1d8正気度ポイントを失います。
 狂気のオプションルールである『狂人の直感』を使用している場合、狂気に陥った探索者はこの怪物が高熱に弱いのではということに気付きます。ただし、このこ とを他の探索者に直接告げることが出来ないことに注意してください。
 なお、台所にはお湯の入った魔法瓶が置いたままになってます。
 怪物に熱湯をかけた場合、驚くべき速度で水道の中へと帰っていき、二度と探索者の前には現れません。
 探索者の中に後述のツァトゥグアの像に血を捧げたものがいるのならば、MP抵抗で勝ちさえすれば(一度しか挑戦出来ません)、怪物は逃げていきます。この場 合も、怪物は水道の中へと帰っていき、二度と探索者の前には現れません。
 ツァトゥグアの像を怪物に投げつけたりすれば、1Rの間、怪物はひるんで動かなくなります。これは、一回だけ有効です。

 無形の落し子の亜種
 STR14 CON10 SIZ18
 INT10 POW16 DEX8
 耐久力14
 ダメージボーナス 1d4
 武器 巨大な口 40%
    ダメージ1d6+db
         (1R、2回攻撃)
 装甲 3点、貫通武器は最低ダメージだけ入る(このとき3点の装甲は含まない)

 怪物は耐久力0になれば、身動きしない泥のようなものになってしまいます。
《科学》か《生物学》に成功すると、この泥が、あらゆる生物の基をドロドロに溶かしたスープのような組成をしていることがわかります。

NO,4「トイレ」
 トイレです。何年も掃除もしていないので、使用するのにはちょっとした勇気が必要でしょう。

NO,5「洗面所」
 脱衣所も兼ねた洗面所です。

NO,6「風呂」
 お風呂です。汚れた水がたまったままになっています。

NO,8「書斎」
 書斎と言っても書き物机があるだけで、本棚に埋め尽くされた狭苦しい部屋です。
 ワープロなどは置いていなく、自筆のノート類などが多数置かれています。

 書斎を探す際、《目星》に成功すれば、美川の日記を発見します。探索者が積極的に日記を探した場合は、無条件で発見できます(資 料4)。なお、資料は日記の概略をまとめたもので、実際の日記はもっと長く読みづらい内容です。
 日記は、「探している」というところで最後となってます。
《精神分析》に成功すれば、ツァトゥグアの雛を発見してから、数週間の間に、急に精神に異常をきたしてきたことがわかります。特に神との精神接触のくだりなど は、正常の人間が書いた文章とは思えない支離滅裂な部分が続いています。
 最後の日付は、いまから三ヶ月ほど前のものです。

 さらに書斎を捜索して《目星》に成功すれば、稲穂村フィールドノートを発見します。この場合も、探索者が積極的に稲穂村に関する文献などを探せば無条件で発 見できます。
 ノートは稲穂村に関する実地調査の記録です。日付は、最も古いものでも三ヶ月前ぐらいで、比較的、美川の書斎のものの中では新しい部類に入ります。日記の日 付と照らしあわせてみれば、このノートをつけ始めたのと、日記を書かなくなった頃が一致しているのがわかります。

 ノートには、稲穂村の古い隠れキリシタン信仰は奇妙なものだと美川の私見が書かれています。
 長崎周辺に見られるものは、比較的新しい土着信仰と入り混じった、独自の教義を持ったものと変化しているが、稲穂村の場合は古事記と聖書の創世記が奇妙に入 り混じったものとなっているからです。
 稲穂村の創世記が作られたであろう江戸時代中期に、仏教の隆盛などによって民衆から忘れられつつあった古事記の伝承が、その土地の住民の間で根強く生きづい ていたということは奇妙なことである、としています。
 また、後半のほうは、もはや研究文ではなく日記じみた雑記となってしまっています(資料5)。これを読んで《心理学》か《精神分析》に成功すると、この文章 が、あの日記の主とは思えないほど冷静な文体になっているとわかります。つまりは美川が完全な狂気に陥った(人間の脆弱な精神を捨て去り、完全な魔道士となっ た)と言うわけです。
 この文章の日付は、野中英男の書斎で発見したノートコピーが入っていた封筒の消印の数日前です。

NO,9「書庫」
 古今東西の書物がぎっしり詰まった書庫です。美川独特の整理法によって分類されているので、なんとも雑然とした感じがします。
 書庫の奥には小型の据置き金庫が置いてあります。鍵は単純なので《錠前》に成功すれば開きます。また、鍵開け職人などに依頼すれば数分で簡単に開けてくれま す。ただし、うまくわけを説明しないと鍵開け職人は探索者に不審を抱くことでしょう。
 金庫の中には数枚の紙きれと、小さな像が置いてあります。

 紙切れのほうは英語判『エイボンの書』の断片です。美川による邦訳も付いています。正気度ポイント喪失は1/1D3正気度。《クトゥルフ神話》に+4%。呪 文倍数は×2。呪文は「ツァトゥグアとの接触」だけが載っています。
 NPCデータにある美川の呪文はツァトゥグアと接触して、直接学んだものなのです。

 像は灰色の軽い骨のような材質のもので作られており、形状は表現しづらいものですが、毛を生やしたヒキガエルの様な形をしています。細工は非常に緻密で、毛 の一本一本から、肌の角質まで再現されています。
 像は銅製のお盆のようなものの上に乗っており、お盆には黒っぽい染みがこびりついています。《医学》で成功すれば、この染みが乾燥した血液であることがわか ります。
 エイボンの書から、この像のことを調べようとした場合、《日本語読み書き》に成功する必要があります。
 この像は「ツァトゥグアの雛」と呼ばれるもので、毎週、ここに一定量の血を注ぐことによってツァトゥグアとの精神接触を続けることができます。これはハイ パーボリアのツァトゥグア信者が使用していた祭具の一つです。
 今週の血がまだ与えられていないので雛は飢えています。
 自分の血かビンの血を捧げれば、像に血が触れた瞬間、音もなく蒸発していくように血は減っていき、捧げたものはン・カイに眠るツァトゥグアの顔を見ることが 出来ます。これは「アルハズレッドのランプ」や「向こう側への旅」の呪文の効果に似ていますが、呪文の効果は数分で終了します。MP15を消費しますが、もし MPが足りなければ情景を見る前に気絶してしまい、効果は不完全となります。
 ツァトゥグアの姿を見てしまった場合は、ルール通り、0/1D10正気度ポイントを失います。

 また、この像に直接触ってしまった探索者は、まるでこの像の腕が動き、自分の首をつかんだような感覚に捕われ、血が吸い取られる錯覚に陥り、さらにMPに 1d3ダメージを受けます。
 その後、地下深くから聞こえる、どのような生き物にもあてはまらないような奇妙ないびき声を聞ききます。この声を聞いた場合、0/1D2正気度ポイントを失 います。
 そして、ツァトゥグアの夢とリンクしてしまいます。
『鹿の角を生やした人々が、超時間からの神託によって、自分たちの土地が海中へ没するのを察知し脱出していくの が感じられる。
 それは視覚的なものではなく、すべての情報が感情と距離や大きさを無視した超視野によって伝えられる、まことに奇妙な体験だった。
 角を生やした彼らは、胎内と呼ばれる暗黒世界をさまよう。
 そして、そこで神の子を拾う。
 これこそが、すべてを清められた世界のただひとつの希望なのだ。神託には、そうあった。
 彼らは青白い塩から造り出した鳥を飛ばし、闇の出口を探した。
 そして、七の二倍の日にちが経って、やっと出口が見つかった。彼らがたどり着いたのは山の上だった。距離を超えた視野によって、そこが地球全体のどこに あるのかがわかる。巨大なユーラシアの極東に位置している。南に迫り出した極端に細長い半島の南端だ。
 そこには原始的な人間しかいなく、彼らは神として土地へ解け込んでいった』

 この夢を送られた探索者は、《考古学》×5か《知識》1/5に成功すれば、土地の人間が手にしていたものは、日本独特の縄文式土器であったような気がしま す。この夢は目で見たわけではないので、はっきりと断定はできないのです。
 また、土地の人間がアララテ、アララテと口々に言っていたことを、ぼんやりと思い出します。《知識》に成功するか、もしくはキリスト教の信者であれば無条件 で、アララテとは聖書に出てくるノアの箱船がたどり着いた山の名ではないかと思います。
《地質学》×5か《知識》1/5に成功すれば、夢で見たあの細長い半島が約1万年前、まだ大陸と地続きだった日本列島の姿であることがわかります。
 その南端と言えば、現代の九州あたりのはずです。


10,荒照山

 美川が誘拐犯であり、ツァトゥグア信者であることを確信した探索者は、美川の行き先を探すことでしょう。
 美川は野中祥子を生け贄にするため、稲穂村にある荒照山(あらてやま)に向かっています。
 ですが、この手がかりとしては、美川のノートにあったアララテ山の入口という記述だけです。
 プレイヤーはここで少し悩むかも知れません。以下に、荒照山のことを知るための情報源をいくつか並べておきます。

・地図から
 稲穂村周辺が怪しいだろうと当たりをつけて伊万里の付近を調べれば、稲穂村のすぐ近くに荒照山という名の山を発見します。夢で見た九州地方であり、アララテ 山との名の符合と、そして稲穂村という場所は賢明な探索者ならば偶然の一致とは思わないはずです。

・野中静江から
 野中静江にアララテ山や、野中家にとって特別な山はないかということを尋ねれば、稲穂村の付近に荒照山という山があることを教えてくれます。 そして、この山に古墳があることも教えてくれます。

・美川の書斎から
 美川の蔵書の中で、稲穂村に関する地図を探せば、その地図の荒照山という部分に印が付けてあるのを発見します。

 荒照山の古墳に関しては、地元の人に聞くのが一番ですが、図書館などでも調べることができます。
 大きな図書館で《図書館》に成功すれば、稲穂村の近くに荒照山というものがあり、そこには土蜘蛛穴という古墳のようなものがあることがわかります。
 土蜘蛛穴は奥行8メートルぐらいの横穴で、本当に古代の権力者が埋められているかどうかは不明です。発掘されたとき、奥は空っぽの行き止まりになっていたと いう調査記録が残っています。現在は、一応保護され立入禁止となっています。
《知識》か、辞典など調べてみれば、すぐにわかることですが、土蜘蛛とは大和朝廷に服従しなかったとされる辺境民族の蔑称です。

 誘拐犯である美川の目的がツァトゥグアへの生け贄であると推測するならば、探索者は稲穂村まで急ぐ必要があると考えるでしょう。
 通常考えられる一番、早い移動手段は国内旅客機に飛び乗って、現地でレンタカーを借りることでしょう。
 また、独自のコネを持っている探索者ならば、ヘリコプターやセスナをチャーターする方法もあります。途中での給油を考慮しても、この方法が最も早いでしょ う。大変な費用がかかりますが、香山に相談すればすべての代金を払ってくれます。
 ほかにもいろいろと移動手段はありますが、あまりに移動手段が遅いものでなければ、基本的に美川の凶行に探索者は間に合うことにしてあげましょう。


11,黄泉の国

 荒照山に到着した探索者は、美川がこの山のどこに潜伏しているかと考えるでしょう。
 地元の人間に対して荒照山に関することを聞けば、山には古墳があることを教えてくれます。村人は、前項にある土蜘蛛穴に関する情報と同じことを教えてくれま す。
 土蜘蛛穴は荒照山の中腹にあります。途中までは車で行けますが、穴の前までは歩きになってしまいます。
 山路の行き止まりには美川の白いワゴンが駐車してありますが、当然、中には誰もいません。

 もし、土蜘蛛穴のことを聞かずに荒照山を捜索しても、山路は一本限りなので山を登ろうとすれば必然的に美川の白いワゴンを発見することになります。

 最近、雨が降ったらしく、むきだしの地面はぬかるんでいます。《目星》に成功すれば、二種類の足跡が車から山の奥へと続いているのを発見します。ひとつは男 の革靴、もうひとつはかかとの高い女性用の靴の足跡です。

 穴の入口には鉄の柵がしてあり、中には入れないようにしてあったようですが、鍵は壊されて開きっぱなしになっています。足跡は穴の中にまで続いています。 《アイデア》に成功すれば、足跡の向きから外に出た形跡がなく、二人はまだ中にいることがわかります。
 穴の奥行は8メートルほどで行き止まりになっています。不思議なことに脇道などなかったのにもかかわらず、行き止まりになっても二人の姿はありません。
 行き止まりの壁には奇妙な図形(資料イラスト参照)がペンキで書かれています。調べてみれば、ペンキ はついさっき塗られてものらしく、まだ乾ききっていないことがわかります。
《クトゥルフ神話》に成功すれば、この図形が「ヨグ・ソトースの紋章」であることがわかります。また、ヨグ・ソトースという言葉が次元を繋ぐ門に力を与えるも のの名であることもわかります。
 行き止まりと思われた壁にはン・カイへ繋がる「門」があります。美川たちは、この「門」を通ってン・カイへと行ったのです。
 探索者も、紋章の描かれた壁に触れることによって「門」を行き来できます。「門」を使用する際、3MPを消費し、1正気度ポイントを失います。

「門」の向こう側は、かの地底世界ン・カイです。
 探索者が表われるのは、果てしない深さをもつ峡谷の底にある、下へ続く階段です。背後にはヨグ・ソトースの紋章が描かれた壁があります。もう一度、壁に触る と、また土蜘蛛穴に戻ってしまいます。そんなことを繰り返していると、いつかMPが足りなくなってしまうことをキーパーはプレイヤーに示唆してください。
 階段は下に続いています。
 辺りは、生臭い匂いが充満しています。
 進む方向は二つだけです。
 もう一度「門」から元の世界に戻るか、それとも階段を降りていくかです。

 階段を降りていると、途中で燃える瞳を持った星型が掘られた器が落ちているのを見つけます。《クトゥルフ神話》に成功すれば、これが「古き印」だとわかりま す。
 さらに階段を降りていくと、今度は髪櫛。次は兜というように、点々と三つの物が落ちています。どれも「古き印」が掘りこんであり、灰色の金属で出来ていま す。
 これらの物品を見て《歴史》に成功すれば、中世ヨーロッパのもののような雰囲気だが、正確にいつの時代のものだかは判別できないとわかります。このような様 式のものは、今までどんな出土物からも確認されていないのです。
《考古学》に成功すると、とてつもなく古いとも思えるし、数百年前後の品物のようにも思える、まったく奇妙な品だと思います。自分の知識の範疇を超えた、その 物品に対して無気味なものすら感じてしまいます。
《科学》に成功すれば、合金製らしいことはわかるのですが、どのような金属を混ぜ合わせたものなのかはわかりません。ただ、とてつもなく頑強な金属であること だけはわかります。
《知識》1/2か《人類学》に成功すれば、この三つの物品が、古事記にあるイザナギの黄泉の国からの脱出に使用されたものと符合しており、世界各地に伝わる呪 的逃走と呼ばれる説話とも符合していると考えます。呪的逃走とは、物語の主人公が敵から逃げる際に三つの物品を投げつつ逃走する話のことです。例としては、昔 話の「三枚のお札」などが日本人の多くが知っている話でしょう。

 さらに、階段を降りていくと、突然、広大な場所に出ます。
 見渡す限りの大海原のようになっており、自分たちが降りてきた階段は少し出っ張ったテラスのようになって、下は断崖となっています。相変わらず天井は見え ず、無限に続く空間だと錯覚してしまいそうです。
 断崖の下からは、「お〜、む〜、う〜」とかいう不可思議な音が聞こえてきます。
 また、断崖のすぐ手前に美川と野中祥子もの姿があります。
 美川は、野中祥子を捕まえながら断崖の下を見つめています。祥子は、息はあるようですがぐったりして、美川に支えられやっと立っているといった感じです。
 美川の見る海原には、水の代わりに薄ピンク色のドロドロとしたものがあるだけです。《目星》に成功すれば、そのピンク色のものが無限数のあらゆる生物の胎児 のようなものの集まりで、それらが胎動して波打っているのだということがわかります。このことに気づいてしまった場合(つまりは《目星》に成功した探索者 は)、1/1D3正気度ポイントを失います。
 これは無限の時の間にアブホースから逃げ出すことができた落とし子が溜まりにたまってできた生命の海です。
 このン・カイでは、屍骸を分解する微生物がいないため腐ることがなく、その上、生みの親であるアブホースの性質を受け継いで無限に子を生み出すものや、中に は自然死すらできない生命までが無数に集まっているので、生命の海はかさを増すばかりなのです。その壮絶な様は、まるでアブホース本体と見間違わんばかりで す。

 その様子を見て、美川は、
『混沌の海。なるほど、イザナギ、イザナミによる古事記の創世か。
 では、あれが水蛭子(ひるこ)だというのか?
 いや、まてまて。ここは黄泉の国だ。
 だとすると……豫母都志許女(よもつしこめ)、イザナミ……それとも、雷神が副えたという千五百(ちいほ)の軍勢か?』

 と、楽しそうに、ブツブツと呟いています。
 探索者は、これを攻撃のチャンスと考えるでしょう。
 ですが、美川は用心のために、あらかじめ「肉体の保護」の呪文(ルール参照)によって17点の装甲をもっています(そのためにMPを4点消費しています)。
 拳銃を所持しており、ゼロ射程ルールなどの関係から美川に近づきたいという探索者がいた場合、7メートル以内に気づかれずに近づくには《忍び歩き》に成功す る必要があります。失敗すれば、美川は探索者の存在に気づきます。
《忍び歩き》に成功するか、気づかれることを覚悟で速効をすれば、1ラウンドの間だけ探索者は不意討ちができます。
 この不意討ちで美川に接近戦を挑み、《グラップル》に成功すれば、美川は野中祥子を手放してしまいます。
 キーパーは美川には野中祥子という人質があることをプレイヤーに示唆して、慎重に作戦を立てさせてください。その作戦が適当であるとキーパーが判断した場合 は、ロールにボーナスを与えて、その作戦がなるべく成功するようにしてあげてください。キーパーにとっても探索者にとっても、人質のある戦いほどやりにくいも のはないからです。

 美川は攻撃をされても「肉体の保護」があるので、まず一撃で倒されるようなことはないでしょう。美川は攻撃を受けて、探索者の存在に気づくと、
「馬鹿め、そのような攻撃が通用するか。これがエイボンに代表されるハイパーボリアの魔術……現代の魔道士などは、足元にもおよばん力だ」
 と、心底うれしそうに語ります。
 美川に対して探索者が取引を持ちかけても通用しませんし、野中の秘物にも関心を示しません。このン・カイの空気が、彼の狂気を悪化させてしまっているからで す。
 美川は呪文の力を過信しているので、探索者をその力によって返り討ちにしてやろうと考えます。しかしながら、人間の脆弱な精神は、連続して混沌の力を行使す るのに耐えられません(ルール的に言えばMPが足りないのです)。やがて、呪文が使えなくなってしまうでしょう。
 ですが、それまでは美川は自分が無敵であるかのような素振りで、さかんに呪文を使ってきます。作戦としては、銃などを持った危険な相手に、優先的に「ヨグソ トースの拳」の呪文(ルール参照)を使います。どの探索者も武器を所持していないのならば、背の低い(SIZが低い)ものから狙います。そのほうが効率的だか らです。美川は「ヨグソトースの拳」にMPを4点ずつ消費します。
 この呪文を見て、《アイデア》に成功すれば、野中英男の不思議な死にざまは、この呪文によってなされたものに間違いないと考えます。
 美川の呪文は数が限られているので、よほど少人数でプレイしているか、運が悪かった場合を除けば、探索者は美川を倒すことができるでしょう。

 美川が行動不能に陥った場合、彼はその間際に胎児の海原へ向かって、
「さあ、我が神よ、ニエをもってまいりました。これで、あなたの飢えを癒してください」
 と、あらん限りの大声で叫んでから倒れます。
 美川の叫びのすぐ後、不気味にうごめく海原の彼方から、なにかが漂ってくるのを探索者は不思議なことに全員同時に発見します。
『距離感はまったく掴めない。
 想像を超えるほど遠くにいるように気がするというのに、その目の微かな燐光の輝きがまぶしいほどに近くであるとも感じさせる。
 夢とは違う!
 圧倒的なまでの現実感で、それはその場に存在していた。
 目は半分閉じられ、口をけだるそうに動かしている。
 それこそは紛れもなく、そう紛れもなく……人の造り出した、どのような神々をも超越した、真の神々の一人なのだ!』

 現われたのは、ン・カイで惰眠をしていたツァトゥグア本体です。このグレート・オールド・ワンの降臨に立ち会ったものは、0/1d10正気度ポイントを失い ます。
 正気度ロールを終了したならば、結果がどうあれ、間髪をおかずに次の描写に移ってください。
『何の前触れもなく、その彼方の存在から、細い触肢が延びてきた。それは、ほんの一瞬の出来事だった。
 その触肢は、その持ち主と同様にけだるそうな緩慢な動きで犠牲者を持ち上げた。その一つ一つの動作がはっきりと見えるほど鈍い動作であったにもかかわら ず、命あるものが、それから逃れることは不可能だった。
「な、なぜ私が!」
 犠牲者は美川だった。美川の体へ、無数の細かな管が差し込まれ、そこから煙を上げる液体が注ぎ込まれた。全身が泡立つように変化し、手足がひしゃげ、脆 弱に、小さく縮み、鈍重に、醜く、痴呆に、破壊され、記憶を失っていく。
 肉を喰らうのではない。
 生物の存在自体を喰らい、完全な無に帰す。この行為こそが、あの神にとっての喰らうと言うことなのだ。
「ノアではなかったのか。
 やはり、ヒルコが必要なのか?
 しかし、そんなものはどこに?
 無原罪の魂など、世界のどこにも……まだ、ヒルコは箱船から降りてはいないのではないのか」
 悲痛な叫びとともに、いつしか美川の体は完全に消え去っていた。
 そして、触肢は新たな獲物を探し出した。満たされない永遠の飢えを満たすためか、単なる気紛れのためか、それは人間には永遠にわからないだろう。
 その触肢は、けだるそうな動きで祥子をつかみ上げた。どのような手段を持っても、その神の腕から彼女を守ることはできなかっただろう。そして、細かな触 肢が、祥子の白い肌を喰い破ろうとうねり始めた……』


 いよいよシナリオも大詰めです。
 ツァトゥグアは海原の遥か彼方から触肢だけを伸ばしているので、どのような手段を持ってしてもツァトゥグア本体に攻撃するのは不可能です。よって、祥子を助 けたら、さっさとこの場から逃げ出すのが最善の策です。
 美川の最後の言葉から、ツァトゥグアがヒルコを望んでいるということに探索者は気づいたかも知れません。また、古事記の一節から、階段で見つけた三つの物品 (以後、呪物と呼称)が黄泉の国からイザナギが脱出する際に使った呪物であることにも気づいたかも知れません。
 ツァトゥグアの触肢によって空中に持ち上げられた祥子を助けるには、ヒルコか呪物をツァトゥグアに投げつける必要があります。
 探索者がヒルコを投げたのならば、ツァトゥグアは祥子への関心を無くしたかのように彼女をテラスへ投げ出し、ヒルコを追いかけます。これは無条件で成功しま す。
 もし、ヒルコではなく呪物を投げつけようとするならば、《投げ》で普通に判定します。成功すれば、ツァトゥグアは「古き印」に怯んで祥子を地面に放り出して しまいます。失敗すると、呪物はツァトゥグアに効果を示しません。一度、《投げ》に失敗してしまった呪物を再使用できるかどうかはキーパーの裁量に任されま す。厳しいゲームにしたいのならば、再使用は不可とするべきですが、全滅を避けたいとするならば、呪物を拾って再び投げることぐらいは許可すべきでしょう。
 探索者が大切な呪物を投げてしまうのを嫌うのならば、《ジャンプ》に成功すれば、祥子をつかみあげている触肢に飛びつくことができ、呪物を直接触肢に叩き付 けることができます。この際は、《ジャンプ》判定に失敗しても呪物は無くしません。その代わり、《ジャンプ》に失敗した後、《回避》に成功しないとツァトゥグ アの触肢に絡みとられてしまいます。
 キーパーは《投げ》と《ジャンプ》のどちらに挑戦するかをプレイヤーに聞いてください。
 狂気のオプションルールである『狂人の直感』を使用している場合、狂気に陥った探索者は呪物がツァトゥグアに対して効力があることに気付きます。ただし、こ のことを直接他の探索者に告げることは出来ないことに注意してください。

 元の世界へ戻るための「門」までは、5ラウンド走る必要があります(付属のボードを使用して、探索者 たちの位置関係を把握させるのに役立ててください)。誰かを背負って行動しているときは(祥子を助けるには背負ってあげる必要があります)、今後のロール (《幸運》以外)は、すべて半分で判定しなくてはなりません。
 ツァトゥグアから逃げ出す探索者は、毎ラウンド、《幸運》判定をします。もし、失敗してしまったらツァトゥグアの触肢に捕まります。誰も失敗しない場合は、 そのラウンドはツァトゥグア独特の気紛れによって、誰も捕まえません。失敗者が複数の場合は、攻撃してくる触肢は一本なので、ダイス目と《幸運》の差がもっと も大きい探索者が捕まってしまいます。
 幸運に失敗した場合、回避をすることもできます。ですが、回避をしてしまうと、そのラウンドは走ることができません。もちろん回避をしなくては確実にツァ トゥグアに捕まってしまう(この神の触肢技能は100%です)ので、どちらにせよ走ることはできませんが……
 触肢に捕まった探索者はルール通りツァトゥグアに能力を吸収されてしまいます。
 もし、捕まった探索者が呪物を持っているのならば、能力値を吸い取られる前にツァトゥグアは触肢から探索者を放します。その代わりに、探索者から呪物を無条 件で奪い取ると壁に叩き付けて破壊してしまいます(アブホースとは違って、ツァトゥグアは気が短いのです)。
 ヒルコを持っている探索者が捕まったとしたら、ツァトゥグアはヒルコを無条件で奪い取って、その美味を咀嚼するために2ラウンドの間は海に戻っています。探 索者は、その間に階段を走ることができますが、2ラウンド後は、いままで通りにツァトゥグアは攻撃を再開します。
 他の探索者が犠牲者をツァトゥグアから脱出させるには、祥子を助けたときと同じように《投げ》か《ジャンプ》で呪物を触肢にぶつける必要があります。
 そうすれば捕まっていた探索者は、すぐに脱出できます。
 ヒルコも呪物も使い果たしてしまったという最悪の場合、探索者の一人が犠牲になっている間に逃走するということができます。その際は、ツァトゥグアは犠牲と なった探索者の能力値を完全に吸収するまで動きませんので、たやすく逃走は完了します。
 
 5ラウンド走った探索者は、「門」まで到着できます。入ったときと同じように、3MPと1正気度ポイントを消費すれば、元の世界である土蜘蛛穴へ戻ることが できます。万が一、MPが足りない場合は残念ながら戻ることはできません。なにか魔術的な脱出手段がなければ、その探索者は確実に死亡することでしょう。
 土蜘蛛穴に戻った探索者は、すぐに「門」に描かれた「ヨグソトースの紋章」を削りとるかどうかしないと、「門」を越えてツァトゥグアの触肢がやってきようと します。キーパーは「門」を封じる必要性を探索者に示唆してください。もし、気づかないようでしたら、触肢の先でも「門」から出してやれば、嫌でも「門」を封 じなければと考えるでしょう。
「ヨグソトースの紋章」をちょっとでも削りとれば(コインなどを使えば楽にペンキは剥ぎとれます)、すぐに「門」の効力はなくなり、ツァトゥグアはこちらに やってくることはできなくなります。


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