シナリオ4「勇気ある決断」

『冒険の概略』

 サダトア村で、元気だった村人が、突然、原因不明の死を遂げていくという、奇妙な事件が起きます。
 この事件の犯人はデュラハンです。このデュラハンは人の邪念によって呼び出されたもので、死ぬべきではない人間を、死の世界へ連れ去っていってしまうので す。
 その邪念の持ち主は、あるハーフエルフの少年です。少年の邪念は少年の体を自由に動かし、「死の呪い」を村人にかけてしまったのでした。
「死の呪い」をかけられた人間を助けるには、冒険者たちはやってきたデュラハンを倒さなくてはいけません。
 倒されたデュラハンは、代わりに「死の呪い」をかけた少年の魂を死の世界へと連れ去っていきます。
 しかし、連れ去られたのは少年の邪念だけでした。そう少年は「死の呪い」からも、自らの邪念からも救われたのです。

 この冒険シナリオは冒険者レベルは4〜5のキャラクター、3〜5人を想定しています。
 また、パーティーの中にプリーストが一人でもいると、シナリオを進めやすくなります。


『冒険の舞台』

 このシナリオは、アレクラスト大陸の極東地方に属するアノス王国を舞台とします。
 より細かく言えば、アノス王国の南西部の街であるソーミーのさらに西に伸びる山脈の麓にあるサダトア村が冒険の舞台です。
 サダトア村は、このキャンペーンの拠点となる村です。
 村の位置する地形が、以後のシナリオに関わる状況も多いので、村の場所を変更することはお奨めできません。もし、どうしても他の地域でのプレイをゲームマス ターが希望した場合、出来る限り地形的に似た場所を選んでください。
 特に、近くに山脈があることが重要です。


『NPC紹介』

ライナス(ハーフエルフ・男・10歳)
 小柄で金髪の可愛らしい、ハーフエルフの少年です。
 物心ついて最初の思い出は、自分がハーフエルフだということに怒り、自分を殴り付ける父親の姿です。家を出てからも、ハーフエルフであるがゆえに、幼い頃か ら村人たちに奇異な目で見られてきて深く傷ついてきました。ですが、いつも優しい母が、彼の心を慰めてくれていました。その母の不幸な死は彼にとって、とても 大きな衝撃でした。そして、その母に対する村人の態度が、彼の悲しみを怒りに変え、そして、彼の心に秘められてきた邪念が表面化してしまいました。
 邪念は、ライナスの意志とは関係なく動き回り、村人に「死の呪い」をかけます。

エドナ(人間・女・31歳)
 ライナスの母親ですが、彼女はシナリオの冒頭で死亡してしまいます。
 病気がちで、無理を押しての畑仕事の途中、突然吐血して死亡しました。
 実をいうと、ライナスの父親も人間です。ですが、ごく珍しい隔世遺伝のために、ハーフエルフの子供が生まれてしまいました。ですが、そんなことは知らないエ ドナの夫は自分の妻がエルフと関係を持っていたと怒り、エドナは家を追われ、この村に逃げてきました。そのため、親戚などはいなく、遺族はライナスだけです。

マリー(人間・女・16歳)
 冒険者たちの滞在している酒場の看板娘です。優しさの中に、芯を持った心根の良い子です。
 ひとりぼっちになってしまった、ライナスのことを気にかけています。

マルコム(人間・男・46歳)
 村に大きな農地を持つ豪農です。
 何人もの村人を雇って、自分の畑の世話をさせています。自分は働かなくても、十分に暮らしていけるほどの資産を持っています。
 村人たちからの評判は良くなく、嫌われ者ですが、部下の男たちと財力によって村で大きな発言力を持っています。

ハメット(人間・男・35歳)
 マルコムに雇われている使用人たちの使用人頭です。
 臆病で保身のことばかり気にしている小心者です。彼が冒険者に事件についての依頼を持ち出します。


『シナリオを読む前に』

 このシナリオは、ストーリー色の強いタイプのもので、シナリオの主要なシーン毎に描写文(【 】の中の文章)があります。
 ゲームマスターは、ゲーム中の状況がその文章に適しているのならば、それを読み上げてゲームを盛り上げるのに役立ててください。

 また、このシナリオでは最後には厳しい戦闘がありますが、そこにいたるまでに冒険者ではなく、プレイヤーの機転を要求する場面がいくつかあります。
ゲームマスターは、そのあたりのことを前もってプレイヤーに伝え、シナリオ中の描写などを注意深く聞くようにと、前置きをしておくと良いでしょう。


『冒険への導入』

 今回の冒険の主な舞台となる、サダトア村の周辺にある畑で事件は起きます。
 冒険者たちは、村人のひとりが農作業の途中で急死する現場に出くわします。
 そして、そこから、今回の事件は始まったのです。


『本編』

1,母の死

 最初のイベントは、サダトア村の周辺にある麦畑で起きます。冒険者は、何かの用事で外出しているときなどに、このイベントに出会います。なるべく、冒険者が 全員そろっているときにこのイベントを起こしてください。

 イベントは、冒険者を呼ぶ村人の声から始まります。その声は、かなり切迫したもので、麦畑のほうから聞こえてきます。
 どうやら病人が出たようで、冒険者の中に診断ができる人(セージかレンジャーかプリースト)はいないかと尋ねてきます。

 村人のほうに行ってみると、中年の女性が血を吐いて倒れています。
 セージの「知識」や、レンジャーの「応急手当」などで目標値8の成功ロールに成功すれば、彼女はすでに死亡しており、もはや手遅れ(たとえ神聖魔法を使って も無駄です)であることがわかります。
 さらに、セージの「知識」や、レンジャーの「応急手当」などで目標値10の成功ロールに成功すれば、この女性がかなり前から病気にかかっていたにもかかわら ず、無理に働いていたことがわかります。
 この女性のことを村人に聞けば、以下のことがわかります。

・この女性の名はエドナという。
・親族は幼い男の子が一人だけである。
・男の子の名はライナスである。
・エドナはあまり人付き合いの良いほうではなかった。
・昔、まだ小さかったライナスを連れて、一人でふらりと村にやってきて、そのまま住み着いた。
・父親の話は聞いたことがない。
・かなり昔から、病気がちだった。
・マルコムという男の畑の手伝いをして、生計を立てていた。
・この畑も、マルコムのものだ。
・(病気を押して、マルコムの畑の手伝いの仕事をしていた。)
・(男の子は人間じゃないらしい。)
・(男の子はハーフエルフである。)

 カッコの中の情報は、村人に積極的に彼女のことについて尋ねたときにだけ聞くことができます。村人は、カッコ内の情報は進んで話したがりません。
 この情報群は、シナリオの全般に渡って利用できるので、このシーンで無理にすべてを伝える必要はありません。必要に応じて、各場面で使用してください。

 しばらくすると、村人に連れられて少年が駆けつけてきます。母の急死の知らせを聞いた、息子のライナスです。この少年を見た冒険者は、彼がハーフエルフであ ることがわかります。

【その少年は、母の亡骸にすがりつき、「ママ!ママ!」と、何度も呼びかけた。だが、すでに冷たくなりつ つある彼の母は、その悲痛な呼びかけに対し、無言をもって答えるのみだった】

 そんな中、今度は身なりの良い太った中年の男がやってきます。この男が、このあたりの畑を所有している豪農のマルコムです。
 マルコムは、母親にすがりついているライナスの方をチラリと見ると、明日、葬儀は自分が取り仕切っておこなうと言って、すぐに死体を運び出し、仕事に戻るよ うに村人たちを追い払います。
 村人たちが、その言葉に従って死体を運び出そうとしているとき、レンジャーかシーフの「聞き耳」で目標値8の成功ロールに成功すれば、マルコムが小声で「こ の忙しいときに、まったく……」と悪態をついているのに気付きます。
 ライナスはマルコムのひどい言葉が聞こえたのか、無言のまま、涙を浮かべた目でマルコムをにらみつけています。


2,葬式の朝

 この村には酒場兼宿屋である「マリーの酒場」というのが一軒あるだけですので、冒険者たちはおそらくここに滞在しているでしょう。
 事件は、この酒場で朝を迎えることから始まります。

【朝が来た。空は、どんよりと薄暗い。目が覚めたきみは、窓の外を見る。通りの向こうに、黒い服に身を包 んだ少年が立っていた。少年は空を見ていた。その少年の姿を見たとき、なぜか黒ずんだ不安な気持ちになった。何かが……何かが、君の心に引っ掛かる。 だが、その正体は、この時点ではまだわからなかった】

 この日、村ではエドナの葬式があります。
 プリーストの冒険者がいれば、葬式でエドナにお祈りのひとつでもしてやってくれないかと頼まれます。冒険者が要求すれば、礼金として50ガメルぐらいは払い ます。
 冒険者が承諾すれば、葬式は村外れの墓場でおこなわれるので、そこに案内されます。
 村人たちは、他の冒険者たちにも、彼女の最後に立ち会ったのも何かの縁だろうからと言って参列するよう願います。

【その葬式に参列する村人たちの顔に、悲しみの色はあまり見えなかった。村人はお互い口をきくことはな く、淡々と葬式の準備を進めるのみ。
 村人たちは無表情だった……だが、それは自分の感情を隠すための仮面であることは、容易に想像できた】


 葬式は実に簡素で短いものです。
 エドナの家にある柩を村はずれの墓場に運び出し、掘られた穴に埋めるだけです。
 柩を運び出すとき、ライナスは姿をあらわしません。先に葬儀のとりおこなわれる墓場で待っているためです。
 葬儀の列が村を出る頃、村を白く煙らす霧雨が降り始めます。

【葬儀の列は、村を包み込むような霧雨の中、村外れの墓場を目指す。男たちが柩を背負い、女たちは固く口 を閉じて列に続く。これが、人の生の最後である。これより、人は土に帰り、そして新たな生となるのだ】

 村外れの墓場には、代々この村の住人が葬られています。何本もの木製の墓が立てられています。
 墓場の外れのほうに、いくつかの盛土があります。土の上には、大きめの石がおいてあります。
 村人に聞けば、それらが身元の分からない旅人や、罪人の墓であることがわかります。村人たちが、そのような人間が自分たちと同じ場所に葬られるのを嫌って、 離れた場所に作った無縁墓地なのです。
 エドナの墓として掘られた穴は、村人たちの墓の一番端、逆に言えば、無縁墓地のすぐ近くです。
 その穴の位置を見て、何人かの村人たちはヒソヒソとささやきあいます。
 レンジャーかシーフの「聞き耳」で目標値8の成功ロールに成功すれば、村人たちは穴の位置について「いくらなんでも、あれではエドナが可哀想では……」と いったことを話しているのがわかります。
 マルコムの部下たちは、柩を背負う村人に早く埋めるよう指図します。
 穴の近くで、黒い服を着たライナスは柩を見つめています。葬儀中、ライナスは、涙ひとつ見せずに気丈に振舞っています。
 柩はロープでゆっくりと下ろされ、祈りの言葉が村の老人によって唱えられます。もし、冒険者が頼まれているなら、代わりに冒険者が唱えることとなります。

【祈りの言葉は、大地に染み渡るようにあたりに広がった。祈りの声が際立たせる静寂の中、少年は柩に向 け、小さな手を組み合わせ、心の中で祈りを捧げていた】

 祈りが終わると、葬儀を取り仕切っていたマルコムはさも時間が惜しいと言った調子で、さっさと穴を埋めよう指示します。さきほどから降り続ける霧雨をうっと おしそうにしており、不謹慎にもぶつぶつと悪態などをついています。
 ゲームマスターは、マルコムの態度にプレイヤーが悪印象を受けるように、やや誇張して演出してください。最終的に、そんなマルコムの態度に冒険者が一言でも 文句を言ってくれるように誘導できれば成功です。
 また、冒険者がマルコムに抗議するならば、宿屋のマリーも一緒に抗議します。村人の中では、彼女が一番、ライナスに同情的です。
 以下が、冒険者か文句を言ってきた際のマルコムの反応の例です。

 冒険者が抗議すると、村人の中にも、小さく賛同の声があがります。
 それに対し、マルコムは動じもせずに、
「おいおい、私は、善意でエドナの墓を作ってやっているのに、それで文句いわれては心外だな。墓の位置ぐらい、どうでも良いじゃないか。そんなことを気にする ほうがどうかしているぞ。それとも何かね、もう一度柩を取り出して、葬儀をやり直せとでもいうのかね?」
 といって、声の主は村人たちの顔を見回します。
 村人たちはマルコムににらまれると、静かになってしまいます。
「それに、もともとエドナは余所者だ。墓を作ってもらえるだけでも、よしとしなくちゃあなあ。なあそうだろ、村の衆?」
 そう言うと、マルコムは再度、墓を埋めるよう男たちに命じます。

 もし、まだ冒険者の気が済まないようでしたら、しばしマルコムとの言い合いを続けてください。しかし、冒険者にとって、村人たちがマルコムを恐れて同調して くれないという状況は、かなり不利なものでしょう。
 ゲームマスターは、様子を見て、ライナスを言い合いに割って入らせてください。

「もお、いいんです……マルコムさん、母のために葬儀をしてくださって……ありがとうございます」
 ライナスは静かな声でそう言うと、冒険者を制します。
 その言葉を聞いて、マルコムはそれ見たことかと勝ち誇ったように「ふんっ!」と、鼻を鳴らします。
「どうだ、当の息子であるライナスがこういっておるんだ。こいつは、この歳で世渡りというものを心得ておるわい」
 そう言って、マルコムは葬儀の最中だというのに、さも愉快そうに大笑いします。そして、その頃には、柩は埋められ、白木の墓碑が立てられようとしています。

 万が一、マルコムの無礼な態度に怒った冒険者が、暴力的な行動に出るようでしたら、ライナスを使って穏便に話を納めてください。

【白木の墓標が立てられる。村人たちは、目を伏せて墓に祈りを捧げていく。ひとり、またひとりと村人は去 り、もとの生活へと帰って行く。いつのまにか、雨は大粒なものへ変わっていた。だが、少年は、亡き母を思っているのか、ただひとり白木の前に寄り添う ように立っていた】

 ライナスは村人たちがいなくなったあとも、雨の中で立ち尽くしています。
 その後、冒険者たちが少年をどう扱うかは自由です。
 冒険者たちが、ライナスを慰めてあげようとするなら、マリーはこっそりと「うちの夕食に招待してあげたら?」と、提案します。
 もし、冒険者がライナスを放って置いて先に宿に帰るのなら、夕方になってからずぶ濡れになったライナスをつれたマリーが帰ってきます。
 その夜、マリーの宿屋は大雨のおかげで客は冒険者たちぐらいなものです。
 マリーはずぶぬれのライナスのために、体の温まる夕食と、冒険者たちにはワインを用意します。ライナスを励ますために、楽しい夕食にしようと言う彼女の心遣 いです。もちろん、冒険者が積極的にそんな夕食会を企画するのならば、それに応じてください。
 楽しい夕食も終わりに近づいた頃、いつのまにかライナスは椅子の上で眠りこけてしまいます。
 彼の閉じられた目には、かすかに涙が浮かんでおり、冒険者(またはマリー)が抱きあげてベットに運んであげる途中「ママ……」と寝言をつぶやきます。


3,夜の出会い

 冒険者たちが寝入ったところで、ゲームマスターは冒険者のひとりを選んで、このイベントを起こしてください。
 なるべく、一番ライナスに同情を寄せていた冒険者を選ぶと良いでしょう。

 その冒険者は、夜中、ふと目を覚まして、以下のような光景を見ることとなります。

【きみは、ひどくなった雨音で目を覚ましました。窓の外を見ると、雨は叩き付けるように降っている。その とき、きみは雨音しか聞こえない暗闇の向こうに、ライナスの姿を見た。それは、確かにライナスだった。闇夜に、その姿はぼんやりと白く光り、右手から 真赤な、そう、まるで血のように真赤な光りが、雫のように雨に濡れた地面に落ちていた】

 外のライナスは宿のほうに歩いてきます。
 冒険者がすぐにライナスを迎えに出るという行動をとった場合、玄関でばったりとライナスに出くわします。ライナスは冒険者に出会うと、力が抜けたように冒険 者の身体にもたれかかりそのまま気を失ってしまいます。右手の人差し指を調べてみれば、そこに歯でかみ切ったような新しい傷があることがわかります。
 ライナスは次の日、「6,目覚めたライナス」のイベントまで、そのまま気を失ったままです。
 急がないで、後からライナスの部屋を訪ねた場合、すでにライナスは部屋に戻っておりぐっすりと眠りについているように見えます。
 しかし、ライナスを起こそうとしても彼は目を覚ましません。昏睡状態にあるのです。
 また、よく見てみると、ライナスの服が雨に濡れているのがわかります。

 ライナスの様子を見て、セージの「知識」や、レンジャーの「応急手当」などで目標値12の成功ロールに成功すれば、彼がかなり疲労していることがわかりま す。
 ライナスにセンス・オーラを使った場合、彼の精神の精霊に乱れがあることがわかります。とは言え、それ以上のことはわからず、正常ではないとわかる程度で す。


4,事件発生

 昨日の雨は朝方になってから止んで、空は晴れわたっていますが、村のほうは早朝から騒然としています。
 村人の誰かに尋ねれば、その原因はすぐにわかります。
 あのマルコムと、彼の部下が死んだというのです。
 近くにいる村人は、その死因については詳しく知りませんが、普通の死に方ではなかったらしいということだけは教えてくれます。
 冒険者が自らマルコムの屋敷へ行くつもりならば問題はありません。

 もし、冒険者がこの事件に関心を持たず動こうとしないようならば、マルコムの使用人頭であるハメットが事件の調査を依頼しに来ます。報酬は一人当たり300 ガメルです。
 マルコムたちに好感を持っていない冒険者たちにとっては、いい気味だと考えるでしょうが、なるべく、冒険者たちにこの仕事を受けさせてください。
 謎の「DEATH」の書き置き(「5,調査してわかる情報」の項を参照)のことを思わせぶりに話せば、知的好奇心のある冒険者ならば調べてみたいと思うで しょう。
 それに、他の村人たちは哀れなほどに今回の事件に怯えています。彼らは、マルコムたちとは無関係の善良な人間なのですから、村人を使って同情を得る手もある でしょう。

 マルコムの屋敷では、使用人たちが右往左往して騒ぎ立てています。屋敷には住み込みの使用人が八人ほどいます。
 良かれ悪しかれ強い指導力を持っていたマルコムを失ったことで、屋敷内は手のつけられない混乱状態になっています。
 そのなかで、使用人頭のハメットだけが、なんとか事態を収拾しようと奮闘していますが、いかんせん彼では役不足のようです。
 ハメットは、マルコムたちの奇怪な死についての原因が判明すれば、この騒動も収まるのではと考えています。
 そして、その調査をするのにうってつけの人材は、たまたま村に滞在していた冒険者たち以外には無いとも考えています。


5,調査してわかる情報

死亡したのは、マルコムと三人の使用人です。
彼らは屋敷の自室で死亡しています。死んだ三人の使用人たちは同じ部屋で暮らしており、その部屋で死亡しました。
 彼らの死体を見れば、その三人が昨日の葬儀で墓穴を掘っていた三人であることがわかります。
 四人は同様にベッドの中で死亡していますが、掛け布団ははだけており、一瞬だけ苦しんで暴れたかのように見受けられます。
 以下が、最初に死体を見たときの描写です。

【その死体は、何者かに怯えるように、恐怖の表情を浮かべたまま生き絶えていた。傷ひとつ無く、ただ、心 臓だけを停止させたその死体からは、今にも断末魔の悲鳴が聞こえてくるようであった】

 彼らの死体を普通の方法で調べても死因はわかりません。
 外傷はまったく無く、といって死んだ連中が病気だったというわけでもありません。突然死としか言い様がありません。
 ただ、とても奇妙なことがあります。死んだ人間の部屋の扉には、赤い液体で「DEATH」と大きく書かれてあります。
 扉に書かれていた文字を調べれて、セージの「知識」や、レンジャーの「応急手当」などで目標値10の成功ロールに成功すれば、この赤い文字が血で書かれたも のであることがわかります。
 最初から、血ではないかと予想して調べた場合は、目標値7で判定してください。
 字の書かれた位置は、大人の腰より少し上あたりです。つまり、大人が書いたにしては少し低い場所です。
 レンジャーの「足跡追跡」で目標値14の成功ロールに成功すれば、殺された人間の部屋の前に、昨晩のものらしい泥のついた小さな足跡を発見します。足跡は小 柄の女性か、子供のもののようです。

 屋敷内の戸締まりは意外と不用心です。
 正面の玄関などは戸締まりしているものの、裏木戸などの使用人用の出口には鍵すらついていません。もっとも、田舎のサダトア村では、さほど珍しいことではあ りません。
 それに、これだけ多くの使用人が住み込んでいる屋敷に盗みに入ろうとするものはいないでしょう。

 近所の人間や、マルコムの使用人たちに、昨晩、不審なことはなかったかを尋ねれば、夜更けに馬車の車輪の音と、ひづめの音が確かに聞こえたと話します。
 その中のひとりは不審に思って、外を見回ったのですが音の主は見つからなかったといいます。
 冒険者が外を調べても、昨日の雨でぬかるんだ道には、ひづめの跡も、馬車のわだちも残っていません。
 屋敷の住人達は、この事実を知るとますます怯えます。


6,デュラハンと死の呪い

 扉に書かれた「DEATH」の血文字、ひづめと馬車の車輪の音。
 これらの手掛かりを聞いた時点で、これはデュラハンの仕業ではないかと思うプレイヤーもいるでしょう。
 しかし、冒険者がそう思うかは別です。厳密に言えば、冒険者の知識とプレイヤーの知識は別物と考えねばならないからです。
 とは言っても、シナリオの展開上、最後の対決の前には、デュラハンの存在について冒険者に知ってもらわないと困ります。
 そのため、このシナリオでは、もしプレイヤーがデュラハンに気づいたのなら、判定をさせなくても良いでしょう。
 もし、誰もデュラハンについて気付かなかった場合には、村の老人が知っていたということにしても良いでしょう。

 デュラハンについてのデータは「ソード・ワールドRPG上級ルール/分冊2追加モンスター」の159ページの載っていますが、基本ルールしか持っていない方 のために簡単に紹介します。

 デュラハンは首の無い馬に引かれた戦車に乗る、首の無い騎士で、アンデットに分類されます。
 デュラハンは町中をさまよい、家を尋ね死の予言をしていきます。
 そして、死の予言をしてから一年後、デュラハンは再度その家を訪れ、家人をひとり殺害して去っていくという、謎の多いアンデットです。

 ここからは、このシナリオオリジナルの設定なので注意してください。
 デュラハンを知っている冒険者は、自動的にデュラハンにまつわる「死の呪い」というものの存在を知っています。
 この「死の呪い」とは、デュラハンを対象となる人物に送り込こみ、その人物を死に至らしめる呪いの一種です。
 ただし、これは系統化された呪いではなく、その使い方も伝わってはいません。人を呪う心が生み出す、偶然の産物と言っても良い呪いなのです。
 従って、リムーブ・カースで解くこともできません。暗黒魔法のカース等とは異なるためです。
 この呪いを解く唯一の方法は、やってきたデュラハンを返り討ちにすることです。返り討ちにされたデュラハンは、その直後に呪いをかけた者の命を奪って消え去 ります。
 神聖魔法のターン・アンデットが成功し、ターン・アンデット表で7以上の結果が出た場合、デュラハンは直ちに呪いをかけた者の命を奪って去っていきます。 12が出た場合も同様です。


7,目覚めたライナス

 マルコムの屋敷の調査をある程度終えたのを見計らって、ゲームマスターは日が暮れてきたとでも告げて、そろそろ宿に戻るよう促してください。

 このシーンでは、冒険者たち(もしくはマリー)の口からライナスが怪しいということを語らせ、それを彼が立ち聞きしているというシチュエーションに持ってい くことがゲームマスターの最大の仕事です。
 おそらくは、これまでの情報を総合して考えれば、ライナスが怪しいという推論にたどり着くのは容易のはずです。よって、ゲームマスターにとっての問題は、そ のことをいかにして宿屋で冒険者に口にさせるかだけとなるでしょう。

 宿ではマリーが食事を作って待っています。
 ライナスは昨晩から昏睡状態で、まだ宿のベットで寝ています。
 マリーは今朝の事件について興味深そうに尋ねます。
 ゲームマスターは、この機会にプレイヤーたちの情報の整理をさせましょう。
 そして、このときこそ、冒険者の口から昨晩のライナスの怪しい行動のことを口にさせる最大のチャンスとなるでしょう。
 マルコムたちの奇怪な死と、ライナスの奇妙な行動はほうっておいても関連づけられることでしょうが、どうしてもその話にならない場合は、マリーを使って誘導 してください。
 昨晩、ライナスが自室を出ていくのをマリーも見ていたとして、冒険者たちの話題にライナスのことがのぼるようにするのです。
 その会話の中で、ライナスがマルコムの事件に関連しているのではないかという話題になったとき、マリーは眉を顰めて「あのライナスが……信じられないわ」と 呟き、そして短く悲鳴を上げます。
 いつの間にか、冒険者たちが話をしていた部屋の入り口が開いており、そこに昏睡から目を覚ましたライナスが立っていたからです。
 ライナスは冒険者の話をこっそりと立ち聞きしていたのです。
 もし、冒険者の誰かがライナスを見張っているといった行動をとっている場合には、シーンをふたつに分けて、別のシーンでは他の冒険者たち(さすがに全員でラ イナスを一晩中見張っているという愚かなことはしないでしょう)とマリーの会話、別のシーンではライナスを見張っている冒険者、といった具合に並行処理をして いきましょう。
 そして、頃合いを見計らって、ライナスがトイレのためにでも下の階に降りるなどの口実を設け、冒険者とマリーの会話を偶然に立ち聞きしてしまうといった誘導 をすればよいでしょう。

 マリーはすぐに気を取り直すと、「ライナス……私たちは別にあなたのことを疑っているわけじゃあ……」といった、下手なフォローをします。
 もし、冒険者たちが勝手にライナスに対して、下手なフォローをするようでしたら存分にさせてください。ただし、思わず言いくるめられてしまいそうな上手な フォローをしているようでしたら、マリーに口を挟ませて台無しにしてください。

 ところが、マリーや冒険者の心配をよそに、ライナスはさほどショックを受けた様子はありません。それどころか、冒険者たちの話に混ざり、彼自身、そのような ことに心当たりがあることを語ります。
 まず、彼は「3,夜の出会い」のイベントで体験した不思議なことを話します。気付いたら身体と服が濡れていたこと、右人差し指に傷が出来ていたこと、ぐっす り眠ったのに次の朝、とても疲れていたことなどです。
 また、ライナスは一ヶ月ぐらい前からずっと変な夢を見てきたことを話します。
 その夢では、ライナスは自分とずっと話をしているのだと説明します。どんな話をしていたかははっきり覚えていないのですが、あまり楽しい話ではないことだけ は覚えています。あと、夢の中で話をしている自分が良く「DEATH」というおまじないのような言葉を唱えることだけは、はっきり覚えていると語ります。
 また、毎日のようにその夢を見ていたのに、昨晩に限ってその夢を見なかったことも話します。
 そして、最後に、ライナスは「この夢と、みんなの話していた事件って関係あるんでしょうか?」と尋ねます。
 冒険者が肯定しても、肯定しなくても、ライナスは薄々関係があるに違いないと思い始めています。
 そして、そのことに深く心を痛めています。
 しかし、ライナスはそんな様子をなるべく見せまいとして、なんでも協力すると申し出ます(もっとも、それ以上の情報はライナスからは得られませんが)。

 ゲームマスターは、冒険者がライナスの様子を観察するといった行動をしたときなどに、彼が無理に元気なフリをしているのではないかと言うことに気付かせてく ださい。誰も気にしないようだったら、マリーがそのことに気付きます。


8,もうひとりのライナス

 しばらくしてから、ライナスは疲れたからと言って、二階にある寝室へ戻ろうとします。
 その途中、ライナスの身体がグラリとよろけたかと思うと、突然、冒険者たちのほうを振り返ります。
 そして、ライナスはそれまでの元気な様子から一転して、涙を浮かべ「ひどいや……ホントはみんな……ぼくのことを疑っているんだね。ぼくが『死の呪い』で四 人も人を殺したって……」と、訴えかけます。
 このライナスは、冒険者たちの知っているライナスではありません。
 ライナスの内に秘められた邪念が表に現れているのです。
 この邪念はライナスが疑われているのに気付き、密かに反撃に出ようとしているのです。

 ゲームマスターは、ここでライナスの台詞に彼が知り得ないはずの言葉を交えてください。
 例えば「死の呪い」という呪いの正確な名称、屋敷で死んだ人間の正確な人数、殺された時間などです。よほど念入りに包み隠さずライナスに屋敷の事件のことを 話さない限り、冒険者と犯人しか知り得ない情報というものがあるはずです。ゲームマスターは、前もって、その情報に目星をつけておいてください。
 もし、冒険者がそのことに気付いて追及すれば、ライナスの邪念は正体を現します。
 冒険者が気付かないようでしたら、先ほどまでの気丈だったライナスの豹変ぶりを過剰に演出(いきなり泣き言や、恨み言をいうなど)して、不自然さをアピール してください。そうすれば、ライナスが別人なのではという疑問が湧いてくるでしょう。
 ライナスの邪念は正体を見破られると、「ふん、どうやらただの甘ちゃんじゃないらしいな。そうだよ、ボクがあいつらを殺したのさ。弱虫で意気地なしのライナ スの代わりに、このボクがねっ!」と悪意に歪んだ目で冒険者たちをにらみつけます。
 姿形こそライナスですが、そこにいるのはまったくの別人であることがわかります。

 万が一、全然、ライナスの正体に気付かないのでしたら、突然、ライナスの邪念に大笑いをさせて「ばーか、すっかりだまされてやがる」などと、冒険者を馬鹿に するような言動をとらせましょう。
 この場合、正体を見破れなかった冒険者たちは格好悪いですが、しかたありません。


9,呪いの発動

 さて、このイベントに入る前に、ゲームマスターはデュラハンに狙われる冒険者(以降、キャラクターAと表記)を選ばねばなりません。
 ライナスに同情を寄せていた冒険者や、ライナスを疑うようなことを言った冒険者が好ましいでしょう。
 逆に、淡々とキャラクターをプレイするプレイヤーや、ゲームを傍観しているほうが好きなプレイヤーは選ばないほうがよいでしょう。

【ライナスの姿をした何かは、(キャラクターAの名前)を指差した。その直後、彼の指の傷から血が吹き出 す。
「まずはおまえだ……」
 ライナスは滴る血をペロリと舐めると、その指で宙をなぞった。不可思議なことに、血は宙に浮かんで文字となった。宙に浮かぶ血文字、それは 「DEATH」と読める。
 その瞬間、(キャラクターAの名前)は確かに闇から何者かが見つめている気配を感じた。死へと誘う者……デュラハンが新たな獲物を見いだしたの だ……】


 キャラクターAは「死の呪い」がかけられた影響により、これまで体験したこともないような強い圧迫感に苛まれます。
 まるで心臓を冷たい腕で鷲掴みにされたように苦しく、身体から血の気が失せていく感じです。センス・オーラによってキャラクターAを見てみれば、人間の命に 関わる精霊力が急激に弱まっていることがわかります。まるで死期の迫った老人のような状態です。
 もっとも、呪いがかけられても数値的なペナルティ等の影響はありません。

「死の呪い」が完了すると、ライナスの邪念はさも楽しそうに笑い、
「さあどうする? 仲間を助けたければ、やってくるデュラハンを倒さなくてはならないよ……けど、それは同時にボクともうひとりのボクを殺すことになる……こ のかわいそうなライナスもね……そうでしょ、(キャラクターAの名前)?」
 と、最後はライナスの口調を真似して、挑発的に語りかけます。


10,デュラハン登場

 時を置かずして、呪いを遂行するために冒険者たちのもとへデュラハンがやってきます。冒険者たちには、せいぜい武装をするぐらいしか時間的猶予はありませ ん。

【ひずめと戦車の車輪の音が聞こえてきた。音は、確実にこちらに近づいて、いつしか部屋の中できみたちの まわりをぐるぐるとまわりながら響きわった。
 だが、奇妙な事に音の主の姿はまったく見えない。
 突然、何の前触れもなく音が止んだ。
 なにもない空間に、黒い影が浮かび上がる。
 黒い軍場に引かれる戦車。その上に立つ、黒い鎧の騎士。
 その馬にも、騎士にも首がなかった。いや、騎士には首があった。その首は、騎士の腕の中にあったのだ。そして、その手に持たれた首は、その目で確か に(キャラクターAの名前)のほうを見つめていた】


 さて、冒険者はどうするでしょうか。
 デュラハンを倒してしまったら、ライナスを殺すこととなってしまいます。しかし、このままではキャラクターAが死んでしまいます。
 このジレンマには、いまのところ解決策はないので、ここであまり時間をとらずに次のイベントに移すのが得策です。もちろん、冒険者がデュラハンを撃退する良 い解決策のアイデアを思いついたのでしたら、ゲームマスターはそれを認めても構いません。その場合、今後の展開は大きく変わるでしょう。

 万が一、冒険者たちが、躊躇することなくライナスを犠牲にしてもデュラハンを倒そうとした場合は、マリーを使ってデュラハンへの攻撃を止めてください。


11,ライナスの決意

 冒険者がデュラハンを前に困惑していると、突然、ライナスが苦しみだします。

【「僕のせいで……僕のせいで、みんなは怪物を倒せないんだね……(キャラクターAの名前)を助けられな いんだね。僕なんかのために……」
 ライナスは壁に身を預け、苦しそうに言った。その声は、確かに皆の知るライナスのものだった。
「でも……もう、いいよ。僕なんかのために、(キャラクターAの名前)が死ぬなんて……大丈夫、ママのところに行くだけさ。恐くなんかないよ、それに 生きていても……どうせ……」
 その言葉の途中、ライナスは再び強く苦しげに呻いた。
「馬鹿が、こいつらのために死ぬって言うのか?
 こいつらにとって、おまえなんてどうでもいい厄介者でしかないんだぞ。そんなやつのために、死んでやるって言うのか?」
 その声はライナスとは別のものだった。
 二人のライナスが、ひとつの身体を使って会話をしている。
「そうなの……みんな?」
 苦しそうに顔を上げると、ライナスはきみたちのほうを悲しそうに見つめた】


 ゲームマスターは、ここで冒険者たちのライナスへの気持ちを語ってもらいましょう。
 冒険者がライナスを大事に思っていることを語るだけでは、ライナスの邪念は「そんなのは嘘だ、信じるな」と否定してしまい、ライナス自身、冒険者の言葉を信 じることが出来ないでいます。

 しかし、ライナスの邪念の言動にはひとつの大きな矛盾があります。
 もし、冒険者がライナスのことを大事に思っていないのならば、仲間を助け出すために躊躇することなくデュラハンを倒そうとするはずです。それが出来ないと言 うことは、冒険者たちは本当にライナスのことを大事に思っていることの証拠です。
 この矛盾をつくことができれば、ライナスの邪念は、それ以上、冒険者の言葉を否定することは出来なくなってしまいます。
 プレイヤーが深く考えずに、ただ単に説得しようとしているのならば、「どうやら、ライナス自身は、もうひとりのライナスに強く影響されているようだ。ここは 大きな決め手となるようなことがないと、疑惑の呪縛からライナスを解放することは出来ないだろう」と、熱意とノリだけでは無理だということを示唆してくださ い。


12,解放の時

 冒険者に矛盾した言動を指摘されると、ライナスはさらに苦しみだします。

【「みんな……」
 ライナスは胸を苦しそうに押さえながら、ゆっくりときみたちのほうへ歩みだそうとする。しかし、その足は動こうとはしなかった。
「やめろ、おまえを愛するものなどいない。暖かい母は死んだ。おまえを抱きしめる手は、もう無いんだ!」
 悲鳴のような声で、その何かは叫んだ。
 ライナスは自由に動かない足を見つめると、今度は細かく震える手を怖々ときみたちのほうへと差し出した……】


 冒険者の誰かがその手を取るような行動をとれば、ライナスの足を束縛していた邪念の呪縛は解けます。
 ライナスは手を差し伸べている冒険者のほうへと歩みだし、その腕の中に倒れ込んで気を失います。しかし、不思議なことに、いままでライナスのいた場所にも、 まだ彼の姿が残っているのです。
 これはライナスの魂から分離した、ライナスの邪念です。存在としては、スペクターに近いものですが、ただの影のようなものでこちらから攻撃も何もできない代 わり、向こうもこちらに何もできません。つまりは、ただそこにあり、語るだけの存在なのです。
 驚きと憎悪の入り交じった表情で、ライナスの邪念は冒険者のほうを見つめ、「よけいなことを……もう少しで、こいつを闇へ引きずり込むことが出来たというの に……」と、口惜しそうに呟きます。
 そして、冒険者の腕に抱かれたライナスの姿を見て、ハッと何かに気付いたように、右手を隠そうとします。
 しかし、隠した右手から赤い不吉な輝きが、滴となってポタリポタリと床に落ちます。

 ライナスの邪念は、もうひとりのライナスの右手の指の傷が無くなっていることに気付いたのです。そして、自分の指には傷が残っていることも……
 つまり、このことは「死の呪い」をかけたのが、ライナスの邪念ひとりであり、ジレンマが解けたことを意味するのです。

 もし、冒険者がライナスの右手を見れば、さっきまであった傷が跡形もなくなっていることに気付きます。
 賢明な冒険者ならば、これでライナスは「死の呪い」から解放されたと推測することでしょう。
 つまり、デュラハンを倒しても、魂が連れ去られるのはライナスの邪念だけと言うことです。

 ここは、このシナリオの山場です。
 ゲームマスターは少々時間をかけさせてでも、ライナスの邪念の奇妙な行動や、ライナスの指の傷が無くなったことなどの意味を冒険者に推理させましょう。
 その解答を見つけ、思う存分デュラハンという強敵と戦えるようになった喜びは、これまでのフラストレーションを発散させてくれるはずです。


13,デュラハンとの戦闘

 さて、これでデュラハンを遠慮なく倒すことができます。
 部屋の中なので、デュラハンはチャリオッツ・オブ・デュラハンを戦闘に使うことは出来ません。
 デュラハン1体とヘッドレス・ホース2頭が冒険者の相手です。
 ルール的に言えばデュラハンはかなりの強敵です。もし、冒険者の戦力が乏しいと思う場合は、ヘッドレス・ホースは戦闘させないほうが良いでしょう。
 もしくは、最初はヘッドレス・ホースだけが攻撃をしてきて、ヘッドレス・ホースが倒されると真打ち登場といった具合にデュラハン自身がチャリオッツを下りて 攻撃をしてくるといった方法もあります。
 また、デュラハンとヘッドレス・ホースには通常武器は無効であることを注意してください。なかなか冒険者が気付かないようでしたら、武器が当たっても手応え がない、などといった描写をしてそのことに気付かせましょう。
 神聖魔法の「ターン・アンデット」や「ホーリー・ウェポン」を効果的に使うことが出来れば、ぎりぎり倒せるモンスターのはずです。

★デュラハン
モンスター・レベル=7 知名度=14 敏捷度=16 移動速度=16
出現数=単独 出現頻度=まれ 知能=人間なみ 反応=敵対的
攻撃点=14(7) 打撃点=12 回避点=15(8) 防御点=10
生命点/抵抗値=20/16(9) 精神点/抵抗値=20/16(9)
特殊能力:通常武器無効

★ヘッドレス・ホース×2頭
モンスター・レベル=4 知名度=14 敏捷度=12 移動速度=30
出現数=2頭 出現頻度=まれ 知能=動物なみ 反応=敵対的
攻撃点=蹄:11(4) 打撃点=8 回避点=12(5) 防御点=6
生命点/抵抗値=20/11(4) 精神点/抵抗値=15/12(5)
特殊能力:通常武器無効


15,大団円

 デュラハンとヘッドレス・ホースの全員が生命点か精神点が0点になった場合、デュラハンは来たときのように音だけとなって、今度はライナスの邪念の上を回り はじめます。
 ライナスの邪念は、その音に怯えて逃げだそうとしますが、突如、空中からぬうっとデュラハンの甲冑に包まれた腕が現れたかと思うと、あっという間に彼をつか みどこかへと連れ去ってしまいます。
 その後、蹄の音は遠くへ去ってしまいます。

 気絶しているライナスは、神聖魔法の「キュアー・ウンズ」をかけるか、レンジャーの「応急手当」で目標値8の成功ロールに成功すれば目を覚まします。
 ライナスは途切れ途切れに語ります。

【「今……僕、悪い夢を見てたよ。
(キャラクターAの名前)が悪い怪物に襲われるんだよ。その怪物はね、僕なんだ……悪い心の僕なんだよ。
 その悪い僕のために、(キャラクターAの名前)が殺されそうになるんだ。だから、僕は……そうだ、悪い奴は、突然消えちゃったんだ。馬に乗った黒い 鎧を着た誰かが、遠いところにつれてっちゃったんだ。でも、僕は一緒に行かなかったんだ。
 だって、みんなが呼んでいたから。こっちに来いって言ってくれてたから!」
 ライナスは、嬉しくてたまらないといった様子できみたちに話し続ける。
 きみたちは、ライナスのそんな無邪気な笑顔を見たのは、これが初めてだった……】


 デュラハンはライナスの邪念だけを連れ去っていきました。なぜなら、「死の呪い」をかけたのは、いまここにいるライナスではなく、もうひとりのライナスだか らです。
 ここではひとつ、冒険者には気のきいた台詞を言ってもらいたいものです。


『冒険の結末』

 その後のライナスの身のふりかたは、冒険者に任されます。
「マリーの酒場」に住み込みで働くあたりが無難なところでしょう。
 もし、マルコムたちの死がデュラハンという魔物のせいだということをハメットに告げれば、彼から報酬はもらえます。
 その際、冒険者たちがどこまで事件の真相について語るかは自由です。
 なるべくライナスのことは村人には話さないようにと、マリーは頼みますが。

 デュラハンを追い返し、キャラクターAもライナスも救うことに成功した冒険者達は経験点1500点を得ます。もし、何らかの理由でキャラクターAかライナス を死亡させてしまった場合、冒険者は半分の750点しか経験点を得ることは出来ません。


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