シナリオ5「雨降って」

『冒険の概略』

 冒険者の滞在している村では、最近、行方不明事件が発生しています。森の中に入ったきり、何人もの村人たちが戻って来ないのです。
 冒険者たちは、この原因の調査を依頼されます。
 犯人は、森の沼に住み着いたスキュラという怪物です。スキュラは美しい外見(魔法で美女に変身しているのです)と歌声で村人を誘い出し、そして喰らっていた のです。
 この怪物の居場所を知っているのは、森に住む人間嫌いのきこりだけです。
 冒険者たちが、このきこりに話を聞こうとしても、彼は良い返事をしてくれません。なぜなら、このきこりはスキュラのことをかばっているからです。
 このきこりはスキュラが人間ではないと薄々感じてはいますが、それでもこの美しい怪物のことを愛しており、まして彼女が人を食う怪物などとはとても信じられ ないのです。
 冒険者とスキュラが対決する際、きこりはスキュラを身を挺して守ろうとして、「彼女を殺すなら、僕を殺してからにしろ」と、叫びます。
 その言葉を聞いたスキュラは、突然きこりに襲い掛かります。
 きこりはスキュラに攻撃をされて、スキュラを守るどころではありません。その隙に、冒険者はスキュラを退治することになります。
 スキュラは、身を挺して自分を守ろうとするきこりの身を案じて、あえてきこりを襲ったのかもしれません。それは、スキュラ当人にしかわからないことです。

 この冒険シナリオは冒険者レベルは4〜6のキャラクター、3〜5人を想定しています。なお、バード技能のある冒険者がいると、このシナリオでは役に立ちま す。


『冒険の舞台』

 このシナリオは、アレクラスト大陸の極東地方に属するアノス王国を舞台とします。
 より細かく言えば、アノス王国の南西部の街であるソーミーのさらに西に伸びる山脈の麓にあるサダトア村が冒険の舞台です。
 サダトア村は、このキャンペーンの拠点となる村です。
 村の位置する地形が、以後のシナリオに関わる状況も多いので、村の場所を変更することはお奨めできません。もし、どうしても他の地域でのプレイをマスターが 希望した場合、出来る限り地形的に似た場所を選んでください。
 特に今回のシナリオでは、近くに深い森があることが重要です。


『NPC紹介』

スキュラ(幻獣・雌・100歳前後)
 偶然、大雨による増水で、住み慣れた森の奥の沼地から流され、村の近くの沼に住み着いたスキュラです。
 増水に流され傷ついていたところを、村のきこりの若者に助けられました。
 それを恩に感じてか、スキュラはその若者だけは襲おうとはしません。それどころか、夜な夜な一緒に歌を歌い、一晩を過ごしたりもするのです。
 しかしながら、もちろんスキュラとしての恐るべき本性も残っており、自分の美しい姿と歌で村人を沼地に誘い込んでは食料としています。
 もちろん、このことを若者は知りません。
 このスキュラは、古代樹から生まれた数多の古代種族の血を強く受け継いでおり、他のスキュラに比べて強い力を持っており、精霊魔法以外にも、古代語魔法にも 長けています。
 なお、このスキュラは人間の言葉を喋ることはできません。
 具体的なデータは「8,スキュラとの対面」を参照してください。

ロイド(人間・男・22歳)
 器用度=15(+2) 敏捷度=18(+3) 知力=12(+2) 筋力=12(+2)
 生命力=15(+2) 精神力=12(+2)
 所有技能:バード1
 生命抵抗力:3 精神抵抗力:3
 冒険者レベル:1
 武器:ショートソード(必要筋力8) 攻撃力0 打撃力8 追加ダメージ0
 会話:東方語、共通語

 とても臆病で神経質な、きこりの若者です。
 いつもおどおどしており、もともと人付き合いが苦手で孤独を好むタイプでした。
 そんな彼にも幼い頃から心を許しあい、結婚の約束をしていた女性がいました。
 しかし、3年前、彼女は森の中で何者かによって殺され、ロイド自身がその無残な死体を発見したのです。
 唯一の心の支えを失った彼は、いっそう自分の殻に閉じこもるようになりました。
 彼はそんな性格のせいで仲間からはバカにされ、ますます人間嫌いになっていったのです。
 シナリオ開始の一ヶ月前、偶然、彼は森の中で傷ついていたスキュラを助けました。
 スキュラは、そのとき古代魔法の「シェイプチェンジ」によって人間の少女の姿に変身していました。その姿を見たロイドは、スキュラに死んだ恋人の面影を見い だし、その姿と歌声に、すっかり心を奪われてしまったのです。
 心に深い傷を持っている彼にとって、スキュラがかけがえの無い存在となるのには、さほど時間はかかりませんでした。
 彼は、スキュラを守るために、スキュラのことはいっさい人には話しません。

メリッサ(人間・女・17歳/3年前当時)
 ロイドの恋人でしたが、3年前、森の中で何者かに殺されてしまいました。村人たちの話によると獣か何かに襲われたらしく、それは無惨なものだったそうです。
 彼女は、人付き合いの苦手なロイドにとって数少ない理解者であり、恋人でもありました。それ故に、彼女の無残な死はロイドにとって、大変なショックだったの です。
 なお、彼女を殺したのはただの熊で、スキュラとはなんの関係もありません。

ラッセル(人間・男・60歳)
 きこりのまとめ役の老人です。冒険者たちに仕事を依頼しに来ます。

マリー(人間・女・16歳)
 サドトア村唯一の酒場の看板娘です。

ブレンダン(人間・男・40歳)
 酒場の主人で、マリーの父親です。

ティモシー(人間・男・34歳)
 スキュラの餌食となったきこりです。


『冒険への導入』

 サダトア村にも、徐々に冬が近づいてきました。
 気候としては、日本の10月末頃を想像してください。
 シナリオは、冒険者たちがサダトア村の唯一の酒場「マリーの酒場」に集まって食事(もしくは晩酌)をしているところからスタートします。
「マリーの酒場」は、最近、大繁盛が続いています。
 冬が近づき、寒くなってきたので、仕事の後に酒場に寄って体を暖めていこうとするきこりたちが多いのです。
 酒場では、最近、村を騒がせている事件についての噂で持ちきりです。


『本編』

1,酒場での噂話

 酒場の客たちが話している、噂話の内容は、以下のようなものです。

・その1「1ヶ月前の大雨の被害」
 約1ヶ月前にふった大雨のせいで、山から森を流れる川が増水し、かなりの被害が出ました。
 幸いにも、村にはほとんど被害はありませんでしたが、森の動物を追う猟師などは、大雨のあと動物がどこかに身を隠してしまったのか、獲物が見つからないとぼ やいています。
(これは冬が近づいているのにくわえて、スキュラの気配に怯えて姿を警戒心を増しているためです)

・その2「猟師の行方不明事件」
 ここ一週間の間に、森に入って仕事をしていた猟師が帰ってこなくなったというのです。それが、三件も続きました。
 猟師という仕事柄、危険なことも多いので、単なる事件ですまされていました。
(猟師達はスキュラに襲われ、食べられてしまったのです)

・その3「きこりの行方不明」
 昨日のことですが、猟師ではなく、きこりが行方不明になりました。
 この事件は、不可解な点がいくつかあります。
 まずは、そのきこりが仕事中に、どこへ行くとも言わず、ちょっと用を足しにといった軽い感じで出かけたままいなくなってしまった点です。
 もうひとつは、そのきこりの悲鳴を聞いたものがいることです。
 最後に、森を捜索した結果、血のついたきこりの斧が見つかったということです。
 きこりの名前は、ティモシーといいます。
 このきこりの事件で、森の中に何か危険な生き物が潜んでいるのではという噂が流れるようになりました。
 ですが、まだ酒場での他愛ない噂話の域を脱してはいません。
(この噂は真実であり、ティモシーを襲ったのもスキュラです)

 冒険者たちは、賑やかな雰囲気の酒場で夕食、もしくは晩酌をすることとなるでしょう。
 そのとき冒険者は、テーブルの隅のほうで居心地悪そうにしている若者を見かけます。常におどおどしており、きこりの仲間に強引に酒場につれてこられてきたと いった感じです。
 この男の名は、ロイドといいます。
 もし、興味を持った探索者が、彼のことを尋ねた場合、「NPC紹介」や「5,事件の手掛かり」を参照して説明してください。

 ところで、この酒場にはかわいらしいウエイトレスがいます。酒場の名前の由来でもある、マリーという名の少女です。
 酒場のきこりや猟師たちは、マリーに森の怪物の噂を話して脅かそうとしますが、当の彼女は笑ってばかりで本気にはしていないようです。
 注意しておきたいのは、別にきこりたちは、たちの悪い客ではないということです。きこりの行動は、シナリオ上、マリーに冒険者と話をさせるきっかけを作るた めに過ぎません。よって、マスターは冒険者やプレイヤー自身に、きこりたちに対して反感を持たせないようにしてください。

 マリーが冒険者のところに食事を運ぶときなどにも、酔っ払ったきこりたちは、「森には怖い怪物がいるぞ〜」など噂に尾ひれをつけて彼女を脅かそうとします。
 彼女はそんな酔っ払いをかわしながら、冒険者のほうに笑いかけて「ごめんなさいね、この人たちの楽しみっていったら、かよわい女の子を脅かすことぐらいしか ないのよ。まったく」と、冗談を言っています。
 そして、仕事が一段落つくと、騒いでいるきこりたちを後目に冒険者たちの近くに腰掛けて、「もう、あの酔っ払いの相手は、うんざりだわ」と冗談ぽくウィンク をして、いろいろと話し込みます。
 内容は冒険者のことや、事件の噂話など、なんでもかまわないでしょう。
 マリーは夜もふけてきて、きこりたちが帰ってしまうと、「明日は、とっておきのキノコのシチューをご馳走するから期待していてね」といって、酒場の後片づけ を始めます。


2,事件の真相

 これらの行方不明事件は、森の中に住むスキュラという怪物によってひき起こされた事件です。
 行方不明になった村人は、すでにみんなこのスキュラに食われてしまっています。

 このスキュラはもともと人里離れた森の奥に暮らしていたのですが、1ヶ月前の大雨で村の近くの沼まで流されてしまったものです。
 増水で沼に流されたとき、スキュラは不覚にも傷を負ってしまいました。
 それを偶然にきこりのロイドが発見し、傷の手当をしたのです。
 その時、スキュラはロイドに正体がばれないよう、古代語魔法の「シェイプチェンジ」によって人間の女性の姿に変身していました。このような森の奥で倒れてい る女性というのは不自然ではありましたが、偶然にも(単にロイドの心の迷いかもしれませんが)スキュラの姿はロイドの死んだ恋人に良く似ていたのです。
 そのせいで、ロイドはすっかりスキュラに心を奪われてしまいました。
 それ以来、ロイドとスキュラは夜になると沼地で逢い引きを交わすようになります。
 スキュラも恩を感じてか、ロイドのことを襲ったりはしません。
 それどころか、夜には一緒に歌を歌ったりして、まるで本当に恋人同士であるかのよう過ごすのです。
 しかしながら、彼女にはスキュラとしての本性も残されており、冬が近づいて獲物になる動物も少ないため、この怪物は警戒心の無い人間を襲うことを思いつきま した。
 スキュラは自分が魔法で美しい人間の少女に変身できることと、それが男をおびき寄せる格好のエサとなることを理解しており、その姿を最大限に利用します。

 1ヶ月が過ぎたある日、ロイドはティモシーと一緒にきこり仕事をしていました。
 ロイドが、ちょっと用足しに行っただけのティモシーがなかなか帰ってこないことを不思議に思った時、森の奥から悲鳴が聞こえてきました。
 森の奥に行ったティモシーは、スキュラに襲われていたのです。彼は必死に斧で抵抗し、その時、斧にスキュラの血がついたのです。
 悲鳴を聞いたロイドはティモシーを探している途中、血のついたティモシーの斧を見つけました。しかも、その斧は、スキュラの住む沼のすぐ近くに落ちていたの です。
 ロイドは斧は持って帰りましたが、どこで斧を見つけたかなどは言葉を濁し、適当な嘘をついています。沼のあたりを捜索されたら、スキュラが見つかってしまう と思っているからです。彼は、スキュラが犯人だとは考えすらしていません。
 彼はなんとかスキュラのことを隠そうとします。人に彼女のことを話せば、昔の恋人のように、彼女まで失ってしまう気がしたからです。
 と同時に、彼女が人間ではないのではと薄々感じつつもあります。しかし、完全にスキュラに心を奪われているロイドにとって、それは大きな問題ではなくなって います。


3,事件の依頼

 次の日の夕方、気づいてみると酒場には誰もいなく(マリーたちもいません)、冒険者たちは手持ち無沙汰な午後を過ごします。
 そんなとき、きこりの頭領でラッセルと名乗る老人がやってきます。
 ラッセルは、冒険者に行方不明のきこりの捜索を依頼します。そして、もし森の中に人を襲う怪物でもいるなら、それを退治してほしいと頼みます。
 報酬は村人を発見できなくても、調査料としてひとりあたり200ガメル払うと言います。また、村人を発見してくれた場合、もしくは怪物がいてそれを退治した 場合、追加報酬でひとりあたり500ガメル出そうとも言います。

 そんな話をしていると、突然、酒場の主人であり、マリーの父親のブレンダンという男が酒場に駆け込んできます。
 ブレンダンは「マリーは、まだ帰っていないかね?」と、慌てた様子で尋ねます。
 まだ帰っていないと答えると、ブレンダンは「なんてこった。マリーは、森にキノコを採りに行ったんだ。もう帰ってきてもいい頃なのに、もしかすると、森の怪 物に襲われたのかも知れない」と言って、取り乱して自分も森に行こうとします。
 そのブレンダンの様子を見て、ラッセルは「森を知らない、おまえが行っても無駄だ」と止めようとして、二人で押し問答を始めます。
 そのうち、ラッセルは勝手に「ちょうど彼らに森の捜査を依頼していたところだ。ここは専門家に任せて、おまえはここで待っていろ」と冒険者をダシにして説得 をします。
 おそらく、これで冒険者たちは仕事を受けてくれるでしょう。
 もし、まだ乗り気でなかったのなら、ブレンダンに「マリーの奴、森は危ないと言ったのに、この時期が、一番おいしいキノコが生えるんだと言って、私に秘密 で……」とでも言わせて、泣き落としにかかりましょう。
 マリーが冒険者のために森に入ったということを知れば、よほど冷たい人でない限り、この依頼を受けてくれるはずです。


4,森の捜索

 冒険者たちは、マリーの捜索に森に出かけます。
 しばらく森を捜索してから、「レンジャーレベル+知力」で目標値10の成功ロールに成功すれば、この森の中に獣の気配がほとんど感じられないのに気づきま す。いくら冬が近いとはいえ、これは少し不自然です。
 また、森には増水で倒れた木や、大きな水溜りなど、増水の時の爪痕があちこちに残っており、非常に歩きづらい状態です。
 しかし、しばらく捜索すれば、あっさりとマリーは見つかります。
 冒険者たちの心配をよそに、マリーは若い男と一緒にいます。
 昨晩、酒場にいたロイドを見かけた冒険者なら、その男が彼であることがわかります。
 ロイドは、手にはきこり用の大きな斧を持っており、森歩き用の厚いブーツを履いています。どこから見ても、きこりといった外見です。
 彼に会って、「冒険者レベル+知力」で目標値8の成功ロールに成功すれば、彼が妙に冒険者たちを見て怯えていることがわかります。
 マリーは冒険者たちに気づくと、これまでのいきさつを話します。

 マリーは、森の中でキノコを探していましたが、大雨でキノコは流されてしまったのか、なかなか見つからず、ずいぶんと森の奥まで入り込んでしまいました。
 そんなとき、突然、森の奥から複数の獣のうなり声が聞こえてきて、マリーは恐ろしさのあまり、身がすくんで動けなくなってしまったそうです。
 そこへロイドがやってきて、マリーを助け起こして連れ出してくれたのです。

 冒険者がマリーにうなり声について詳しく聞くと、そう言えばうなり声の合間に、きれいな歌声が聞こえてきたと答え、そのメロディーを口ずさみます。
 そのメロディーを聞いたロイドは、真っ青になります。
 冒険者にどうかしたのかと聞かれても、ロイドは脅えた様子で何でもないと言い張ります。
 ロイドはマリーを冒険者たちにあずけると「僕は仕事の途中なので、あとは頼みます」と、おどおどした口調で言って、森の中に戻っていきます。


5,事件の手掛かり

 酒場では、ブレンダンとラッセルが冒険者たちの帰りを待ってます。
 ブレンダンは無事帰ってきた娘のマリーと、感激の対面をします。どうも彼は娘に過保護なようです。
 ラッセルは、冒険者とマリーに森でのことを根掘り葉掘り聞き出そうとします。
 冒険者かマリーがロイドの名を出すと、ラッセルは突然眉をしかめて、何か考え事をします。
 ラッセルの話では、ティモシーの行方不明事件のとき、行方不明になったきこりと一緒に仕事をしていたのがロイドだったというのです。
 ラッセルからは、以下のようなロイドについての詳しい話を聞くことができます。

・ロイドの情報
 ロイドは、この村に住むきこりですが、とても気が弱く、人と付き合うのも苦手です。そのため、いつも一人で仕事をしています。
 事件のあったときは、たまたま大きな仕事だったため、二人で仕事をしていました。事件をきこりの仲間に知らせたのはロイドです。そのときの彼の手には、血の ついたティモシーの斧が握られていました。
 普通なら、ロイドが仲間のきこりに何かしたのではと疑われるところですが、ロイドは虫一匹殺せない性格だということは、誰もが知っていることなので、彼が疑 われるようなことはありませんでした。
 それに、ロイドが犯人なら、わざわざ血のついた凶器を持って帰るようなバカなことをするはずがないからです。
 仲間たちが問いただしたところ、ティモシーの悲鳴が聞こえたので探しまわっていたら、血のついたティモシーの斧を見つけたということなので、もしかすると最 近頻発している行方不明事件に巻き込まれたのではという意見が出ました。
 ロイドから詳しく聞こうとしても、なんともはっきりしないことを言うばかりで、いまだにティモシーは見つかっていません。

 もし、冒険者がロイドを怪しいと考え、さらに多くの情報を集めようとするならば、別のきこりたちなどから以下の情報が聞けます。

・ロイドは臆病者だから、俺たちも相手にはしていない。
・人をさらうなんて、ロイドにできるわけがない。
・ロイドに、人が殺せるはずがない。もし、奴が殴りかかってきても、反対にやっつけちまうよ。
・最近のロイドは、いつも機嫌が良い。
・ロイドの奴、最近こんな鼻歌を歌っていた。(といって、メロディーを口ずさむ)
・夜中に、ロイドが森に入っていったのを見た。
・朝早く森の中から帰ってくるロイドを見かけた。
・最近、ロイドはいつも眠たそうにしている。

 情報は、この程度です。
 ロイドの歌っていたという鼻歌のメロディーをマリーに聞かせると、森の中で聞いた歌だと答えます。
 マリーなどからすでにそのメロディーを聞かされている冒険者は、バードの「歌唱」で目標値8の成功ロールに成功すれば、それが同じメロディーだとわかりま す。


6,夜の追跡

 探索者が、ロイドから直接話を聞こうとしても無駄です。
 ロイドは、夜に森で何をやっているかや、行方不明になったティモシーについては、ほとんど話したがりません。これが臆病者のロイドかと思うほど、頑としてそ れらの質問は受け付けないのです。
 それは、逆に怪しいと思えるほどですが、あまり強調してもいけません。
 マスターは、ここで冒険者がロイドを怪しいと考え、彼を拘束して尋問するなどの行動にでないように気を付けてください。ここでロイドが拘禁されてしまうと、 今後の展開が難しくなるからです。
 もし、そのようなことをしようとする冒険者がいたなら、偶然に村人が、その場に出くわすなどして、そのことを自制させてください。
 村などでの情報を総合すれば、ロイドが夜にどこかへ行っていることが推理できると思います。
 冒険者が、ロイドの事を見張るような行動をとった場合、ロイドは夜中になってから、ランプを持って一人で森の中へと入っていきます。ロイドは、途中で尾行さ れていることに気づくと、何もなかったように家へ帰ります。
 とは言え、ロイドはまさか誰かが尾行しているとは思ってもいないので、冒険者が気づかれるようなことをあえてしないかぎり、ロイドは冒険者の存在には気づき ません(ロールで1ゾロが出なければ大丈夫です)。
 ロイドは森の奥へとどんどんと入っていき、大雨の影響で水位を増している小さな沼地にやってきます。
 沼地に近づくと、ロイドは歌を歌い始めます。それは、メロディーだけのハミングのようなものですが、とてもきれいな曲です。

 ロイドの歌はしばらく続きます。
 冒険者が気づかれないように待機しているなら、やがて、もうひとつの歌声がどこからか聞こえてきます。
 二つの歌声は、美しくハモリあい、ひとつのすばらしい歌となります。
 いつのまにか沼の岸辺に、簡素な服(これも魔法の産物です)を着た美しい少女が立っています。濡れたようなウェーブのかかった長い髪をたらし、闇夜に浮かぶ その姿は、どことなく人間とは思えないところがあります。
 ここで「センスオーラ」を使った場合、彼女に宿っている精霊力が通常の人間よりも強力であることがわかります。このような反応を示すのは、強力な魔獣や幻獣 ぐらいなものです。
 ロイドと歌を歌っているのは、この少女です。
 彼女は、ロイドに語りかけるように歌い、ロイドは少女に答えるかのように、歌い返します。まるで、それが二人だけの言葉のように、夜の沼地で二人の歌は続き ます。

 さて、冒険者はどんな行動にでるでしょうか。
 冒険者が、二人の様子を見張り続ける場合、ロイドと少女は二時間ぐらい一緒にいた後、彼は自宅へと帰っていきます。その間、ロイドと少女の二人の間にはほと んど会話は無く、あったとしてもロイドから一方的に語りかけるだけで、少女のほうは返事をしません。
 家に戻ったロイドにこのことを問いつめても、彼は夢でも見てたのではと言って、相手にもしてくれません。しかし、「冒険者レベル+知力」で目標値6に成功す れば、彼が動揺をしてるのがわかります。
 それ以後、しばらくロイドは用心をして沼へ行かなくなります。
 村人たちこのことを話しても、「まさかロイドにそんな大それたことができるはずはない」と取り合ってくれません。
 ただ、森に怪物がいるというなら、それを退治して欲しいと頼みます。怪物を見せてやると冒険者が言っても、村人は怖がってついていこうとはしません。

 ロイドと少女が歌っているときに、冒険者がその場に姿を見せれば、少女はロイドの前であるにもかかわらず、その正体を表わして威嚇をします。「8,スキュラ との対面」を参照してください。

 もし、ロイドのいないときに沼の周辺を捜索しても、少女を見つけ出すことはできません。なにしろ、普段、スキュラは深い沼の底で息をひそめているからです。
 もし、沼の中を捜索しようとしても徒労に終わります。この沼は思ったよりも深く、さらに藻や倒木が多くて水中にはいくらでも隠れられる場所があるからです。
 ただし、吟遊詩人などがロイドの歌を憶えて、沼の近くでその歌を歌えば、少女は反応します。その際は、「7,歌で誘う」を参照して下さい。


7,歌で誘う

 夜、スキュラのいる沼でロイドの歌っていた歌を歌えば、スキュラが現われる可能性があります。
 ロイドの歌っていた歌を真似るには、バードの「歌唱」で目標値10の成功ロールに成功しなくてはいけません。

 ここで注意してもらいたいのは、シナリオの都合上、歌を歌ってスキュラが現われるのは、ロイドが自由に行動できるときにしてもらいたいことです。このこと は、以後のシナリオの展開に深く関わることなので重要です。
 例えば、冒険者の誰かがロイドを見張っていて、ロイドが自由に動けないときに沼地で歌を歌ったとしても、マスターはスキュラは出してはいけません。
 その際、ただ理由もなく「今日は現れないようだ」というのも芸がないので、マスターは冒険者に成功ロールをさせて、その結果に応じて「残念だがあまり上手く 歌えなかったようだ」とか「あまりに上手すぎてロイドらしくなかった」とか、適当な理由をこじつけてください。
 ですが、もしロイドが冒険者の隙をついて沼へ行けるようでしたら、なるべく、そうしてください。たまたま通りかかった詮索好きな村人や、小火などのちょっと したハプニングを使えば、冒険者の注意をそらすことは簡単でしょう。

 歌を真似ると、スキュラは美しい少女の姿で、どこからか現れます。
 そして、歌っていたのがロイドでないと知ると、その正体を現して冒険者たちに襲い掛かろうとします。「7,スキュラとの対面」を参照してください。
 なお、冒険者が反撃しようとしたとき、偶然、スキュラに会いに来たロイドが、突然現われます。


8,スキュラとの対面

 冒険者と対峙したスキュラは、その美しい姿に隠された醜い正体と本性をさらして襲い掛かろうとします。
 美しい髪はざわざわと命あるもののようにざわめき、下半身からはみるみるうちに6匹の山犬の首(ルールブックのスキュラは蛇ですが、このスキュラは山犬で す)と、12本の犬の前足が生えてきます。その一匹一匹は見るも獰猛な姿をしており、真っ赤な口の中に光る牙は鮫のように三重にぎっしりと口の中に並んでいる のです。


スキュラ(古代種族の末裔タイプ)

モンスター・レベル=6 知名度=13 敏捷度=12 移動速度=14/10(水中)
出現数=単独 出現頻度=きわめてまれ 知能=高い 反応=敵対的
攻撃点=牙(6回):13(6) 打撃点=8 回避点=11(4) 防御点=8
生命点/抵抗値=21/14(7) 精神点/抵抗値=15/13(6)
特殊能力=魔法:精霊魔法4レベル(魔法強度/魔力=13/6):古代語魔法4レベル(魔法強度/魔力=13/6)

 戦闘時には、6匹の山犬は同時に別々の目標を攻撃してきます。ただし、ひとつの目標に対しては1ラウンドに3回までしか攻撃できません。首は20メートル近 くまで自由に伸ばすことが出来ます。


 もし、冒険者が反撃しようとした場合(反撃しなければ食べられてしまいますが……)、スキュラの変貌を見て茫然としていたロイドは、我に返って冒険者とス キュラの間に割って入ってきます。
 そしてロイドは勇気を振り絞って、「きみたちが来たから、彼女は脅えているんだ!」と言って、冒険者たちを追い返そうとします。
 冒険者たちが、スキュラが怪物であることを告げても、ロイドは「そんなことはどうだっていいんだ」と突っぱねます。

 スキュラもロイドが間に入ってきたため動きを止めますが、山犬の首たちは牙をむきだしにして冒険者たちに威嚇を続けます。
 その様子を見て、「冒険者レベル+知力」で目標値12の成功ロールに成功すれば、その牙に、血に汚れたひこりの服の切れ端がひっかかっているのに気付きま す。
 冒険者はロイドに、スキュラとの戦闘を邪魔をさせないようするでしょう。
 するとロイドは山刀を抜いて、スキュラを守るためなら冒険者と戦うことも辞さないという構えをとります。
 マスターは、ここで冒険者の行動を聞きましょう。
 魔法などで、一発で勝負を決めるつもりならば、すぐに「9,ロイドの決意」のイベントに移ります。
 ロイドを取り押さえようとするなら、ロイドは自分の身の危険をかえりみず、必死で抵抗します。ある程度、抵抗したところで「9,ロイドの決意」のイベントに 移ってください。
 もしロイド(もしくはスキュラのほう?)を説得しようとするなら、しばらく押問答が続きます。ロイドは、スキュラのことを信じ切っていますので、話は平行線 です。マスターはプレイヤーが飽きる前に、タイミングを見計らって「9,ロイドの決意」のイベントに移ってください。


9,ロイドの決意

 ロイドはスキュラを冒険者から守るために、ある台詞を言います。
 これが全てのキーワードです。マスターは、冒険者の行動にあわせて、最良のタイミングでこの台詞をロイドから言わせてください。
 その台詞とは「彼女を殺すなら、まず、僕をやってからにしろ!」です。
 こう言って、ロイドはスキュラを守るように、冒険者の前に立ちはだかります。
 この台詞を聞いたスキュラは、突然、下半身の山犬を使って彼に襲い掛かってきます。
 スキュラの攻撃を受けたロイドは、驚いてスキュラのほうを見て、「なぜ……なぜ、僕のことを」と、呆然としています。
 そんなロイドに、スキュラは容赦なく攻撃を続けます。
 何度か、スキュラの牙がロイドの服を切り裂き、腕や足に噛付きます。その攻撃の様子を見て、「ファイター(またはシーフ)レベル+知力」で目標値11の成功 ロールに成功すると、スキュラはわざと急所を外して攻撃しているのがわかります。
 また、「冒険者レベル+知力」で目標値10の成功ロールに成功すると、なぜかスキュラの上半身である少女は、悲しそうに涙を浮かべているのに気付きます。
 スキュラを倒さないかぎり、ロイドに対するスキュラの攻撃は止まりません。スキュラは6本の首のうち、一本をロイドに向けて、残りの首で冒険者を攻撃してい きます。
 ロイドはスキュラからの攻撃のため、スキュラを冒険者の攻撃から守る余裕はありません。冒険者たちは、スキュラを倒すチャンスです。

 この時、スキュラは主に首でのみ攻撃を仕掛けてきて、魔法はほとんど使用しません。


10,破局

 スキュラを倒せば、戦闘は終了です。

 スキュラが倒されると、もちろん、ロイドへの攻撃も止まります。
 ロイドは傷ついた体で、スキュラのほうに近づき話かけます。
「やっと出会えたというのに……
 僕には、君しかいなかった。僕のことをわかってくれるのは、君しかいなかった……
 いつも、一緒に歌ったじゃないか。いつも、そばにいてくれたじゃないか?
 それなのに、なぜ……
 あの微笑みは、嘘だったのか?
 あの歌声は、偽りだったのか?
 なぜ……どうして、僕を裏切ったんだ!」
 そういって、強い口調とは対称的に、傷を負い血まみれの手でスキュラの上半身の少女を抱き起こし、その髪を優しく撫で付けます。
 そして、最後に絞り出すような声で、こう続けます。
「……でも、なぜなんだろう?
 こんな傷よりも、君が死んでしまったことのほうが、何百倍も心に痛いだなんて!
 どうして……どうして裏切ったんだ。どうして……死んでしまったんだ……」
 そういって、スキュラに抱きついて嗚咽をもらします。

 スキュラは、本当にロイドを裏切ったのでしょうか。なら、あのとき見せた、スキュラの悲しそうな顔は?
 もしかすると、スキュラはロイドのことを思うからこそ、ロイドを攻撃したのかも知れません。
 プレイヤーがスキュラのとった不可解な行動や、悲しそうな表情のことをすっかり忘れているようでしたら、マスターはさり気なく思い出させてください。この謎 が、このシナリオの最後のスパイスなのですから。
 そして、そのことをロイドに伝えることが、ロイドのためなのかどうかは、冒険者の判断にまかされます。

 ただ、冒険者が心から説得での解決を望み、すばらしい説得をしたのなら、マスターのお好み次第で平和解決をしても良いでしょう。
 スキュラは言葉を喋ることは出来ませんが、人間の言葉を理解することは出来ます(知能は人間以上なのですから)。よって、冒険者の言葉が心に響くようなもの だった場合、つい攻撃を緩めてしまいます。
 そのときは、スキュラはもともと住んでいた山奥の沼地に帰るといった解決策が無難でしょうが、ストーリー的にはすっきりとしないので、あまりおすすめはでき ません。
 なにしろ、スキュラが人を襲って食ったのは事実なのですから。


『冒険の結末』

 冒険者の活躍によって、行方不明事件の原因である森の中の怪物は退治され、事件は解決しました。
 よって、冒険者は約束通りの報酬と、マリーのおいしいキノコシチューにありつくことができます。
 そして、事件を解決した冒険者は経験点2000点を得ます。もし、何らかの理由で事件を解決できなかった場合、冒険者は半分の1000点しか経験点を得るこ とは出来ません。


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