シナリオ6「春が来て」

『冒険の概略』

 冬が終わり、旅立ちの季節をむかえます。
 そんなおり、山越えの街道が雪解けとともに開通します。この街道には、山越えをする旅人のために、途中に山小屋があります。
 山小屋の主人は、冬の間、閉鎖していた山小屋を開くため街道にむかいました。
 しばらくして、街道を渡ってきた旅人達からおかしな話を聞きます。
 それは、街道の山小屋が開いていなかったという話です。また、先に出発した旅人が、まだ山を越えていないという話も出てきます。
 山小屋の主人に何かがあったかも知れないと、冒険者達は調査にむかいます。
 実は、山小屋にはドッペルゲンガーとラミアが住み着いています。
 怪物達は奇妙な共存関係にあります。ラミアは旅人の生命力を吸い取って、ドッペルゲンガーはラミアのお下がりの体を自分のものとしています。
 怪物達は、山小屋にやってきた冒険者達を、上物の獲物としてよろこび、各々が勝手に自分の欲望を満たそうとしますが、その隙をついて、冒険者達は怪物達の陰 謀を解き明かし、逆に撃退することになります。
 冒険者は、再び山小屋をもとの旅人の憩いの場に戻すことができるでしょうか。

 この冒険シナリオは冒険者レベルは5〜6のキャラクター、3〜5人を想定しています。


『冒険の舞台』

 このシナリオは、アレクラスト大陸の極東地方に属するアノス王国を舞台とします。
 より細かく言えば、アノス王国の南西部の街であるソーミーのさらに西に伸びる山脈の麓にあるサダトア村が冒険の舞台です。
 サダトア村は、このキャンペーンの拠点となる村です。
 村の位置する地形が、以後のシナリオに関わる状況も多いので、村の場所を変更することはお奨めできません。もし、どうしても他の地域でのプレイをマスターが 希望した場合、出来る限り地形的に似た場所を選んでください。
 特に今回のシナリオでは、近くに越えるのが困難な山があることが重要です。


『NPC紹介』

スコット(人間・男・40歳)
 山小屋の主人です。中年のがっしりした山男といった風貌です。頑固な性格ですが、基本的には善人です。

アート(人間・男・18歳)
 スコットの息子です。スコットとはあまり似ておらず、ほっそりとした二枚目の好青年です。

シドニー(人間・男・16歳)
 アートの幼馴染みで、まだ幼さの残る少女ですが、しっかりもので、女手の無いスコット親子の身の回りの世話などをしています。

キャサリン(魔獣・雌・50歳以上)
 サダトア村に潜んでいたラミアです。このラミアは、二枚目な男を虜にしては次々と取り殺していくという邪悪な存在です。

ドッペル(妖魔・雄?・50歳以上)
 ドッペルゲンガーという珍しい妖魔です。このシナリオではゲンガーという仲間とコンビを組んでおり、このドッペルはゲンガーの兄貴分といった感じです。

ゲンガー(妖魔・雄?・50歳以上)
 もうひとりのドッペルゲンガーです。性格的にドッペルには頭が上がらないようです。

ブラスコ(人間・男・26歳)
 山越えして、サダトア村にやってきた旅人です。山小屋に寄らないで山を越えてきたので、キャサリンの餌食にはならずにすんだのです。

イーノック(人間・男・22歳)

 山小屋に寄ってから山越えをしようと思ったため、キャサリンの餌食とならなかった旅人です。殺された後、ドッペルがその姿を借りています。なかなかの二枚目 です。


『冒険への導入』

 サダトア村に春が来ました。
 この村には、冬が終わると村の西にある山脈を越えるため旅人達がやってきます。
 冒険者は村の宿屋に滞在をしています。
 マスターは冒険者達に、待ち遠しかった春が来たような描写をしてください。
 目にまぶしい新芽の緑や、雪解けで増水した村の小川、冬の間に地表に浮き出た小石を拾い、凍っていた畑を掘り返し始める農夫達。春の自然の恵みや、暖かい風 など、村は春を感じるのに十分な環境が整っています。
 そんなとき、冒険者のいる宿屋に一人の男が訪ねてきます。


『本編』

1,スコットの出発

 宿屋に入ってきた男は、背に大きな荷物を背負っています。
 がっしりとした体つきで、一見したところは、きこりか何かのように見えます。背の荷物は、ほとんどが食料のようです。
 男が入ってくると、宿屋の主人が応対します。どうやら、二人は知り合いのようで親しげに放しています。
 男は堂々としていて、話し方にも貫禄があります。
 宿屋の主人は、
「おお、スコット、もうおまえが山に行くような季節になったのか」
 といって、なにも注文されていないというのに、かなり強い酒の小樽をスコットに渡します。なぜか、お金は受け取りません。スコットは見ると、
「寂しい山小屋の暮らしには、こいつがかかせないからなぁ」
 と、嬉しそうに言います。
 そして、宿屋の主人はスコットの体ごしに店の入口のほうを見て、不思議そうに、
「おや、アートのやつはどうしたんだい?」
 と尋ねます。
 その質問に、スコットは、
「アートの奴、冬の間に少し体を壊してな。二、三週間ぐらいゆっくり休んでから来るようにいってある。世話はシドニーに頼んでおいたから、心配はないだろう」
 と、答えます。
 しばらく、スコットは主人と立ち話をしていますが、やがて入口に上品な婦人が顔を出して
「スコットさん、そろそろ行きませんか?」
 と促します。
 その言葉は、甘く優しい声で、男なら思わず鼻の下が伸びてしまいそうな声ですが、スコットは顔色一つ変えず気にもしてない様子で、
「おお、つい話し込んでしまった。それじゃあ、今度は涼しくなった頃にな」
 と主人に挨拶して、代金を払いもしないのに酒樽を持って店を出ていきます。
 
 このシーンの目的は、スコットが大の酒好きであることと、女性に対しては厳格であること、そして何より豪胆な男であることを印象づけるためです。

 この村の出身者や、この村について詳しいといった設定がある冒険者がいるのなら、その冒険者は、スコットや婦人を知っています。

・スコットの情報
 スコットは村の西にある山脈を越える街道の山小屋を経営している男です。その山脈はシープ山と呼ばれ、気候の変化の激しい危険な山です。
 スコットは、春から秋の初めごろまで、シープ山の気紛れな天気に悩まされる旅人のために山小屋を経営しています。そして、雪が多くなって、旅人が来なくなる 冬の間は村に戻ってくるのです。
 彼には、アートという一人息子がいて、一緒に山小屋の経営をしていますが、アートは冬の間に病気にかかり、まだ治りきっていないため、今年はスコットが先に 山小屋を開きに出発します。

・婦人の情報
 名をキャサリンと言います。地味な服装をしていますが、都会的な顔立ちの、息を飲むような美人です。
 ふらりと、この村にやってきて、村の平凡な農夫であるケビンと結婚しました。
 ケビンとキャサリンは、村でも有名な美男美女のお似合いの夫婦だったのですが、結婚してからしばらくしてケビンが病にかかり、今年の冬を越すことはできな く、ついにはこの世を去ってしまいました。
 そのため、彼女は自分の生まれたシープ山を越えたところにある故郷の町へ帰るところなです。
 ケビンの死因については病となっていますが、まったく正体不明の病で、医者もまったく手のつけようがなかったそうです。

・マスター用情報
 キャサリンの正体はサダトア村に住み着いていたラミアです。
 おそろしい魔物である彼女の食料は人間の生命力なのです。
 彼女はケビンの生命を吸いつくし、とうとう取り殺してしまったので、新しい獲物を得るための計画を実行中です。
 詳しい説明は、「5,キャサリンの計画」を参照してください。

 宿屋の主人に、スコットや婦人のことを聞けば、上記の情報を教えてくれます。
 また、なぜ酒代をもらわなかったのかと聞くと、彼のおかげで無事旅人達がシープ山を越えて、自分の宿屋に寄ってきてくれるのだから、そのお礼なのだと言いま す。
 これらの情報は、春の風物詩として、さりげなく流しておいてください。

2,事件発生

 スコットが山小屋へ向かってから、一週間が過ぎます。
 この時間経過は、春の描写などを交えて、さっと流してください。

 昼を過ぎた頃、冒険者達の滞在する宿屋に、訪ねてくる人物がいます。
 若い男で、スラリとしたなかなかの好男子です。
 彼が、スコットの息子であるアートです。
 ほとんど病気も治ったので、父を追ってシープ山に登ろうと思っています。その前に食料を買い込みに、この宿屋に立ち寄ったのです。
 少し遅れて、宿屋に入ってくる少女がいます。彼女は、心配そうにアートに話しかけています。
 どうやら、彼女はアートの体のことを心配しているようなのですが、彼のほうは笑って「大丈夫だ」と答えています。
 この少女は、アートの幼馴染みのシドニーです。病気のアートの世話をしていたのですが、まだ完全に治りきっていないというのに、シープ山に登ろうとする彼を 心配しているのです。

 ちょうどそのとき男が宿屋に訪れます。大きな荷物と、野宿用の装備などから、彼が山越えをしてきた旅商人であることがわかります。
 旅商人は疲れ切った様子で、宿屋のカウンターに腰をかけると、宿屋の主人に、
「イーノックって奴は、この宿に泊まっているかい?」
 と聞きます。主人は横に首を振って答えます。
 すると、彼は顔を曇らせて、
「おかしいなあ、先に着いているはずなんだが。もしかしたら、夜の山で迷ってしまったんじゃないだろうなあ。今年は、スコットの山小屋も閉まっていたし」
 と、心配そうに言います。
 この言葉に冒険者が反応して、彼に話しかければ、下記のブラスコの情報を聞くことができます。もし、冒険者が興味を持たなければ、アートが山小屋が閉まって いたという、旅商人の言葉に反応して話しかけます。

・ブラスコの情報
 旅商人の名はブラスコといいます。
 彼はシープ山を越えてやってきたそうで、途中では商売仲間のイーノックという男と一緒に旅をしていました。
 ブラスコは商売が長引いたため、イーノックより一日遅れて山越えをしてきました。イーノックは、昼頃に出発して山小屋で一泊してから、ゆっくりシープ山を越 えるつもりだと言って出発しました。
 ブラスコはイーノックが出発した次の日の早朝にシープ山を登ったので、日のあるうちに越えられたのです。
 イーノックととはサダトア村の宿屋で待ち合わせをしたはずなのですが、先に着いているはずの彼が、まだ着いていないことを心配に思います。
 さらに、いつもなら開いているはずの山小屋が閉まっていたことも、心配の要因のひとつです。まだ残雪の多い、夜のシープ山は危険だからです。
 もし、イーノックが夜のシープ山を越えようとしたのなら、事故に遭ったのかもしれないと思っています。
 
3,調査の依頼

 アートはブラスコに対して、山小屋が閉まっているはずが無いと言いますし、ブラスコのほうは確かに閉まっていたと言い張ります。
 やがて、アートは言葉が少なくなります。もしや、父のスコットの身に何かあったのではと思いはじめているのです。
 アートとブラスコの問答はしばらく続けてください。二人の言い分は、完全に平行線ですので、決着はなかなかつきません。
 ここで、冒険者に仕事の依頼がきます。
 うまく下記の依頼のパターンを使って、最終的には、アートと山小屋へ同行させるよう、冒険者を誘導してください。

『依頼のパターン』
・好奇心旺盛型
 冒険者達の好奇心が旺盛ならば、とくに理由もなくアートと一緒に山小屋へ行ってみようと思うでしょう。
 こういったノリの良い冒険者達なら、話もスムーズに進みます。
 アートは同行してくれる冒険者達に感謝して、一緒にシープ山へと出発します。
 シドニーや宿屋の主人は、親切な冒険者に感謝して、アートやスコットのことをよろしくと頼みます。
 NPC総出で、あたたかく冒険者達を見送ってあげてください。

・同情型
 好奇心が弱いわけではないが、何か事件にかかわりあうためのきっかけがほしいタイプの冒険者達には、年頃の少女であるシドニーからお願いをしてみましょう。
 まず、アートが軽くセキをします。まだ病気が治りきっていないことを、印象づけさせるのです。それを見て、シドニーは心配そうにします。
 そして、シドニーは頼りになりそうな冒険者にアートが心配なので一緒に行ってくれないかとお願いします。正義感の強い冒険者なら乗ってくるでしょう。
 シドニーは冒険者にくれぐれもアートに無理をさせないようにとお願いをして、冒険者を見送ります。

・依頼型
 事件に首を突っ込んでもよいが、なによりもメリットもほしいという冒険者には、正式に報酬を約束して調査を依頼するのが良いでしょう。
 依頼するのは、誰でも構いません。
 シドニーは、そんなにお金を持っていないので無理ですが、宿屋の主人は友人のスコットを心配して、山小屋を見てきてくれないかと頼みます。万一のとき、病み 上がりのアートひとりだけでは、心配だからです。
 この時の報酬は、酒代をタダにしてくれる程度のことから、現金では全員で500ガメルぐらいまです。実際、そんなに難しい依頼ではないのですから、あまり高 い報酬は不自然でしょう。
 また、より現実的なものでは、ブラスコからイーノックの捜索の依頼という手もあります。ブラスコ自身は、イーノックが戻ってくるかも知れないからと言って、 宿屋に残りますが、イーノックの外見を詳しく教えてもらえます。
 説明を聞くと、彼はなかなかの二枚目だとわかります。
 この時の報酬は、全員で500ガメル前後が妥当でしょう。
 権力に弱い冒険者がいるのなら、村に住む領主が、山小屋のことを聞きつけて依頼するという手もあります。なんと言っても、山越えの生命線である山小屋の存続 は、この村にとっても重要な問題なのです。もっとも、この場合はあまり押しつけるといった形にならないように気を付けてください。

 以上、依頼のパターンを上げましたが、この他にも、スムーズな展開方法がありましたら、それを使うことに越したことはありません。今までのシナリオ展開で、 押しに使える要素が無いので、冒険者には依頼という弱い引きでしか、事件に巻き込むことができないので気を付けてください。
 同情型と、依頼型をうまく組み合わせれば、おそらくは冒険者達も依頼を受けてくれるでしょう。

4,春の吹雪

 シープ山は、サダトア村の西に広がる山脈の中で、唯一、街道の通っている山です。
 街道と言っても、先人が踏み固めた単なる山路ですが、それでも旅人にとっては、大切なの山越えルートです。
 山頂のほうは雪は溶けていなく、山路もかなり歩きにくいもので、夜道はかなり危険であることがわかります。

 山の中腹に来ると、山路を外れたところに人の死体を発見します。
 あたりの真っ白な残雪に血痕が鮮やかに散らばっているため、ロールの必要はありません。
 その死体は服を着ていなく、その上、なんと顔のあった部分がごっそりとえぐり取られています。そのため、体つきなどから若い男だということ以外、わかること はありません。
 死体は何者かにずたずたに噛み切られています。レンジャーの「動植物鑑定」で目標値10の成功ロールか、セージの「知識」で目標値10の成功ロールに成功す れば、この傷は狼か山犬が死体を食い散らかしたのだとわかります。ですが、顔の傷は、鋭利な刃物を使用しなければ、このような断面にはならないことがわかりま す。
 また、セージの「知識」で目標値12の成功ロールに成功すれば、この死体が食われたのは、生きている間ではなく死んでからであるとわかります。
 この死体は、ドッペルに顔を取られたイーノックです。殺された後、山に捨てられ、それを飢えた狼が食い散らかしたのです。

 死体の発見後、しばらくすると激しい吹雪が起きます。シープ山特有の突然の気候の変化です。
 前も後ろもわからないほどの吹雪で、冒険者がどうしたものかとさ迷っているとスコットの山小屋を発見します。
 命の惜しい冒険者ならば、山小屋に入ろうとすることでしょう。

 この吹雪は、単にシナリオ上の押しであって、何の秘密もありません。究極的な押しですので、あまり無茶をしないで速やかに冒険者を山小屋へ誘導してくださ い。
 もし冒険者がグズグズしているようでしたら、生命力の成功ロールなどをさせてで焦らせてください。失敗したら、冒険者が死なない程度のダメージを与えれば、 より焦るでしょう。
 具体的には、「冒険者レベル+生命力」で目標値10の成功ロールに成功したら5ポイントのダメージ(防御力無視、ダメージ減少は有効)、失敗したら8ダメー ジ(防御力無視、ダメージ減少は有効)ぐらいが妥当でしょう。

 山小屋の窓には、暖かそうな明かりがついています。
 冒険者の講堂に関係なく、アートは助かったといって、山小屋に向かいます。もし、意味もなく山小屋に入ろうとしない冒険者には、容赦なく前述の生命力ロール をさせて、ダメージを与えてください。
 入る前に調査をしたいという冒険者には、とくにおかしなところはないことを伝えてください。そして、早く入らないと凍え死にそうだとせかしましょう。

 これ以後、事件が解決するまで、この吹雪は続きます。

5,キャサリンの計画

 これからの展開をわかりやすくするため、この事件の全貌をまとめておきます。

 スコットと一緒に山小屋にやってきたキャサリンは、偶然、山小屋に潜んでいたドッペルゲンガーのドッペルとゲンガーに出会いました。
 魔物の勘で、お互いが人間でないことを知った三人はスコットを捕えて、山小屋を占拠します。

・ラミアのキャサリンの情報
 キャサリンは、人間社会の中で隠れて暮らすよりも、もっと効率の良い安全な獲物の捜しかたがないものかと思っていました。そして、思いついたのが、スコット の経営する山小屋を乗っ取り、そこへやってくる旅人の中で気に入ったものを自分の虜にするというものです。
 キャサリンは、そのためにはスコットの妻になるのが、一番、手っ取り早いと考えました。
 しかし、いくら誘惑してもスコットにはまったく、その気がないようなので、キャサリンは焦ります。
 いよいよ春が来て、山小屋が開かれることとなり、しかたなくキャサリンはスコットに着いていくことにしました。
 そこへ、願ってもない幸運が舞い込んできます。
 それが、山小屋に潜んでいたドッペルゲンガーのコンビです。

・ドッペルゲンガーコンビの情報
 ドッペルとゲンガーはたまたま山小屋で寒さをしのいでいた、ドッペルゲンガーという妖魔です。
 この妖魔の最大の特徴は、人間型の生物の姿を真似ることが出来るという事です。
 また、相手の顔と生命を奪い取ることによって、姿を真似るだけではなく犠牲者の記憶や素振りまですっかり模倣することが可能です。ただし、能力値や技能には 変化はありません。もちろん、変化するのは肉体だけなので、服装や装備の複製を作ることもできません。
 誰かの姿を真似ていないときの本来の姿は、人間の皮をすべて剥ぎ取って、筋肉をむき出しにしたような姿です。言うなれば、人体模型のような感じです。
 ドッペルゲンガーは戦闘時になると、鋭い剣のように伸びた両手の鈎爪を使って攻撃をしてきます。

 彼ら二人の関係は、ドッペルがゲンガーの兄貴分で、いつもドッペルが、ゲンガーに対して威張りちらしています。これは、二人の性格から来るものだと思われま す。ドッペルは短気で怒りっぽいのですが、ゲンガーはのんきで臆病です。
 彼らの共通の望みは、出来るだけ姿の美しい人間の姿を真似ることです。
 それがなぜかは彼ら二人にしかわからないことですが、おそらくは我々と同じ虚栄心といったものを、彼らも持っているのでしょう。
 ちなみに、彼らの美的感覚は人間と同じものです。
 彼らは、山小屋でやってくる人間を狙って待っていましたが、やってきたのは何とラミアだったので驚きます。
 本能的に彼女にはかなわないと悟った二人は、キャサリンの計画を手助けすることになります。

 キャサリンはドッペルゲンガーの二人と出会って、ある計画を思い立ちました。
 それはドッペルゲンガーたちをスコットに化けさせるという計画です。これならスコットの意志に関係なく、簡単に山小屋を乗っ取ることができます。
 しかし、面食いのドッペルゲンガーたちは、無骨なスコットに化けるのは嫌がります。彼らにもプライドがあるのです。
 そのため、仕方なしに、キャサリンはスコットを地下室に幽閉して誘惑を続けています。ラミアとしてのプライドが許さないのか、いまでは意地になって誘惑して いる感があります。
 そんなとき、哀れな旅人であるイーノックは、この春、一番目の客として山小屋へ訪れます。なかなかの二枚目だったイーノックはキャサリンの誘惑に負け、生命 力を吸い取られた後、ドッペルの手にかかって殺されます。そして、ドッペルはイーノックの姿を写し取りました。
 死体から姿を借りたドッペルは、完全にイーノックの記憶を手に入れていますので、彼の正体を暴くのは非常に困難です。
 現在、キャサリンは昼間の休憩だけの客は山小屋に入れないようにしています。スコットがいないところを見られるのはまずいですし、魅惑しようにも、昼間では 彼女の誘惑の力も半減してしまうからです(理由は言わずもがなです)。
 いずれ、スコットの誘惑に成功して、言いなりにできるようになるか、それともドッペルゲンガー達にスコットの姿と記憶を手に入れさせたら昼間も山小屋を営業 させるつもりです。そうしないと、いつかは怪しまれてばれてしまうからです。


6,キャサリン達の行動

 吹雪の中、訪れた客に、キャサリン達は戸惑います。
 こんなに数が多くては、いくらなんでも対処しきれないからです。しかも、相手は冒険者らしく武器まで持っており、下手をすれば返り討ちにあいかねません。
 そこで、キャサリンは慌ててゲンガーを無理矢理スコットに化けさせます。ゲンガーは、死体から姿を写し取っていないので、スコットの記憶や仕種などまでは真 似できませんが、姿形だけは完璧に真似ています。
 そして、スコットの姿をしたゲンガーをベッドに寝かせて、スコットは病気だということにしました。これならキャサリンがまだ山小屋にいることも、山小屋が閉 まっていたことも説明できるからです。それに、少々スコットの動作が不自然でも、病気だからと言ってごまかせると思ったからです。
 イーノックに化けたドッペルは、病気のスコットに同情して、山小屋に残ったと言います。
 今は、キャサリンではできない力仕事をしていると言い、実際、薪割りから料理まで、すべてイーノック(ドッペル)がしています。
 そんな中、キャサリンはこのハプニングが自分にとってうれしい誤算だったことに気づきます。
 それと言うのも、訪問者の中にスコットの息子であるアートがいたからです。彼はキャサリン好みの美形である上に、彼をたらし込めばわざわざ無骨なスコットは 必要無くなり、まんまと山小屋に居座ることができます。
 キャサリンは、これ幸いとばかりにアートを誘惑しようとします。
 なお、欲張りなキャサリンは、ほかに冒険者の中に美形な男(ドワーフとグラスランナーを除きます)がいた場合、彼への誘惑も忘れません。
 ソードワールドRPGには魅力を数値であらわすルールはありませんが、マスターはプレイヤーに美形かどうか尋ねてみればよいでしょう。
 また、ドッペルとゲンガーも、男女問わずに美形冒険者(これも、ドワーフとグラスランナーを除きます)に目を付けています。なんとかして、殺してその姿を写 し取ろうと思っていますが、直接手を出したりはしてきません。キャサリンの目が恐いからです。


7,山小屋の間取り

 山小屋の間取りは、以下の説明を参照してください。

No.1「広間」
 玄関に通じる広間です。テーブルや椅子などが置かれてあり、食事はここでとることになります。

No.2「台所」
 台所です。簡単な食事した作らないため、必要最低限の調理器具しか揃えられていません。

No.3「倉庫」
 台所の奥にある倉庫です。食料品などが置かれてあります。
 この部屋には地下倉庫へ続く、上げ扉が床にありますが、今は荷物などで隠されています。

No.4「スコットとアートの私室」
 スコットとアートの私室です。とは言え、単に眠るだけの部屋なので、ベッドと着替えぐらいしか置かれていません。ゲンガーが化けたスコットは、一緒に暮らし てボロが出ることを恐れて、病気をうつすといけないから別の部屋で眠るよう言います。

No.5「客室」
 宿泊客用の部屋です。この部屋は宿泊費が安い代わりに共同使用になっており、簡素なベッドがずらりと並べられています。ベッド以外に調度品はありませんが、 ほとんどの客が一晩しか泊まらないので、それで十分なのです。

No.6〜7「客室」
 一人用の部屋ですが、ベッドと小さな机、椅子があるだけの簡素な部屋です。

No.8「客室(イーノック)」
 No.6の客室と同じ部屋ですが、現在はイーノックに化けたドッペルが宿泊しています。

No.9「客室(キャサリン)」
 No.6の客室と同じ部屋ですが、現在はキャサリンが宿泊しています。部屋の中は甘ったるい、女性独特の匂いに満ちています。


8,イベントあれこれ

 舞台は整いました。
 あとは、冒険者に活躍してもらい、魔物達の計画を阻止してもらうだけです。
 山小屋では次々と奇妙なイベントが起きますし、冒険者の調査によって奇妙な事実が判明したりします。
 マスターは、以下のイベントや情報を冒険者の行動にあわせて使ってください。

・スコットの様子
 スコットとじっくり話せば、彼の様子がおかしいことがわかります。
 宿屋で会ったときには、あんなに堂々としていたのに、このスコットは妙におどおどしています。それに、なぜかキャサリンとイーノックに頭が上がらないような のです。
 これは、ゲンガーの地の性格です。
 このことには、アートも不思議がります。

・飲まれていない酒樽
 山小屋をうろつくと、食堂にスコットが酒場で受け取っていた酒樽が見つかります。
 あんなに酒が好きそうだったのに、まだ封を切ってもいません。
 もし冒険者が酒をすすめても、スコットは病気だからといって一滴も飲もうとはしません。ゲンガーは酒に弱く、飲むと変身が解けてしまうことがあるのです。
 アートは、どんなときでも酒だけは飲んでいたのにといって不思議がります。
 
・イーノックとスコットの喧嘩
 冒険者がスコットの寝ている部屋に入る直前、部屋から声が聞こえます。
 聞き耳を立ててみると、どうやらイーノックとスコットが言い争いをしているようです。内容は良くわかりませんが、一方的にイーノックが怒鳴り付けて、スコッ トは弱々しく反論をしているようです。冒険者達が詳しく会話の内容を知ろうとすると、突然声が止んで、イーノックは何事もなかったかのように部屋から出ていき ます。喧嘩のことを聞かれても、二人はとぼけるばかりです。

・イーノックに呼び出される
 イーノックは冒険者の誰か(できるなら美形の女性)を、呼び出します。場所は、どこでも良いのですが、イーノックの部屋が妥当でしょう。
 イーノックは二人きりになると、しきりと冒険者の外見について誉めて、おだてます。
 そして、スコットが宿屋でもらった強い酒をどんどんとすすめます。(このとき、酒樽の封がされたままだということに注意。「冒険者レベル+知力」で目標値 10の成功ロールに成功すれば気付きます)こうして油断させて、殺した後、その姿を写し取ろうと思っているのです。
 ところが、話が盛り上がってきたところで、キャサリンが突然やってきます。
 キャサリンはスコットの酒を勝手に持ち出してと怒りますが、本当はドッペルが抜け駆けしようとしたことを怒っているのです。
 イーノックは、キャサリンの怒りに本気で怯えています。このことは、少し誇張するぐらいの気持ちで伝えてちょうど良いでしょう。
 それ以後、イーノックは、その冒険者に話しかけることすらしなくなります。

・キャサリンの誘惑
 キャサリンは、美形の男には手当り次第誘惑をします。
 これは、ついこの間、夫を亡くしたばかりの未亡人にしては奇妙なことでしょう。
 もっとも、冒険者の中に誰も美形といえる人物がいなかった場合は、このイベントは発生しません。

9,解き明かされる事実

「8,イベントあれこれ」のイベントをいくつか体験した冒険者達は、キャサリン達が何かおかしいと気づくでしょう。
 ここでマスターは、プレイヤー達に推理の時間を与え。今までの情報をまとめさせてください。しかしながら、いまのところ情報は余りにも断片的で不十分なの で、ここまでで正しい答えが出るはずはありません。事実の再確認をする程度で構わないのです。
 その推理が間違っていたとしても、シナリオを進めてください。このシナリオは、謎解きよりもシナリオのテンポを重視しているからです。

 次のイベントは、一度に複数の場所で発生します。
 冒険者を分散させて、ひとつひとつのイベントに少数で参加させるのが、場を盛り上げるコツです。
 イベントは、以下に記された順番で発生させるとスムーズに進むと思われます。

・キャサリンの場合
 第一のイベントは、アートの誘惑に成功したキャサリンの行動です。なお、アートの名誉のためにいいますが、これは魔法的なものですので、アートには非はあり ません。
 キャサリンは、倉庫の下に隠された地下室への階段へとアートをつれていきます。
 冒険者の誰か(好奇心の強い冒険者が良いでしょう)に、キャサリンとアートが地下室に下りていくのを気づかせてください。この時、アートは、気が抜けたよう に空ろな顔をしています。アートの不自然な態度を匂わせて、後をつけさせるように誘導してください。
 キャサリンは地下室に下りたところで、置いてあった大きな樽を蹴飛ばします。すると、樽の中から、縛られてさるぐつわをされたスコットが転げ出てきます。ス コットは、かなり衰弱しているようです。
 キャサリンは、スコットにアートが自分の誘惑に負けたことを嬉しそうに説明します。スコットは、顔を真赤にして怒っているようですが、縛られているため身動 きができません。
 それを見ながら、キャサリンはアートに艶めかしく抱きつき、
「私たちは夫婦になって、この山小屋を経営することにしたわ。そして、私に気に入られた客は、このアートみたいに虜にして、生命をいただくの。ああ、なんてす ばらしいんでしょう。あなたもそう思うでしょ……あら、いけない。これからは、こう呼ばなくちゃね。スコットお・と・う・さ・ま」
 と、挑発的に言います。
 そして、服を脱ぎ出すと、ラミアの本性を表わします。下半身が虹色の大蛇で、その体長は7〜8メートルもある魔物の姿です。
「という訳で、もうあなたは用済みなのよね。あのドッペルとゲンガーの二人も、あなたの体はいらないといってるし、今ここで死んでもらおうかしらね」
 といって、その鋭い爪をスコットに突き立てようとします。
 ここで冒険者達が飛び出さなければ、スコットは殺されてしまいます。
 キャサリンは冒険者に気づくと、慌てて大蛇の身体を伸ばして、天井を突き破って地下室から逃げ出します。

・スコットの場合
 次のイベントは、冒険者のひとりがスコットの部屋に呼ばれるというものです。
 深夜にスコットは適当な冒険者(なるべくなら美形)が一人でいるところ見つけて(もしくは、こっそりと寝室を訪れて)、部屋に呼び込みます。
 スコットはベッドの下に薬ビンを転がしてしまったといって、取ってくれるよう頼みます。冒険者が親切にベッドの下に潜って取ってあげようとすると、スコット はナイフで潜った冒険者の背中を刺します。
「冒険者レベル+知力」で目標値10の成功ロールに成功すれば、勘で殺気に気づきます。あらかじめ冒険者がスコットに警戒していれば、目標値は6に下がりま す。
 背中を刺された場合、8点のダメージ(防御力無視、ダメージ減少は有効)を受けます。
 慌ててベットから這い出た冒険者が見るのは、スコットの顔ではなく、筋肉の筋をむきだしにしたドッペルゲンガーの素顔です。

・イーノックの場合
 イーノックはスコットが冒険者を部屋に呼び込んだのを知って、こっそり部屋の前で様子を見ています。
 冒険者の誰かは、スコットの部屋の前で覗き見しているイーノックを見かけます。
 部屋を覗いていたイーノックは、だんだん興奮し始めて、やがてその姿がドッペルゲンガーの本来の姿に戻っていきます。そして、完全にイーノックの姿ではなく なったところで、「この裏切り者め!」と叫んで、部屋に飛び込んでいきます。
 この描写は、プレイヤーの介入の余地が無いように、一気に進めてください。そのほうがオチが効果的だからです。
 もし、冒険者がドッペルを追って部屋に入った場合、中の様子を見ることができます。
 ゲンガーはドッペルに見つかってしまい、泣きながらドッペルに謝りますが、ドッペルは許そうとしません。この時、ドッペルとゲンガーの上下関係をプレイヤー に気付かせてください。
 結局、部屋の中では、ゲンガーを追いかけるドッペルが乱闘をはじめます。
 それを見た、冒険者はいったいどのように対処するでしょうか?
 冒険者が部屋から逃げ出そうとしないのなら、ゲンガーがドッペルに追われて部屋を飛び出していきます。突然、冒険者はその後を追おうとすることでしょう。
 もしも、冒険者がドッペルとゲンガーを攻撃しようとする場合、マスターは何としてでもドッペルとゲンガーを部屋から逃がしてあげてください。

・その他の人々の場合
 以上のイベントに参加しなかった人は、最も奇妙な現場に出くわします。
 一階の広間には、まず階段から人体標本のような化物二匹と、冒険者二人が駆け降りてきて、そして、間を置かず裸のキャサリンが床板をバリバリと破って現われ ます。しかも、そのキャサリンの下半身は虹色の大蛇なのです。
 キャサリンは、階段から下りてくるドッペルとゲンガーを見つけて、
「あんたたち、そんな恰好でなにしてるの!」
 と、怒鳴りつけます。
 すると、ドッペルとゲンガーは声を揃えて、
「あねさんこそ、その恰好は……」 
 といって、呆然とした顔をします。
 一瞬の気まずい沈黙の後、キャサリンは開き直ったように、
「こうなったら、皆殺しよぉっ!」
 と裏返った声で叫び、突然、戦闘開始となります。

ラミア(キャサリン)

モンスター・レベル=5 知名度=15 敏捷度=9 移動速度=12
出現数=単独 出現頻度=まれ 知能=人間なみ 反応=敵対的
攻撃点=締め:11(4) 打撃点=14 回避点=11(4) 防御点=8
生命点/抵抗値=20/15(8) 精神点/抵抗値=16/14(7)
特殊能力=魔法:古代魔法4レベル(魔法強度/魔力=13/6)

ドッペルゲンガー(ドッペルとゲンガー)

モンスター・レベル=4 知名度=15 敏捷度=14 移動速度=10
出現数=単独〜数匹 出現頻度=きわめてまれ 知能=人間なみ 反応=敵対的
攻撃点=鈎爪(2回):12(5) 打撃点=9 回避点=11(4) 防御点=7
生命点/抵抗値=19/11(4) 精神点/抵抗値=13/11(4)
特殊能力=変身能力

 最後のこのイベントは、かなり御都合主義的に時間を処理しても良いと思います。最後に、みんなが広間に集合して、怪物たちの企みが暴露されるという展開が大 切なのです。
 あと、このイベントは夜明け前に行なうと、エンディングが美しく決まると思います。


10,大団円

 怪物達を倒せば、すべては解決です。
 キャサリンとドッペルは完全な悪人ですが、気の弱いゲンガーは生き残らせて改心させるのもおもしろいかも知れません。
 事件の真相は、倒した敵がラミアとドッペルゲンガーだということで大体は察しがつくと思いますが、正確な真相を知りたいと冒険者がいうのなら、スコットは 知っているかぎりのことを話してくれます。実際、キャサリンは、計画のほとんどをスコットに話しています。

 騒動が収まるころ、いつのまにか吹雪も止んでおり、長い夜も明けたようです。
 朝日の中、積もった雪がきらきらと光って、幻想的な雰囲気をかもし出しています。
 そして、街道のほうから声が聞こえてきます。それは、シドニーと宿屋の主人の声です。吹雪が止んだので、帰ってこないみんなを心配して、山小屋にやってきた のです。
 シドニーはアートの姿を見ると、その名を呼びながら雪道を駆け上がってきます。
 スコットは、そんなシドニーを見て、
「おまえを心配して、こんなところまで来てくれるたあ、いい娘じゃないか。なあ、アートよぅ」
 といって、アートの背中をばんばん叩きます。アートは顔を赤らめながら、曖昧な笑みを浮かべます。
 この後、冒険者達がこの事件の真相を、特にアートがキャサリンに何をされたかといったことを、どこまで話すかは冒険者次第です。
 できるなら、アートに幸多からんことを願いますが……


『冒険の結末』

 冒険者の活躍によって、山小屋を舞台とした魔物達の計画は阻止されました。
 事件を解決した冒険者は経験点2500点を得ます。もし、何らかの理由で事件を解決できなかった場合、冒険者は半分の1250点しか経験点を得ることは出来 ません。

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