『冒険の概略』
冒険者の暮らす宿に、ふらりと犬をつれて現われた青年。
彼が現れてから、村ではいろいろと不思議な事件が起きるようになり、やがて、それは殺人事件にまで発展していきます。
多くの情報が、この事件の犯人が犬をつれた青年であることを示唆していましたが、しかし真相は少し違っていました。
犯人は、青年のつれている犬だったのです。
彼ら一人と一匹は、夜と昼ごとに人と犬の姿を交代する呪いをかけられた、ライカンスロープの一種だったのです。
冒険者たちは、そのことを突き止め、呪われたライカンスロープの狂気の行動を止めることができるでしょうか。
この冒険シナリオは冒険者レベル2〜4のキャラクター、3〜5人を想定しています。マスターは、冒険者であるプレイヤー・キャラクターの強さに応じて、登場
する敵の強さを調整してください。
『冒険の舞台』
このシナリオは、アレクラスト大陸の極東地方に属するアノス王国を舞台とします。
より細かく言えば、アノス王国の南西部の街であるソーミーのさらに西に伸びる山脈の麓にあるサダトア村が冒険の舞台です。
サダトア村は、このキャンペーンの拠点となる村です。
村の位置する地形が、以後のシナリオに関わる状況も多いので、村の場所を変更することはお奨めできません。もし、どうしても他の地域でのプレイをマスターが
希望した場合、出来る限り地形的に似た場所を選んでください。
特に、近くに山脈があることが重要です。
『NPC紹介』
マリー(人間・女・16歳)
酒場の主人の一人娘です。
心優しく、芯の強い少女です。
オシカ(ライカンスロープ・男・24歳)
村にふらりとやってきた影のある青年です。
彼は、夜になると犬の姿となってしまう呪いをうけています。犬の姿のときは、気を失っているので行動はとれません。
トロス(ライカンスロープ・男・24歳)
青年がいつもつれている犬ですが、実はオシカの兄です。彼は、昼間は犬となり、夜には人間に戻ります。彼は狂っているため、弟のオシカのことしか考えていま
せん。
ルーベン(人間・男・19歳)
数年前からサダトア村に住みついた流れ者です。ろくに働きもしない乱暴者で、下心からマリーにちょっかいを出している男です。
オシカが来てから、マリーの関心がオシカへ向いてしまったので、彼は内心ではオシカを邪魔ものだと考えています。シナリオ後半で、トロスの手によって殺害さ
れます。
『冒険への導入』
シナリオは冒険者たちが、サダトア村で買物やその他の生活をしている合間から自然に始まっていきます。
マスターはさりげなく村の様子を説明したり、やりたいことは無いかなどとプレイヤーたちに聞いて、その合間にタイミングを見計らって本編へと入ってくださ
い。
『本編』
1,オシカ登場
事件は、マリーの酒場にふらりと青年がやって来ることから始まります。日一日毎に日差しが夏のものへと変わっていくような、旅をするには良い季節ですので、
旅人自体はそんなに珍しくありません。
青年の年齢は、二十代前半。穏やかな目をしていますが、視線は伏せがちで、そのため悲しそうな表情にも見えます。旅人といった服装で、ショートボウとブロー
ドソードを持っています。鎧は、ハードレザーを着ています。旅の道具は少なく、行商人とは思えません。
やや褐色がかった肌の色や、瞳の色が微妙にこのあたりの人間とは違っています。
そして、犬を一匹つれています。
犬は、狼のようにも見える野性的な犬で、毛は青年の肌の色と同じ薄茶色、日本でいう秋田犬のようなスマートな姿です。目付きは非常に鋭く、歯をむきだしにし
ています。レンジャーの「動植物鑑定」で目標値10の成功ロールに成功すれば、この犬が特に人に襲い掛かるというわけでもないのに、常に殺気を帯びていること
がわかります。
犬は、酒場の中にも入ってきて、青年の足元に座ります。
この酒場の店員のマリーは気さくな女性なので、別に店の中に犬が入ってきても気にしません。
青年は二人分の食事を注文して、犬にも自分と同じ食事を与えます。
2,青年の正体
この青年は、一種の犬のライカンスロープです。
彼は、ファーセリアの北東部よりさらに東に暮らす辺境部族の生まれで、双子の兄がいます。青年の名はオシカ、兄の名はトロスといいます。
この兄弟は部族の族長である男に養子として育てられていましたが、その養父はたいへん残忍な男で、彼らに無理難題を吹っかけてはひどい仕事をさせていまし
た。
そんなある日、血の気の多い兄トロスは、養父をふとしたことで殺してしまいます。
族長殺しの罪をおった兄弟は、その部族に伝わる「畜生落とし」という呪いをかけられてしまいます。
この呪いは、昼には弟を人間、兄を犬として、そして、夜には兄を人間、弟を犬とするというものです。
そのうえ、兄弟は部族を追われ、旅の身となりました。
その長い苦しみのため、兄トロスは狂気におちいりましたが、弟オシカは、自分たちの罪を背負って旅の生活を続けています。
オシカは自分にかけられた呪いと、狂った兄のため長く一所で生活ができないのです。
トロスの狂った心は、弟に対する絶対的な愛情を産みました。
トロスは、弟オシカを守るためや、喜ばすためなら何でもしようと思っています。ただ、その狂った心はトロスに歪んだ感情を持たせ、その感情はトロスに狂気の
行動を取らせています。
オシカは、兄の行動を止めたいと思うのですが、夜がふけて変身のときが近づくと、急激に体がだるくなり気を失ってしまうため、夜の兄の行動を止めることがで
きないでいます。
オシカは犬になっている間は、なにか目の覚めるようなことが起きない限り、人間の姿に戻るまで意識を取り戻すことはありません。
もし、犬のときの二人に動物のかかる魔法をかけようとしても、かかりません。また、心を読む魔法は、狂気に落ちた兄にはかかりません。ただ、憎悪のみが渦巻
いているだけです。なお、弟の心は、澄んでおり懺悔の心のみが満ちています。
「センス・イービル」では、犬の時のトロスの狂気の心を看破することは出来ません。彼の感情は「邪悪」なものとしてではなく、単なる動物的な「本能」としてし
か受け止められないからです。
もちろん、トロスが人間の姿となったときならば、「センス・イービル」で彼が邪悪と看破できますし、「センス・オーラ」でも猛烈に暴れ回る狂気の精霊を感じ
取ることが出来ます。
3,弟オシカの行動
弟のオシカは、他人とはあまり口をききません。路銀は、ある程度あるので、宿屋の一室を借りて泊まっています。
彼は、鍵のかかる個室に犬と一緒に泊まっています。
オシカは、昼は村をぶらついては、時に村の仕事を手伝ったりしています。村人はそのお礼に、食事などをご馳走してあげています。その時、彼は必ず、自分と同
じものを犬、つまり兄トロスにも与えています。
無口ですが働きもので、心根は親切なオシカは村人に暖かく受けいられました。ただ、彼のつれている犬は誰にも慣れません。
マリーの酒場には、素泊りという感じで滞在しています。朝や昼間は、村の手伝いをしているからです。
路銀はあるようなのですが、節約した質素な暮らしです。
マリーはよく、オシカに店の仕事の手伝いを頼みます。そして、オシカもすすんでマリーを手伝っています。
そんなときのお礼の食事は、誰の目から見ても、豪華で手の込んだものです。
勘の良い人なら、マリーがオシカに好意を抱いていることがわかるでしょう。ただ、そんなマリーの好意にオシカは抵抗を感じているようです。
また、よくマリーの酒場にいる冒険者ならば、そんな二人の様子を疎ましげに見ているルーベンのことに気付きます。ルーベンは酔っぱらってマリーに絡んだりす
るなど、かなり態度の悪い男です。
他の村人に聞けば、年老いた村人の蓄えをだまし取ったとか、村の娘に乱暴をしたといった悪い噂をいくらでも聞くことが出来ます。
マスターはそんな彼と冒険者やオシカが衝突するシーンを演出しても良いでしょう。
4,事件発生
オシカと犬がやってきて数日が経った頃、村に不思議な事件が連続して発生します。
事件の内容を以下に書きますので、冒険者の行動にあわせてこの事件の情報を伝えてください。つまり、事件の起きた順番はそれほど関係ないということです。
この事件は、すべて兄トロスが行なったものです。
狂っていながらも、オシカは犬の姿と人間の姿を上手く利用して、犯行を行なっています。狂気と本人の知性は、まったくの別物だからです。
まず、トロスは犬の姿で狭い窓などから家に忍び込み、その後、人間の姿に変身し物品を盗みとって、人間の体で内側から扉を開けて逃げ出すという手口を使って
います。
そして、どこか人目のつかない場所で朝を待ち、こっそりと犬の姿でオシカのもとに戻ります。
目立つものを盗んだ場合は、人目につかない場所でオシカを待って、その場で盗んだものを手渡しします。
トロスが物品を盗むのは、弟のオシカの路銀のためです。
しかし、オシカは盗まれたものを、村人に返すために、こっそりと目立つ場所に戻しています。
狂ったトロスは、オシカの行動の意味が理解できません。ただ、もっとすばらしいものを持ってくれば弟が喜ぶと思い、次々に犯行を重ねていきます。
オシカは、兄が犯行をしているときは、犬の姿で半分気を失っているような状態にあるので、兄の行動を止めることができません。
4−1,首飾り事件
村の子供達が、美しい首飾りを見つけて、大騒ぎをしています。
村の広場の大きな石の上に置かれていたそうなのですが、物品鑑定で調べてみれば、セージかシーフの「宝物鑑定」で目標値10の成功ロールに成功すれば、この
首飾りが1000ガメル程度の価値があることがわかります。つまり、そんなところに起きっぱなしにされるような代物ではないのです。
村人たちに尋ねてまわれば、これが村に住むシェリルという中年女性の物で、シェリルの家に代々伝わる大切な花嫁衣装だということがわかります。
シェリル自身、首飾りがなくなったことには気づいておらず、このことに驚いています。
泥棒ならばわざわざ見つかるようなところに置きっぱなしにしないでしょう。シェリルは幼い一人娘が前にこの首飾りに興味を持っており、貸して欲しいとねだら
れたことがあったので、今回の事件は娘がこっそり持ち出して、そのまま忘れたのだろうと思ってます。
奇妙な事件に関心を持った冒険者に対し、彼女は娘が起こした騒動で迷惑をかけたことを詫び、強引に娘にも頭を下げさせます。
ですが、娘は自分はやっていないと(当然です)涙を流しながら抗議を続けています。
4−2,銀貨盗難事件
村では珍しい盗難事件が起きます。
被害者は、きこりのジェイムです。ジェイムは、自分の貯えた銀貨だけが生き甲斐の一人暮しの老人です。
彼の家は、戸締まりは完璧で、外からの進入はまず考えられません。というのも、外から開けられる鍵のほかにも、内側にかけるかんぬきなど複数の鍵を取り付け
ており、ただの村人の家にしてはかなり厳重な戸締まりをしているからです。もし開けようと思うなら、シーフの「鍵開け」で目標値18の成功ロールに成功する必
要があります。
それもこれも、すべては貯えた銀貨に原因があります。今までで貯め込んだ銀貨は、なんと830ガメル。そのため、彼は非常に猜疑心の強い性格になってしまい
ました。
そんな彼の銀貨が盗まれたのです。
彼は、朝の日課で銀貨を数えようとしたとき、銀貨の入った袋が紛失しているのに気づきました。
前日の夜、絶対に戸締まりしたはずの玄関のドアが開いています。シーフの「鍵開け」で目標値9の成功ロールに成功すれば、鍵の様子から玄関の複数の鍵は部屋
の中から開けたとしか考えられません。
建物の出入り口は、屋根と壁の明り取り以外は、すべて閉められていました。その明り取りもたいへん小さく、子供でも出入りはできそうにありません。
屋根の上の明り取りまでは、積んである薪を登って人間でも登れます。
ソーサラーの使い魔のカラスなどなら入れそうですが、それなら玄関のドアを開けて出る必要はないでしょう。それに、銀貨のはいった皮袋はたいへん重いもの
で、カラス程度の大きさの鳥ではとても運べないでしょう。
村中は、彼のおかげで大騒ぎとなり、領主に訴えるというところまで騒ぎが大きくなったところで、意外な決着がつきました。
無くなった彼の銀貨を入れていた皮袋を、村共有の放し飼いの山羊が首にぶら下げているのが見つかったのです。
ジェイムと、村人たちの奮闘のすえ逃げ回る山羊から奪い取った皮袋には、きっかり830ガメルの銀貨が入っていました。ジェイムは銀貨さえ戻ればと納得し、
一応騒ぎは納まります。
この騒動は冒険者も交えて、山羊を捕まえようとする冒険者と村人達のコミカルなイベントにしてみるのも良いでしょう。
4−3,領主様の宝石箱事件
ここで、冒険者達は簡単な依頼を受けます。
依頼主は、領主の館のメイドであるアジェンタです。
彼女の依頼は、無くなった領主の宝石箱の捜索です。
彼女の話によるとこうです。
昨日、領主が彼女に、宝石箱の在処について尋ねたそうです。彼女は、いつも置いてある場所を教えましたが、領主はその場所にはないと言うのです。
メイドは、屋敷中を探しましたが、結局見つかりませんでした。
そして、数日前、戸締まりをしたはずの屋敷の窓が開いていたことを思い出しました。
彼女は、宝石箱が盗まれたのだと判断し、村人や領主には内密に冒険者に捜索を依頼しに来たのでした。あまり騒ぎを大きくしたくないからです。
報酬は、もし見つけてくれれば、領主に訳を話して、それなりのものを払うと約束します。
冒険者がこの依頼を受けなくても、別に構いません。マスターは次の項にシナリオを進めてください。
4−4,領主の屋敷の捜索
シナリオの展開上必要の無い場面ですが、冒険者達がどうしてもというのなら、領主の館に入ることができます。
もっとも、メイドと一緒に内密に動く必要があるため、それほど積極的な捜査はできません。
ただ、シーフが「知力」を基準とした成功ロールで目標値8のロールに成功すると、万全とも思える領主の屋敷の戸締まりも、台所の換気窓だけは閉めることがで
きないことがわかります。もっとも、それは小さな子供でもない限り、通り抜けられないほど小さな窓ですが。
この場面では、プレイヤー達が予想していたほどに、情報は出てこないので、プレイヤー達が飽きてしまわないうちに、早めに場面を変えてしまうよう心がけてく
ださい。
5,弟オシカの喧嘩
前項のイベントをすべて終えた冒険者達は、宝石箱の捜索を始める、始めないに関わらず、このイベントに出会います。
昼間、村のどこかで、オシカと若い男の喧嘩が始まるのです。
ここで、場所を限定しないのは、イベントの発生場所を冒険者の行動にあわせるためです。
冒険者が、領主の屋敷の探索などをしていた場合や、捜索をしないでその辺を散歩していた場合は、その場面に相応しい場所で、このイベントを起こしてくださ
い。
冒険者達が、宿から一歩も外にでない場合は、外のほうで騒ぎが起きたなどといって外へと誘導してください。
もっとも、このイベントに遭遇するのは別に一人だけでも構わないので、無理して冒険者達を集合させるような誘導をする必要はありません。
喧嘩の状況は、一方的にオシカが絡まれているといった感じです。
喧嘩の理由はよくわかりませんが、言い争いの内容からある程度は推測できます。
以下は、言い争いの一部です。
若者「やっぱり、最近の騒ぎの犯人は貴様だったのか」
オシカ「誤解だ、これは拾ったものだ」
若者「嘘を言え、貴様が懐から出したのを、俺は見てたんだ」
オシカ「だから、拾って懐に入れておいたんだ」
若者「だったら、なぜ、それを取り出して、こんなところに置こうとしたんだ。誰かに届ければいいじゃないか」
オシカ「そ、それは……」
といった内容です。
そして、オシカの手には、きれいな小箱が握られています。
メイドの宝石箱の話を聞いている冒険者ならば、その小箱がメイドの言っていた領主の宝石箱だとわかります。
このシナリオでルーベンと出会っていない冒険者は、「冒険者レベル+知力」を基準とする目標値8の成功ロールに成功すれば、この若い男がルーベンという名
の、よくマリーの酒場に来る客だとわかります。ろくに仕事もしないでフラフラしている乱暴者で、村人達には嫌われている男です。
それに気づいた冒険者は、「冒険者レベル+知力」を基準とする目標値10の成功ロールに成功させれば、この若者がマリーによくちょっかいを出しており、オシ
カの存在を疎ましく思っていたことを思い出します。
このことは特別マリーに関心を持っていそうな冒険者、つまりマリーにちょっかいを出しているような冒険者なら無条件で知っていても構いません。
喧嘩の結末は、冒険者次第です。
もし、仲裁を試みるなら、こわもての冒険者に逆らうほどルーベンは愚かではないので、すぐ喧嘩を止めます。
冒険者達が喧嘩を静観する場合でも、イベントは次に移ります。
6,狂犬登場
喧嘩が終わった、終わらないにかかわらず、突然ルーベンを犬が襲います。
この犬こそ、オシカの兄であるトロスです。今は昼間ですので、犬の姿をとっています。
トロスはルーベンをひと噛みしますが、すぐにオシカに止められます。
ルーベンの傷は大したことはないのですが、殺気に満ちたトロスの姿を見て、ルーベンはその場から逃げるように立ち去ります。その際、
「この狂犬め。おい、おまえら、こんなやつらを村にいさせていいのかよ!」
と、捨て台詞を残していきますが、もともと嫌われ者のルーベンに同調する村人はいません。
トロスは逃げるルーベンに激しく吠え続けますが、オシカはひざまずいて犬の姿のトロスを抱きしめ、
「もう、いいんだ……僕は平気だよ」
と、静かに言い聞かせます。
「冒険者レベル+知力」を基準とする目標値8の成功ロールに成功すれば、オシカが涙を流しているのに気づきます。
オシカの言葉に、トロスはさっきまでの剣幕が嘘のように静かになります。そして、彼の頬につたう涙を優しくなめとります。
7,喧嘩の後処理
オシカは、手にしていた宝石箱を冒険者に渡します。
彼は、この宝石箱は道で拾ったのだが、疑われるのが恐かったので、どこか目に付くところに置いておけば、誰かが拾って届けてくれるだろうと思ったと語りま
す。
ここで、プレイヤー達はオシカを怪しいと考えることでしょう。
そこで冒険者達がオシカを追跡しようとするのなら、それは好都合です。なぜならルーベンを尾行されると、シナリオ上困ったことになるからです。
ですから、冒険者達がオシカを尾行するなら、ぜひさせてあげましょう。
もし、ルーベンについて行こうとする冒険者がいるならば、ルーベンが冒険者の存在に気付くかどうかのチェック(とりあえずダイスを降るだけで、ダイス目に関
わらず自動成功で構わないでしょう)をさせて成功したことにしましょう。
冒険者に気付いたルーベンは、
「なんでついてくる。追っかけるなら、あのコソ泥野郎のほうにしたらどうだ」
と、凄い剣幕で冒険者を追っ払います。
もっとも、多くの冒険者は宝石箱を領主に届けに行くでしょう。
冒険者達が、ことの成り行きを正直に話せば、領主は礼金としてに100ガメルを支払います。
もし、嘘を吐いて、どこからか見つけてきたと言えば、感謝の言葉を述べて礼金として800ガメルを支払います。
ただ、その後、村人の誰かに真相を聞いたメイドさんに軽蔑されるのは必至でしょう。
8,イベントの整理
さて、事件が連続していろいろとおきました。キャラクターとプレイヤーはどういう行動に出るでしょうか。
もっとも、ありそうなパターンはオシカを尾行、または領主の家からマリーの酒場に戻るという行動でしょう。
この二つの行動の場合、マリーの酒場に帰るオシカと犬の姿を見ることができます。
時刻は夕方近くなり、オシカは夕食を食べると、すぐに部屋に戻ります。
マスターは、そういえば、今までもオシカは夕食を終えるとすぐに自室に入って、朝まで一歩も出てこないという事実を冒険者たちに伝えてください。なお、自室
には鍵がかかっていて、簡単には入ることはできません。
この時点で、プレイヤー達は事件にオシカが関係あるとにらんでくるでしょう。
これからのイベントは、冒険者の頑張りしだいでは、少々内容が変わることがあるかも知れません。
そのような事態に陥った場合のフォローも当シナリオでは極力してあるつもりですが、それでも対応しきれない事態になった場合は、冒険者の行動を尊重してくだ
さい。
いくつかのイベントを飛び越すことになっても、マスターが良いと思うなら認めてください。しかし、いきなり意味もなくオシカやトロスに斬りかかるなんて行動
は、さすがに認めないほうがよいでしょう。
9,兄トロスの行動
これは、冒険者に関係なく起きるイベントです。もし冒険者が、このような事態に警戒しており、賢明な対応をとっていたならば、このイベントの発生に気づく可
能性もあります。
日が暮れてから間も無く、犬から人間になろうとしている兄トロスは、宿の窓から犬の姿で飛び出します。その口には、大きな荷物がくわえられています。武器や
服が入っている袋です。ただし、鎧は入っていません。
弟トロスは呪いによる変身のショックのため気絶しているというのに、彼の狂った心は、変身時の負担など精神力で追い払って、自由に行動することができるので
す。
しかし、それは犬から人間への変身という恐ろしい体験をするということでもあります。この恐怖の体験が、彼の心をますます狂わせているのです。
今晩、兄トロスが荷物を持ち出したのは、いつものように盗みに行くのではないからです。
彼の目的は、ルーベンを殺すことです。
トロスにとって、弟オシカを苦しめるルーベンは許せないものです。
彼は犬の姿でルーベンの家に近づき、人間に変身を遂げた後、弟の服と剣を持って、弟の代わりにとルーベンを斬り殺します。
弟のオシカの姿でルーベンを殺すのは、弟に復讐をさせたかったからです。
その後は、荷物を持って、どこかで朝を待って犬の姿に戻り、オシカと合流するつもりです。
もし、冒険者がこのイベントを目撃してトロスに攻撃をしようとした場合、精一杯トロスを逃がしてあげてください。
マリーの酒場までトロスが逃げられればしめたものです。一気に、最後のクライマックス(「*,最後の夜」を参照)に雪崩込んでください。
途中でトロスが殺されるようなことになれば、朝になれば殺したはずのオシカ(冒険者はそう思っているはず)が現われ、トロスの死体は人間のままです。
つまり、二人のオシカが現われるということです。
また、トロスが生け捕りにされた場合は、朝になれば犬に戻ります。
冒険者達は、オシカに真相の説明を求めるでしょう。
この後の展開は、最後のクライマックスの項を読んで決めてください。
10,ルーベン殺人事件
村は殺人という大事件に大騒ぎです。
ルーベンは一人暮しだったため、目撃者はいません。ただ、死因が剣のような大型の刃物でひと太刀というもののため、犯人はおのずと絞られていきます。
それは冒険者か、オシカのどちらかです。
もちろん、村人たちはどちらも疑いたくないといった様子です。しかし、他にこの村で剣を扱うようなものもいなく、捜査は行き詰まってしまいます。
犠牲者が嫌われ者のルーベンであったため、自業自得だと、村人達もあまり熱心に犯人を捜そうとしていない様子が見受けられます。
マリーの酒場などでは、酔っぱらった村人が「ルーベンもいなくなって村も静かになるだろうさ」と言って、冒険者達に意味深な視線を投げかけることがありま
す。つまり、冒険者達がルーベンを殺したのだと考えているのです。
冒険者たちは、自分のぬれぎぬをはらすために、行動に移るかも知れません。
調べれば、オシカには不審な点がいくつもあります。
箇条書きにしましたので、冒険者の調査にあわせて、以下の情報を伝えてください。
・傷口が、斧や槍のものではなく、大型の剣によるものであること。
・オシカの持っている剣を調べて、「冒険者レベル+知力」を基準とする目標値12の成功ロールに成功すると、微かに血糊が残っていることがわかる。
・昨日まで着ていた服を、オシカは着替えている。
・オシカの荷物を調べると、昨日、オシカが着ていた服に血の跡がついている。
服の返り血まで見つければ、冒険者達はオシカが犯人であるという推論を出すでしょう。
冒険者が捜査しても、しなくても、オシカは自首します。
ですが、冒険者が捜査によってオシカを追い詰めた場合は、オシカに「まいった」といった演技をさせてください。そのほうが、プレイヤーたちが自分たちで謎を
解いて、シナリオが進んだという満足感が得られるからです。
オシカは殺人の理由などを問われても、一切答えようとはしません。
ただ、自分がやっただと罪を認めるのみです。
11,逮捕されたオシカ
いくら相手が悪党とはいえ、殺人は殺人です。
自首したオシカは、領主の命令によって、次の日の朝、裁判の出来る町に護送するまで留置されます。
マリーは信じられないといった様子で、オシカに、
「嘘でしょう、あなたが人殺しなんて。ねえっ、嘘と言って。お願い……」
と涙を浮かべて語りかけます。
しかし、オシカはただ目を伏せて、
「これ以上、きみや村の人をだまし続けるわけにはいかないんだ。ゆるしてくれ……」
と謝るばかりです。
マリーは、その言葉に納得せずに、何度もオシカに問いただしますが、オシカは黙って首を振るばかりです。
マリーの嘆願により、オシカの留置はマリーの酒場のオシカの部屋でされることになりました。領主は、自首したオシカが逃げるようなことはないと判断し、マ
リーの願いを認めたのです。
領主は冒険者達に、明日の護送と、朝までのオシカの見張りを依頼します。
護送といっても、馬車などは領主が用意するため、ただ領主と一緒に町まで行くだけです。
報酬は、ひとり50ガメルです。
この依頼は、冒険者達になるべく受けさせてください。
12,最後の夜
最後の夜、冒険者達はどのような行動をするかが問題となります。
考えられる行動としては、オシカを尋問するか、それともオシカが逃げ出さないか見張るかのどちらかでしょう。
どちらにしても、この村には宿屋は一件しかないので、マリーの酒場にいることとなります。
冒険者は最低でも一人はオシカの見張りにつく必要があります。もし、依頼を受けているというのに誰もオシカを見張ろうとしなかった場合は、たまたま領主が酒
場にやってきてサボっている冒険者達を注意します。
依頼を受けないで、その上、オシカの傍にも居ない冒険者達には、突然のマリーの悲鳴が聞こえることなどによって、イベントを進めてください。
以下の説明は、もっとも考えられそうな状況での展開です。ですが、TRPGである以上、いつも予想通りに展開が進むとは限りません。マスターはこの説明での
NPCの行動などを参考にシナリオを進めてください。
オシカはマリーの酒場の二階にある客室に留置されています。不思議なことに、これまでオシカにつきまとっていた犬の姿がありません。
オシカの荷物は、明日運び出すので部屋に置かれたままです。
荷物を調べてみれば、いつのまにか証拠品の剣が無くなっているのがわかります。これはトロスが盗み出したのですが、冒険者が注意していないかぎり説明する必
要はありません。オシカは剣の所在については知らないと答えるのみです。
その夜、マリーは酒場に顔を見せません。自室に閉じこもったきり、誰とも会いたくないとふさぎ込んでいます。
日が暮れて、夜がふけてくると、オシカはぐったりとしてきます。
呪いによる変身が始まってしまったのです。オシカは部屋にいる冒険者たちに向かって告白します。
「これから私の身に起きることに驚かないで欲しい。これは我々兄弟の受けた呪いのせいなのだ……」
言い終えると、オシカは床に倒れ低く呻き始めます。
徐々にオシカの体は小さく細くなり、毛が生えていきます。顔は口が大きく裂け、耳が後ろに下がります。手の指が短くなり、足は靴が脱げて細い獣の足と変わり
ます。そして、変身をすべて終えたとき、そこにはオシカの姿はなく、あるのは一匹の犬の姿だけとなります。
ロープなどで拘束していたとしても、この姿になれば解けてしまうことでしょう。
すると、今度はマリーの悲鳴が階下から聞こえてきます。
13,兄弟対決
悲鳴を聞きつけて階下に降りようとする冒険者の前に、マリーを人質にしたトロス(冒険者にとってはオシカと同じ姿をした男)が立っています。オシカの剣をマ
リーの首に突きつけ、非常に殺気立った目つきで冒険者達をにらみつけます。
一見して、彼が正常ではないことがわかるでしょう。
トロスはマリーを盾にしながら、オシカのいる部屋に戻るように冒険者に告げ、自分もまた階段を上ります。
部屋にはいると、トロスは冒険者たちに「弟を起こせ」と命令します。
冒険者が起こしても、起こさなくても、騒ぎを聞きつけて犬の姿のオシカは目を覚まします。
目を覚ましたオシカを見て、トロスは、
「おお、オシカよ。目を覚ましたか。
今、兄さんが、おまえを苦しめていた奴をやっつけてやるよ。
まずは、この女だ。おまえは、この村に来てから、この女の事で悩み、苦しんでいた。でも、もうおしまいだよ。今、こいつも、あの男のように殺してやるから
な。
そして、また旅をしよう。私と二人で。
なあ、オシカよ……」
と、つぶやき続けます。その目は、熱に浮かされたように焦点があっておらず、「冒険者レベル+知力」を基準とする目標値10の成功ロールに成功すれば、彼が
正気でないことがわかります。
しかし、オシカのほうはトロスの呼びかけに答えようとはしません。
首をうなだれて、低く唸るのみです。
そんなオシカの態度に、トロスは困惑した顔をして呼びかけ続けます。
この時こそ、冒険者がマリーを助け出すチャンスです。
ただし、ここで冒険者がマリーを助けるため呪文などを唱えるのは時間がかかりすぎるため困難です。彼は冒険者が呪文を唱えようとすると、マリーの首筋に剣を
少しだけ突き立てます。狂人である彼にとって、人質の命はそれほど重要ではないのです。
呪文以外で、マリーを助ける策を考えついた場合、それが賢明なものであったならばマスターは認めてあげても構いません。例としては、乱暴な手段ですがトロス
が固執するオシカをこちらも人質にするとか、部屋の明かりを叩き壊して夜目の利く冒険者がマリーを助けるといった方法があるでしょう。
できれば、シナリオの達成感を増すために、ここは冒険者たちにマリーを助け出すアクションを期待したいところです。
マリーが冒険者に助けられると、これまで動きを見せなかったオシカが、いきなりトロスに襲いかかります。
もし、冒険者がマリーを助け出す妙案が思いつかなかった場合も、突然、オシカはトロスに飛びかかります。トロスはそのオシカの攻撃に驚き、ついマリーをつか
む手を放してしまいます。
オシカに噛みつかれたトロスは、とっさに彼を斬りつけます。オシカは傷つき、トロスから離れます。
「なぜだ! おまえは、オシカじゃない!
ちがう! なぜだ!
こんなにも愛しているのに、なぜ!
俺はいつもおまえのことを……あの呪いを受けて以来、あのとき私をかばってくれたとき以来……私は、いつでもおまえのことだけを考えてきたというのに……そ
れなのに、おまえは……」
トロスは剣をゆっくりと振り上げ、ブツブツとつぶやきながら、傷ついて倒れているオシカにとどめをさそうとしています。その姿は、完全に正気を失っているよ
うに見えます。
冒険者がそれを止めればトロスとの戦闘になりますし、止めなかった場合は、オシカに止めを指した後、トロスは完全な狂人となって冒険者とマリーに襲い掛かり
ます。悲しいことですが、トロスにはもう説得は通用しません。ただ戦うのみです。
・トロス
モンスター・レベル=6 敏捷度=16 移動速度=16
攻撃点=15(7) 打撃点=13 回避点=16(8) 防御点=6
生命点/抵抗値=16/16(8) 精神点/抵抗値=12/12(4)
武器:ブロード・ソード(必要筋力15) 鎧:なし 盾:なし
『冒険の結末』
戦闘が終わると、シナリオの最後のシーンです。
結末は冒険者の行動次第で、いくつかにわかれます。考えられる例として、ここでは以下の三つをあげておきます。
まず一つ目は、冒険者がオシカを見殺しにした場合。すべてが悲劇に終わります。
死んだオシカは人間の姿に戻り、冒険者に殺されたトロスは死ぬ間際にオシカの姿を見て、「オシカ、私は何をしていたのだろう……」と、一瞬だけ正気に戻った
ような台詞を言って死んでいきます。オシカの手をしっかりと握りしめたまま……
二つ目は、トロスを倒し、オシカが去っていくのを見送るというものです。
オシカはトロスが死ぬ間際に、顔をひとなめします。トロスは、うす目を開けて、「オシカ、私は悪い夢を見ていたみたいだ。たのむ、私の分まで生きてくれ。オ
シカよ……」と、言って生き絶えます。
その姿を見届けると、オシカはそっと部屋から去っていきます。
三つ目めは、去っていこうとするオシカを説得することです。
もし、マスターがオシカの心を揺るがすほどの内容だと思えば、オシカは、マリーの元へ帰ってきます。
ゲームの展開次第では、多くの謎を残したままシナリオは終了することとなるでしょう。
もし、プレイヤーが望むのならば、オシカ当人(生きていればですが)の口からや、吟遊詩人の歌の中にあのような呪いをかけられた不幸な兄弟の物語があったと
して、謎の一部をマスターが説明してあげても良いでしょう。
ただ、プレイヤー達が、謎は謎のままで納得しているのならば、その謎解きは蛇足でしかありませんのでやめておきましょう。
トロスの狂気の行動を阻止し、マリーを無事に救出した冒険者達は経験点1500点を得ます。もし、何らかの理由でマリーを助けることが出来なかった場合、冒険
者は半分の750点しか経験点を得ることは出来ません。