『冒険の概略』
冒険者達の滞在している村で、ちょっとした事件が起きました。
村の畑から、ひと振りの剣が見つかったのです。
その剣を調べたところ、数十年前、この地にある古代遺跡の探索に訪れた戦士の遺品であることがわかりました。
このことがきっかけで、その戦士が探索していたという古代遺跡の塔についての文献も見つかり、冒険者はこの遺跡の調査を依頼されます。
遺跡へと向かう冒険者。ところが、その遺跡にはかって戦士の仲間であった老魔法使いが住み着き、邪悪な研究にいそしんでいたのです。
彼は突然やってきた冒険者達に驚きますが、同時に、冒険者達の若い肉体にも魅力を感じています。
彼は自分の老いた体に飽き飽きしており、冒険者の持つ強靱な若い肉体を奪おうと考えます。
さて、冒険者は狂気の魔法使いの邪悪な陰謀を打ち破ることができるでしょうか。
この冒険シナリオは冒険者レベルは3〜4のキャラクター、3〜5人を想定しています。
『冒険の舞台』
このシナリオは、アレクラスト大陸の極東地方に属するアノス王国を舞台とします。
より細かく言えば、アノス王国の南西部の街であるソーミーのさらに西に伸びる山脈の麓にあるサダトア村が冒険の舞台です。
サダトア村は、このキャンペーンの拠点となる村です。
村の位置する地形が、以後のシナリオに関わる状況も多いので、村の場所を変更することはお奨めできません。もし、どうしても他の地域でのプレイをゲームマス
ターが希望した場合、出来る限り地形的に似た場所を選んでください。
特に、近くに山脈があることが重要です。
『NPC紹介』
モーガン(人間・男・27歳/数十年前当時)
数十年前の冒険者メンバーのひとりで、ファイターでした。「道しめす剣」という名の魔剣の持ち主で、ミネルバの恋人です。ラボークに殺されました。
ミネルバ(人間・女・23歳/数十年前当時)
数十年前の冒険者メンバーのひとりで、マーファの神官でした。彼女はラボークに邪悪な魔術の実験台にされ、現在は不老(不死ではありません)となってラボー
クに監禁されています。
ラボーク(人間・男・66歳/数十年前当時)
数十年前の冒険者メンバーのひとりで、ソーサラーでした。年老いることに恐怖を感じていた彼は、遺跡に隠された不老不死の知識に魅入られ仲間を裏切りまし
た。現在、不老不死の探究の末、これ以上、老いることはなくなっています。
ジェービズ(人間・男・27歳)
古くからこの地方を治めている地方貴族です。
細身の長身で、短く刈られた黒髪に形の良い眉の、なかなかの二枚目です。
サダトア村とその周辺のブドウ畑を領地とし、まじめで有能な領主だと、村人達にも慕われています。
『シナリオを読む前に』
このシナリオは、プレイヤー同志がお互いに絶対の信頼を持たずに、完全に信じられるのは自分のみといった特殊な状況下で進められるシナリオです。
具体的には、ゲームマスターはシナリオの要所々々でプレイヤーにメモを渡し、もらったプレイヤーはそのメモの内容を、他のプレイヤーに話してはいけないとい
うルールに基づいてゲームを進めていくのです。
よって、他人はどのようなメモをもらったかわからず、もしかすると他のプレイヤーは何者かに操られているのでは、自分もまたそのように疑われているのでは、
と疑心暗鬼にかられる可能性もあり得ます。
このようなプレイは、RPGの本質的な楽しみから外れていると感じられる方もいるでしょうが、馴れ合いのプレイに飽きてきたプレイヤー達にとって、これは新
鮮な体験になると思います。
もちろん、ゲームマスターが自分たちのプレイヤーが、こういったプレイに向かないタイプだと判断した場合、このシナリオはお勧めしません。
また、初めてRPGをするというゲームマスターやプレイヤーには、RPGというものを誤解してしまう可能性があるので、プレイは避けたほうが良いでしょう。
もし、ゲームマスターが必要と考えるならば、このシナリオを始める前に、剣を渡すべきプレイヤーとシナリオ前の相談をするのも良いでしょう。
もっとも、特定のプレイヤーとゲームマスターが事前に相談してプレイをするというのはフェアーでないと、他のプレイヤー達にとって納得いかないものかも知れ
ません。
この辺は、ゲームマスターがプレイヤーの性格をよく考えてからプレイに臨んでください。
また、事前にシナリオ中に出てくるメモを、プレイヤーの人数分用意しておく事が必要です。メモの多くはそれほど重要なものではありませんが、特定のプレイ
ヤーに他のプレイヤーの注意がいかないように、ダミーの意味も込めてメモは人数分用意しておくべきです。
メモには、その冒険者の名や、冒険者にあった雰囲気の文を書いておくと、プレイヤー達は自分がシナリオ上重要な位置にいると思って、緊張したプレイをしてく
れることでしょう。
なお、ゲームマスターによる情報操作は、ゲームマスターが考えるよりも強い効果があります。このことをふまえて、ゲームマスターはプレイヤー間に疑心暗鬼を
持たせるのも、ほどほどにしておきましょう。
『冒険への導入』
夏になって、サダトア村では領主への税である賦役をする時期です。
賦役とは、その土地の住民が労働によって税の一部を払うことです。
この村での賦役というのは、おもに領主所有の畑の耕作や、未開拓の土地を開拓することなどです。
畑仕事に余裕が出てきたこの時期、領主への感謝の意味も込めて、多くの農民が自主的に賦役に参加しています。
この村は、比較的裕福ですので、そのような余裕があるのです。
そんな時期、村外れでちょっとした騒ぎが起きます。
シナリオはここから始まります。
『本編』
1,村外れでの騒動
領主の未開拓の土地を開墾をしていた農民達が、土地を耕している最中に、土に埋もれたひと振りの不思議な剣を発見しました。
かなり長いこと土に埋もれていたようなのに、その剣には錆びひとつなく、歯こぼれもしていません。その輝く刀身を一目見れば、これが魔力を持った剣だとわか
るでしょう。
この珍しい発見に、村人達は集まり、剣をどうするべきか騒いでおります。 そこへたまたま近くを通りかかった冒険者は、この騒動を耳にすることとなります。
結局、農民達は領主の土地から見つかったものだからと言って、領主に届けようという結論を出します。
もし、剣が貴重な物だと悟った冒険者達が剣を買い取ろうとしたりしても、まずは領主に届けてからだと言って聞きません。
ただ、冒険者が鑑定などをしたいと申し出た場合は、農民は少しの間だけならば貸してくれます。
この剣のデータは、ここではあまり詳しく設定しません。
シナリオに参加しているファイター系の冒険者の筋力でも使える程度の必要筋力の剣にすると、ゲーム的にはおもしろいでしょう。
剣をざっと見た感じでは、美しい輝きと刀身に文字が掘られていること以外、大した特徴はありません。文字はハイ・エンシェントで「道しめす剣」と書かれてあ
ります。
刀身に掘られた文字を読んで、セージの「知識」か、バードの「伝承知識」で目標値13の成功ロールに成功すれば、数十年前にこの地方で活躍した戦士の持って
いた魔剣の名が「道しめす剣」だったということを思い出します。
剣を手にとって調べてみて、セージの「宝物鑑定」で目標値8の成功ロールに成功すれば、この剣が魔剣であり攻撃力修正と追加ダメージに+1の修正がつくこと
がわかります。
また、「センス・マジック」を使った場合、剣から永続的な魔力が発せられているのが感じ取れます。
なお、この時点では冒険者には気付きようがないのですが、この剣にはかっての持ち主だった戦士の残留思念がこもっています。
このことについては、後の項(3,シナリオ背景)で詳しく説明します。
ここで、ゲームマスターは魔剣に直接手を触れた冒険者をチェックしておいてください。
もし、冒険者が村外れの騒動に興味を持たなかった場合、魔剣などに詳しいセージやソーサラー技能を持っている冒険者に、農民が鑑定を頼みに来ることにすると
よいでしょう。
2,領主の依頼
騒動が収まれば、魔剣は領主のところへともって行かれます。
興味を持った冒険者が領主の屋敷へついていけば、領主のジェービズに会うことができます。
領主は魔剣に深い興味を持ち、ちょっと調べてみるといって冒険者を待たせ席を外します。
数十分後、彼は魔剣について調べが終わると、冒険者達を自分の書斎へ呼びます。
書斎のテーブルには、古い書物と、布の上に置かれた魔剣が置かれてあります。
冒険者が、まだ魔剣のことを詳しく調べていない場合、ここで領主の口から剣の魔力等の説明をさせても良いでしょう。
一段落したら、領主は冒険者達に遺跡の調査を依頼したいのだと語ります。
なぜ、突然そんなことを領主が言い始めたのかというと、この魔剣の発見がきっかけでした。
この土地には、ある伝説があります。
その伝説とは、西に広がる森のどこかに「永久(とわ)の塔」と呼ばれる塔があり、そこにはどんな裕福な国の王でさえも欲する何かが隠されているという伝説で
す。
セージの「知識」か、バードの「伝承知識」で目標値10の成功ロールに成功すれば、確かにそんな伝承に聞き覚えがあります。
領主は、数十年前に、ある有能な冒険者パーティーがその伝説の調査へ赴いたまま行方不明になったという記録が残っており、そのパーティーの中のひとりが、今
回見つかった魔剣の持ち主であると語ります。
領主は、その遺跡の調査を依頼したいと言います。
行方不明になった戦士の魔剣がサダトア村にあったということは、伝説の「永久の塔」は村の西に広がる森にあるかもしれないからです。
領主は遺跡調査の成否に関わらず報酬は払うと言います。
また、領主自身は遺跡にあるかもしれない財宝などには興味がない様子で、何か値打ちのあるもの発見した場合は、すべて冒険者の報酬として良いとも言います。
報酬の額は一人300ガメルです。数十年前の記録に基づいた、実際に危険があるのかどうかもわからない調査ですので、この程度なのです。
領主の依頼の目的は、その塔に村にとって危険なものがないかということと、伝説の正体を知りたいという知的好奇心のためです。
それから、領主は何かの役に立つかも知れないと言って、魔剣を冒険者に預けます。
もし、魔剣と一緒に冒険者が領主の屋敷へ行こうとしなかった場合は、頃合いを見計らって、冒険者の元へ領主の使いという若い女性がやってきます。彼女は、領
主の屋敷に勤めるアジェンタという名のメイドです。
彼女の話によれば、領主が冒険者達に今日発見された魔剣のことについて相談したいことがあるとのことです。
このあとの展開は、前述の通りです。
依頼の話を聞きに領主の屋敷へ行っても、行かなくてもシナリオは進みますので、シナリオの最初に無理に依頼を受けさせる必要はありません。
ただし、最終的には、冒険者を遺跡の調査へ赴かせなくてはなりません。
その具体的な方法としては、依頼を受けなかった場合は、剣に触れた人が戦士の残留思念(残留思念については、後述の「4,夢を見る」を参照)に取り付かれ
て、おちつかない日々を送ることになります。
そんな中、もう一度、領主が魔剣のことで相談があると言われれば、おそらくは冒険者も話に乗ってくるでしょう。
3,シナリオ背景
ここでは、領主の語った数十年前の冒険者パーティーの身に降り掛かった事件の真相について説明します。
数十年前、永久の塔の調査にでた冒険者は、魔剣の持ち主である戦士のモーガン、戦士の恋人でもある若い女神官のミネルバ、老魔法使いのラボークの三人でし
た。
西の森を探索した結果、彼らはとうとう永久の塔を発見します。
そして、調査の結果、この塔に隠された秘密とは不老不死となるための秘技についての文献資料と魔術道具であることを知りました。
モーガンは不老不死などという力は争いを呼ぶ種になるとして、この遺跡を処分することを提案しました。ラボークは反対しましたが、モーガンの恋人であるミネ
ルバはその意見に同意し、結局、ラボークも彼の意見に従うことになりました。
しかし、不老不死の力に魅入られたラボークは、二人を裏切り、ミネルバを人質にして、モーガンを谷底へと追い落とします。
瀕死の重傷を負ったモーガンは、川を下りサダトア村の近くまで逃れてきたところで生き絶えます。そして、長い年月が過ぎ、モーガンの骸は朽ち果てた後も、魔
剣だけは残り、現在に至りました。
ですが、無念の死を遂げたモーガンの思念(以後、残留思念と呼称)が剣に残りました。
この残留思念が、今回のシナリオにおいて冒険者を悩ますタネのひとつとなります。
4,夢を見る
魔剣に込められたモーガンの残留思念には、人に意志を伝えたり、人を操ったりするような力はありません。
対象となる相手が、ちょっと気を抜いた隙に、ほんのわずかな間だけモーガンが体験したことを、まるで対象が体験したように白昼夢を見せるのが関の山です。
しかも、この残留思念は論理的な思考を持っておらず、強い感情(怒りや悲しみ)のみしか伝えることはできません。そのため、残留思念の伝えることは断片的で
つかみ所のないものとなっています。
ただ、残留思念の感情は、白昼夢を見せられている間だけは相手の感情にも影響を与えるため、まるで自分がその状況を現実に体験しているような感覚に陥り、
モーガンの残留思念と喜怒哀楽を共有することとなります。
一度でも剣を近くで見たことのある冒険者なら、白昼夢を見る可能性があります。
夢を見せる対象は、ゲームマスターが選んでください。
なるべくなら、モーガンと雰囲気が似ている冒険者が良いでしょう。体格などのモーガンの特徴は、選ばれた冒険者に合わせて変えてください。あくまで、冒険者
が中心なのです。
ですが、ゲームマスターの判断で、その冒険者がこういったプレイに向かないと思うのなら、別の冒険者を選んでも構いません。最後に納得の行く結果が得られる
よう慎重に選んでください。
ゲームマスターが選んだ冒険者は、これより何度か白昼夢を見ます。
最初の白昼夢のタイミングはいつでも構いません。ただし、まわりに他の冒険者がいるときでなくてはいけません。
例としては剣を初めて持ったときや、剣を使ってみたときなどが良いでしょう。
白昼夢の内容は、メモとしてそのプレイヤーに渡してください。その時、メモの内容を他人に見せたりはしないようにと注意してください。
ただし、プレイヤーが冒険者のロールプレイをして、そのことを他人に教えたり、聞いたりするのは自由です。ただし、そのことを信じるかは、聞いたプレイヤー
の判断に任せられるのですが……
メモは、後述される「メモ1」を印刷して渡しても構いませんが、ゲームマスター自身が、その冒険者にあった文章に書きかえることをお勧めします。
メモの例は、残留思念に取り付かれたプレイヤー以外の人に渡すメモの例です。このメモの例は、状況に合わせてシナリオを通じて利用してください。
5,永久の塔の捜索
冒険者は塔の捜索に、西の森の中へと入ることとなります。
それまでに、メモのことなどでいくつかのトラブルが起きているかもしれませんが、ゲームマスターは最終的に塔の捜索に出るよう冒険者を誘導してください。
ここが、ひとつの山場かも知れません。
疑心暗鬼にかられた冒険者は、素直に捜索に出たがらないかもしれませんが、ここは時間をかけてみんなのロールプレイに楽しく耳を傾けていましょう。
最終的に、みんなが塔の捜索に行けば、経過はそれほど重要ではありません。その誘導は、領主からの依頼と白昼夢という切り札がある限り、それほど困難ではな
いと思います。
永久の塔への手がかりは、簡単に得られるものとしては三つあります。
(1)白昼夢の情景と、夢に登場するモーガン達の台詞。
(2)森で働くきこり達の話から得られる情報。
・森の奥に深い谷があって、その奥へは村の者は誰も入ったことがない。
・もし、そんな遺跡があるとしたら、谷の向こうだろう。
・昔、よそ者が森の中に入っていったことがあったが、戻っては来なかった(このよそ者というのは、モーガン達のことです)。
(3)領主の書斎にある文献。
・この文献を調べて、セージの「知識」で目標値9の成功ロールに成功すれば、塔が森の中のどの辺りに位置しているのか目安を付けることができます。
これで、森の中での進む方向が見当つきます。
ゲームマスターに注意してもらいたいことは、これらの手がかりが得られなくては、永久の塔が見つからないというわけではないことです。
極端な話、何も情報収集しないで森の中にわけ入っても、塔への道は見つかることにしても構わないでしょう。
これらの情報は、いきなり森の中に入って勘で塔を探すようなことをしない慎重な冒険者に対して、森のどのあたりに塔があることを教えて、森に入ってもらうた
めの情報なのです。
6,最初の障害
森の中を半日も進むと、深い谷に出くわします。
谷を迂回するのは、かなりの遠回りになります。
ただし、谷を越えるのはそれほど難しいことではありません。手頃な木橋になりそうな木はあたりにたくさんありますし、少々危険ですが身軽な冒険者ならロープ
を渡して綱渡りするのも、ひとつの方法でしょう。
ここは、プレイヤーの知恵の出し所です。ゲームマスターはプレイヤーの努力に応じて、成功ロールの目標値を決定するべきでしょう。
目安としては、レンジャーなどがロープを張って谷を越えるとしたら、「冒険者レベル+敏捷度」で目標値7の成功すれば無事に越えられるぐらいでしょう。も
し、時間をかけて木を切り倒し丸太橋を作るのならば、ダイスを振らないでも成功にしても構わないでしょう。
もちろん、魔法的手段で宙を浮かんだり出来れば、何の問題もなく谷を越えられます。
もし、失敗した場合は谷底に落ちてしまいます。谷底までは8メートルありますが、下は川なので落下ダメージ(基本ルールの224ページ参照)は12点となり
ます。川は底が浅いので、冒険者の意識さえ残っていれば溺れるようなことはありません。上からロープなどを垂らしてもらえれば、再び谷の上に上ることが出来る
でしょう。
ここで、以前、白昼夢を見ている冒険者は、谷を渡るときに全身に強いしびれと激痛、そして得も知れぬ恐怖を感じます。
もし、ロープや丸太橋などの不安定な方法で谷を渡っている場合、冒険者はバランスを崩してしまいます。このせいで、谷底に落下するようなことはありません
が、しばらく足がすくんで身動きが出来なくなります。
冒険者は、この谷に非常に不吉なものを感じますが、それがどうしてなのかはさっぱりわかりません。
原因は、この谷に落ちて命を失ったモーガンの残留思念が、冒険者にその恐怖と痛みを思い出させたためです。
他の冒険者達は、その冒険者の様子を見て不審に思うことでしょう。
白昼夢を見ている冒険者が残留思念に捕らわれているとき、さらにトラブルは重なります。
谷の向こう側から、体長10メートルはある巨大な蛇が冒険者たちを狙っているのです。
まず大蛇は、橋やロープの上で立ち往生している冒険者を狙ってきます。大蛇は3ラウンドで冒険者の元へたどり着きます。
すでに谷を渡っている冒険者は、その大蛇を普通に攻撃することは出来ますが、まだ谷を渡っていない冒険者は遠距離からの攻撃手段がない限り、大蛇を攻撃する
ことは出来ません。
立ち往生をしている冒険者を先に助け出して、それから橋やロープを渡ってくる大蛇と戦闘することは可能です。その際、ゲームマスターは冒険者を助け出す方法
に応じて、難易度を設定してください。単純に冒険者の身体を掴んで引っ張り戻すといった方法ならば、「冒険者レベル+知力」で目標値8の成功ロールをする必要
があるでしょう。失敗したら、上手く助け出せなかったとして、もう一度、チャレンジをする必要があります。あまりのんびりしていると、大蛇が到着してしまうこ
とでしょう。
大蛇のデータは基本ルールブック346ページの「パイソン」のデータを使用してください。
倒した大蛇を見たレンジャーかセージは、「動植物鑑定」か「知識」で目標値8の成功ロールに成功すれば、この大蛇に奇妙な点があることに気付きます。
この大蛇は、実はどこにでもいるようなありふれた蛇で、普通の環境ならば長さ1メートル強ぐらいにしかならない種類のものです。それが、これほどまでに巨大
に成長したという話は、これまで聞いたことがありません。
もし、ソーサラーが「センス・マジック」を使った場合、この蛇にごく弱い魔力を感じ取ることが出来ます。
また、この蛇が何年生きてきたのかを調べる場合、レンジャーかセージが、「動植物鑑定」か「知識」で目標値10の成功ロールに成功すれば、この蛇が30年は
生きていることがわかります。この蛇の寿命がどのぐらいのものかははっきりわかりませんが、30年という時間が異様に長いことだけははっきりわかります。
なお、冒険者は現段階では知る由もないことですが、この大蛇はモーガンが不老の身体となるための実験に使用した実験動物のなれの果てです。寿命で死ぬことも
なく、無限に成長を遂げたため、この蛇はここまで巨大になってしまったのです。
7,永久の塔
谷を越えると、すぐに塔は見つかります。
石造りの古い塔で、すっかり蔓や苔などに覆われてしまっています。
塔は上部のほうは崩れてしまっていますが、基礎部分と下部はまだ残っています。もし、冒険者が塔の周りを調べれば、薪をとった跡や、外壁を補修した部分など
が見つかります。
ここで、以前、「メモ1」の白昼夢を見た冒険者は、前にも同じような風景を見たことがあることに気づきます。
何気なくゲームマスターは、白昼夢を見た冒険者のプレイヤーに、この風景は前に見たことがある気がすると告げてください。
この時、また残留思念に取り付かれた冒険者は白昼夢を見ます。「メモ2」を渡してください。他のプレイヤーには、「15,プレイヤー用メモ」の例を参照し
て、メモを渡してください。
8,塔の内部
塔の詳しい間取りについては、地図(ここをクリックしてください)を参照してください。
以下に、間取りの簡単な説明をします。
「No.1」の部屋
一階の玄関にあたる部屋です。二階へ続く階段以外は、特に何もない部屋です。
「No.2」の部屋
物置部屋です。薪や水などが置かれてありますが、食料は一切ありません。床には古びた絨毯がひかれてあります。
この絨毯をめくれば、床に地下室へと続く扉が隠されています。
「No.3」の部屋
二階の大きめの部屋です。この階より上へは、階段が崩れてしまっているため上ることは出来ません。ここがラボークの生活の場です。手作りのベッドと古びた机
が置いてあります。ただ、古文書などの魔術師が興味を引くようなものはありません。
「No.4」の部屋
秘密の地下室です。ここには永久の塔の秘密とも言うべき、不老不死に関する文献を収めた本棚がずらりと並んでいます。ハイエンシェントによって書かれた、そ
の文献の量は並ではなく、すべてを解読するにはかなりの年月が必要です。セージかソーサラーが「言語」で目標値12の成功ロールに成功すれば、これらの本が不
老不死や精神交換など、生命の秘技に関するものであることがわかります。
「No.5」の部屋
元々は倉庫か何かだったものですが、いまはミネルバを捕らえておく牢獄となっています。扉には閂がしてあり、内側からは開かないようになっています。
冒険者が塔にいる間、常にミネルバはここに幽閉されています。ラボークが冒険者を騙し閉じこめようとするのも、この部屋です。
9,塔の住人
塔には、モーガンを裏切った老魔法使いのラボークが今でも住んでいます。
とても古びたローブを着た小柄の老人で、気難しそうな顔と、精力的な眼差しが特徴です。
半分不死となっており、食事の必要はなく、歳もとりません。
しかし、その他の手段では死んでしまいます。つまり、剣や魔法に対する抵抗力は生身の人間と同じなのです。
そのことは彼にとって大きな不安となっており、そのため彼は若く強靱な体を欲しています。戦士のような強靱な体があれば、少々のことがあっても死ぬことはな
いと考えているからです。
そして、この塔にはもう一人住人がいます。それは、モーガンの恋人でもあり、この塔を探索した冒険者の一人である女神官のミネルバです。
彼女は、隠し階段で降りることの出来る、地下室に幽閉されています。
ラボークに捕われた彼女は、ラボークの不死への研究の実験台とされ、今はラボークと同じように不老となっています。
目は潰され視力を失い、片足の腱が切られており、這いずるか、壁にもたれながらゆっくりと歩くぐらいしかできません。
光の射さない地下室に数十年も幽閉されていたため、髪はすっかり白髪となり、肌は生気を失い青白くなっています。ぼろ布のような僧衣をまとい、伸びきった髪
と裸足のその姿は、まるで幽鬼のようです。
彼女は常に無表情で、ほとんど喋ることもありません。彼女の心は長すぎる孤独のため、時間すら感じてはいないのです。
ラボークが彼女を生かしているのは、自分の実験に利用するためもありますが、彼女が美しい女性であることもひとつの理由です。
彼女の心を呼び覚ますのは、モーガンに関することを告げることだけです。
10,ラボークの行動
塔に到着した冒険者は、その塔で暮らしているらしい老人に出会います。
突然やってきた冒険者にラボークは驚きますが、同時に恐ろしい計画を思いつきます。
その計画は、冒険者の肉体を自分のものにするというものです。
彼は塔の地下にあった古代の文献を解読した結果、肉体交換の秘技を手に入れました。いまの年老いた体よりも、若く強靱な体をラボークは切望しています。
そのためには、なんとか冒険者のうち一人を地下の秘密部屋に誘い込まなくてはいけません。
彼が取りうる作戦は、冒険者間に見られる不信感を利用したものでしょう。
ゲームマスターの秘密のメモによって、プレイヤー達は、自分以外の冒険者を完全に信用できなくなっています。そこにつけこんで、ラボークは冒険者個人個人に
接触してきます。できるなら、プレイヤーを別室などに呼んで秘密裏に交渉をしてください。その間、残されたプレイヤーが、呼ばれたプレイヤーに秘密で話し合い
をするのは自由です。ただし、メモの見せ合いだけは禁止です。
ラボークは、なるべく頑強な男の体を欲しがります。
しかし、もしその冒険者が交渉に乗ってきそうにないなら、別の人間でも構わないと思っています。大切なのは、秘密裏のうちに確実に計画を進めることなので
す。
まず、ラボークはボケた耳の遠い世捨て人のふりをして、こんな森の奥まで客が来ることは珍しい、ぜひ話しがしたいと冒険者達を塔にひきとめようとします。
彼は自分のことを、「この世の真理を探究する大賢者」であると名乗り、胸を張りやたらと自慢します。そして、冒険者たちに自分の見いだした真理を語ります。
ゲームマスターは四文字熟語や、ちょっと難しいことわざをラボークに語らせて、それこそが人生の真理であると自慢させてください。
特に、ラボークは若い男の冒険者に対し、勉学とは若いうちにしなくてはならないものだと、しつこくからみます。
ゲームマスターはプレイヤーたちに、ラボークは塔の情報を提供してくれる情報源、もしくはミスディレクションといった印象を与えることが出来れば、すぐにラ
ボークに疑惑が集中するといった状況にならずにすむでしょう。
もっとも、冒険者がラボークに「永久の塔」の秘密などを聞いても、彼はそんな噂は知らないと答えます。そして、彼は究極の宝とは「知識」であり、すなわち
「知識」の宝庫である自分こそがその宝に違いないと、大真面目で力説します。
このシーンは、ラボークへの疑いをそらすためにコミカルに演出すると良いでしょう。
冒険者が「道しめす剣」をラボークに見られた場合、ラボークはその剣を持つ冒険者に警戒心を持ち、その剣の出所をさりげなく聞き出そうとします。
そして、剣が偶然見つかったものだと知ると露骨に安心した顔をします。
それは、冒険者に不信感を持たせるのに十分なものです。
もし、冒険者たちがすぐに帰るといった場合、帰る途中、残留思念に取り付かれた冒険者は「メモ3」の白昼夢を見ます。それを見て、塔に戻らないような冒険者
はおそらくいないでしょう。
11,塔での展開
冒険者達は、この塔でいくつもの不信な点を見つけるでしょう。
真っ先に気になるのは、生活感のなさです。この塔ではラボークが生活しているはずなのに、食堂にはまったく食料はないのです。
以前、「メモ2」の白昼夢を見た冒険者は、夢で見た書庫が見当たらないことに気づくでしょう。
ラボークは自分への疑いが確実なものになる前に、冒険者の誰かを選んで接触してきます。
これまでほとんど話の通じなかったラボークから、やっとまともな話を聞けるという珍しい機会という状況を演出して、プレイヤーにとりあえずラボークに話を合
わせようと言う気持ちにさせましょう。
話す内容については、以下の例があります。
・その1(相手が神官系の冒険者の場合)
魔剣を持った冒険者は、昔この遺跡を調べた戦士の呪いを受けているから、それを解く儀式をしなくてはいけない。それには、きみの助けがいる。他人に知られる
と、魔剣を持った冒険者が気づくかも知れないから、きみだけこっそり地下室に来てくれ、と誘い込む。
・その2(相手が残留思念に取り付かれている冒険者の場合)
きみには剣の呪いがかかっている。他の人に知られれば、きみはこれから疑いの目で見られることになるだろう。みんなに気付かれないように、こっそり呪いを解
いてあげよう、といって地下に誘い込む。
・その3(相手がセージ系の冒険者の場合)
私の娘が伝染病にかかっている。人に知られれば、娘は忌み嫌われるようになるだろう。そうなる前に、秘密できみが治療してくれないだろうか。今は、秘密の地
下室に隔離してあるのだ、といって地下に誘い込む。
ゲームマスターは、一番成功しそうな方法を選んで、地下室に冒険者をひとりだけで誘導してください。
12,秘密の地下室へ
うまく展開すれば、冒険者が一人で地下室に下りてくることでしょう。
このシーンのプレイは、できれば地下室にいる冒険者のプレイヤーとゲームマスターの二人だけで行なうべきです。なるべくスピーディーな展開で「No.7」の
部屋にその冒険者を閉じ込めてください。
「その2」の方法なら、呪いを解く薬と称して眠り薬を飲ませるのも可能でしょう。もし、その冒険者がまだ「メモ3」の白昼夢を見ていない場合、ここで夢を見ま
す。「メモ3」を渡してください。
「その3」の方法なら、病気の娘はこの部屋にいると言って、「No.7」の部屋に自然に誘い込むことが可能です。
「その1」の方法なら、「No.7」の部屋に儀式の道具があるのだと言って取りに行かせ、冒険者がミネルバに気をとられている隙に閉じ込めるといった方法があ
るでしょう。
なぜ、部屋に閉じ込めるのかと言うと、ラボークの肉体交換の儀式には時間がかかるためと、部屋に閉じ込めておいて冒険者を弱らせるためです。
もし、眠らせることに成功したら、冒険者の武装を外してから縛り上げて、「No.7」部屋に閉じ込めます。
ここでは、あまり長い時間をかけずに半ば強制的に閉じ込めても、プレイヤーが一人の場合は納得するでしょう。こういったシーンでは、逆にあまり自由度を高く
すると、冒険者は捕まったことに不満を感じるものです。
閉じ込められた後、冒険者はミネルバと出会います。
もし、冒険者がラボークに眠らされていた場合、しばらくしてから(この間に、残された冒険者たちの行動などを済ませておくと良いでしょう)目を覚まし、ミネ
ルバと出会うこととなります。なお、外界に無関心なミネルバは積極的に冒険者を起こすような行動はしません。
白昼夢を見た冒険者は、この女性が変わり果てた姿になってはいるものの、夢に出てきた女性と同一人物であることがわかります。もし、閉じこめられた冒険者が
白昼夢を見た冒険者であった場合、ミネルバはモーガンと勘違いします。その後の展開は「14,破局」を参照してください。
ただし、冒険者のことを人違いしたミネルバのシーンには、この時点ではあまり長く時間をとらずに展開を先に進めたほうが良いでしょう。
「9,塔の住人」で説明したとおり、彼女に何を話しても無駄ですが、冒険者がモーガンの名を出した場合だけは、わずかに反応します。ただしそれも、断片的なう
わ言を言う程度です。
13,ラボークとの対決
ゲームマスターは最後の戦闘シーンへと冒険者を誘導するため、いなくなった冒険者とラボークのことを強調して他のプレイヤーに危機感を与えてください。
「No.2」の部屋にある絨毯をめくれば、地下室への隠し階段は見つかります。「メモ2」の白昼夢を見た冒険者ならば、この塔に地下室があるということを思い
出し、隠し階段を探すことでしょう。
しかし、もしどうしても隠し階段を探すという行動を冒険者がしなかった場合は、「シーフレベル+知力」で目標値10に成功すれば隠し階段が見つかるといった
ことにすると良いでしょう。
階段を下りて地下室に行けば、当然ラボークがいます。
そのときラボークが何をしているところかは、ゲームマスターが決めてください。
「No.7」の部屋の前で、閉じ込めることに成功した冒険者に対して、うれしそうに自分の計画を話しているということにしても良いでしょうし、肉体交換の儀式
の準備をしているところにしても良いでしょう。
地下室にやってきた冒険者達が物音を立てれば、閉じ込められた冒険者も、誰かが地下室に来たことに気づきます。大声を上げれば、自分の居所を知らせることも
可能でしょう。
ラボークは、冒険者を捕らえていることがばれて言い逃れできなくなると、突然、冒険者達に攻撃を開始します。
・ラボーク
器用度=15(+2) 敏捷度=18(+3) 知力=19(+3) 筋力=10(+1)
生命力=18(+3) 精神力=20(+3)
所有技能:ソーサラー5、セージ4、シーフ3
生命抵抗力:8 精神抵抗力:8
冒険者レベル:5
武器:メイジスタッフ(必要筋力5) 攻撃力6 打撃力10 追加ダメージ4 クリティカル11
鎧:ソフトレザー(必要筋力5) 防御力5 ダメージ減少5
ゲームマスターは冒険者の戦闘力によっては、ラボークの強さを変えてもかまいません。データのラボークは、3〜4レベル程度の冒険者の集団にとっては弱い存
在に設定してあります。もっと激しい戦闘にしたいなら、もう少しデータを強くしたり、スケルトンウォリアーの手下がいることにしてもよいでしょう。
「No.7」の部屋の扉は、外側に閂がついているだけですから、戦闘中であっても、閉じ込められた冒険者を助け出すことは簡単です。閉じ込められた冒険者が戦
闘系の冒険者なら、見せ場で活躍できないのはかわいそうですから、他の冒険者に助けてやるよう勧めてください。
『冒険の結末』
ラボークが倒されれば、シナリオもいよいよクライマックスです。
ラボークが倒れた直後に、「メモ4」を残留思念に取り付かれたプレイヤーに手渡してください。
白昼夢を見た冒険者は、ミネルバの姿を見て、全てを理解するでしょう。
ミネルバは白昼夢を見た冒険者の存在を感じとると、モーガンと勘違いします。その冒険者が「道しめす剣」を持っていれば、なおさらです。彼女は、光を失った
瞳から涙を流し、冒険者にすがりつきます。
今後の展開は、冒険者の行動にまかされています。
彼女はモーガンの死を知れば、自らの死を選びます。「道しめす剣」がその場にあれば、彼女はモーガンの形見にと言って、剣を受け取ろうとします。彼女は、そ
の剣を手に取り恋人の名を呟きつつ抱き占めると、自分の首に突き立ててしまいます。
冒険者がモーガンになりすますのなら、彼女はその冒険者とともにサダトア村へと戻るでしょう。しかし、この選択には、その冒険者にとって自分の引退をかけた
重大な決意が必要だということを、ゲームマスターは告げてください。
嘘をついて、モーガンがどこかで生きていると告げるなら、彼女はモーガンを探し求め旅立ちます。目も見えず、歩くこともできない体での永遠の捜索の旅は、ミ
ネルバにとって最も残酷な運命かもしれません。
この選択については、プレイヤー同士が考えを述べて決着が着かなかった場合、頃合いを見計らってミネルバを自殺させ、ゲームマスターの手で決着をつけてし
まったほうが良いかも知れません。おそらくは、唯一正しい答えなどあるはずもないのですから。
もっとも、私個人としては、ミネルバは「道しめす剣」によって、命を絶つのが、無難な(語弊があるかも知れませんが)結末だと思います。
ところで、冒険者達は永久の塔に残る不死の知識をどうするでしょうか。
長い時間をかけて研究すれば、ラボークのように不死の知識を得られるかも知れません。ただし、それは、第二のラボークへの第一歩だと言うことを、プレイヤー
に伝えてください。
モーガン達の遺志を引き継いで、禁断の知識として処分するなら、乾燥しきった書物は火をつければ簡単に燃えてしまいます。
もちろん村へ帰れば、領主から約束通りの報酬を貰えます。
「道しめす剣」の残留思念はやがてなくなりますが、魔法のボーナスは残ったまま冒険者の手に残ります。領主に真相を話せば、辛い仕事をさせてしまった報酬とし
て、その剣をプレイヤーに渡します。
きっと、思い出深い武器となることでしょう。
モーガンの野望を阻止した冒険者達は経験点1500点を得ます。もし、何らかの理由でモーガンの陰謀を阻止できなかった場合、冒険者は半分の750点しか経
験点を得ることは出来ません。
『プレイヤー用メモ』
このシナリオでは、自分だけが知っている情報がメモという形を取って配られます。
このような情報の差別化は、冒険者間に不信感を持たせ、ゲームに緊張感を高めるのに必要な小道具です。
ゲームマスターは白昼夢を見る冒険者以外に渡すメモも、きちんと準備しておくようにしてください。実際には、たいした情報の含まれていないメモですが、これ
らはとても重要なものなのです。
なぜなら、他のプレイヤーは、一人のプレイヤーが特別にメモを渡されたりして主役のような扱いをされると、少なからずしらけてしまい、ゲームへの熱意がさめ
てしまうものです。
ですから、プレイヤー全員に同じだけのメモを渡し、個人個人が秘密を握っていると思わせれば、ゲームへ熱意も高まります。そのためには、冒険者全員にメモを
配る必要があるのです。
また、プレイ中に思いついた情報や予期せぬ行動へ対応できるよう、その場で簡単に書き加えられるよう、メモは手書きのほうがよいでしょう。
ゲームマスターは、白昼夢を見るよう選んだ冒険者以外の冒険者に対しても、渡すメモの種類をよく考えるべきです。
これらのメモを上手く利用するれば、シナリオに思いがけないトラブルが発生させ、プレイヤーたちに普段とは違ったゲームを味わってもらうことが出来るでしょ
う。
これより、そのための指針を紹介しますが、これが絶対というわけではありません。ゲームマスターは、この指針を参考にして、集まったプレイヤーのタイプに合
わせてメモを配ってください。
以下にメモの例を記します。
【メモの例】
・その1
(白昼夢を見ている冒険者の名)の様子がおかしい。時々、何かに気をとられたようにぼうっとしていたようだ。
どうも、彼の持っている剣が気になる。
何か呪われた魔剣なのかも知れない。
これからは彼の行動には、注意するべきだろう。
・その2
(その1のメモをもらった冒険者)の目付きがおかしい。
まるで、(白昼夢を見ている冒険者の名)を監視しているようだ。
あの剣を見てから、みんなの様子が少しおかしい。
もしかすると、何かの呪いがあの剣にはかかっていたのかも知れない。
気をつけねば……もしそうならば、正常なのは自分だけかも知れないのだから。
・その3
なんだか、みんなの様子がおかしい。
何か、いつもと違ってピリピリしている気がする。
みんながみんなを監視しているような……いったい、どうしたんだろう。
特に、(その2のメモをもらって冒険者の名)は、あの剣のことが気になるようだ。
何か、あの剣と関係があるのだろうか?
・その4
今、剣から何かぼやっとしたものが出てきて、(白昼夢を見ている冒険者の名)にまとわりついたようにみえた気がした。
いまは、もう見えない。気のせいだったのだろうか?
そう言えば、みんなの様子がおかしい。何かに警戒しているような。
これからは、みんなの行動には十分気を付けよう。
メモのパターンとしては、まず、「その1」のようにシンプルに白昼夢を見ている冒険者の態度がおかしいと気付くメモがあります。
こういったメモは、洞察力や行動力のあるプレイヤーに渡してしまうと、すぐに剣が怪しむ行動に移られてしまい、謎を後に引かせることとが出来なくなってしま
う恐れがあります。
そのため、「その1」のようなメモは、消極的だったりニブイ(言葉が悪いですが)冒険者に渡すのが適当でしょう。
「その2」は、内容的には「その1」と似ていますが、疑惑の対象を白昼夢を見ている冒険者ではなく、「その1」のメモを見た無実(?)の冒険者に向けさせてい
るところが大きく異なります。
こうすることによって、冒険者間の不信感の枠をパーティー全体に広げることが可能となるわけです。また、「信じられるのは自分だけかも……」という言葉を挿
入することで、冒険者に疑心暗鬼の気持ちを刷り込むことができます。
「その3」は「その2」と似ているようですが、これまた微妙に違います。
「その3」のメモには、はっきりとした情報が一切ありません。「みんなの様子が何となくおかしい」という漠然とした情報だけです。このメモを読んだ冒険者は、
自分が情報的に取り残されているのではないかという不安を感じることになるでしょう。他の冒険者は何かを掴んでいるというのに、自分だけが何も知らないで、知
らず知らずうちにピンチに陥っているのではないかという不安です。
このメモは、パーティーの中で立場の弱い冒険者、例えば最年少や、非戦闘員といった人に渡すと、効果をより一層増すことでしょう。
「その4」のメモは、他のものとは違って実際的な情報が込められています。このメモを見れば、おそらく冒険者も剣が怪しいと確信することでしょう。なるべくな
らば、このメモは霊感の強いプリースト、ソーサラー、シャーマンの冒険者に渡したほうが説得力があるでしょう。
このようなメモはいわば切り札です。シナリオ後半、もしくはあまりにも冒険者達が疑心暗鬼にかられてしまってゲームが行き詰まってしまったときなどに使用す
ると良いでしょう。
メモの例は、上記のような性質分けをされます。
ゲームマスターは、これらを参考にしてゲーム中に配るメモを作成してください。
もちろん、これらの指針にこだわる必要はないので、ゲーム中に起きたちょっとしたトラブルに絡ませた、指針とは異なったメモを作成しても構いません。
全体的な指針としては、乱暴な事件解決を好む冒険者には、当り障り無いメモを渡すべきでしょう。あまり事件の真相に迫るメモを渡してしまうと、いきなり力尽
くで疑問を解消してしまう恐れがあるからです。
また、疑り深く臆病な冒険者に、あまり思わせぶりなメモを渡すと、プレイがスムーズに進まなくなってしまうことがあります。予想外のトラブルはプレイをおも
しろくしますが、行きすぎて他のプレイヤーが退屈してしまうようでは困りものです。
ゲームマスターは、他のプレイヤーたちの様子をつぶさに観察して、シナリオの適度な展開に心がけてください。
★白昼夢を見る冒険者用メモ
【メモ1】
きみは、一瞬目の前が真暗になり、奇妙な感覚に陥った。
いつのまにか手に握られている「道しめす剣」が、昔から馴染んだ武器のような錯覚を感じる。
気づいてみると、目の前には崩れかけた塔があった。
唐突に、後から声をかけられた。
「やっと見つけたわね、モーガン」
その声は、若い女性のものだ。
なぜか、柔らかく心にしみわたるような……そんな声だった。
「ああ、苦労して、あの谷を越えたかいがあったってものだ」
確かに自分が喋っているという自覚があるのに、耳に聞こえるそれは他人の声だった。
「まったくじゃ。あの谷を越えるのは命懸けじゃったからな。この塔に例のお宝がなければ割にあわんぞ、まったく」
老人の声だ。これも、きみの背後から聞こえてきた。
きみは、この声を聞いて、なぜか強烈な不快感をおぼえた。
それがなぜだかは分からない……それがなぜかは……
突然、目の前はもとの風景に戻った。
【メモ2】
またも、目の前が真暗になった。
今度の光景は暗い部屋の中だった。
自分の持っている松明のみが部屋を照らし出している。
壁は石造りで窓ひとつ無く、重苦しい雰囲気の部屋。
ずらりと並んだ本棚の書物を前にして、ローブの男が感激した声を上げている。
ただ、後ろ姿のため、その顔は見えない。
「すばらしい!この書庫は、私の求めていた、生命の秘技の宝庫だ」
あのとき聞いた、老人の声と同じ声だ。
横には若い女性が立っている。彼女は魅力的な笑みを湛えて、老人のほうを見つめている。
「まるで子供みたい。あんなに、はしゃいじゃって」
「まあ、いいじゃないか、ミネルバ……やっと探していたものを見つけたんだ。好きなだけ、調べさせてやろうぜ」
またも、自分が喋っているはずなのに違う声がする。
そして、なぜか、自分のその言葉に不吉な何かを感じた。
そんな感覚を残したまま、景色は元に戻った。
【メモ3】
突然、目の前が暗くなる。
ごうごうという、水の音が響く。
「さあ、どうする。後ろは谷だぞ」
あの老人の声だ。その顔は、塔で会った老人の顔、そのものだった。
そして、老人の腕にはあのミネルバと自分が呼んでいた女性が捕まえられている。人質にされているのだ。
「ラボーク、あの知識は人が手にしてはいけないものだと言うことがわからないのか!」
自分のものらしい声が、怒りに満ちた声で叫ぶ。
「あの地下の書庫は、私にとって知識の宝庫だ。それを処分させるわけにはいかない」
「それほど、不死の力がほしいか!」
「ああ、そうだ。若いおまえ達には分からないだろうが、私はこの老いさらばえた体に嫌気がさしていたのさ」
「貴様っ!」
「おまえとは長いつきあいだったが、これでさらばだ。安心しろ、ミネルバは俺がかわいがってやる。前から目を付けていたんだ」
老人の顔が、いやらしく歪む。
「モーガン、私にかまわずに!」
ミネルバが叫んだ。
「死ね、モーガン!」
男の手から光の矢が放たれ、きみに命中した。
その衝撃で、きみは谷底へと落下していった。
次の瞬間、きみは元に戻った。
【メモ4】
またも、目の前が暗くなる。
体中に激痛が走る。
谷底へ落ち流されたきみは必至の思いで川岸にたどり着き、森を抜け、人家へと向かおうとした。
腰の剣が重い。
きみは、剣を捨てた。
だが、それでもあとわずかしか歩くことはできなかった。
「ミネルバ……」
あの声が、最後の言葉をいった。
どさりと、きみは倒れる。
意識が遠くなり、心臓がその鼓動を止めた。
そして、きみは元に戻る。
【メモ5】
ミネルバが生き絶えたとき、きみの心は、遠くの情景を垣間見た気がした。
それは、死んだミネルバと、若い男が草原の上で出会うところだった。
ミネルバは笑っていた。若い男も笑っていた。
二人は抱きしめあい、そして口づけを交す。
愛し会う二人が、長いときを経て、再び出会ったのだ。
どれだけの間その光景を見ていたのだろうか。ほんの瞬間だったような気もするし、ものすごく長かった気もする。
とにかく、ふと気が付くと、まわりにはきみの仲間の姿があった。
冒険を共にした、仲間たちの顔が……
※捕捉
上記の【メモ5】は、シナリオ中に使用が示唆されていません。
このメモは、何らかの理由でミネルバが死亡した際に、配られるべきメモです。
しかし、このメモを配るかどうかはゲームマスターの好みに大きくよります。
このメモを特定の人に渡すか、それともみんなに読んで聞かせるか、はたまた哀れな冒険者モーガンたちの結末についてはみんなの想像に任せるか、それはゲーム
マスターの判断にまかされます。